乙女ゲーの中で一人だけハクスラしてる奴 作:むりむりちきん
プロットが全然決まってないどころか主人公の設定すら定まっていないせいでとんでもなく期間が空きました。
申し訳ないです。
「そういえば、スキルってどういうものなんだろう…」
いつものようにダンジョンに潜っていると、唐突に主人公が聞いてきた。
「それ、昨日の授業でやらなかったっけ…?」
「いやあ、専門用語が多すぎてわからなかったんだよね」
わかんないなら友達に聞くとか……あ、そういえば今のこいつぼっちだった。
「じゃあ軽く説明しようか?」
「本当!?ありがとう!」
分かりやすいかどうかは知らんが、無いよりはマシだろう。
「まずスキルっていうのは二種類に分けられる。まずは霊力…ゲームでいうMPを消費して放つ発動型。普通の攻撃よりも威力の強い攻撃ができたり、自分や味方を強化することができたりする。そしてもう一つは黙ってても発動常時発動型。この二つを合わせてスキルって呼ぶ」
「なるほど…」
いつも思うけど、和風な世界観なのに出てくる単語は『ダンジョン』とか『スキル』みたいな感じなのはなんでなんだろう。わかりやすさ重視なのかな?…おっと、これはどうでもいいか。
「ここからが重要なところなんだけど、御子にはそれぞれの神の力を借りることで使える固有のスキルがある。これはどんな神から加護をもらってるからによって効果が変わるけど、普通のスキルよりもさらに威力や効果が高い場合が多いんだ」
「えっそんなのあったの!?」
まあこれは知らなくても無理はない。ゲームでも序盤じゃ解放されてない技だし。
「でも僕、そんなスキル使えないよ?」
「固有スキルは習得が難しいからね。一年生で扱える人はすごく珍しいよ。なんだったら二年生の人でも使えない人は使えないし」
まあ目の前の主人公は数ヶ月経ったら習得するんだけどな!才能の暴力って恐ろしい。
「へー…僕もいつか使えるようになるのかなあ…」
「多分使えるようになるよ、数ヶ月くらいに」
「なんでそんな具体的なの…?」
今日は一人でダンジョンに潜る日だ。主人公?あいつは補習。結構頑張って勉強教えてたんだけどなあ…。
適当に刀を振るって小鬼を斬り刻む。今日は霊気も持ってないし、ダンジョンの奥まで進めるだけ進んでみようかな。
「…なんかボス部屋まで来れちゃった…」
ウソ…俺、強すぎ…!?というのは冗談で、多分これは運が良かった。あのクソ遅延鳥は一体も出てこなかったし、小鬼の出現数もいつもと比べて少なかった。
…回復アイテムは残ってるし、ここまでで集めた霊気も大した量じゃ無い。ここまで良い条件はなかなか無いだろう。
どのみち、中盤までにこいつの素材を大量に集めなきゃいけなくなるし…一回、挑戦してみるか。
ボス部屋の扉を開く。部屋の中には、大太刀を片手で持つ、赤い肌と二メートル程の体躯が特徴的な鬼が鎮座していた。
こいつが『赤鬼』。『小鬼の巣窟』のボスであり、ハクスラ狂いのプレイヤーに狩られまくった可哀想なやつである。
『赤鬼』。
序盤のプレイヤーに立ち塞がる最初の壁。こいつは初心者からするとモーションが死ぬほど分かりにくい。
とんでもないディレイをかけてくる振り下ろしに、タイミングを合わせたしゃがみとジャンプ以外では避けられない横薙ぎの攻撃。ついでに近距離にいるキャラに短時間の行動不能を付与してくる咆哮もある。攻撃の範囲が広く威力も高いので、初心者はよくこいつに泣かされてる。明らかに乙女ゲー序盤で登場していい難易度じゃ無いだろこいつ。
とはいえ、一度モーションがわかってしまえば避けやすい。こいつの攻撃はすべて大振りであり、攻撃後の隙が大きい。それに赤鬼は足元まで近づかれた時の攻撃が足踏みくらいしか無いので、近距離まで近づけばダメージを与えやすい。ターン制で攻撃することを意識すれば一気に攻略しやすくなる。
「ガア゛ア゛ア゛!!」
大上段の振り下ろしを横に移動して回避し、一気に距離を詰める。
そのまま足首を狙ってスキルを発動する。
「抜剣!」
加速した状態で鞘から抜き放たれた刀が、相手の足首を半分ほど切り裂いた。
赤鬼が叫び声を上げながら手足を振り回す。それに巻き込まれる前に後ろは離脱して、距離を取った。
狙い通り、片足が傷ついたことで動きが遅くなった。これなら攻撃も見切りやすい。
横薙ぎに振るわれる大太刀を飛び越え、再び距離を詰める。このままもう一度足を──
感覚が鳴らした警鐘に従って刀を構える。
「うおっ!?」
近づかれた赤鬼は大太刀を手放してこちらをぶん殴ってきた。何その行動…知らん…怖…。
「新しい行動生み出すのやめてくんない!?」
咄嗟に刀で拳をいなし、そのまま手首を切り裂いたが、赤鬼はそんなことお構い無しにもう一度腕を振るってきた。
衝撃を流すことができずに後ろに吹き飛ばされる。壁に叩きつけられて一瞬だけ呼吸が止まった。
俺が壁に張り付いてる間に大太刀を回収した赤鬼がこちらへ向かって袈裟斬りを仕掛けてくる。
しかし。
「その行動は見たことあるなぁ!?」
大太刀の側面に全力で鞘を叩きつけ、軌道を逸らす。大太刀が俺の真隣に叩きつけられ、地面に食い込む。
咄嗟に大太刀を手放した赤鬼がもう一度俺を殴り飛ばそうとするが…
「これなら俺の方が早い」
先程切り裂いた手首を狙って刀を振り抜く。バッサリと手首が両断された。
赤鬼が悲鳴を上げて蹲る。それを見下ろしながら、相手の首目掛けて大上段に構えた刀を振り下ろした。
「なんとか勝てたな…」
背中が痛い…。俺は怒っている(水柱)。
フラフラとした足取りのまま死体に近づき、ドロップを確認する。
お、ちゃんと落ちてるな。
こいつがハクスラ狂いから狙われていた理由は、ドロップアイテムがとあるバフアイテムの材料になるからだ。
こいつから落ちる『血染めの角』は、自身の速度を上げる『奮闘薬』、そしてその強化形である『狂奔薬』の材料になる。
『百鬼語』では速度のステータスを上げると移動速度だけではなく攻撃速度まで上がる仕様だったので、少しでもダンジョン周回を早めたいプレイヤーによって乱獲されていたのだ。かわいそう。
しかし、流石に周回を始めるにはステータスが足りないな。時間がかかりすぎるし、何より勝率が半々くらいだ。しかもなんか知らない攻撃が生えてきてるのでそれの研究もしなきゃいけない。暫くはレベル上げに専念だな。
「疲れた……」
「はは、お疲れ様」
ベッタリと机にへばりついたまま主人公が言う。
ダンジョンの帰りに補習を受けて帰ってきた主人公の様子を見に来たんだけど、かなり疲れてるな。可哀想な主人公…。ひとえにてめえがバカなせいだが。
といっても、周りの御子になることを目指して知識を蓄えてたやつと違い、主人公はゼロからスタートしている状態だ。それを考慮すれば随分覚えが早い。
「こんなんじゃ一生周りの人に追いつけなさそう…」
「そう?俺からしたら随分覚えが早いと思うけどね、ゼロからのスタートなわけだし」
そうかなあ…なんて言いながら机に沈む主人公を見る。こういう姿を見てるとつい励ましたくなる。これが乙女ゲー主人公の人たらしパワーか…。
「まあ、わかんないところがあったら気軽に聞いてね。上手く教えれるかはわからないけど、出来る限り頑張るから」
「うん、ありがとう!」
そろそろ序盤も終わるし、主人公との関わりは減る一方になるだろうから本当に教える機会があるかは知らないが、とりあえず言っておいた。流石に進級不能エンドは嫌だ。
スキル解説 『抜剣』
鞘から剣を抜いた時、最初の攻撃速度と威力にバフがかかる。