Akeenohi -アケノヒ-   作:大化

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第二十三話 夢の終わり

曽是の尻尾が振り下ろされ、テルトラと門天丸が貫かれたかに見えた、その瞬間――。

 

「下がれ!」

 

シンゲンが刀で触手に斬りかかった。

曽是の一撃を弾いた直後、シンゲンは息を整える間もなく踏み込んだ。

 

「まだだ……!」

 

二刀を逆手に構え、肉薄。斬撃が連なり、曽是の装甲を削る。

――だが。

 

「視野が狭いぞ、武田」

 

背後。

空間に浮かぶビットが一斉に光を帯び、遅れて死角から火線が走る。

 

「――ぐっ!」

 

シンゲンの背中が焼かれ、身体が宙を舞った。甲板に叩きつけられ、血が滲む。

間髪入れず、曽是の背後から、機械の触手がうねりを上げて伸びる。

 

「…させるかぁぁっ!!」

 

怒号と共に、門天丸の機銃が吠えた。

テルトラが歯を食いしばり、残存エネルギーを無理矢理叩き込む。弾幕が触手を削り、軌道を逸らした。

 

その一瞬の均衡が、一筋の光となった。

 

「……そこッ!」

 

シズメが、弓を引き絞り狙いを定める。

 

《ホマレダワケノミコト》に宿る光が一点に収束し、曽是の中枢を射抜こうと放たれる。

 

――しかし。

 

カツン、と乾いた音。

 

放たれた矢はあっさりとビットに弾かれ、砕け散った。

 

「そんな…!」

 

シズメが声を上げた時には曽是の本体が、滑るように間合いへ踏み込んでいた。

掌底が腹部を抉り、続く回し蹴りが胴を捉える。

 

「……かはっ!」

 

シズメの身体が宙を舞い、艦内の壁へ叩きつけられる。鈍い音。

そのまま、動かなくなる。

 

「シズメ!!」

 

シンゲンとテルトラが、同時に飛び出す。

 

「貴様ッ――!」

 

二刀と門天丸の残存武装が、同時に曽是へ殺到する。

 

「ーー今回こそは、と思ったのだが…」

 

曽是の触手が二人の攻撃を絡め取り、受け流し、そして――地に叩き伏せた。

 

甲板に激突する衝撃。

シンゲンは剣を手放し、門天丸は完全に沈黙する。

 

「期待外れだ」

 

曽是が三人を見下ろす。

勝敗は、誰の目にも明らかだった。

 

万事休す――

誰もが、そう思った、その時。

 

 

ぞわり、と。

 

 

背後から、異様な圧が立ち上った。

 

曽是の眉が、わずかに動く。

 

「……?」

 

目を細め、静かに振り返る。

背後に、何かが立っていた。

 

その「何か」は、確かに人の形をしていた。だが、肩で息をし、壊れかけの機械のように白煙を纏っている。

 

――黒い制服。裂けた袖。だが、その眼だけは燃えていた。

 

「貴様は……!」

 

曽是の瞳が見開かれる。

 

立っていたのは、確かに――カエデだった。

 

ぼろぼろの体、片膝をつきながら。それでも、確かに立っていた。

 

「……アタシを……怒らせたね」

 

低く、絞り出すような声。だがその瞳の奥には、今までに見たこともない光が宿っていた。

 

裂けた制服の下から、アタラヨが金色の軌跡を描いて浮上していく。

 

アタラヨが変形していく。

 

その様相は剣からは程遠くーーー。

 

 

「拳銃…だと?」

 

 

曽是が呟く。

 

それは、小さな拳銃だった。

 

だが、大気を揺るがすかのような重圧がそこにはあった。

曽是の背後に冷や汗が走る。

 

「確かに動力は止まっていたはずだが――では全て解体(バラ)すまで!」

 

曽是の怒号と共に大量のビットを展開し、触手が振るわれる。

カエデは触手を正確に射撃し、攻撃を防ぐと、大量に射出されたビットを次々と撃ち落とす。

 

「得物が変わったところで、貴様達の結末は変わらん!!」

 

曽是は、さらに大量のビットを射出した。

幾重にも重なる熱線がカエデの肌を焦がしていく。

それでも、カエデは真っ直ぐに曽是を見据えながら歩みを止めなかった。

 

ーーーー

 

「……っ、はぁ……はぁ……」

 

テルトラは、シートに体を縛り付けられたまま、必死に操縦桿を握る。

 

ーー応答なし。

視界のHUDは黒く沈黙し、門天丸は完全に“死んだ”ように見えた。

 

「……動いて……お願い……」

 

声にならない声で、念じる。

すると、その声に応えるかのように

門天丸の“目”が、かすかに光った。

 

 

《SYSTEM REBOOT》

 

 

短い文字列が浮かび、機体が大きくよろめく。

 

「……っ!!」

 

テルトラは叫ぶ間もなく、

半ば無意識のまま機銃レバーを引いた。

門天丸の上体を起こし、手に持つ機銃を乱射する。

 

照準も合わない、制御も甘い。

だが、それが幸いした。

 

弾幕の一角が、曽是のビット編隊を掠め、

何機かが制御を失って爆散する。

曽是の視線が再びテルトラへ向いた。

 

「……まだ、動くか」

 

殺意を孕んだ機械の駆動音。

巨大な影が、門天丸へと迫る。

 

「させん!!」

 

シンゲンが地を蹴り、二刀で斬りかかる。

体は限界を超えており、腕は感覚もなく上げることも出来ない。

しかし、クニムネを装着し、無理やり動かす事で、この一撃を可能とした。

 

「どいつもこいつも…頑丈すぎるのも考えものだぞ?」

 

剣撃は、容易く弾かれた。

曽是の装甲に火花が散り、

シンゲンの体は逆に大きく体勢を崩す。

 

「…うおおおッ!!」

 

カエデの低い声。

アタラヨが唸り、連続で引き金が引かれる。

光弾が正確に、次々とビットを撃ち落とす。

 

曽是の周囲から、ビットが消えていく。

その意識は、完全にカエデへと向けられた。

 

 

 

ーーー刹那。

 

 

曽是の体が、僅かに揺れる。

脇腹を矢が貫いていた。

矢の飛んできた方向を見ると、壁に背を預け座り込んだまま震える手で弓を持つシズメの姿があった。

 

「…全く、楽しませてくれるな!!!」

 

曽是は唇を強く噛み締めると

ビットを再展開し、シズメに向ける。

しかし、アタラヨの銃弾が即座にそれらを撃ち落とす。

空間そのものを穿つような衝撃が、曽是の周囲を蹂躙していく。

 

一機、また一機と――

機械のビットが撃ち落とされ、夜空に火花を散らしながら墜ちていった。

 

「……ッッ!!」

 

最後に残った数機も、連続射撃によって機能を失う。

 

 

そして、ついに――

アタラヨの一撃が、曽是本体を捉えた。

 

装甲が砕け、内部が露わになる。

 

 

そこにあったのは

肉でも血でもない――機械の身体。

 

 

 

曽是もまた、機械仕掛けの命だった。

 

 

ーーーーー

 

 

世界がループを繰り返し、

永遠の命を“与えられ続ける”世界の中で。

それでも彼は、自分だけは『あの時』の徳川であり続けようとした。

 

だが――それも限界だった。

 

もはや生身の身体は、脳を除いて存在しない。

感覚も、鼓動も、時間の重みすら曖昧になり、

自分が何のためにループを続けているのかという当初の目的さえ、見失っていた。

 

 

それでも。

 

 

それでも、この夜だけは。

終わらせたくなかった。

 

 

 

 

「アンタは逃げてるだけだ!」

 

 

 

カエデの叫びが、曽是を撃ち抜く。

 

 

 

「夢から覚めるのが怖くて、駄々を捏ねてる子供なんだ!!」

 

 

 

曽是は、目を見開き、言葉を失った。

そして――苦笑する。

 

「……ああ」

 

低く、かすれた声。

 

「その通りだ」

 

触手と、残ったビットを再展開し、全てカエデに向ける。

 

 

 

「ならばこの夢、終わらせてみろ!!!」

 

「でやぁああああああああ!!!!」

 

 

カエデが踏み込む。

防御を捨てた突貫。

アタラヨを構え、全身を投げ出すように距離を詰める。

 

 

 

「おおおおおおッ!!」

 

 

 

曽是も応じる。

久しく失っていたはずの、感情的な雄叫びを上げながら。

 

触手を剣でいなし、ビットからの攻撃を躱し、曽是へと肉薄する。

最後の力を振り絞り

渾身の一撃を真正面から叩き込んだ。

 

 

 

火花が散り

カエデの足が止まる。

アタラヨの切先は曽是の首一歩手前に迫っていた。

 

「ッ!くそッ…!」

 

だが、曽是はアタラヨに自身の手を貫かれながらも、致命の一撃を防いでいた。

 

「頑丈さには自信があってな…!!」

 

カエデはアタラヨを引き抜こうとするも、曽是がそれを許さない。

そして、狙いを定めた触手が今にもカエデを貫かんとしていた。

 

もはや、打つ手無し。

 

 

 

そう思われた、その瞬間。

 

 

 

巨大な鉄球が、曽是へと投げつけられた。

 

 

 

――ゴウッ!!

 

 

空気が裂ける音。視界の端から迫る巨大な鉄球が、曽是を直撃した。巨体が大きくよろめき、隙が生まれる。

 

 

「目を覚ます時間だよ……大将」

 

 

デビが静かに呟く。バイク型の乗り物で空を駆けるその後方には、操縦を担当するエミの姿も見えた。

 

「っ……今だッ!!」

 

カエデが、曽是の懐へ踏み込む。

アタラヨを、曽是の手から――力任せに引き抜いた。

そして、曽是目掛けて、全力で突き刺す。

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

「オオオオオオオオオオッッ!!」

 

二つの雄叫びが、激突する。

 

カエデの刃が、曽是の胸部を深く裂いた。

 

金属の悲鳴と共に、曽是の体に

深い、一文字の傷が走る。

 

 

そのまま、巨体がゆっくりと、地に膝をついた。

 

静寂が、世界を包んだ。

 

 

 

かくして、徳川・曽是の天下統一の夢は、終焉を迎えたのだった――

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