夏に燃えて   作:仄見

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第十話

 

 

 昼休み。

 昼食を大喜たちと食べているとスマホが振動し、メッセージが届いた事を知らせた。

 

 

「至急、うちのクラス集合」

 

 

 青崎先輩からメッセージが届いている。

 うちのクラスって事は2年生の教室に来いということだろう。先輩の教室なんて行ったことないし、普通に先輩のフロアに行くのにも少し緊張する。

 

 

「どうした?」

 

「……いや、野球部の先輩から教室に来いって言われて」

 

「えっ、なんかやらかしたん?」

 

 

 確かに、呼ばれた理由はなんだろう。別にやらかしたりはしていないはず……

 

 

 ま、まさか───

 

「おい、1年のくせにエースになって調子のってんじゃねーだろうなぁ」

 

「おい、こいつ調子乗ってるからみんなで絞めようぜ」

 

 

 ───いや、ないな。青崎先輩はそういうタイプじゃない。ていうか野球部の先輩にそんな人はいない。

 

 

「休み時間なくなるから、早く来いよ」

 

 

 うだうだと悩んでいると、また先輩からメッセージが来た。呼ばれた理由は分からないが、早く行かないとそのせいで怒られそうだ。

 

 

「ごめん、ちょっと行ってくるわ」

 

「いってらっしゃーい」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ……足が重い。なんかジロジロ見られて注目されてる気がするし、早く要件を済ませて戻りたい。

 

 

「……失礼しまーす」

 

 一つ深呼吸してからドアを開ける。ドアを開けると、一気に注目が集まる。

 青崎先輩を探そうと中を見回すと、千夏先輩や針生先輩がみんなでお弁当を食べていた。

 千夏先輩や針生先輩達と一緒かと思ったが、どうやら一緒ではないみたいだ。

 

「大翔こっちだ」

 

 すると奥の方から青崎先輩に声をかけられる。

 青崎先輩は教科書か何かを机に開いて見ながら一人で昼食をとっていた。

 千夏先輩達に会釈だけして青崎先輩の元へ向かう。

 

 

「悪いな、来てもらって。……これか?これは前あった練習試合のスコアブックだ」

 

 

 勉強をしているとは思わなかったが、青崎先輩が見ていたのはこの前の試合のスコアブックだった。

 

 

「キャプテンから連絡来て、大会の組み合わせが決まったらしいぞ」

 

 実は今日、烏先輩と監督が大会の抽選会に向かっているのだ。

 

「うちは甲子園までは6勝ですね」

 

「厳しくなるのは3回戦ぐらいからかな」

 

 組み合わせ的に3回戦からシード校とも当たるのでそこからキツイ試合になってくると予想される。

 ちなみに浦川学園は反対ブロックのシードなので決勝まで当たらない。

 

「呼んだのは抽選の事教えてくれるためですか?」

 

「あぁ、それもあるけどスコアブック渡そうと思って」

 

 そう言って読んでいたスコアブックを渡してくる。少し前にスコアブック持って帰れないかと呟いていたのを聞いていて、準備してくれたらしい。

 

「ありがとうございます。助かります」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「おっ、白石大翔だ」

 

「ほんとだ、ここに来るなんて珍しいね」

 

 みんなでお昼ご飯を食べていると教室に大翔君がやってきた。目が合って手を振ると大翔君は会釈して、青崎君の方に向かっていった。

 

 これまた珍しく、いつもはうるさい青崎君が一人で何かを見ながらご飯を食べていると思ったら大翔君を呼びつけていたみたいだ。

 

「青崎、珍しく静かにしてると思ったら野球の事やってたんだな」

 

「あいつ、静かに何かを読むなんて事できるんだな」

 

 

 そんな失礼なことを話していると、青崎君は大翔君を前の席に座らせて何かを話し出した。

 

 

「ここなんだが、俺はこういう意図でサインを出したんだ。伝わってたか?」

 

「……はい。俺が三振欲しがってストライクゾーンに投げてしまいました……」

 

「お前のいい所でもあり、悪い所でもあるな。三振を狙うのは決して悪いことじゃないが、打たせて取ることも増やせればもっと楽にイニングを投げれるだろ」

 

 どうやら反省会を始めたみたいだ。青崎君と大翔君は見たことないほど真剣な顔で話し出した。

 

「まぁ良く考えれば青崎も1年の時からベンチ入りして試合にも出てたもんな」

 

「そうだよね……いつもの様子からは想像できないけど……」

 

 いつもは馬鹿な事ばっかりやっていて忘れがちだが、野球に関しては天才と呼ばれる側だ。

 1年でベンチ入りした天才同士、やっぱり気が合うのかもしれない。

 

「大翔、お前サイン出した時首を振ることが少ないが遠慮なんてするなよ」

 

「もちろんです。遠慮なんかしてないですよ。納得できなかったらどんどん首振ります」

 

 二人ともどんどんヒートアップして声が大きくなってきている。お昼休みで教室にいる人も少ないので二人の声が響く。

 

「あいつら熱くなってんな」

 

「大会が近くなってピリピリしてるのかもね」

 

「おーい、お前らここ教室だからあんま周りをビビらせんなよ」

 

 針生君に言われて思ったより声が大きくなっていたことに気づいたみたいだ。

 

「……悪い……大翔、また今度にしよう。とりあえずこれは渡しておく」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「お前ら終わったのかー?じゃあこっち来いよ」

 

 針生君に呼ばれて青崎君と大翔君がこっちに来た。青崎君は真剣な所を見られて恥ずかしいのかモジモジしている。

 

「あおざき〜、いつもとキャラ違くね?」

 

「うっせ〜な、俺はいっつもクールだろ」

 

 馬鹿な事を言い出した青崎君をみんなでいじり倒していると、居心地悪そうにしている大翔君と目が合った。

 

「ごめんね、先輩の教室なんて気まずいよね」

 

「……いや、まぁ……はい」

 

「ふふ、野球部の先輩とはあんな感じで話すんだね」

 

 大翔君は恥ずかしそうにしている。普段はどっちかというと柔らかい雰囲気でいじられてるのに部活の時は結構強気な感じだった。

 そういう所も青崎君とそっくりだと思う。まぁ本人に伝えたら嫌がりそうだから言わないけど……

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 

 昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。

 

「じゃあ俺はそろそろ戻りますね」

 

 チャイムの音聞いて、この気を逃さんとばかりに大翔君は立ち上がった。

 

「じゃあまたね」

 

「はい。───今日の夜、母さん遅いみたいなんで食べたいのあったらLINE送っといてください。適当に食材買って帰ります」

 

 大翔君はそれだけ言って教室に戻って行った。

 

「あんたたち、本当に仲良いね」

 

「そ、そうかな?」

 

 急に耳元に近づいてくるから何かと思ったが、皆に同棲がバレる訳にはいかないから小声で話せるように近づいたんだろう。

 

(……でも急に近づかれるとびっくりする)

 

 そこからは怪しむクラスメイト達を誤魔化しながら午後を過ごした。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 7月初週。

 今日からついに大会が始まる。今日は開会式が行われた後球場を移動し早速1回戦だ。

 

「おはよう、ついに今日からだね。頑張ってね」

 

「ありがとうございます。千夏先輩も部活頑張ってください」

 

 

 机に置かれている真っ白のユニフォームを手に取る。

 もう何回も着て見慣れたユニフォーム。だがいつもとは違う。背中には縫い付けられた背番号1(エースナンバー)

 

「……背番号縫ってくれてありがとう」

 

「……何よ急に。……今日お母さんとお父さんは応援行くから頑張んなさいよ」

 

「……うん」

 

 ユニフォームをお守りの付いたカバンにしまう。

 

「あっ、ちょっと待って」

 

 千夏先輩がこちらに来てお守りを手に取る。

 

「はい!これで大丈夫!」

 

 千夏先輩はお守りをギューと握りこんでから俺に返す。

 

「私の時みたいにパワーこめといた!」

 

「……もう言わないでって言ったじゃないですか……」

 

 笑みがこぼれる。気づいていなかったがどうやら緊張していたみたいだ。

 千夏先輩にパワーを貰ったのならもう負けないだろう。神社の神様よりご利益がありそうだ。

 

 

「……じゃあ行ってきます」

 

「行ってらっしゃい。頑張ってね」

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「……クソあちぃ」

 

 開会式というのは選手にとって憂鬱なイベントでしかない。

 全学校が行進して並ぶまでの待ち時間、誰かも分からないおじさんの長い話、かれこれ1時間弱外で立ちっぱなしになるのだ。

 

「文句言うなよ、みんな暑いんだから」

 

「わかってますけど……」

 

 キャプテンに叱られるが、暑いものは暑い。

 

 

 

 長い長い開会式がやっと終わった。

 これからバスで他の球場に移動してそこから試合だ。

 

「15分後に出発するから、それまでにバス集合な」

 

 

 ◇◆◇

 

 

「よぅ、ちゃんと背番号貰えたみたいだな」

 

 トイレを済ませバスに戻ろうとしたところで浦川学園の四宮皇牙(しのみやおうが)と鉢合わせた。

 

「……そっちこそ……背番号は2じゃないんだな」

 

 皇牙は5番を背負っている。どうやらキャッチャーとしての登録ではないらしい。

 

「うちとやるのは決勝だな……───そこまで負けんなよ」

 

「当たり前だろ。どこにも負けねーよ……もちろんお前らにも」

 

「はっ、言ってろ」

 

 

 時間にして1分もたってない。だが大翔と皇牙にはそれで充分だった。

 次に会うのは決勝になるだろう。もうこれ以上の言葉は交わさず、二人は別れて自分のチームの元へ向かった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「おいおい、やっべーな。吹部もチアもいるじゃねーか」

 

「俺たち弱小公立校とは規模が違うな」

 

 光北高校(こうほくこうこう)のナインは今日の対戦校、栄明高校の観客の多さに驚いていた。

 

「おーいお前ら〜、後攻とったぞ〜」

 

「まじかよ、じゃんけん勝ったのかよ」

 

 キャプテンの高橋が先行後攻を決めるオーダー表交換から戻ってきた。

 

「おい、相手のエース一年生じゃん」

 

「うわっ、エリートかよ……」

 

「お前ら、相手を大きくしすぎるなよ。相手だって同じ高校生だ。それに一年生だと緊張だってしてるはずだ。俺たちにもチャンスはあるはずだ」

 

「……そうだよな、……俺たちだって三年間やってきたんだ!見せてやろうぜ!俺たちの三年間を!」

 

 光北高校のメンバーは気合を入れて試合に入った。

 

 

 ───ストライークッバッターアウトッ!

 

 

 1回表、光北高校は栄明高校を何とか0で抑えて1回裏の攻撃に入る。

 しかし、白石大翔は光北高校に絶望を与えた。

 1番から3番バッターまで誰一人バットにかすらせもせず三者連続三振を奪う。

 

「……まじか……」

 

 1回表、いい感じで試合に入りこれはいけるかもと思った光北高校のナインは1回裏が終わる頃には心が折れていた。

 

 そこからは一方的な試合になった。

 自分達があの白石大翔から点をとるイメージが湧かないということが守備にプレッシャーを与える。

 

(……点を取られたら終わる)

 

 そのプレッシャーが守備のミスを呼ぶ。

 そのミスを逃さない栄明は一挙に6点をあげた。

 何とか栄明の攻撃を止めても、白石大翔を打つことができない。

 

 あんなに守備の時間は長かったのに、攻撃の時間はあっという間に終わる。

 

「……顔を上げろ!最後まで戦うぞ!」

 

 キャプテンが声をかけ続けるが、メンバーは声を出すこともできない。

 

 

 そして5回表の栄明の攻撃が終わった時には、12対0と圧倒的な点差が開いていた。

 

 

 

「───俺は最後まで戦うぞ……」

 

 そう言ってキャプテンは打席に向かう。

 

 

 初級は外いっぱいにストレートが決まってストライク。二球目は同じところから落とされてバットは空を切る。

 

(───なんとしても塁に出る)

 

 三球目、インハイのストレートに手を出し何とかバットに当てた。

 どん詰まりした打球はボテボテのゴロが三塁線に転がる。

 

 キャプテンは当たった瞬間に打球も見ずに全力で駆ける。

 必死で駆け、一塁に頭から滑りこむ。

 

 

 ───セーフッ!

 

 

「よっしゃぁぁぁ」

 

 結果は内安打。大翔からこの試合初ヒットをもぎとった。

 この結果は光北高校のベンチに光を与えた。

 

「おい、キャプテンに続け!」

 

「最後まで戦うぞ!」

 

 

 続く5番もなんとかバットには当てたがファーストゴロに倒れる。

 だがランナーは2塁に進塁した。初めての得点圏に光北高校はさらに盛り上がる。

 

「1点とるぞ!」

 

「打てるぞー!」

 

「諦めんなー!」

 

 しかし反撃はそこまでだった。

 大翔は6番バッターから三振を奪うと、7番バッターを僅か二球で追い込んだ。

 三球目、外の球を引っかけゴロが転がる。

 先程のキャプテンと同じように、全力で駆け頭から滑りこんだ。

 

 

 ───アウトー!

 

 

 何度も同じようにやられる栄明ではない。

 先程よりも前に来ていた烏がしっかりと捌いてアウトにする。

 

 

 12対0。

 5回コールドで栄明対光北の試合は幕を閉じた。

 

 

「お前ら、整列するぞ」

 

 泣き崩れて動けない光北ナインをキャプテン高橋は支えながら整列に向かわせる。

 

 

 ───ありがとうございました。

 

 

 お互いに一礼し、握手を交わす。

 

 大翔は慣れてないのかオロオロしながら光北高校のメンバーと握手を交わしている。

 高橋はその姿に少しだけ拍子抜けした。

 先程までは鬼気迫るような顔で投げていたのに、今では年相応の少年だ。

 

「……頑張れよ、応援してる!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 このチームが甲子園に行ってくれたらいいなと思う。

 そうしたらなんだか少し、胸を張れる気がする。

 それで、孫の代まで自慢するんだ。甲子園で活躍した白石大翔から俺はヒットを打ったんだって。

 

 

 

 

「応援ありがとうございましたー!」

 

 今まで支えてくれた監督や親、後輩たちに最後の挨拶をする。

 監督からの言葉も貰いつい涙がこぼれた。

 

 

「今まで支えてくれて……ありがとう」

 

 親にいつもは恥ずかしくて言えないが、今言わないといけない気がして感謝を伝えた。

 小1から野球を始めて今日まで約12年間、本当に支えてもらった。両親の支えがなければここまでできなかった。

 

「今日のあんた、かっこよかったよ!」

 

 両親の温もりを感じながら、俺は野球人生を振り返る。俺の野球人生は最高だった。悔いなくやりきることができた。

 

(……あぁ最悪だ。涙が止まらない。───でも)

 

 

「───楽しかったなぁ」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「大翔、行くぞ」

 

「.はい」

 

 

 栄明の野球部は学校に戻るためのバスに足早に乗り込んでいく。

 そんな中、完璧なピッチングで公式戦デビューを果たした大翔は酷く落ち込んでいた。

 

 

「何落ち込んでんだよ……勝つってことは誰かが負けるんだ。……あんま気にすんな」

 

 大翔は終わった後、光北高校の何人もの選手に握手を求められていた。泣きながら握手を求めてくる光北高校の選手に何か思うことがあったのではと青崎は考えた。

 

「……いや……5回とはいえあと3人で完全試合だったなって……」

 

「は?……なんだよ!そっちかよ!

 あ〜あ、心配して損したわ」

 

 涙する相手校を見て何も思わない訳じゃないが、大翔たちだって負けられない。勝負事なんだから勝者と敗者ができるのは当たり前だと大翔はわきまえている。

 

 

「別に毎試合意識してる訳じゃないですけど、あと3人までいったら達成したいじゃないですか……」

 

「……最後のはアンラッキーな打球だし、あれは三球勝負を急いだ俺のミスだ……」

 

 二球で追い込んだ後、ボール球を使えばよかったと青崎は考えている。

 しかし実際は抑えた打球だったし青崎のせいではない。大翔もサインに納得して投げている。

 

「……じゃあ青崎先輩のせいですね」

 

「なっ……はぁ……もう3日後には2回戦だ。大翔は投げるか分からんが、相手の情報入れとけよ」

 

 どんどん試合が消化されていく。

 負けるつもりはないが、後悔だけはしないように一試合一試合大事にしないといけない。

 

 栄明野球部はバスで反省会を行い、3日後の2回戦に向けてミーティングをしながら学校へ戻った。

 

 

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