夏に燃えて   作:仄見

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第二話

 

 

 チュン、チュンと子鳥のさえずりが聞こえてくる朝。

 そんなのどかな朝に、俺は、ジリジリとうるさい機械音で、目を覚ます。

 眠い目をこすりながら、シャワーを浴びてから、リビングに向かう。

 

 

 

「おはよ、大翔君」

 

「……おはようございます、千夏先輩」

 

 

 

 自分の家に、千夏先輩がいるのにもだいぶ慣れてきた。

 

 

「はい、これ二人のお弁当。今日も頑張って!」

 

「ありがとうございます!いってきます」

 

「ありがとう、行ってくる」

 

 朝ごはんを食べ終えた俺たちは、弁当を受け取って、朝練に向かうために一緒に家を出る。

 こうして千夏先輩とも、なんだかんだ上手くやっていけてると思う。

 

 

「そういえば、もうすぐ練習試合あるんだっけ?」

 

「はい、俺はまだ入学前なので、試合には出ませんが……」

 

 そう。俺はまだ入学式をむかえてないので、練習には参加させてもらっているが、試合ではまだ投げれてない。

 

 

「どう? 高校でもやっていけそう?」

 

「……どうですかね……

 中学最後の試合で負けたあとから、高校でやっていけるように、体作りしてきたので……どこまで通用するのか、早く試したいです」

 

 

 簡単にいえば、体力がなかったのだ。

 4試合ひとりで投げてきて、花晴との試合で精神をすり減らし、決勝まで身体が持たなかった。

 もうあんな思いはしたくない。

 そんな一心で、冬も身体作りをし、体力もつけてきた。

 もう途中でばてたりなんかしない。何試合でも投げてやる。

 

 

 話しながら向かっていると、早々に学校に着いた。

 

「じゃあ今日もする?」

 

「はい、是非やりしょう!」

 

 

 最近、俺たちは日課にしていることがある。

 朝練前にウォーミングアップもかねて、1on1をすることだ。

 俺は、人が来るまでボールを触れなかったので、朝はランニングしたり、ストレッチをしていた。

 千夏先輩と朝練に来るようになってからは、千夏先輩のシュート練習を見ながら、ストレッチしていたのだ。そしたら急に千夏先輩から「どうせなら一緒にやんない?」と誘われて、この勝負は始まった。

 かれこれ1週間ぐらいは続いている。

 ちなみに、普通にやってもあれだからという事で、夜ご飯のおかずが一つ、賭けられている。

 昨日は、唐揚げを持っていかれた……くやしい……

 

 

 

 

 千夏先輩が俺にボールを渡してくる。俺から攻めろという合図だ。ハンデということなのか、千夏先輩は、いつも先行を譲ってくれる。

 

 ドン、ドンとボールをつきながらドリブルする。

 前には、いつものやわらかい雰囲気とは違い、真剣な眼差しで、こちらを見つめる千夏先輩。

 俺は、タイミングを見計らい、右から行くとフェイントをかけ、左からぬく。千夏先輩も、フェイントにかかりかけるが、すぐに追いついてくる。やはり素人の動きじゃ中々ぬけない。

 ぬくのは諦めて、ここからシュートを打つ。さすがに、身長差もあって、ボールに触られることはなかった。

 しかしリングに弾かれてシュートは外れてしまう。

 

 

「ふふ、本当にシュートが下手だね、大翔君。

 今日のおかずも、私が貰っちゃうよ〜」

 

 千夏先輩がからかってくる。

 この勝負を始めてから、俺はほとんどシュートが決まってない。

 何故かシュートだけは、小さい頃から、上手くいかない。なぜだろうか……

 

 

「でもやっぱり、バスケ部じゃないのに上手だね」

 

 

 落ち込んでると思ったのか、千夏先輩が褒めてくれる。

 小さい頃からずっと、シュートは下手だったからもう落ち込んだりはしないが……

 

「小さい頃は、母さんとたまにやってたりしたんで……

 まぁ、その時から、シュートは下手でしたけど……」

 

「ふふ、そうなんだ。薫さんとやってたなら、それは上手いはずだ……じゃあ次は、私の番ね!」

 

 

 そこから、攻守を交代しながら勝負していく。

 勝負自体は互角だった。俺は、千夏先輩を完全に止めるということはできないが、何とか身長差を利用しながら、シュートを阻む。

 しかし、俺も得点を決めることができないので、中々にいい勝負になっていた。

 

 

 

「やった〜!決まった〜!」

 

 ……くそっ、完全に逆をつかれて、フリーで決められてしまった。

 

 これで千夏先輩の一歩リードだ。

 

 

 

 

「……千夏先輩、俺相手で練習になってますか?」

 

 俺は、ふと疑問に思ったことを聞いてしまった。

 千夏先輩を止めるほどの実力もなければ、何か気づきを与えるほどの上手さもない。

 気を使って誘ってくれただけで、毎日時間を奪ってるんじゃないかと。

 

 

「もちろん! 身長差ある相手との戦い方とかも学べるし、スピードとかもやっぱり、女子と比べると速いから、すごい練習になってるよ!」

 

 

 そうだったのか。それなら本当に良かった。

 

 

「私の方こそ、バスケに付き合ってもらっちゃって迷惑してない?」

 

 

「いえ、俺も、身体の動かし方や、相手の思考を考えることは、野球の駆け引きにも生きてくると思うので、ありがたいです!」

 

 

 千夏先輩との勝負を始めてから、相手がどう考えてるんだろうと、思考する時間が増えた。

 なにより、この時間が楽しくて好きだ。だからやめたくない。

 

 

 

 時間が経つのは早いもので、いつの間にかぞろぞろと体育館にも人が増えてきている。そろそろラストにしますか、と最後の勝負を始める。

「今日は私の勝ちかな」と、挑発してくる。

 ……いいことを思いついた。俺も黙って負ける訳には行かない。せめて一本ぐらい決めてやる。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「あれ、今日もやってるの?」

 

「はい、そうみたいですね」

 

 チームメイトの先輩から話しかけられる。

 ここ最近、練習に来ると、毎日あの子と1on1している。

 ていうかあの子、去年試合見に行った、白石大翔だよね……なんで? 

 

 

「今日の勝負はどうなりますかね」

 

「さぁ……でも千夏が勝つんじゃない? あの子がまともにシュート決めるとこ、見たことないし……」

 

 

 大翔は、集中力を高める。千夏もその変化には気づいている。両者ともに、油断はなく、隙もない。

 

 ───決着は一瞬でついた

 

 

 

 ジリジリと大翔は中に入っていく。千夏は、逆をついてもすぐに追いつかれる。なら逆をついて、すぐにゴールできる位置にと、ジリジリと中に進む。

 

 

 

「……動きませんね、二人とも」

 

「……でもフリースローライン近くまできたし、そろそろじゃない?」

 

 

 すると大翔は、一気にスピードをあげる。

 しかし、千夏も読んでいたのかしっかりついてくる。

 大翔も、それは分かっていたのか、急ブレーキをかけて、スピードを落とした。

 ……と見せかけて一気に加速する。

 

 

「お、ふりきった……」

 

 

 あとはシュートを決めるだけ。

 しかし、今日ここまで、シュートは決まっていない。

 すると大翔は、勢いをつけ、

 

 ───翔んだ

 

 

 

「やばっ、めっちゃたかい」

 

 

 大翔は、ボールを持ったまま、高くとんだ。

 確かにダンクならば、ゴールに叩き込むだけ。

 細かいコントロールは必要ない。

 

 

 しかし、ガコン! と大きな音とともに、ボールは弾かれた。

 

 

 

 おぉー! という歓声とともに、ふと我に返る。

 やばい、思ったよりも集まってきてる。

 普通のシュートだと入らないから、直接ならと思って、カッコつけて、ダンクしたのに。

 ……まさかダンクまで外れるとは……

 しかもこんな大勢の人に注目されてる……

 

 

「今日は俺の負けですね。……じゃ、じゃあ俺もそろそろ部活行くんで、また!」

 

 

 ここにいるのが恥ずかしかったので、千夏先輩に挨拶だけして、さっさと体育館をでた。

 

 

 

 

「おはよー、千夏」

 

「……おはよ、渚、見てたんだ」

 

 

 周りを見ると、部活に来た人がたくさんいた。こんなに時間が経ってたのか……

 

「最後、危なかったね〜」

 

 

 そうだ、私は最後完全にぬかれた。

 大翔くんが、ゴールを外したから良かったけど

 ……くやしい

 

 

「まさかダンクとは……やっぱり身長があるとすごいね……」

 

 

 

 ……たしかにとても高く綺麗だった。一瞬目を奪われてしまった。

 

 ……まぁでも私の勝ちは勝ちだ。

 これで私は、今日の夜ご飯、おかずをひとつゲットだ。

 

「ふふ、何にしようかな……」

 

 今日のご飯を楽しみに、私は部活に望む。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「おはようございます!」

 

 

 グラウンドで準備をしていると、ぞろぞろと先輩たちもやってくる。

 

 

「おはよー、大翔は今日もはやいな」

 

 

 ひとつ上の先輩、青崎先輩が話しかけてくる。

 青崎先輩は、ボジションがキャッチャーなので、よく面倒を見てもらっている。

 

 

「青崎先輩、はやく準備してください。

 ……もう投げたくてうずうずしてます」

 

 

「はいはい、わかったわかった。しっかりアップしてからな」

 

 

 さっきの勝負で負けた鬱憤を晴らしたい。早く投げてストレス発散したいと思っていると、「みんな〜集合!!」と声がかかる。

 声のする方を見ると、キャプテンの烏さんと、顧問の先生、そして、見なれない人が立っていた。

 

 

「今日から……いや、厳密には4月からだが、お前らを見てくれることになった方を、紹介する」

 

「元プロ野球選手の土方浩人(ひじかたひろと)さんだ」

 

「4月から、コーチをすることになりました。土方です。皆さんの、夢を叶えるお手伝いをさせていただきます。よろしくお願いします」

 

 

 すっげー!と、みんなから声が上がる。

 土方選手といえば3年前まで現役だった選手だ。なんでそんな選手が、ここでコーチなんか……

 

「実は、先生と浩人は幼なじみでな。ダメ元で頼んでみたらOKしてくれた」

 

 

 はぁ──ーっ!? 

 そんなの初耳だ。そんなに凄かったのか、この先生。

 だが、プロまで行った方の指導が受けられるなんて楽しみすぎる。

「ありがとう!先生!」と、今までで、いちばんの感謝を心の中で伝える。

 

 

 

 練習が始まった。

 土方さんは、午前中は何も口を出さずに、投手陣、野手陣と、それぞれの練習を見て回っていた。

 

 午後ブルペンに入ってピッチングしていると、土方さんが来た。

 

 

「球速は出てるけど、質がまだまだだね。もっと回転数を意識して」

 

「は、はい!」

 

「リリースポイントや体重移動を意識しながら、一球一球丁寧にね」

 

 

 土方さんが、アドバイスをくれる。

 アドバイを意識しながら投げる。一球投げただけで、全然違う気がする。

 ……やばい、楽しすぎる! 

 

 

「同じピッチャーとして、同じ名前を持つどうし、君には期待しているよ」

 

 

 そんな事を土方さんから急に言われた。

 あの土方さんに期待されるなんて嬉しすぎる。「はい!」と答えて、練習を再開する。

 その後、土方さんは野手の方を回ったりしていて、話すことはなかったが、これからが楽しみだ!早く練習したい! 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「あの土方さんが、コーチになってくれるんだ」

 

「へー、すごいね」

 

 夜ご飯を食べながら、今日の出来事を話していた。……が母さんのリアクションが薄い! 

 

 

「そんなにすごい人なの?」

 

 

 俺が熱弁していると、千夏先輩が聞いてくる。

 

「すごい人ですよ! 高校時代は、甲子園春夏連覇を達成したエースで、プロに入ってからも、怪我で引退するまで、何度も2桁勝利を達成したすごい人なんです!」

 

 

「……す、すごい人なんだね」

 

 なんか若干、俺の熱量に引かれている気がする。

 

 

「でもそんな凄い人に、教えてもらえたら甲子園も近づくね!」

 

 

「はい! そうなんです! 絶対に甲子園に行けるように、頑張ります」

 

 

 俺が高らかに、宣言していると、母さんから「早く食べてお風呂入りなさい」と、怒られた。

 

 すると千夏先輩が「あっ」と急に思い出したように、俺のとんかつを持っていく。

 

 

「ふふ、今日の戦利品〜」

 

 

 あぁーっ! そうだった。完全に忘れてた。

 めちゃくちゃ嬉しそうにらとんかつを食べている。するとこちらを見つめてきて、ふっと笑った。

 うぅ、あのドヤ顔が腹立つ……

 可愛いのも余計に腹立つ……

 

 

「明日は絶対勝ちます……」

 

 

「うん、明日もやろうね」

 

 

 

 くそっ、いつか絶対ドヤ顔してやる……

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