「アタラヨ、シズメ、シンゲンを載せて。上がるよ」
【了解】
機体が唸る。アタラヨが背中の推進器を解放し、全出力で浮上を開始。
カエデは操縦桿を両手で握りしめる。その背に、無言で座る二人――シズメとシンゲン。
【ああ、それと。言っておきますが積載オーバーですので、快適な空の旅はお約束出来ませんよ】
「死地に赴くんだ。元より期待していないさ」
「…覚悟は、出来ております!」
「私も大丈夫!全力出して!!」
【…では遠慮なく。出力、最大……!】
カエデ達の宣言にアタラヨが応えるように咆哮する。蒼く輝く翼が空を裂いた。
そして瞬く間に徳川の船団に肉薄する。
だが――
ズドンッ!!!
眼下から火柱が立つ。徳川艦隊が一斉に砲撃を再開。
あらゆる方角から雷のような砲火が空中のアタラヨへ集中する。
「くっ……!」
急旋回。カエデが舵を切る。
直撃こそ免れたが、衝撃波で軌道が狂う。
「このままじゃ……近づけない……ッ!」
焦りが口を突く。だがどうすることもできない。
目前に迫るは、曽是の旗艦。その巨体から繰り出される砲撃の雨。
このままでは、墜とされる。
そのとき――。
眼前の徳川戦艦の一つが、唐突に爆ぜた。
「えっ?」
光が走る。
まるで内側から炸裂したかのように、戦艦が弾け飛んだ。機体の中央が焼け焦げ、火の玉と化して落ちていく。
「何……?」
シンゲンが呟いた。
カエデは咄嗟にアタラヨを旋回させ、背後を振り返る。
そこにあったのは──空を埋め尽くす、大船団。
漆黒の艦体、金の縁取り。
いずれも旧式和船と現代戦艦を組み合わせたような奇妙な艦影。
そして、その中心にそびえ立つ、ひときわ巨大な黒き艦。
艦首に刻まれたその船の名はーー
《ルドー・ヴィ・ゴール号》。
「待たせたなぁ、嬢ちゃん!!」
船のスピーカーから割れるような声。
アタラヨの通信が割り込まれる。
映るのは、隻眼の男――アレックスだった。
「今こそ、相棒の借りを返す時だぜ!」
「港に残った船を戦艦に改造してね。急拵えにしては、なかなか様になっているだろう?」
その傍らに立つ、光の輪郭を纏ったもう一人の男。
かつて命を落としたはずの男。アレックスの相棒――パトリックが、そこにいた。
「航路は、僕達が開ける。行け、東雲カエデ!」
瞬間、ルドー・ヴィ・ゴール号の艦体から重厚な音と共に主砲が放たれる。
ズオオオオオオン─
蒼白の光が、戦場を穿つ。
徳川の前衛艦を根こそぎ粉砕する一撃。空中に進路が拓かれた。
「いける……今なら!」
シズメが呟く。
カエデが操縦桿を握り直す。
「アタラヨ、突っ込むよ!」
返答するように、機体が震える。
「さて、俺達の新たな船出の時だ!派手にやろうぜ!!」
アレックスの呼びかけにパトリックが笑う。
――戦局は、塗り替えられた。