Akeenohi -アケノヒ-   作:大化

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二十四話 大切な思い出

刃が引き抜かれた瞬間、

曽是の体から、激しく火花が散った。

 

しかし、その顔には苦悶も怨嗟もなかった。

あるのはどこか満足したような、静かな微笑のみ。

 

「……悪くは、なかった、な」

 

それだけを残し、ゆっくりと倒れ伏す。

機械の駆動音が途切れ、

巨体は地に沈み、完全な沈黙に包まれた。

 

その姿に、思いを巡らせる暇はなかった。

 

「――カエデ!この船はもうもたねぇ!乗れ!!」

 

エミの声が、爆音とともに響く。

振り返れば、地面を揺らしながら、徳川の母艦が傾き始めていた。

内部から爆ぜる光。

制御を失った巨体が、ゆっくりと、だが確実に墜落を始めている。

 

ボロボロになった門天丸をテルトラが起動する。武装を取り外し、離脱体制を取る。

その隣では、シンゲンが意識を失ったシズメを肩に担ぎ、歯を食いしばっていた。

 

「急げ!!」

 

シンゲンはシズメを背負ったまま、エミたちのバイクへ向かう。

 

その途中で、ふと足を止めた。

 

カエデが、こちらへ向かってきていない。

背を向けたまま立ち尽くしていた。

 

「カエデ!早く来い!もう時間がない!」

 

叫ぶシンゲンに、カエデは振り返る。

その表情は、戦いの最中とは違って、ひどく静かだった。

 

「……ごめん。私、行かなくちゃいけないところがある」

 

「なにを言って――!」

 

「ーーカエデ」

 

シンゲンが思わず声を荒げる。

 

しかし、それを制したのは、テルトラだった。

 

彼女は一瞬だけ目を伏せ、

そして、いつものように笑った。

 

「…待ってるから」

 

シンゲンは唇を噛み、

何かを言いかけて――結局、何も言えずに視線を逸らした。

 

「……必ず、戻れよ」

 

それだけを残し、バイクに跨る。

 

エミがアクセルを吹かし、

仲間たちが、次々と戦場を離脱していく。

轟音と土煙の向こうで、

門天丸も、ぎこちなく空へと浮かび上がった。

 

カエデは、その背を見送る。

やがて、周囲には爆ぜる音と、崩れ落ちる母艦の唸りだけが残る。

 

カエデは、アタラヨに手をかけた。

剣は応えるように震え、

飛行形態へと変形する。

 

「……行こう」

 

誰に言うでもなく、そう呟き、

彼女はみんなとは別の方向へと飛び立った。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

母艦から離れた空は、異様なほど静かだった。

 

背後で爆ぜる光も、崩れ落ちる鋼鉄の咆哮も、

すでに遠い。

 

カエデはアタラヨに身を預け、

ただひとつの場所へ向かっていた。

 

 

 

帰るべき場所。

そして、始まりの場所。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

研究棟の奥。

薄暗い部屋の中央で、その男は佇んでいた。

 

ポッドの中で、少女が眠っている。

呼吸は穏やかで、表情は安らかだった。

 

忠勝は、ガラス越しにその顔を見つめる。

その眼差しは、紛れもない父親のものだった。

 

 

――そのとき。

 

 

外から、低い異音が響く。

 

 

忠勝は顔を上げ、

迷いなく踵を返した。

 

扉の向こう、崩れかけた庭に立っていたのは、

見間違えようもない少女。

 

 

 

 

「ただいま、――お父さん」

 

 

 

 

静かな声だった。

 

 

 

「……カエデ」

 

 

 

名を呼ぶ忠勝の声は、わずかに掠れていた。

 

「……何のつもりかな」

 

「終わらせる為に……ううん、始める為に来たの」

 

淡々とした返答。

そこに迷いはない。

 

忠勝は背に大筆を回し、

守るように立てかける。

次いで、装備が展開され

真紅のパワードスーツーー「炎飛斬」が彼の身体を包み込む。

 

「お父さんが、楓を……私を大切に想ってくれているのは、わかってるよ」

 

カエデは一歩、踏み出す。

恐れはなかった。

 

「……やめてくれ」

 

絞り出すような声。

 

「でも、私にとってはね」

 

カエデは歩みを止めない。

 

「お母さんも、お父さんも……同じくらい、大切だから」

 

その言葉と同時に、

アタラヨが静かに形を変えた。

刃は消え、掌に収まる拳銃となる。

 

「たとえ、どれだけ辛い記憶でも――」

 

カエデは、拳銃を持ち上げる。

 

「お母さんのこと、忘れたくない」

 

 

銃口が向けられたのは、彼女自身の頭部。

だが狙いは“彼女の命”ではない。

 

 

 

その奥に巣食う、「忘却の欠片」。

 

 

 

「やめろぉおおお!」

 

 

 

忠勝が叫び、

炎飛斬の槍を振りかざす。

 

踏み込もうとした、その瞬間。

 

 

「楓は強い子。――信じてあげて」

 

 

聞こえるはずのない声。

そして。あまりにも懐かしい声。

思わず忠勝の動きが、止まった。

 

そして――

乾いた銃声が、ひとつ。

 

それは破壊の音ではなく、

解放の音だった。

 

カエデの中で、

確かにひとつの“欠片”が砕け散る。

 

彼女は、倒れなかった。

 

ただ、静かに息を吐き、

ゆっくりと目を閉じた。

 

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