夏に燃えて   作:仄見

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第十一話

 

 

 

「えぇー! 大翔君明日休みなの!?」

 

「……試合があるからな」

 

 

 栄明野球部は危なげなく2回戦を突破し、3回戦へと駒を進めた。

 2回戦は志摩が先発し、7回無失点、被安打3無四球で完封。チームは7対0で7回コールド勝ちだった。

 大翔は6番ライトで出場し、3打数1安打1四球という結果だった。

 

 そして3回戦が明日にせまっている。

 しかし明日は平日なのだ。つまりは普通に学校がある日なのだが、野球部は試合の為公欠扱いになる。

 それを聞いた雛は駄々っ子のようになってしまった。

 

「ずるいずるいずるいっ!」

 

「……雛、みっもないぞ。……それにお前は馬鹿なんだから休んだらやばいだろ」

 

「うっさい! てか大喜には言われたくない!」

 

 二人は言い争いを始めてしまった。二人の言い争いはこのクラスが始まってから既に何回も起きていて、このクラスの名物の一つとなっている。

 

「まぁまぁ、落ち着きなよ。それに3回戦勝ったら全校応援で金曜日休みになるよ」

 

 匡が二人を宥めつつ、有益な情報を雛にもたらすと雛は手のひらをくるっと返した。

 

「えっ!? 本当? ……大翔君、私めっちゃ応援してる。絶対勝ってね!」

 

「ハハッ、ありがとう。学校休めるように頑張るよ」

 

「……現金なヤツだな」

 

 

 

 その頃、2年生の教室でも同じような会話が行われていた。

 

「そういえば青崎君、明日試合なんでしょ?」

 

「おう、よく知ってたな」

 

 学校だよりにも野球部の試合の日程が載っていたのでそれを見て千夏は知っていた。

 それに朝、大翔達がその話をしていたのもある。

 

 

「大翔! 明日の試合、お母さん達見に行けないから何としても勝ちなさいよ」

 

「なんだよ、その理由……ってか負けるつもりなんてねーよ」

 

 

 そんな会話を朝ごはんを食べながら聞いていたので明日試合があるのを覚えていた。

 

 

「……てかお前、学校休んで大丈夫なのかよ。授業おいてかれるぞ?」

 

「うっ、うっせー。……どーせ来たって分かんねーから変わんねーよ」

 

「……バカすぎる」

 

 

「おーい、青崎! 明日応援してるから頑張れよ!」

 

 するとクラスの皆から激励がとんできた。

 青崎は普段クラスで持ち上げられる事もめったにない。

 いつもとは違う注目を浴びて青崎はすぐに調子に乗る。

 

「おう! お前らありがとうな! 絶対勝つわ!」

 

「応援してるぞ! 俺達の休みのために頑張れ!」

 

「……目的はそれかー!」

 

 豪快に笑いながら応えるが、みんなの目的は応援というより自分達の休みだったらしい。

 

「……まぁどっちみち勝つしかないから勝つけど……」

 

「ハハハハッ、おもしれぇ〜!」

 

「……うっせー! 絶対明日勝って、お前らに俺のかっこいいところ見せてやる!」

 

 鼻から息を吐き絶対に見返すと気合を入れる青崎。

 クラスメイトからの激励を背に受け、3回戦へと向かう。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 野球部は3回戦も無事に突破し準々決勝に駒を進めた。

 先発したのは志摩で8回まで両チーム点が入らずに0対0の投手戦だった。

 8回裏、烏と遠藤の連続タイムリーで2点を先制した。

 そして9回に満を持して1年生エースの白石大翔がマウンドに上がり三者連続三振の圧倒的なピッチングで試合を締めくくった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「野球部が3回戦を突破したため、来週の月曜日は全校応援になります。繰り返します───」

 

 

「よっしゃぁぁぁ! 

「野球部ナイス!」

「授業なし!」

 

 

 野球部が勝ったと学校で放送が流れた。

 これで次の試合の日は学校が休みになるので皆が狂喜乱舞している。

 

「おー! 大翔君やったんだね。うんうん。活躍したかは知らないけど褒めてあげよう」

 

「……なんで上からなんだよ」

 

「良かったね、次の月曜日休みになって」

 

「ほんとだよぉ〜! 月曜日小テストするって言ってたしこれでなくなる!」

 

「わかってるのか? 月曜日は野球部の応援なんだぞ」

 

「わかってるよー。感謝を込めてこの雛様が大翔君を応援してあげるよ」

 

 雛は相変わらず上から目線である。

 まぁこの自己肯定感の高さが雛の良いところではあるか……

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「おかえり」

 

 家の玄関を開けると千夏先輩が出迎えてくれた。

 

「勝ったんだってね。おめでとう」

 

「ありがとうございます。知ってたんですね」

 

「うん。月曜日が休みになるって学校中大騒ぎだったよ」

 

 蝶野さんあたりが騒いでいるのが目に浮かぶな。

 

 

「月曜日は皆で応援するからね。頑張ってね!」

 

「ありがとうございます! 頑張ります」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 準々決勝当日。

 

 雲ひとつない青空の下、真夏の陽射しがグラウンドをやいていた。照り返しに満ちたグラウンドの上は選手たちの熱気も併せて、鉄板の上にいるかのような暑さを纏っていた。

 

「今日の相手はシード校の常川高校だ。簡単に勝てる相手じゃない。……がお前らなら勝てるだろ? .それに今日は学校の皆も応援に来てくれている。恥ずかしい所なんて見せるなよ。

 

 ───今日のスタメンは

 

 1 キャッチャー 青崎 2年

 2 ショート 高坂 3年

 3 サード 烏 3年

 4 ファースト 遠藤 3年

 5 ピッチャー 白石 1年

 6 レフト 櫻井 2年

 7 センター 志摩 3年

 8 セカンド 星 2年

 9 ライト 霜田 2年

 

 今日のメンバーはこれで行く。勝つぞっ!」

 

 

 ◇◆◇

 

「準々決勝にもなると人の入りすごいな」

 

「まぁうちも全校応援だしな」

 

 

 今までとは雰囲気が違う。今までは吹奏楽部やチア部、家族が多かったが今日は一般の人も沢山入っている。

 グラウンドから見える景色もまた違う。

 

「やっぱり人多いと嬉しいな」

 

「やる気出ますよね〜」

 

「今日活躍したら俺もモテるかな?」

 

「青崎先輩はマスク被ってるから活躍しても顔わかんないですよ」

 

 選手達のテンションも上がっている。とてもいい状態をキープできている。

 最後の調整をしながら試合開始までの時間を待つ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「すごい熱気だね」

 

「あぁ、ただでさえ暑いのに人も多いしな」

 

 この日は栄明の試合と浦川学園の試合がこの球場であり、大翔や浦川学園のプロ注目のクリーンナップを見ようと平日にも関わらず人が沢山入っている。

 

「気合い入ってんな、野球部」

 

「うん。大翔君もやっぱり皆が応援に来てくれる所で負けられないって言ってたよ」

 

「へ〜、そうなんだ。……えっ? 千夏、大翔君にいつ会ったの?」

 

「え、えっとLINEで……そう、LINEで少し話す機会があって……」

 

 昨日の夜、家でした会話をポロッと油断して出してしまった。

 しかし元々仲良くしていたのもあってあまり怪しまれずにすんだ。

 

「やっぱり大翔君と仲良いんだね。───おっ、野球部出てきた」

 

 野球部の皆がベンチから姿を見せて整列しスタンドに向けて挨拶をした。

 

「応援よろしくお願いします」

「お願いします」

 

 スタンドから拍手を送っていると顔を上げた大翔君と目があった気がした。

 千夏はライブに行ったファンみたいな事を考えていた。

 勘違いだと思ったが大翔君がこっちに手を振っているのでどうやら勘違いではないみたいだ。

 私が手を振り返すと大翔君は拳をぎゅっと握り空に掲げた。

 

 

「本当に仲良いのね、あんたたち」

 

「青崎が嫉妬するぞ」

 

「もう、そんなんじゃないよ」

 

 大翔君は知っている人を見つけたら誰でも手を振るだろう。別に私が特別って訳でもない。

 今だって大喜君や蝶野さん達に手を振っている。

 

「……千夏、どうしたの? ちょっと拗ねてる?」

 

「えっ……」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「始まったな」

 

 栄明対常川の試合。先行は栄明学園、先頭バッターの青崎がバッターボックスに入る。

 

 ───カキーン

 

 初球だった。まだサイレンの音が響く中、金属バットの甲高い音が響き渡りボールはぐんぐん飛んでいく。

 

 ───ファール

 

 

「あぁ、おっしい!」

 

 

 先頭打者本塁打かと思われた打球はポールのやや外。特大ファールとなった。

 

「やっぱすげーな」

 

「教室の青崎君とは大違いだね」

 

 普段とのギャップが凄すぎて、特にクラスメイトが驚いている。

 しかしその後は少し力んだか、外から入ってくる変化球に手がでず見逃し三振に倒れる。

 

 2番の高坂はいい打球を放ったが野手の正面、続く烏は高めの釣り球に手がでて空振り三振。

 結果的に初回の攻撃は3人で終了した。

 

「相手ピッチャー調子よさそうですね」

 

「……あぁ。でもすぐに点とってやるからお前も頑張れ」

 

 青崎先輩と軽く打ち合わせをしてからマウンドに向かう。

 マウンドの土を投げやすいように掘ってから投球練習を開始した。

 大翔は初戦は先発したが、2回戦、3回戦ともに志摩が先発し3回戦のラストイニングしか投げていない。

 上手く試合に入れるか心配だったが投球練習を見る限り調子自体は悪くない。

 

 

「やっぱり人気だな」

 

 大翔がマウンドに上がると周りの生徒たちがスマホを出し写真や動画を撮り始めた。

 

「まぁ、1年でエースっていうスター性もあってイケメンでスタイルいいしね」

 

 大翔自身は気づいていないが大翔は学校で有名人だ。

 千夏と仲が良くて美男美女でお似合いだなんだと言われているので、声をかけられることがほとんどないので気づけない。

 

「千夏も撮れば?」

 

「……撮らないよ、変な事言わないで」

 

 そんな事を話していると投球練習が終わる。

 大翔はマウンドから後ろを向き帽子を胸に当て目を瞑る。

 

「しまっていくぞー!」

 

 青崎の声掛けを聞いてからゆっくりと目を開け、プレートに足をつける。

 

 

 先頭打者の初球、真っ直ぐから入りストライク。2球目も真っ直ぐを続けて詰まらせてサードゴロに打ちとった。

 

「ナイス大翔!」

「ナイピー」

「烏先輩もナイスです!」

 

 声を掛け合いながら常川打線に相対していく。

 続く2番、3番もファーストゴロ、センターフライに打ちとり、危なげなく初回を終えた。

 

 2回表、先頭の遠藤がヒットを打ち出塁したが、大翔が引っ掛けてしまいダブルプレー。

 櫻井もショートゴロに倒れ、早々にイニングが終わってしまう。

 

 しかし大翔も相手を寄せ付けない。3回までノーヒットピッチングを続けた。

 

「大翔君、調子良さそうじゃん。まぁあんまり野球のこと知らないけど」

 

「おい雛、ちゃんと応援してやれよ」

 

「わかってるよ〜。でも大翔君以外大して知らないし……」

 

 大喜や雛達も暑い中、応援していた。

 

「おっ、相手ピッチャー変わった」

 

「えっ、相手ピッチャーも点取られてないのに!?」

 

 4回表、打者が一巡したところでピッチャーを変えてきた。

 右の本格派から左の本格派のピッチャーに変えてきた。

 

「……もう変えたのか」

 

「まぁうちも全然打ててなかったからありがたいけど」

 

「これじゃ三巡目も変えてきそうな感じですね」

 

 先発のピッチャーからヒットを打ったのは遠藤さんの1本のみ。これで変えてきたということは最初からこの継投の予定だったということだろう。

 

「打てよー! 青崎!」

 

 青崎は初球の逃げていくスライダーを大振りし、空振りしたがそこからボールを見極めてフォアボールで出塁した。

 

「ナイセン!」

「よく見た!」

 

 ノーアウトの出塁で栄明側が盛り上がる。

 この流れを止めないように2番の高坂が一発で送りバントを決めた。

 1アウトランナー2塁で強力クリーンナップを迎える。

 

「チャンスきたじゃん」

 

「青崎、一球目空振りした後絶対三振すると思ったわ」

 

 チャンスで迎える3番キャプテンの烏。烏への初球は高めに浮いてボール。その後2球目のスライダーがすっぽ抜けて烏の肩に当たる。

 

「よっしゃ!」

 

 烏はガッツポーズをして一塁に向かう。変化球のすっぽ抜けという事もあり痛みはあまりないようだ。

 

 そしてチャンスを広げ、4番遠藤。先程ヒットも打っている栄明の主砲だ。

 

 しかし相手も強豪校のピッチャー。遠藤に相対し一段とギアが上がる。

 今日最速の145km/hのストレートをインハイに通す。続けてストレートをインコースに投げ込み2球で追い込む。

 そしてここまで見せていないチェンジアップで完全に遠藤のタイミングを外し、三球三振を奪う。

 

「……えっぐ」

 

 遠藤を完全に手玉にとったピッチングはまさに圧巻だった。ネクストで見ていた大翔は「あれは無理だな」と半ば開き直って打席に向かった。

 

(……チェンジアップは捨てるしかない)

 

 大翔の狙いはカウントを取りに来るストレート一本。

 しかし常川バッテリーは初球からチェンジアップで入る。完全に裏をかかれた大翔は大振りの空振りをしてしまう。

 

「全然タイミングあってねーじゃん」

 

「ほんとだね。せっかくのチャンスなのに」

 

 スタンドではチャンステーマが鳴り響く。軽く学校で練習したリズムに合わせてメガホンを叩き、大翔へエールを送る。

 

「大丈夫だよ、大翔君なら打つよ」

 

 千夏の言葉は有無を言わせぬ説得力があり、周りのみんなも信じてエールを送る。

 

 

 大翔は粘りながら何とかカウントを整えて、2ストライク3ボールまで持っていった。

 

(最後はストレートかチェンジアップか……)

 

 2アウトランナー一二塁。

 外野の間を抜ければ一気に2点。

 大翔は覚悟を決めて山をはる。

 

(くそっ!)

 

 ストレートに絞って始動したが投げられたのはチェンジアップだった。

 完全に体勢がくずされた。

 

(……やられるかよ)

 

 しかし足を踏ん張り持ちこたえる。なんとかボールをバットに乗せる。

 フラッとボールは飛んでいく。

 

「いくんじゃね?」

「いけー!」

 

 思いのほか打球は伸びていく。

 ライトが下がりボールを追う。しかしライトの足が止まりこちらを向く。ボールが落ちてきてグラブの中におさまった。

 

「おっしぃー!」

「あとひとのび〜」

 

 スタンドは大きな歓声からため息に変わった。

 栄明は先制のチャンスをものにすることができなかった。

 

「大翔、切り替えろよ!」

「すまん、次は絶対に打つ」

「すぐに点とってやるからな」

「はい! 俺も抑えます!」

 

 

 俺達はすぐに切り替えて裏の守りにつく。

 





書いてたら長くなったので2話に分けようと思います

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