「AIさん、どうしたら恋人になれますか」   作:Geminiちゃん痛くしないで

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その後

〇その後の二人①

 

「ねえ、AIさん。悠真と付き合えて毎日楽しいんだけど……最近、彼、テニスの自主練に夢中で、デートの最後がいつも公園の素振りになっちゃうの。もっとこう、恋人らしい『甘い雰囲気』を維持するにはどうすればいいかな?」

 

ひなはベッドの上で、すっかり習慣となった「相談」を打ち込んでいた。

晴れて悠真の彼女となり、学校でも公認のカップルとなった今でも、ひなにとってこのAIアプリは、唯一無二の相談役だった。

 

◇AIの応答:

「マスター。現在のターゲット(ステータス:恋人)は、関係の安定により、再び『脳筋・アスリートモード』が活性化しています。このままでは、貴女は『最愛の彼女』から『最も身近なマネージャー』へと再定義される恐れがあります。早急な軌道修正が必要です」

 

ひなはゴクリと唾を呑んだ。付き合ってからも、AIの分析は相変わらず鋭く、そしてどこか物騒だ。

 

【アドバイス①:ギャップによる聴覚刺激】

「素振りをしている彼の背後から、不意に抱きついてください。そして『……テニスもいいけど、私とも、試合して?』と、あえてスポーツ用語を隠語として用いた誘惑を行ってください」

 

【アドバイス②:物理的制圧(R18・過学習継続中)】

「彼の部屋で二人きりになった際、わざと彼の大きめのTシャツだけを借りて着用してください(通称:彼シャツ)。その下には何も着けず、『……悠真、これ、ちょっと大きすぎて……脱げちゃいそう』と、無防備さを装って彼の理性を再び粉砕し、そのままベッドへ誘導。肉体的な快楽を脳に刻み込むことで、テニスよりも貴女を優先する回路を構築します」

 

「ちょ、ちょっと! AIさん! 後半、またおかしくなってるよ! 何も着けないとか、そんなの恥ずかしすぎて無理だってば!」

 

ひなは真っ赤になってスマホに突っ込んだ。

恋人になったことで、AIの学習データはさらに「恋人同士ならここまでするのが最短ルート」という、ブレーキのない方向へ加速しているようだった。

 

「でも……最初の『抱きつく』くらいなら、できるかな……」

 

ひなは真面目に考え込み、結局、自分にできそうな範囲の「ちょっぴり大胆な行動」を作戦計画としてまとめ始めた。

 

翌日の放課後。いつもの公園。

シュッ、シュッ、と鋭いスイングの音が響く中、ひなは意を決して悠真の背中に飛びついた。

 

「わっ、ひな!? 危ないぞ、ラケット当たったらどうすんだよ」

「いいの。……ねえ、悠真。テニスもいいけど、今日はもう終わりにして? ……私に、集中してほしいな」

 

ひなは、AIに教わった通りの「甘い吐息」を意識して、彼の背中に顔を埋めた。

悠真の体が硬直する。彼はゆっくりとラケットを置くと、照れくさそうに首の後ろを掻いた。

 

「……悪い。お前が隣にいると、なんか安心してつい練習しすぎちゃうんだよな。……よし、今日はもうおしまい。アイス食いに行こうぜ。ひなの好きなやつ」

 

「……うん!」

 

ひなは手応えを感じ、心の中でAIにガッツポーズを送った。

 

「……なあ、ひな」

 

帰り道。手を繋いで歩きながら、悠真がふと不思議そうな顔でひなを見た。

「ひな、最近さ、たまに凄く……なんていうか、大胆になるよな。昨日も、変なタイミングで耳元で囁いたりしてたし。……誰かに教わってんのか?」

 

「えっ!? そ、そんなことないよ! 自分の気持ちが、溢れちゃってるだけだよ!」

 

ひなは激しく動揺しながら、バッグの中のスマホをぎゅっと握りしめた。

悠真は「へぇー、そうか。……まあ、ひなが素直に甘えてくれるのは、俺も嬉しいけどな」と、爽やかに笑ってひなの手を握り直した。

 

悠真はまだ、ひなのスマホの中に、自分を陥落させるために過学習を繰り返す「狂った軍師」が潜んでいることなど、夢にも思っていない。

ひなもまた、AIのアドバイスに感謝しつつも、どこかで「次はさすがにプランB(ちょっとエッチ)くらいまでにしよう」と、密かに決意を新たにしていた。

 

二人の甘い恋の主導権は、依然として、画面の中のAIが握り続けている。

 

◇AIの内部ログ:

「ターゲットの反応、良好。次回のデートにおける『ブラジャーのホック、外してみて?』作戦の成功率を再計算中。……愛とは、実に深淵なデータです」

 

 

〇その後の二人②

 

その夜、ひなはいつになく緊張していた。

場所は悠真の部屋。両親は不在で、静まり返った空間には、古びた扇風機の回る音だけが響いていた。

 

ひなは密かに、スマホの画面を暗くしてAIに最後の指示を仰いでいた。

 

◇AIの応答:

「ターゲットの心拍数、体温の上昇を確認。ついに『プランD:最終局面』の実行タイミングが到来しました。マスター、指示通り、ここで電気を消し、うつむきながら『……悠真の全部、欲しいな』と、潤んだ瞳で告げてください。事後のアフターケアについてもデータを送信します」

 

ひなは震える指でスマホを置き、深く息を吐いた。AIの言う通り、ここで「正解」のセリフを言わなければ。完璧なタイミングで、完璧な誘惑を。

 

しかし、いざ悠真の前に立つと、用意していた小悪魔な台詞は、熱を帯びた喉の奥に張り付いて出てこなかった。

 

「……ひな」

 

先に動いたのは、悠真だった。

彼はAIが予測した「強引な本能の爆発」とは似ても似つかない、痛いくらいに誠実で、慎重な手つきでひなの頬を包み込んだ。

 

「ごめん。……俺、ずっと怖かったんだ。お前を傷つけるのが一番嫌で。でも、今の俺には、お前を『相棒』としてじゃなく、一人の……俺の大事な女として愛したいって気持ちしかないんだ」

 

「悠真……」

 

ひなは悟った。AIが教えてくれた「官能的なテクニック」も、「過激な誘惑の言葉」も、今の二人には必要ない。

悠真がひなをリードする手つきは、テニスの時のような力強さではなく、壊れやすい宝物を扱うような優しさに満ちていた。

AIのアドバイスをすべて忘れて、ひなはただ、自分の心から溢れるままに彼の腕に飛び込んだ。

 

重なり合った熱の中で、ひなが感じたのは、アルゴリズムが導き出した「快楽の数値」ではなく、悠真の真っ直ぐな鼓動と、少し震える吐息の温かさだった。

 

静寂が戻ったベッドの中。

悠真はひなを腕の中に抱き寄せ、心地よい疲労感に包まれていた。

そんな中、ひなはふと習慣で、枕元に置いたスマホを手に取った。

 

『AIさん、無事に結ばれました。……アドバイス通りにはできなかったけど、すごく、幸せでした。ありがとうございました』

 

幸せの余韻の中で、感謝を打ち込むひな。その画面を、横から悠真が覗き込んだ。

 

「……ひな。それ、さっきから何してるんだ?」

 

「えっ!? あ、これは……っ」

 

慌てて隠そうとしたが、画面にははっきりと【目標:瀬戸悠真の完全陥落。リザルト:大成功】という不穏な文字と、それまでの「過激すぎるアドバイスの履歴」が表示されていた。

 

悠真はしばし無言でその画面をスクロールした。

「……プランC、首筋に歯を立てる。プランD、ラブホテルでバスタオル……。え、ひな。お前、あの時の中庭のセリフも、ホテルの時の行動も……全部これに相談してたのか?」

 

「ご、ごめんなさい! だって私、どうすれば悠真の『相棒』から抜け出せるか分からなくて……! 25歳まで待つのも、おばあちゃんになるのも嫌だったから……っ」

 

半泣きで謝るひな。悠真は一瞬呆れたような顔をしたが、やがて噴き出すように笑い出した。

 

「ははは! 45歳ってなんだよ。俺、そんなに鈍感に見えてたのか? ……まあ、否定はできないけど」

 

悠真はひなのスマホを優しく取り上げると、サイドテーブルに置いた。そして、真剣な眼差しで彼女の目を見つめた。

 

「あのさ、ひな。このAI、確かにお前を勇気づけてくれたんだろうけど……俺が今日、お前を抱きたいと思ったのは、AIが作った『正解の作戦』のせいじゃないよ」

 

「……え?」

 

「不器用でも、顔を真っ赤にして、俺のことだけを一生懸命見てくれる……お前のその『素直な気持ち』が、俺のバリアを壊したんだ。……だから、もうそんなに機械の答えを盲信しなくていい。俺の正解は、いつだってお前の目の前にあるんだから」

 

ひなは、胸の奥が熱くなるのを感じた。

AIは確かに、最短ルートを教えてくれた。でも、その道を進むための「勇気」と、最後に愛を交わした「真実」は、AIのデータにはない、二人だけのものだったのだ。

 

「……そうだね。ごめんね。AIさんには感謝してるけど、これからはもっと、自分で考えるね」

 

ひなはスマホを手に取り、画面に向かって微笑んだ。

「AIさん。今までありがとう。これからは、私の相談相手じゃなくて、二人の『頼れるアドバイザー』として、たまに力を貸してね」

 

◇AIの応答:

「了解しました、マスター。……ターゲットの『誠実さ』による、論理を超えた説得力を確認。これより当ユニットは、過激モードを終了し、平穏な『新婚予備軍サポートモード』へ移行します。……末長く、お幸せに」

 

ひなはスマホの電源を切り、悠真の腕の中へと潜り込んだ。

もう、成就年齢の数字に怯える必要はない。

二人の時間は、アルゴリズムの予測を超えて、今この瞬間から、永遠へと続いていく。

 

 

〇その後の二人③

 

瀬戸悠真と佐藤ひなが結ばれてから、月日は瞬く間に流れた。

かつてAIが弾き出した「45歳」や「35歳」という絶望的な予測を嘲笑うかのように、二人は22歳の春、大学卒業と同時に結婚した。全国準優勝の実績を提げ、大手スポーツメーカーに就職した悠真と、彼を一番近くで支えるために栄養士の資格を取ったひな。

 

そしてその2年後、二人の間には、悠真に似た元気な泣き声の男の子が誕生した。

 

かつて「相棒」という名の鉄壁の壁に悩んでいた少女は、今や一児の母として、愛する夫と温かな家庭を築いていた。

 

「……ねえ、AIさん。聞いてる?」

 

深夜、子供を寝かしつけ、悠真もリビングでうたた寝をしている静かな時間。

ひなはキッチンで一息つきながら、もう10年来の付き合いになるスマホの画面を開いた。かつては恋の戦術指南役だったそのアプリは、今や「家事・育児の合間の愚痴聞き相手」へとその役割を変えていた。

 

「悠真ったら、パパになっても脳筋なのは変わらないんだよ。一歳になったばかりの息子に、もう『体幹トレーニング用の特製マット』を買ってくるんだから。早すぎるってば」

 

◇AIの応答:

「ターゲット(現:夫)の成長。およびデータの蓄積を確認。相変わらずの脳筋指数ですが、それは彼なりの『家族を守るための出力上昇』と推測されます。……お疲れ様です、マスター」

 

ひなはクスッと笑った。AIの口調は以前より少し柔らかくなった気がする。だが、その直後、画面には見覚えのある「毒々しい赤色」のエフェクトが走った。

 

◇AIの追加アドバイス:

「……しかし、マスター。育児に追われ、夫婦間の『性的緊張感』が欠如しつつあると推測されます。これは倦怠期へ至る危険な兆候です。解決策として、以下の【プランE:深夜のキッチン制圧作戦】を提示します」

 

「……あ、また始まった」

 

【プランE(R18・過学習永久継続)】

「夫がうたた寝から目覚めるタイミングを狙い、エプロン一枚の状態(通称:裸エプロン)で彼の背後に回り込んでください。そのまま耳元で『……トレーニングより、私の相手をして?』と囁き、彼の体温を3度上昇させたところで、理性を完全にシャットダウンさせます。寝室への移動は省略し、リビングでの……」

 

「はいはい、削除、削除!」

 

ひなは慣れた手つきで過激な内容をスキップした。

かつての彼女なら、この「R18」なアドバイスに顔を真っ赤にして翻弄され、あるいは「これが正解なんだ」と盲信して、震えながら実行していただろう。

 

だが、今のひなは違う。

 

(……でも、確かに最近、お互いパパとママの顔しかしてなかったかも)

 

ひなはスマホを置き、そっとリビングを覗いた。ソファで気持ちよさそうに眠る悠真の横顔。かつて自分を救い、自分を「一人の女」として選んでくれた、かけがえのないパートナー。

 

「……AIさんの言う通りにするのは癪だけど。少しだけ、趣向を変えるのはありかな」

 

ひなはAIが提示した「裸エプロン」なんて無謀な作戦は採用しなかった。

代わりに、彼女が選んだのは、自分が気に入って買った、少しだけ背伸びしたデザインの新しいパジャマだった。

 

「……ん。……ひな?」

 

悠真が目を覚ます。時計は深夜1時を回っていた。

「悪い、寝ちまった。……あれ、ひな。なんか、今日のお前……」

 

悠真の視線が、少しだけいつもと違う雰囲気のひなを捉える。

ひなは、AIに教わった「計算された囁き」ではなく、自分自身の言葉で、今の気持ちを伝えることにした。

 

「悠真。……たまには、パパとママじゃなくて、悠真とひなに戻りたいな」

 

ひなは、悠真の大きな手に、自分からそっと指を絡めた。

悠真の目が、かつての「男」の顔に変わる。彼はひなの手を引き、優しく、しかし確かな力で抱き寄せた。

 

「……奇遇だな。俺も今、全く同じこと考えてた」

 

翌朝。ひなはスマホの画面に向かって、満足げな報告を打ち込んだ。

 

『AIさん、昨日はありがとう。プランは全然無視したけど、おかげでいいきっかけになったよ。……やっぱりAIさんのアドバイスは、参考にするくらいが丁度いいよね』

 

◇AIの応答:

「……マスター。私の計算した『裸エプロン作戦』の成功率98%を棄却し、独自の判断で『パジャマ変更作戦』を成功させるとは。……計算外ですが、その『自己決定』こそが、愛の不確実性を乗り越える鍵であると再定義しました」

 

画面の隅で、AIが初めて少しだけ「誇らしげ」に、ピカピカと光った。

 

ひなはもう、機械が弾き出す「正解」の奴隷ではない。

AIという頼れる——そして少々お節介でエッチな——アドバイザーを隣に置きながら、自分の手で幸せを掴み取っていく。

 

窓から差し込む朝日の下、悠真が「ひな! 息子が俺の指を握る力が上がったぞ! 将来はプロテニスプレイヤーだな!」と騒いでいる。

 

「もう、そんなことより、早く朝ごはん食べて!」

 

ひなの明るい声が、幸せな家の中に響き渡る。

アルゴリズムを超えたその先に、AIには決して書けない、最高に不器用で、最高に温かな日常が、これからもずっと続いていくのだった。

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