現代日本の霊的事情が終わってる件   作:RGN

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これが本当のスピード婚

 最低最悪なプロポーズの数十分後、俺は見るからに高級そうな車に押し込められ、夕焼けの中を高速道路に揺られていた。

 

「……で、どこ向かってんのこれ」

「富士山だよ?」

「何のために」

「そりゃあ結婚式でしょ」

 

 さも当然かの如く、平然と言い放った阿立に俺は頭が痛くなるような思いであった。

 何という速度だ。まともに会話をしたのも1、2時間前が初めてだというのに、いきなり結婚式とは。

 これが本当のスピード婚ってか。交際すらしてねぇけど。

 

「って言うか、わざわざ富士山まで移動する必要はあるのか?」

「大ありだよ。私たちがするのは、結婚式というより()()()()()()()()()()()()()()()だから」

「まるで意味が分からんな」

「うーん……まぁ、そりゃあそうだよね」

 

 こちとらそっち系の話に関しては素人も素人。

 勉強する機会も無ければ、昨日まで勉強しようと思うきっかけすらなかった男だぞ。

 その辺の詳しい事情なんて分かるわけがないというものである。

 

「えーっとね、変な例えにはなっちゃうんだけど、今の君ってば、いわゆる『アニメの人妻キャラのことを俺の嫁とか言ってる痛いヤツ』なんだよね」

「本当に変な例えだし、異議を申し立てたいレベルで酷いな」

 

 確かにそういう連中はいるけども。

 俺の場合、絶対にそいつらと一緒にしたらダメだろ。特にお前は。

 

「でもこの例え方が結構的確でわかりやすいんだよね」

「……というと?」

「もし仮に、本当にそのキャラクターと結婚したって仮定してさ、つまりその人はそのキャラクターの旦那さんなわけじゃん?」

「本当に結婚してると仮定するのならの話だが、そうなるな」

「でもそのキャラクターの旦那さんは作中に登場してるんだよ」

「うん。それでどうなるんだ」

「つまりその人と、作中に登場する旦那さんは同一人物なんだよ」

「意味わからんのに何か筋が通ってるように感じてしまうのが嫌だな」

「そういうことだよ」

「どういうことだ」

 

 マジでどういうことだ。

 

「まず私が作中に登場する人妻キャラね?」

「コノハサクヤ云々とか言ってたし、まぁそうなんだろうな」

「で、現実世界の住民である君が、こうして現実世界で私と結婚するわけ。でも作中には私の旦那さんがちゃんと存在するの」

「あー……成程。理解できたかもしれない。つまり俺とお前がちゃんと結婚することで、コノハサクヤと結婚してるんだから、それはもうニニギでなのでは? って理屈が俺に生まれるわけだ」

「そーゆーこと。で、そこにキャラクター本人からのお墨付きがあったのなら?」

「……それはもう本物だ、ってか」

 

 そこはかとなく……いやかなり納得はしたくないが、なんか納得できちゃうから嫌だ。

 数学で言うと絶対に成り立っちゃいけない等式だけど、なんか唐突に降臨した神様が「その等式、成立してるよ」って言ったから色々な理屈とか無視して成立しちゃった、って感じだろう、これ。

 デウスエクスマキナもビックリな力技だ。

 

「兎にも角にもそんなわけだからこうして、ご本人様方のいらっしゃる神社へ移動してるってわけ。ちなみに明日の学校には登校しなきゃだから、結婚式が終わったらすぐに帰宅ね」

「人権だの法律だの既に色々と無視しまくってる気がするが、それでも学校には登校するのか」

「通う必要は全く無いはずなんだけどねぇ。何なら時間の無駄まであるし」

「でも、登校すると」

「私たちの存在が公になっちゃうと、とんでもない大惨事に繋がっちゃうから。だからある程度自然な形でフェードアウトしなくちゃいけなくて。今のところ私が君に告白して、付き合うことになって、そのショックで完全にタガが外れた人が私と、ついでに君を殺してしまう……っていう筋書きだね」

「……学校でのあの振る舞い、さては計算してたのか」

「多少だけどね。でも注目は集まってたでしょ?」

「……まぁ、お前の目的からしたらアレで正解なのか」

 

 不特定多数の人間に目撃され、髪や瞳の色の異常に気が付かれること。

 それが彼女の目的であったわけだから、特定の人物と関係を持たずに偶像の如く立ち尽くし、聖域としての在り方を保っていれば彼女はそれで良かったのだ。

 聖域には誰も近寄らない。つまり彼女自身は何もする必要がなく、ただ釣り糸だけを垂らして自身を遠巻きに観察する人間どもを見下ろし、監視し、その釣り針に気づいた誰かが不用意にそれを掴んだ瞬間に釣り上げればいい。

 そうして実際、俺という哀れな人間を釣り上げることができてしまったのだから、彼女の振る舞いは正しかったと言えてしまう。

 

「……不覚だ。実に不覚だった」

「私としては実にありがたかったけどね。素直に指摘してくれて」

「……目の異常だと思ったんだ」

「あの色眼鏡がなくなった瞬間にこの色だもんねぇ。文字通り、私のことを今まで色眼鏡で見てたせいで、この本質が見えていなかったわけだ」

「上手いこと言ってるつもりかよ……」

「こういうのには慣れることをお勧めするよ。言葉遊びはこっちの領分だから」

 

 言われてみれば確かに。

 魔滅(まめつ)だから豆には魔を追い払う力がある、だとか。

 ()に通じて縁起が悪いから、()を「よん」と言ったりだとか。

 縁起だとかその辺には、そういう言葉遊び的な所が多い気がしなくもない。

 特におせち料理なんて言葉遊びの塊だ。

 よろこんぶ(喜ぶ)、なんて最初に祖父に言われた時は駄洒落かよと思ったものだが、後に調べてマジだったときはそこそこ驚いたものだ。

 

「言葉遊びの積み重ね、詭弁の積み重ねが、割とシャレにならない効果を発揮するのが私たちの世界だから。できるようになっておいて損はないよ。というかできないと損しかしない」

「マジかよ」

「あ、ついでに忠告しておくけど、ちゃんと力を得た後は発言に気を付けてね。力を持った存在の言霊って、ちゃんと意味があるんだから」

「えぇ…………」

 

 軽々しく死ねなんて言うんじゃありません、言葉には言霊が宿っているんですよ。

 そんな風に叱られつつも、言霊ってなんだと内心で毒を吐きながらその言葉を使い続け、結局言霊の存在の信じないまま社会性の獲得と同時に、そういった言葉を自然と使わなくなっていった俺であるが、まさか本当に言霊なんてものが存在するとは。

 いやまぁ神なり妖怪なりが存在するっていうんだから、そりゃああるか、って話なのだが。

 

「しかし、言霊ねぇ。学校で普段喋らないのは、そういうのもあるからだったり?」

「一応ね。女子同士の会話でも普通に『アイツ消えればいいのに』だとか出てくるし、下手に相槌を打っちゃった結果大惨事、なんて嫌だから」

「そういうもんか」

 

 大変なことだ。

 そしてこれからは俺も、そこに気を付けなければならないらしい。

 などと、そんなことを考えながら窓の外の景色を眺めていれば、いままでは遠くから眺めていただけであった富士山が、空の半分程度を覆いつくせるほどに大きくなっていることに気が付いた。

 

「……マジで富士山じゃん」

「そりゃあ富士山だよ」

「今まで地上から富士山に近づいたことがなくてな。感動してる」

「日本人的に?」

「日本人的に」

 

 日本人は間近で富士山を見ると感動してしまうものなのである。

 これも日本の高度な教育の賜物、というやつなのだろうか。

 まぁ、そんな日本が今、水面下で滅亡の危機に瀕しているらしいが。

 

「……感動するついでに一応聞くが、後どれくらいで着く?」

 

 手元の腕時計は既に6時半近くを示している。

 夏至から既にひと月弱過ぎ、日照時間は短くなりゆく最中とはいえ、未だ日の高い夏の太陽は沈む直前でギリギリ耐えているらしく、空は赤いとはいえ明るさを保っていたが。

 しかし十分に遅い時間であることに間違いはない。

 

 これから結婚式を行うにしては遅すぎると言え、そのあとに関東まで帰還し、翌日の始業時間までに登校しなければならないと考えるのなら猶更遅すぎる。

 それがたとえ今から、この時間から始めるとしても、だ。

 しかし未だ車が高速道路から降りる気配はない。

 既に2時間近く車に揺られているという事もあり、そろそろ時間が気になってくる頃であった。

 

「……あと30分くらい?」

「そうか、30分か。……重ねて聞くが、結婚式……まぁいわゆる神前式というやつなのだろうが、一般的な所要時間はどれくらいだ」

「2、3時間って言われてるかな」

「つまり、諸々を最短で終わらせたとして、家に帰るのは日付を跨ぐ頃、と」

「そうなるね」

「成程な」

 

 まぁ、車に詰め込まれた時点ですぐには帰れないと理解していたが。

 思いがけぬ長旅になったものである。

 

「そういえば、親御さんに連絡とか、した?」

「ああ、それなら大丈夫だ」

「そう? それなら、いいんだけど」

 

 と、そうこう会話をしているうちに、車が高速道路を降りてゆく。

 日が完全に暮れるこ頃には、神社に到着することだろう。

 

 …………実に下らなく、そしてどうでもいい話であるが、分御霊であるとはいえ神を乗せた神輿ともいえるこの車は、カーナビ付きでETCも搭載しているらしかった。

 

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