鋼の隣人 ―石の世界の副読本(バイブル)―   作:微糖コーヒー

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第7話:闇を駆ける回路 ―潜入と共犯の再会―

 

第7話:闇を駆ける回路 ―潜入と共犯の再会―

 

1. 隠密(ステルス)の科学

 

 司帝国の勢力圏内。鬱蒼と茂る森の闇を、二つの影が音もなく進んでいた。

 

 千空と、そして彼を背負うほどの大荷物を抱えた蓮だ。

 

「……千空、呼吸を落とせ。あいつ(羽京)の耳は、この程度の距離なら木の葉が擦れる音さえ拾う」

 

「ククク、言われなくても分かってるよ、現場監督。だが、てめーが用意したこの『ギリースーツ』もどき……100億%痒いぞ」

 

 二人が纏っているのは、蓮が石神村の周辺で採取した「消臭効果のあるハーブ」を染み込ませ、周囲の植生に完璧に溶け込むよう編み上げた特殊な迷彩服だ。

 

 蓮は前世のサバイバル知識を総動員し、体温が外に漏れにくい断熱材代わりの苔まで裏地に仕込んでいた。

 

「文句を言うな。司の『超人的な直感』と羽京の『聴覚』を同時に欺くには、これくらいの準備が必要なんだよ。……止まれ。50メートル先に監視の焚き火だ」

 

 蓮は、赤外線を通さないよう加工した「手製の遮光フィルム(薄く延ばした黒曜石の膜)」越しに前方を睨む。

 

 エンジニアとしての冷徹な観察眼が、司帝国の警備網の「穴」を瞬時に特定していく。

 

2. 墓標への接触

 

 目的地は、千空がかつて司に殺された場所――その付近に立てられた、千空の「墓」だ。

 

 大樹と杠は、今もそこにいるはずだ。

 

「千空、俺が囮(デコイ)を設置する。その隙に墓の裏へ回り込め。合図は……これだ」

 

 蓮が取り出したのは、小さな竹筒。中には、高炉の副産物で得たリンと硫黄、そして特定の金属粉が詰まっている。

 

 彼がそれを遠くの茂みへ投げ込むと、数秒後、別の方向から**「鳥の鳴き声にそっくりな高周波の音」**が断続的に響き始めた。

 

「な……!? 何の音だ、今のは!」

 

 監視の兵士たちの注意が逸れる。それは蓮が「指向性スピーカー」の原理を応用し、風の流れを利用して特定の場所から音が聞こえるように仕掛けた、科学の「腹話術」だった。

 

「今だ。行け!」

 

 千空が影のように滑り出す。蓮はその背後をカバーし、万が一の際には「化学煙幕」を叩き込めるよう、試験管を指に挟んで待機した。

 

3. 大樹・杠との再会、そして「第三の相棒」

 

 千空の墓標。

 

 そこには、一年前と変わらぬ「友情」を持ち続ける大樹と杠の姿があった。

 

 千空が姿を現した瞬間の、大樹の地響きのような号泣を、蓮は強引に布で抑え込んだ。

 

「……っ!? 誰だ……むぐぐっ!」

 

「静かにしろ大樹! 感動の再会は100億%後回しだ。……羽京に聞こえる」

 

 千空の冷ややかな、しかしどこか嬉しそうな声に、大樹と杠は目を見開いた。

 

 そして、その傍らに立つ見知らぬ男――蓮に対し、警戒と困惑の視線を向ける。

 

「……千空くん、その人は……?」

 

「ククク、紹介してやる。こいつは佐藤蓮。俺の『復活液』を先回りして整えてやがった、現代の現場監督(エンジニア)だ。司を欺くための『科学の嘘』は、全部こいつが組み上げた」

 

 蓮は、泥を拭いながら二人に向かって短く会釈した。

 

「初めまして、大樹、杠。……千空から話は聞いてる。お前たちが一年間、孤独に耐えて司の側近として潜入し続けてくれたおかげで、ようやく『逆転の回路』が繋がった」

 

 大樹は、蓮の節くれ立った、火傷と煤で汚れた手を見た。それは、千空と同じく、この一年間死ぬ気で科学を実装し続けてきた者の手だった。

 

「……そうか! お前が千空の相棒か! 礼を言う、俺たちの友を支えてくれて……ありがとう!!」

 

「声がでかい。……だが、歓迎は受け取っておくよ」

 

4. ケータイの埋設

 

 蓮は背負っていた大荷物の中から、ついに完成した「携帯電話(ケータイ)」の端末を取り出した。

 

「いいか、杠。これを墓の裏の指定の位置に埋めてくれ。アンテナは、周囲の蔦に擬態させてある。……これが、司帝国を内側から崩壊させる『情報の爆弾』になる」

 

 杠はその精密な機械を、神聖なものを扱うように受け取った。

 

「……分かったわ、蓮くん。命を懸けて、これを守るわね」

 

「あぁ。頼んだぞ。……千空、タイムリミットだ。羽京が戻ってくる」

 

 潜入ミッションは、秒刻みのスケジュール。

 

 蓮は最後にもう一度、二人に力強く頷くと、千空を促して再び闇へと消えた。

 

 帰り道、千空がふと口を開く。

 

「蓮。てめー、大樹たちの前じゃ、ずいぶん『いい顔』してたじゃねえか」

 

「……何のことだ。俺は、現場の士気を管理するのもエンジニアの仕事だと思ってるだけだ」

 

「ククク、100億%嘘つけ。てめー、あの二人を見て、ようやく『この世界の人間を救う』実感が湧いたんだろ?」

 

 蓮は答えなかった。だが、その足取りは、潜入前よりもずっと確かなものになっていた。

 

 守るべき友が増えた。それは、合理的であるはずのエンジニアにとって、何よりも強い「燃料」だった。

 

 




科学的ポイント:

ギリースーツ: 周囲の環境に擬態する迷彩。蓮は消臭ハーブで「犬」や「司の嗅覚」対策も行っています。

指向性デコイ: 音波の反射を利用した偽の音。

キャラ交流:

大樹の暑苦しさを冷静に抑えつつも、その献身を認める蓮。

次回、第8話「スチームゴリラ号、発進!」。

いよいよ司帝国への総攻撃。蓮が設計した「石の時代の戦車」が、戦場を蹂躙します!
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