王子ですが、今日も城を抜け出して飲んでいます 作:高校ジャージ10年目
王都の中央広場は、かつてないほどの静寂と、奇妙な緊迫感に支配されていた。
夏の終わりを告げる乾いた風が吹き抜ける広大な石畳の上には、治安維持部隊によって市内から冷酷に押収された数千本もの頑丈なオーク樽が、まるで巨大な墓標のように整然と積み上げられている。その周囲を、武装した騎士たちと、日々の唯一の楽しみを奪われて死んだような魚の目をした数万人の王都市民たちが、幾重にも取り囲んでいた。
広場の中央に設えられた高い壇上には、麦冠王国の王、そしてその隣には純白の礼服を完璧に着こなした第二王子フェルディナンドが、勝利を確信した佇まいで立っていた。彼の隣には、絶望に打ちひしがれた様子でうつむく第一王子レオンハルトが引き据えられている。
フェルディナンドは、日の光を浴びて眩しく輝く黄金の髪を軽く揺らしながら、足元の兄を冷徹な、瞳で見下ろした。彼の脳裏には、この公開廃棄処分という晴れ舞台を迎えるにあたり、遠い留学先で過ごした美しくも切ない過去の記憶が、鮮明に去来していた。
それは、大陸の最果てにある最高学府の、雪深く静謐な学び舎でのことだった。
当時、十代半ばだったフェルディナンドは、古い因習に囚われた祖国の生臭さに嫌気が差し、孤独の中でひたすら学問に没頭していた。高慢で野蛮な貴族の子弟たちは、夜な夜な下俗な酒を酌み交わしては理性を失い、醜態をさらす。そんな環境の中で、フェルディナンドだけはアルコールという名の猛毒を徹底的に軽蔑し、頑なに冷たい白湯だけを口にしていた。
そんなある日、学府の静かな図書室の片隅で、彼と全く同じように、クリスタルのように澄み切った白湯のグラスを手に、高雅な佇まいで古文書をめくる一人の高貴な青年と出会った。
それこそが、隣国の若き重鎮であり、後に天才的な頭脳と洗練された感性で国政を担うこととなるジュリアン公爵であった。
「君も、あの品性のない泥水を忌避しているのかね」
「ええ。アルコールなどは、人間が神から与えられた至高の知性を、自ら泥濘へと沈めるための野蛮な劇薬に過ぎません」
二人は出会ったその瞬間に、魂の根底で意気投合した。互いに比類なき知性を持つ若者として、固い友情の誓いを交わしたのだ。
彼らは夜が更けるのも忘れ、最高級の湧き水を丁寧に沸かした極上の白湯を酌み交わしながら、未来の美学を語り合った。
「フェルディナンド、いつの日か我が国と君の国で手を取り合い、アルコールという名の悪習をこの世から完全に駆逐しよう。人間が澄み切った理性だけを持ち、完璧なる規律のもとで構築される、優雅な世界を我々の手で作るんだ」
「ああ、約束しよう、ジュリアン。君こそが私の唯一無二の理解者であり、この冷徹な世界における最高の同志だ」
あの雪の夜に誓い合った約束は、フェルディナンドにとって、人生のすべてを懸けるに値する聖なる灯火だった。
それなのに。
長期の留学を終え、ようやく祖国へと凱旋したフェルディナンドが目撃したのは、この世の地獄としか形容できない惨状だった。
かつてあれほど高潔で、クリスタルのような理性を誇っていたはずの親友ジュリアンが、あろうことか下町の薄汚れた平民どもと肩を組み、大ジョッキを乱暴に煽りながら、床に四つん這いになって「苦味の概念を過去の遺物へと葬り去る、濁濁たる黄金のビール!」などと獣のように絶叫していたのだ。その顔は泥酔の快楽に完全に支配され、かつての澄み切った面影は見る影もなく、猛烈な勢いでビールをあおる味覚の化物へと成り下がっていた。
フェルディナンドの心の中で、何かが音を立てて木っ端微塵に砕け散った。
それは、大切な友の精神を暴力的に強奪され、その高貴な尊厳をドブへと踏みにじられたも同然の屈辱であり、絶望だった。そして、その大罪を犯した元凶が、自身の兄であり、麦の変態として悪名高い第一王子レオンハルトであることは火を見るより明らかだった。
(兄上…お前が、お前があの品性のない泥水で私の唯一無二の親友の脳を狂わせ、我が聖なる誓いを踏みにじったのだ。絶対に、絶対に許しませんよ…!)
フェルディナンドは白手袋に包まれた拳を、血が滲むほど強く握りしめた。彼の掲げる禁酒法は、単なる国家の規律のためではない。その根底にあるのは、最愛の親友を狂わせた兄に対する、狂気的なまでの私怨と復讐の炎だったのだ。
「静粛に! 麦冠王国の良識ある国民諸君よ!」
フェルディナンドは一歩前へと出ると、魔法によって増幅されたその清らかな鈴の音のような声を、広場全体へと堂々と響かせた。その圧倒的な美貌と知性あふれる佇まいに、数万人の民衆は恐怖の眼差しを向ける。
「本日これより、我が国の正しき未来を阻害してきた不浄なる劇薬…すべてのアルコール飲料の公開廃棄処分を執り行う! 良識ある父上の聖断により発令された禁酒法は、この国からすべての愚行と無駄を排除し、完璧なる規律をもたらすための光である!」
フェルディナンドの声はますます熱を帯び、壇上にいるレオンハルトへと鋭い指先を突きつけた。
「私はお前を絶対に許さない、レオンハルト兄上! 国家の規律を乱した罪だけではない。私はお前が、その品性のない忌々しい泥水を使って、私の唯一無二の親友であり、高潔なる白湯の同志であった隣国のジュリアン公爵を、見るも無残な味覚の化物へと改造したその大罪を、絶対に、未来永劫許すつもりはない!」
全市民の前で暴露される、第二王子の凄まじい恨み節。国家の正論の裏に隠されていた、あまりにも泥臭く個人的な私怨の告白に、広場の人々はざわざわと動揺の声を漏らした。だが、フェルディナンドはそれを気にする様子もなく、すっきりとした勝ち誇った顔で、背後に控える男へと冷酷に命じた。
「さあ、アルフレッド。私の忠実なる補佐官よ。直ちにその不浄な兄を地下の監獄へと連行し、広場に集まった全ての樽の中身をドブへと廃棄しなさい。お前が書き上げたあの鉄壁の執行計画書通り、この国からビールの文字を完全に消し去るのです!」
フェルディナンドは、ついに兄の全てを奪い去り、親友の無念を晴らす瞬間が訪れたことに、恍惚の表情を浮かべていた。
しかし、アルフレッドは動かない。
それを見た第一王子レオンハルトの身体が、微かに揺れ始めた。
「…ククク」
静まり返った広場に、低く、不穏な地鳴りのような笑い声が響いた。
フェルディナンドの美しい眉が不快げに跳ね上がる。
「何が可笑しいのですか、兄上。敗北を受け入れられず、ついに脳までアルコールで腐って…」
「くっくっく…アハハハハ! いやぁ、もう良いだろう、アルフレッド。ご苦労だったな。お前のあの完璧すぎる演技のせいで、俺まで本気で騙されたような迫真の驚き顔をしなきゃならなくて、正直顔の筋肉が千切れるかと思ったぞ!」
レオンハルトはカッと力強く立ち上がった。その顔には、先ほどまでの絶望の影など微塵もなく、いつもの悪魔的な変態醸造家としての深い笑みで輝いていた。
「な…何だと…!?」
フェルディナンドが呆然とする中、彼の真後ろに直立していたはずのアルフレッドが、スッと眼鏡の位置を指先で修正した。そして、一分の無駄もない洗練された動作で、第二王子の背後から流れるように離脱し、レオンハルトの斜め後ろの「いつもの定位置」へとピタリと収まったのだ。
「ハッ。殿下、私の作成した執行計画書があまりにも完璧すぎたため、第二王子殿下は私の作成した法律の網の目に、何一つ疑いを持たずに乗っかってくださいました。スパイとしての職務は、これ以上ない精度で完了いたしました」
アルフレッドの声には、フェルディナンドへ向けていた従順さは微塵もなく、いつもの冷徹で有能な第一王子補佐官の響きが完全に宿っていた。
「あ…アルフレッド…!? お前、私を裏切ったのか!? 私の掲げる完璧な規律ある王室の姿に、共感したと言ったのは嘘だったのか!?」
完璧なる弟フェルディナンドの顔から、生まれて初めて余裕の笑みが剥ぎ取られ、その美貌が驚愕と動揺で激しく歪んだ。
「嘘に決まっているでしょう、第二王子殿下」
アルフレッドは鉄の仮面のような無表情のまま、冷酷極まりない正論を突きつけた。
「確かに第一王子レオンハルトの予算オーバーとサボり癖には毎日血涙を流しておりますが、あの殿下の暴走の裏には、常に私の想像を超える『莫大なる新利益』が隠されています。対して、あなたの掲げる禁酒法は、健康的ではあっても国庫の収入を劇的に減少させる、財務的には極めて無駄の多い『ただの机上の空論』です。有能な財務官として、私がどちらの王子につくべきかなど、計算するまでもありません」
アルフレッドは手帳を開き、眼鏡の奥の瞳をギラリと光らせた。
「私の寝返りは、殿下の指示による高度な隠密スパイ行為です。あなたの指示で王国内のビールをすべて押収するルートを私が完璧に管理したおかげで、我々は廃棄されるはずのすべての樽を、昨夜のうちに地下の施設へと完全に横流しし、完璧なる中身のすり替えができたのです。レオンハルト殿下が作戦会議室で見せたあの絶望の表情も、すべて貴方を極限まで油断させ、法律の網の目にハメ殺すための二人の完璧な演技ですよ、フェルディナンド殿下」
「な…ななな…何だと…っ!?」
フェルディナンドはあまりの衝撃に足元をふらつかせ、自身の純白の外套を強く掴んだ。自分が完璧な知略で兄を追い詰めたと信じ込み、高笑いまで披露していたあの瞬間すらも、すべてはこの天才変態コンビの手のひらの上で踊らされていたピエロに過ぎなかったという事実に、彼の高雅なプライドが激しく悲鳴を上げていた。
「おい、フェルディナンド。お前は法律で、平民の理性を奪うアルコールを国家の敵だと言って禁止したな」
レオンハルトは大股で壇上の中央へと歩み出ると、広場に積み上げられた数千本の樽に向かって両腕を広げた。
「ならばこれは、完璧に合法だ! なぜなら、この広場にあるすべての樽の中身は、昨夜のうちに俺とトビー、そしてアンナの技術によって、アルコールを完璧に消し去った『ただの合法的な麦ジュース』へと生まれ変わっているからだ! おい、職人ども! 樽を一斉に開放しろ!!」
王子の合図とともに、待機していた下町の職人たちが一斉に樽のバルブを開け放った。
フェルディナンドは「止めるんだ! ドブに捨てろ!」と叫ぼうとしたが、次の瞬間、広場全体を襲ったのは、悪臭を放つ腐った泥水の流出ではなかった。
ドォン!!!
まるで錯覚かと思うほどの、爆発的なまでのライチ、マンゴー、パッションフルーツの鮮烈なアロマの衝撃波が、広場全体へと猛烈な勢いで吹き抜けたのだ。
樽の口から激しく溢れ出たのは、向こう側が一切透けて見えない、あの祭りでお披露目された時と全く変わらない、濃厚でクリーミーな白濁を帯びた黄金色のネクターだった。
「な…何ですか、この香りは…!? なぜこれほど瑞々しい果実の匂いが…!?」
フェルディナンドが呆然と目を見開く中、レオンハルトは地下室で密造した特製の金色のボトルを一本、第二王子の目の前へと力強く突きつけた。
「驚くのはまだ早いぞ、フェルディナンド。お前が大好きな『アルコールは完全にゼロ』、法律上の違反は一ミリもない。だがな、お前が留学先で学んできたそのお堅い医療科学を、根底から木っ端微塵に粉砕してやる。ほら、飲んでみろ」
「くっ…! 騙されるものか! アルコールのないビールなど、ただの不味い麦の残り汁だ!」
「なら、なぜ飲まない? アルコールが入っていない以上、お前の健康と規律を害する恐れは一切ないはずだぞ。それとも、飲むのが怖いのか? 自分の正論が、俺の変態醸造技法の前に敗北するのが!」
「…っ! 言ってくれましたね、兄上! アルコールが含まれていないことをこの場で証明し、お前の子供騙しの誤魔化しを完全に論破して見せましょう!」
フェルディナンドは激昂し、レオンハルトの手から金色のボトルをひったくるようにして奪い取ると、頑なに閉ざしていたその唇を開き、中の液体を勢いよく口内へと流し込んだ。
ゴク、ゴク、ゴク…。
瞬間、第二王子の全身の細胞が、未知の衝撃によって激しく震え上がった。
(な、何だ、これは…っ!?)
フェルディナンドの脳内に、言葉にならない驚愕の嵐が吹き荒れた。
確かに、彼の専門的な味覚回路は、この液体の中にアルコールが「一滴も含まれていない」ことを正確に感知していた。アルコール特有の喉を刺すようなトゲや、脳を麻痺させるような不浄な感覚は一切ない。法律上、これはただの清涼飲料水である。
しかし。アルコールがないにもかかわらず、口の中に広がっていくこの圧倒的な幸福感と高揚感は何だ。
低温減圧加熱によって熱の呪いから完璧に守り抜かれた、新型ホップの鮮烈なシトラスのアロマ。そして、大量の小麦とオーツ麦がもたらす、滑らかで重厚な、絹の泡の口当たり。さらに、アルコールの刺激が消え去ったことで、健やかな身体を保つ大麦モルトの純粋な栄養と、お腹を健やかに整える野生酵母の神秘的なコクが、何倍もの質量となってダイレクトに彼の脳髄を蹂躙しにきていた。
(苦くない…! なのに、アルコールがないのに、なぜこれほどまでに心が満たされるんだ…!? 脳が、私の澄み切った理性を持ったはずの脳が、この麦とホップの多幸感だけでとろけるように支配されていく…! これはお酒ではない、だが、ただのジュースなどでは断じてない! 身体を一切害することなく、人間を発酵の喜びの深淵へと導く…これこそが、これこそが真の『究極の健康』だというのか…!?)
「バカな…バカな、バカな、バカなァァァーーーーッッッ!!!!!」
フェルディナンドは手にしたボトルを落とし、大理石の壇上へとドサリと両膝をついた。その純白の礼服が、樽から溢れ出た黄金色のヘイジーの海に染まっていくのすら気にする余裕もなく、彼は自らの頭を抱えて愕然と絶望していた。
彼が留学先で必死に磨き上げてきた「健康のために酒を禁じる」という完璧な白き正論が、「アルコールゼロでありながら、酒以上の多幸感をもたらす驚異の健康滋養飲料」という、兄の圧倒的な変態の前に、その根底から完全に崩壊させられたのだ。
「ハハハハハ! 見たかフェルディナンド! 泡も、濁りも、アルコールのなさすらも、すべてがビールの新しい未来だ! お前が作った禁酒法という完璧な檻のおかげで、俺たちは昼から子供でも妊婦でも、誰でもゴクゴク飲んでハッピーになれる、世界初のノンアルコール・ヘイジーを完成させることができたんだよ! お前の規律に、心から感謝するぞ!」
レオンハルトの容赦のない勝利の咆哮が、広場全体へと響き渡る。数万人の民衆は、樽から配られたそのアルコールゼロのビールを一斉に口にし、「美味すぎる!」「これなら仕事中に飲んでも絶対に怒られないぞ!」「レオンハルト殿下万歳! トビー最高!」と、昨夜以上の狂喜乱舞の大歓声を上げ始めた。
膝をつき、完璧な敗北の中で打ちひしがれるフェルディナンド。
だが、彼の絶望は、これで終わりではなかった。
大歓声に沸く広場の観客席の最前列から、ザッとマントを翻し、壇上へとゆっくりと歩み出てくる一人の男がいた。
その男が深く被っていたフードを外すと、そこから現れたのは、非の打ち所のない端正な容姿に、極上の、しかし完全に味覚のネジが吹き飛んだビールの変態としての笑みを浮かべた隣国の重鎮の姿だった。
「ジ…ジュリアン!? お前、なぜここに…!」
フェルディナンドは縋り付くように、最愛の親友へと両手を伸ばした。
「私の元へ戻ってきてくれたのか!? お前を狂わせていたアルコールは、今この兄の妙技によって消し去られた! さあ、私と一緒に、あの懐かしい澄み切った白湯の世界へと…」
しかし、ジュリアン公爵はその伸ばされた手を優しく、しかし残酷にすり抜けると、自身の右手にしっかりと握り締められていた、なみなみとノンアル・ヘイジーの注がれた大ジョッキを、フェルディナンドの目の前で誇らしげに掲げてみせた。
「フェルディナンド。お前も早く、こちら側へ来い」
「え…?」
ジュリアンは頬を紅潮させ、手帳を小脇に抱えながら、親友に向かって極上のトドメの一言を笑顔で放った。
「素晴らしい…! アルコールという名の野蛮な刺激を過去の遺物へと葬り去り、ホップの香気とお腹を健やかに整える野生酵母の神秘だけを極限まで抽出した、このノンアルコールビール!これぞ、これぞ我々が留学先のあの雪の夜に夢見た、新時代の至高の水分補給の完成形だ! お前が禁酒法などという無駄な抵抗をしてくれたおかげで、私は昼の公務中にもこの至高の芸術を合法的にガブ飲みできる自由を得た! ありがとう、フェルディナンド! お前は最高の親友だ!」
「ジュリアァァァァァーーーーーーーッッッッッ!!!!!」
唯一無二の理解者であり、この禁酒法を敷く最大の動機であった最愛の親友からの、完璧で悪意のない致命的な寝返り。
フェルディナンドは白目を剥き、そのまま大理石の床へと綺麗に倒れ込み、完全に戦意を喪失して陥落した。
「…勝負あり、ですね」
アルフレッドは冷徹に手帳を閉じ、壇上の王へと向き直った。
「国王陛下。第一王子レオンハルトの新開発したこの『アルコールゼロの滋養飲料』は、高い健康効果を持ちながら、昼夜を問わず全世代の国民へ販売可能です。これにより、我が国の飲料税収は従来の三倍、いえ、未知の桁数の驚異的な黒字を記録することが予測されます」
「うむ! 素晴らしい! これほど美味くて健康に良く、さらに金が儲かる飲料を禁止するなど国家の損失だ! 禁酒法は本日をもって廃止し、新たに『ノンアルコール飲料推奨法』へと書き換えるものとする!」
王の力強い宣言により、第二王子が敷いた完璧な規律の檻は、一瞬にして合法的なノンアルコールビールの巨大な新市場へと書き換えられ、事実上完全に無力化された。
数日後。王宮の第一王子作戦会議室。
そこには、元の賑やかさを取り戻し、大量の新しい注文書を前に眼鏡を光らせるアルフレッドと、誇らしげに新しい樽を仕込むトビー、そしてアンナの姿があった。
「さあ、アルフレッド! 禁酒法も無事乗り越えた!次はどんな麦の深淵へ潜りに行こうか?」
レオンハルトが笑ってジョッキを掲げると、アルフレッドは冷酷に山のような関税書類を王子の前に叩きつけた。
「殿下。次の仕込みの前に、まずはあなたがスパイ行為のドタバタに紛れて未決済のまま放置した、こちらの書類百枚の処理です。やらねば、次のヘイジーの中身をすべて本物のただの白湯に変えて差し上げますよ」
呆れる補佐官の冷徹な王子の賑やかな日常は、あいもかわらずどこまでも続いていくのだった。