『本編完結』鋼の隣人 ―石の世界の副読本(バイブル)― 作:微糖コーヒー
最終話(エピローグ):明日への工程表(ロードマップ)
1. 凱旋、そして「通常業務」へ
太平洋上の水平線から、パラシュートを広げたカプセルがゆっくりと降りてくる。
回収船ペルセウス号の甲板で、蓮はストップウォッチを止め、隣に立つゼノに小さく頷いた。
「……着水、予定時刻からマイナス3秒。誤差の範囲内だ。……おかえり、宇宙飛行士(アストロノーツ)たち」
回収されたカプセルのハッチが開くと、中から煤だらけで、しかし最高に不敵な笑みを浮かべた千空が這い出してきた。
「ククク、ただいま。現場監督……。月の土産話は100億ページ分あるが、その前に言うことがあるだろ?」
蓮は、手渡されたタオルを千空の頭に投げ、少しだけ口角を上げた。
「……あぁ。……ミッション完了。全システム、正常終了だ」
2. 「全人類復活プロジェクト」の始動
ホワイマンの脅威が去り、世界はついに「石の世界」から「黄金の時代」へとシフトした。
数ヶ月後、かつての石神村は、世界中から復活した技術者や科学者が集まる「地球再建センター」へと変貌を遂げていた。
蓮は、巨大なホログラムディスプレイ(ゼノと共同開発したもの)の前に立ち、数千、数万と並ぶタスクリストを整理していた。
「……大樹、食料生産ラインの最適化はどうなってる? 復活者が100万人を超えた。今の供給ペースじゃ、来月の納期に間に合わないぞ」
「おおお! 任せろ蓮! 耕作面積をさらに倍にする! 俺の体力に限界はないからな!」
「……杠(ゆずりは)、復活した人たちの衣服と居住空間のセットアップ、工程表通りに進めてくれ。……龍水、空路と海路の物流網を一本化しろ。無駄な輸送コスト(燃料)はカットだ」
蓮の指示が、無線を通じて世界中へ飛ぶ。
千空が「科学の種」を蒔き、ゼノが「高度な理論」を確立し、そして蓮がその全てを「一つの巨大なシステム」として運用する。
それは、3700年前の社会よりも効率的で、それでいて誰も置き去りにしない、新しい文明の形だった。
3. 黄昏の対話:エンジニアの誇り
すべてが動き出した夜。蓮は、一人で村の高台に登り、眼下に広がる「新しい世界の灯り」を見つめていた。
かつての原始の闇は消え、そこには規則正しく並ぶ街灯と、工場のリズミカルな稼働音が響いている。
「……ふん、100億%の絶景じゃねえか。……何たそがれてんだ、現場監督」
いつの間にか、千空が隣に立っていた。その手には、二つの冷えた「コーラ」がある。
「……千空か。……いや、ただの事後点検(アフターチェック)だよ。……俺たちが始めたこのプロジェクト、ようやく『安定稼働』に入ったと思ってな」
「ククク、全くだ。てめーの引いた鬼のような工程表のおかげで、人類は3700年の遅れをたった数年で取り戻そうとしてる」
蓮はコーラを受け取り、一口飲んでから、腰のポーチに差したままの「あのレンチ」をそっと撫でた。
「……千空。俺は前世で、自分が何のために働いてるのか分からなくなることがあった。……でも、この石の世界で、お前と出会って、……泥にまみれて線を繋いで、……ようやく分かったよ」
「……あ?」
「エンジニアってのは、ただ機械を直す仕事じゃない。……『誰かの明日』を物理的に守る仕事なんだ。……この世界を、二度とホワイマンや絶望にハックさせない。それが俺の、一生分の仕事だ」
4. そして、未来へのキックオフ
千空は笑い、空のコーラ瓶を星空に掲げた。
「ククク、重えなぁ現場監督! だが、唆るぜ! ……さあ、休んでる暇はねえぞ。次は火星か、それとも太陽系外か。……人類のフロンティアに終わりはねえからな!」
「……ハッ。……納期、短く設定するなよ? ……まずは、明日の朝一のミーティングからだ」
朝焼けが、新しく生まれ変わった地球を照らし出す。
科学の王と、現場の軍師。
二人の共犯関係が描く「未来の設計図」には、まだ空白のページが無限に残っている。
だが、その一線一線を、彼らはこれからも描き続けていくだろう。
100億%の情熱と、一分の隙もない合理性を持って。
――『Dr.STONE:The Process Engineer』 完――