現代日本の霊的事情が終わってる件 作:RGN
「……どこだここ」
「そこは『知らない天井だ』じゃないのかい?」
目が覚めたら阿立の部屋だった。
なんか近くに居たらしい阿立が変な事を期待していたらしいが、あんなものは意識でもしていなければ出てこないものである。
特に俺の場合は起きる時、基本的に意識が覚醒しても目は開かず、まず体を横に倒し、持ち上げてから目を開けるので、物理的に天井は目に入らない。
今回だって俺はまず意識が覚醒し、次に明らかに俺の使っているものではない布団の感触に違和感を覚え、それを確認するべく体を起こして下向きのままに瞼を開いたわけだから、つまり天井どころかその真逆を見ていたわけである。
天井に関する感想など、言えるわけもないというものだ。
「……まぁいい。聞きたいことは多すぎるくらいあるが、まずは一番気になることを聞いておく。今は何時だ?」
「4時だね。正確に言えば16時だ」
「そうか。……日付は?」
「うーん……まぁ、期末テストは始まった、とだけ」
「1週間以上寝てるじゃねぇか!」
ヤベェ、家大丈夫か!?
色々とヤバいことになってないよな!?
っていうか学校! 無断で一週間も休むとか……いや違う!
確かなんか殺人事件的な事があって、出来るだけ自然な形にフェードアウトする的な話が……
「あ、ちゃんと君と私は戸籍上死んだ事になったから。安心してくれていいよ」
「そうか、だったら……いや何も安心できねぇが!?」
「いやぁ、君って天涯孤独だったんだねぇ。親御さんの気を考えるとずっと憂鬱だったから、君には悪いけど有り難かったかも」
「マジでやったのかよオイ!?」
何という事であろうか。
まさかまさか、何も知らないうちに全てが終わっていたとは。
しかしそうなると残して来た諸々が気になって気になって仕方がない。
良くないこととは分かっているが、一先ず家の方に向かってみるかと布団を押しのけ、立ちあがろうとする。
「ん!?」
しかしその直後、俺は自らの身体に猛烈な違和感を覚える。
その違和感に従うまま、自らの肉体を確認してみると、何やら随分とマッシブになっていた。
普通、人間の体というものは一週間も寝たきりでいれば、多少は衰えていて然るべきである。
直前にトレーニングらしいトレーニングもしていなければ猶更である。
しかし、そんな摂理に反するが如く、俺の体は誰もが羨む細マッチョボディに変身していた。
……勿論、普通に考えればこんなことがあるわけがない。
つまるところ別の要因があって然るべきであり、そして今の俺にはその心当たりがありすぎた。
「……神様の力とやらは、こんなところにも表れるモンなのか?」
「人によるけど、まぁ外見には表れるよ。自分の姿を隠して自分を神の一側面だって定義するわけだから、そうあるべきだって神々が判断した姿に寄ってもおかしくないでしょ? 私の髪だって、元々は黒かったけど、コノハサクヤ様を降ろしてこうなったから。あと顔もね」
「顔も変わるのか」
「一番変わるよ。その人物の印象が一番残るのは顔なんだから。布を被ったのだって、君の顔を見た神様が『いやどっからどう見てもニニギ様じゃないでしょ』っていうのを防ぐためだし」
そう言われてみれば、確かに俺は人を顔で覚えている気もする。
名前を言われて顔が出てくるより、顔を見て名前が出てくることの方が多いし、何なら名前を憶えていなくても顔さえ見ればその人がどんな人物だったかを思い出せる。
つまり俺は顔を最大の個人識別符号として用いているというわけであり、それが神でも変わらないものであるとするのなら……
「……むしろ寄っている方が自然まである、か……」
阿立の顔を見る。
「コノハサクヤ様は神話に記述があるほどに美人さんだからね。そりゃあ変化も顔に大きく出るよ。自然発生する人間の顔があの神の美しさに敵うわけもないし」
「まぁ、そりゃあそうなんだろうが……随分現代基準の美しさなんだな?」
確か古代の美しさは『おたふく顔』だっただろうに。
いやまぁ勿論俺的には現代風の美人の方が好みではあるが、しかし『とんでもない美女』と呼ばれていた小野小町やらかぐや姫やらも、あの下ぶくれのおたふく顔で描かれていたことを考えれば、コノハサクヤ様もそうあって然るべきではないだろうか。
「そこは時代によりけりだよ。人の価値観と共に神の姿も変遷するのさ。今はこの姿形が美しいとされているのなら、美しいと評される神もそれに近付くのさ。……まぁ、神の姿は大体が人が想像した通りになるから、特段容姿について言及されてない限り美男美女になるよ」
「……じゃあ、どうなっている? 今の俺は?」
「まぁ、気持ちイケメンになったんじゃない? あんまり変わらないけど」
「そうか……」
何だかホッとする気もするが、残念な気もする。
……いや、別にいいし。俺は俺の今の顔、全然気に入ってるし。
気持ちイケメンになってる程度で全然いいし。
「……まぁ、そんなことより」
「結構残念そうだけどね?」
「そんなことより! 聞いてた話とだいぶ違ったぞ阿立」
「え?」
「滅茶苦茶苦しんだ上に一週間も昏睡状態にあったことだ!」
「……あぁ、それね」
少々ばつが悪そうに、阿立が視線を彷徨わせる。
「えーっと、ね。まぁ、何。そのぉ、ちょっとした偶然が重なった事故だったんだよね」
「事故?」
口ぶりを聞くに、どうやら彼女やその周囲も想定できていなかった事態だったらしい。
「君が寝てる間にいくらか調べたんだけど、まず君って皇族の血を引いてるのね?」
「……マジ?」
家系図なんて何処にも残って無さそうだったのにどう調べたんだ、と聞けば、何やら俺の血にそういう因子的な物が混じっていたらしい。
ウッソだろオイ。
マジだったのかよあの妄言。
「いやまぁ、正直それだけだとあんまり珍しくも無いんだよね。言っちゃえばただ『血を引いてる』ってだけだし。古代は何十万人ってだけしかいなかったのがこうして一億いくらになるまで広がったんだから、まぁその辺を探せば一人二人いてもおかしく無いよね、ってレベル。だからこうして私みたいなのが俗世でそういう血筋を集めてるわけだし」
「そういうモンなのか」
「うん。落とし子とかもいっぱい居たから。当時は」
まぁ、そう言われればそうか。
言われてみれば、今の時代と比べて乳幼児死亡率が多かった分、相当な数が生まれてそうだし。
避妊だの堕胎だの、そういう技術も無さそうだから、認知されないだけで貴族なり皇族なりの血を引いている子供が市井に居るというのも、そこまでおかしな話では無さそうだ。
「だから、特別な血筋だろうなぁって事は、私の特異性に気付けた時点でほぼ確定だったんだ。でも想定外だったのは、君の名前の方」
「……名前? 俺の?」
「うん。君の名前ってさ、天の孫って書いて
「……偶然の一致と?」
「まぁ、そうなるかな。血と名前の両方が揃ってて、思いの外相性のいい体だったみたいで、結構強く結びついちゃったっぽいね。外見じゃなくて、中身の方がすごく変わってるみたい」
もう一度、体に視線を落としてみる。
……筋肉がついた以外は特に変わった気はしない。
が、確かに言われてみれば、体の内側から力が湧き上がってくる……ような、気がしないでもない。
「いやぁ、苦しかったよね。ってか眠かったでしょ」
「え? ……あー……まぁ、そうだな。死ぬほど眠かった」
「分かるよ。私も似たような経験したから」
……成程、阿立
確かにコノハサクヤに準えて居るらしいし、どうやら彼女の実家もそういう家系でありそうだ。
となると、状況的には俺とほぼ同じ……というか、むしろそれ以上だったのではなかろうか。
アレよりも辛く、苦しいものがあったなどと、想像することさえ悍ましい。
「ゲームで言うと、本来はLv1から始める予定だったところがバグ技使ってLv5スタートになって、その時変な処理が起こってちょっと長めのラグがあったって感じ」
「分かりやすい例え有り難う。……だが、それが良いことなのか?」
「まぁ、最初からある程度強いってのは良いことって言えば良いことだけど、悪いことって言えば悪い事だね」
「というと?」
「ウチの業界がこんな事をしなきゃやってらんないレベルで人手不足なのは話した通りなんだけど────いきなりLv5の大型新人を遊ばせてる余裕なんて無いって事で、目覚め次第、早速仕事に向かって欲しいってさ」
と、そう言って阿立が取り出したのは、規則的な折り目が見える正方形の紙。
元々は折り紙であっただろうそれには、白面に文字がびっしりと書き込まれており。
確かに、早速仕事に出ろという旨の内容が書かれているようであった。
「………ウッッッッッッッッッソだろ、オイ」
戦闘経験なんぞ小学生の喧嘩レベルしかない俺。
どうやらいきなり戦場に駆り出されるようである。