Akeenohi -アケノヒ-   作:大化

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幕間 夜刀vsミーハオ・トリニティ その1

「任せた」

 

それだけだった。

 

カエデは振り返らない。

テルトラも、シンゲンも。

 

去っていく彼らを背にして、夜刀は殺戮を続ける敵を見据えた。

 

「ミーハオ・トリニティーーー金さえ貰えば何でもやる外道集団だ。…まさか徳川に雇われてたとはな」

 

50銭が渋い顔で呟く。

そして、前方の黒煙から現れるのは、異国の装備に身を包んだ四つの影。

 

「アレ?まだ生きてるのがいたんだ?遊ぼーよォ!!」

少女の声が戦場に弾ける。

その隣で、巨大な男が笑う。

 

「ほォ、いいねぇ……骨がありそうな連中じゃねぇか」

 

さらに、仮面の男がくすくすと笑い、

最後に、リーダーらしき無機質な女がただ一言。

 

「…所属は」

 

「夜刀。貴方達のような悪を滅する者です」

 

ミネが前に出て答える。

 

「徳川ではない、と。では死んでもらう」

 

リーダーの女ーーーミーハオ・サンが言うと、他のメンバーも一斉に武器を取る。

夜刀の面々も同様に武器を構えた。

 

「…いいえ」

 

ミネが髪をかきあげ目を閉じる。

 

「ーーー死ぬのはテメェらだよ、このクソ共が!!!」

 

エミが目を覚ます。そして、口角を上げると挑発するように言い放つ。

 

「デビ、右のデカブツ!スクラップにしろ!!」

「りょーかい⭐︎」

 

「芳ニはそこの仮面野郎!2度と気味わりぃ面ができねぇようぶった斬れ!!」

「了解〜」

 

「50銭はそのまま正面のヤツをやれ!手加減すんなよ!1ラウンドだ。1ラウンドで沈めろ!!」

「了解したぜ、頭領!」

 

「んで、アタシは──」

 

エミの視線が、ただ一人を捉える。

 

「アンタだな」

 

今戦場が、四つに割れた。

 

ーーーーーー

 

戦場の一角。

血と火薬の臭いに混じって、甘ったるい香りが漂っている。

 

「さぁ、やろうか。僕はミーハオ・トロワ。よろしくね、オジサン」

 

「………」

 

トロワがニコリと笑いながら握手を求める。

それに対して芳ニは目線を合わせる事もせず、一言も言葉を発しない。

トロワは笑みを崩さず手を引く。

 

「いやぁ〜、いいねぇ。静かな人って好きだよ、ボク。悲鳴は喧しくてどうも…苦手なんだ」

 

トロワが笑う。

その手で揺れているのは、長い鞭。

ただし普通の鞭ではない。

節ごとに細かな棘があり、その棘から粘つく毒液が滴っていた。

 

「一滴で象も昏倒する猛毒さ。

わかるかい?オジサンはこれにかすりでもしたら終わりって事!」

 

トロワがそう言った瞬間。

鞭が“消えた”。

 

バチィッ!!

 

空気が裂け、芳ニのいた場所の地面が抉れ飛ぶ。

だが、それを芳ニは半歩だけ場所をズレるだけで躱している。

 

「へぇ?」

 

トロワが目を細める。

 

「避けられるんだ、それ」

 

再び鞭が走る。

 

「じゃあ、これはどうかなッ!?」

 

今度は下段。

地面を這うような軌道。

 

芳ニは小太刀を抜き、鞭の腹を斜めに滑らせる。

 

キィン──と金属同士が擦れる嫌な音。

小太刀と鞭が触れた側から毒液が飛び散る。

 

「おおっと、危ない。ちなみにその毒は肌に触れるだけでアウトだから気をつけてくれよ?」

 

トロワは楽しそうに笑う。

いつでも殺せる相手へと、恐怖の底へ陥れる為だけに鞭を振るう。

 

「さぁ、そろそろ本番行こうか!どこまで持つかな!?」

 

鞭の速度が増す。

右。左。上。背後。

変則軌道で周りを駆け回る鞭は、一撃ごとに毒霧が舞い、芳ニの逃げ場を奪っていく。

 

だが芳ニは動かない。

 

小太刀一本。

最小限の動きだけで捌く。

 

「どんな猛者も最初は威勢がいいのさ……!」

 

トロワの笑みが深くなる。

 

「でもね、この鞭にちょいと触れたらどんなヤツも泣いて詫びる!」

 

鞭が円を描く。

芳ニの周りは毒霧によって完全に包囲されていた。

唯一霧のない正面に、関節を展開し毒液を滴らせる鞭が、まるで獲物を狙う蛇のように芳ニへと狙いをつける。

 

「死にたくない死にたくない!ってねぇ! 笑えるでしょ?」

 

トロワが煽るようにけたゝましく笑う。

──それでも芳ニは、何も答えない。

 

ただ、静かに。

一歩だけ、前に出た。

 

「ほぉら、もう逃げ場もなくなった!おしまいだよ。オジサンも精々死ぬ時は喚かないように──」

 

鞭が芳ニへ向かうーー。

しかし、ほんの一瞬だけ。

芳ニへ振り落とす為にしなる

鞭の軌道に、“隙間”が生まれる。

 

芳ニはそこへ滑り込んだ。

そして、一瞬で鞭を躱すとトロワの目の前へと小太刀を構えて迫る。

 

「お前さ、五月蝿いんだよ」

 

刃は既にトロワの喉元へと突きつけられていた。

 

「…へっ?」

 

トロワの間抜けな声が、静寂に響く。

 

次の瞬間──

 

シュッ、と。

軽い音と共に、小太刀が走った。

 

トロワの喉が裂ける。

鮮血が吹き出し、ようやく自分が斬られた事に気づき顔を青ざめた。

 

「──ヒッ」

 

トロワの目が見開かれる。

ヒュー、と空気の抜ける呼吸音が漏れる。

 

「い、嫌だ…!」

 

両手で喉を押さえる。

もちろん、そんな事では血は止まらない。

 

「姉さん……助けてよ……!」

 

後退り転ぶ。

それを芳ニは冷ややかな目で見つめていた。

 

「……っ、なぁ……」

 

無様に這いずり周り、最期まで死を恐れながらトロワは絶命した。

芳ニは小太刀を振り、血を払う。

 

「オジサン、お喋りは嫌いだよ」

 

毒の霧が、風に溶けていった。

 

 

ミーハオ・トリニティ長男

ーーミーハオ・ヴァンは、笑っていた。

 

「いいねぇぇぇぇぇッ!!!」

 

棘棍棒が振り下ろされる。

轟音と共に地面が吹き飛ぶ。

その一撃を躱し、50銭はヴァンへ真正面から拳を叩き込んだ。

 

ドゴォッ!!

 

拳と棍棒がぶつかり合い、衝撃が弾ける。

 

「ハッ!!最高だなぁお前!!」

 

「ああクソ、暑苦しいんだよ!」

 

あくまで任務として戦闘を行う50銭とは違い、ヴァンは戦闘そのものが楽しくて堪らない、と言った嬉々とした表情で棍棒を振るう。

 

「強敵。死線。ぶつかり合う得物の感触…!

これこそ生きてるって感じだよなぁ!!

なぁ、お前もそう思うだろ!?」

 

「うるせぇなこの野郎!!」

 

50銭の拳がヴァンの頬を掠める。

だがヴァンは恐れを微塵も感じさせず、笑う。

 

「ヒュウ!今のは良かった!そういうのは好きだぜェ!!」

 

棍棒が横薙ぎに振るわれる。

50銭は正面から受けずに体勢を低くして攻撃を避ける。同時に踏み込むと、棍棒の内側へ。

 

「オオ!?マジかよお前!!」

 

鋭い肘打ちがヴァンにクリーンヒットする。

ヴァンが体制を崩すーーが、即座に復帰。

 

「やるねぇ!!」

 

反撃の棍棒。

50銭が腕で受けるが、骨が軋む。

 

(…やるしかねぇな)

 

50銭の呼吸が低くなる。

棍棒を受け止めている腕は太く膨らみ、発達した筋肉を毛皮が覆う。

体格はみるみる内に巨大化し、ヴァンが見上げるほどの大きさへと変化していく。

 

「……嘘だろおい!

どこまで俺を楽しませりゃ気が済むんだ!?」

 

鋭い牙、爪。

巨大な狼男と化した50銭をヴァンは驚きの表情で見つめる。

 

「そりゃ反則だろォォォッ!!」

 

だがヴァンは逃げない。

むしろ、これからの戦いを想像し歓喜していた。

 

「来いよ!! その牙でオレを噛み砕いてみろッ!!」

 

棍棒による全力の殴打。

空気が爆ぜる。

だが。

 

「遅ぇ」

 

50銭が消える。

懐に潜り込むと、一撃。

喉を──貫いた。

 

「──ッ、ガハッ!!」

 

ヴァンの目が見開かれる。

手から棍棒が落ちる。

致命傷を負ったのは明白だった。

それでもヴァンは笑っていた。

 

「……アンタ、サイコーだったぜ……」

 

それだけ言い残すと、崩れ落ちる。

 

風が吹く。一匹の獣が雄叫びをあげた。

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