鋼の隣人 ―石の世界の副読本(バイブル)―   作:微糖コーヒー

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第3話:勝利の処方箋と、見えない狙撃手

 

 

第3話:勝利の処方箋と、見えない狙撃手

 

1. 科学王国のドーピング

 

 御前試合を数日後に控え、石神村は異様な熱気に包まれていた。

 

 千空がルリの病を治す「サルファ剤」のロードマップに没頭する傍ら、蓮は村の広場に特設の「野外キッチン」と「医務室」を設営していた。

 

「……よし、抽出完了。コハク、これを飲んでみろ。味は保証しないが、効果は100億%だ」

 

 蓮が差し出したのは、エメラルド色の怪しい液体。コハクは怪訝そうな顔をしながらも、蓮への信頼から一気に飲み干した。

 

「……っ!? なんだこれは、体が……熱い! 疲れが一瞬で吹き飛ぶようだぞ、蓮!」

 

「高純度のグルコースと、数種類のビタミン、それにカフェインを配合した特製の『エナジードリンク』だ。現代のトップアスリートが使っていた理屈を、この時代の素材で再現した」

 

 千空がルリのために「薬」を作るなら、蓮は戦う者たちのために「機能性食品」を作る。

 

 金狼や銀狼にも、蓮は個別の「処方箋」を渡していた。

 

「金狼、お前にはこの『ブルーベリーと蜂蜜の濃縮液』を。お前の『ボヤボヤ病(近視)』を治すわけじゃないが、ピント調節の疲労は軽減できる。……本番の『科学の眼(眼鏡)』に慣れるための補助だ」

 

 蓮は、千空がスイカの被り物で作ったレンズを手に取り、その表面を丁寧に研磨し直した。

 

「千空の理論は完璧だが、この環境じゃレンズの収差(歪み)が出やすい。俺が光学研磨剤(酸化セリウムの代用品)で仕上げる。これで視界の歪みはゼロだ」

 

 千空は、フラスコを振りながらクククと笑う。

 

「助かるぜ。俺は化学反応の制御で手一杯だ。……現場の『メンテナンス』は、てめーに丸投げだぞ、蓮」

 

「あぁ、任せろ。マグマに『科学の絶望』を叩き込んでやる」

 

2. 御前試合、開廷

 

 そして当日。

 

 村の命運を賭けた御前試合が始まった。

 

 圧倒的な体格とパワーを誇るマグマに対し、科学王国の面々は「知恵」で立ち向かう。

 

 第一試合。金狼 vs マグマ。

 

 原作通り、千空がスイカの被り物(レンズ)を金狼に放り投げる。だが、ここでの蓮の「仕込み」が勝敗を分けた。

 

「……見える、見えるぞ! 世界がこれほどまでに、鮮明だったとは!」

 

 レンズを通した視界。だが、本来なら初めて経験する「矯正視力」に脳が混乱するはずだ。しかし、金狼の動きに迷いはない。蓮が数日前から、度数を微調整した仮レンズで彼をトレーニングさせていたからだ。

 

 ――だが、マグマもただの力馬鹿ではない。

 

 卑劣な挑発で金狼の隙を突き、場外へ追い込もうとする。

 

「ククク、終わらせねえよ、千空。……合図だ」

 

 崖の上で観戦していた蓮が、手鏡で太陽光を反射させ、特定のポイントに光を送った。

 

 すると、金狼の足元の地面から、突如として白い煙が噴き出した。

 

「なっ……なんだぁ!? 足元が……見えねえ!」

 

「クロム、今だ!」

 

 蓮の合図で、クロムが予めに仕込んでいた「火薬」ではない「別の何か」を作動させる。

 

 それは、蓮が指示して作らせた**「過冷却水」**の入った瓶だ。衝撃を与えられた瞬間、地面に撒かれた水分が一気に凍りつき、マグマの足場を奪う。

 

「滑る……!? 氷だと!? 夏だぞ、今は!」

 

 一瞬の隙。金狼の槍が、マグマの胸元を正確に貫いた。

 

3. 予定調和の崩壊

 

 マグマを倒した直後、村が揺れた。

 

 いや、村ではなく、人々の「常識」が揺れたのだ。

 

 蓮は舞台の中央へ悠然と歩み出る。村人たちが、そしてマグマが、恐れと驚きで彼を見つめる。

 

「マグマ、お前の力は認める。だが、それは『個の力』だ。俺たちの科学は『積み上げられた全人類の力』なんだよ」

 

 蓮は、千空と視線を合わせる。

 

 千空はニヤリと笑い、完成したばかりの「サルファ剤」を掲げた。

 

「ククク、予定通りだ。マグマをぶちのめし、ルリの病も治す。……石神村、今日からここが科学王国の第一拠点だ!」

 

 だが、その歓喜を切り裂くように、鋭い「風」が蓮の頬をかすめた。

 

 

 

 ――ピィィィ。

 

 

 

 耳を劈くような笛の音。

 

 村の入り口、吊り橋の向こう側に、白い羽織を纏った男が立っていた。

 

 司帝国の斥候、氷月ではない。……それよりも早く、一人の男が「対話」を求めて現れたのだ。

 

「……驚きました。原始の村で、これほど高度な戦術的支援が行われるとは」

 

 西園寺羽京。

 

 超人的な聴覚を持つ、司帝国の弓使い。

 

「千空、……あいつはマズい。俺たちが『音』を出した瞬間に、位置を特定されるぞ」

 

 蓮は即座に千空の前に出た。

 

 原作よりも早い接触。司帝国は、既に蓮という「未知の変員(イレギュラー)」を察知し、警戒レベルを最大に上げていたのだ。

 

「ククク、いいじゃねえか。挨拶がてら、その耳自慢の野郎に教えてやれよ、蓮。……科学は『音』さえも支配するってことをな」

 

「あぁ、そのつもりだ。千空、……スピーカー(蓄音機)の試作、今すぐここで最終組み立てに入るぞ。……羽京、お前に『贈り物』だ」

 

 蓮は懐から、奇妙な形状をした竹の管を取り出した。

 

 それは、特定の方向にだけ音を飛ばす、**「指向性音響兵器」**のプロトタイプだった。

 

 

 

 




科学的ポイント:

エナジードリンク: カフェイン(茶葉から抽出)とブドウ糖による一時的なブースト。

過冷却水: 物理的な罠として使用。

指向性音響: 竹の管と振動板による音の収束。

次話、第4話「見えない戦線」。

羽京との知略戦、そして蓮が前世から隠し持っていた「ある切り札」が明かされます!
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