夏に燃えて   作:仄見

3 / 11
第三話

 

 

「ナイスボール!大翔!」

 

 

 朝から練習に励む。

 今日は午前中から、ブルペンで投げ込みをしていた。

 

 

「調子よさそうだな、大翔」

 

「何言ってるんですか、志摩さんも、めちゃくちゃ調子よさそうじゃないですか」

 

「後輩に、背番号1(エースナンバー)を取られる訳にはいかないからな」

 

 

 隣で投げ込みをしている、3年生の志摩さんから、お前には負けないという熱が伝わってくる。

 志摩さんも、2年の夏からエースとしてやってきた、すごい人だ。そんな人が、1年で別に実績もない俺を、ライバルだと思ってくれてるのは、正直嬉しい。

 でも俺も、やるからには背番号1(エースナンバー)が欲しい。

 

 

「俺も、負けるつもりはありません」

 

 

 遠慮なんてしてられない。

 そう言うと、志摩さんは「生意気な後輩め」と言って投げ込みを再開した。

 

 

 しばらく投げ込みをしていると、野手の方が一段落したのか、土方さんがブルペンに来て、俺たちにアドバイスをくれる。

 

 

「志摩、お前はストレートでどんどん押していけ。元々良いもの持ってるんだから、変に躱そうとしなくていい」

 

「はい!」

 

「大翔、お前は全部の球種をしっかり制球できるようにしろ。どんだけ種類持ってても、ストライク入んないと使えないぞ。後、終盤でも投げられるように、体力な!」

 

「は、はい!」

 

 

 そこから午前中は、ずっとブルペンで投げ込みをしていた。

 自分の課題を確認し、一球一球、丁寧に投げる。

 

 

制球(コントロール)しようとすると、キレが落ちるな」

 

 受けてくれている、キャッチャーの青崎先輩ともコミュニケーションをとりながら確認していく。

 

 土方さんも、俺たちにずっと付き合ってくれた。その間も細かい所までアドバイスをくれる。客観的に見てくれる人がいるのは、とてもありがたい。自分じゃ気付けないことも指摘してくれる。

 もっと成長しなきゃいけない。

 ───もう中学の時みたいに、自分のせいで負けるのは嫌なんだ

 

 

 

 そこから俺と志摩さんは、100球近く投げこみ、これ以上は投げるなと言われたので、軽くクールダウンしてから、ランニングに行く。

 

 

 学校の外周を5周ほど走ったあと、中に戻ってくる。

 

 汗を流したかったので、体育館の水場に向かう。中からは、色々な部活の声が聞こえてくる。

 

 ───少し中を覗いてみる。

 

 

 

 バスケをしている人の中に、千夏先輩の姿はなかった。

 ……いや別に千夏先輩を見に来たわけじゃないけど……と言い訳をしながら水場で汗を流す。

 

 

 

 

 すると後ろから誰かに、声をかけられる。

 

 

「……わっ」

 

 ビクッとして後ろを振り返ると、イタズラが成功して、ニヤニヤした笑顔を浮かべた千夏先輩が立っていた。

 

 

 

「……千夏先輩、どうしたんですか?」

 

 

 

 できるだけ、動揺を隠しながら振り向く。

 

 

 

「大翔君の後ろ姿を見つけたから、ちょっと驚かそうと思って」

 

 

 

 ニシシと聞こえてきそうな程にやけた千夏先輩がいた。

 ……可愛い

 

 

 

「……どうしたの?大翔君が体育館にいるなんてめずらしいね?」

 

 

「ランニングの後にちょっと汗を流したくて……」

 

 

 

 千夏先輩が少し気になって、なんて言えるはずもなく、何とか誤魔化しながら会話する。

 

 

 

「……あれ、どうしたんですか?その足……」

 

 

 

 足に擦り傷ができていた。ここに来たのも洗うためだったのかもしれない。

 

 

 

「ちょっと部活中に摩擦で擦りむいちゃって……」

 

 

「こっち来てください」

 

 

 

 千夏先輩に、失礼しますと一言断ってから足を洗う。

 

 

 

「……絆創膏持っててよかった」

 

 

 絆創膏を貼って、もう大丈夫ですと顔をあげると、近くに千夏先輩の顔があった。

 

 

「す、すみません……」

 

「……ううん、助かったよ。……ありがとう」

 

 

 

 ニコッと笑う。

 まじでこの人は、天然でやってるのか……

 

 

 

「じゃ、じゃあ俺は、そろそろ部活に戻りますね」

 

「……うん、またね」

 

 

 

 照れているのを悟られないように、逃げるようにしてこの場を去る。

 ランニングで温まった体を冷やしに来たのに、余計に熱を持ってしまった……

 ただ千夏先輩に会えて、どこか元気を取り戻した俺は、午後の練習にさらに身が入った。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 部活中に接触して、転んでしまい足を擦りむいてしまった。メンバーが変わったタイミングで、足を洗いに水場に行くと、見慣れた後ろ姿があった。

 私は、静かに近づいて、わっと驚かす。

 するとビクッとした後、何事も無かったかのように振り向いてきた。

 その姿がなんだか面白くて、顔がにやけてしまう。

 

「……可愛い」

 

 

 ……えっ、

 急にそんな事を言われて大翔君を見るが……多分口に出てることに気づいてない

 私は、恥ずかしくなって話をそらす。

 

 

 

 どうやら、大翔君は汗を流しに来たらしい。

 すると、足の傷に気づいた大翔君が、失礼しますと、私の足を洗ってくれる。

 ……こういう所がずるいと思う。普段は意外と子供っぽいのに、真剣な顔をしていると大人びて見える。

 

 

 

 綺麗に洗い終わった後、絆創膏まで貼ってくれる。

 絆創膏なんて持ってるんだ?と聞くと、投げ込みすぎて爪が割れたり、まめが潰れたりすることがたまにあるから、一応常備しているらしい。

 手の感覚狂うから、つけたくないですけどって嘆いてる。

 

 その辺がストイックだなと感心する。

 年下なのに、このストイックさは本当に尊敬する。

 

 ───私も頑張らないと

 

 

 大翔君が処置を終わったのか、ふと顔をあげて目が合う。

 さっき、可愛いって言われたこともあって、この距離は恥ずかしくなってしまう。

 すると大翔君も照れたのか、ちょっと顔を赤くして謝ってくる。

 

 その姿が、さっきとのギャップで、思わず笑ってしまった。

 

「……ううん、助かったよ。……ありがとう」

 

 感謝を伝えると、大翔君は、そろそろ部活に戻ると言って、体育館からでていった。

 少し恥ずかしかったが、大翔君と話してやる気が出てきた。

 午後も頑張ろと決意して、私は練習に戻った。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 午後練は、守備やバッティングが主だった。

 今は分業することが多くなったが、できることは多い方がいい。

 それに今は、二刀流で活躍する人もいたりする。

 

 

 

「お〜、やっぱ飛ぶなぁ、大翔は」

 

「ありがとうございます。でもまだまだこれからです!」

 

 

 このチームの主砲、遠藤さんと会話する。

 遠藤さんは通算21本ホームランを打っていて、

 非常にチャンスにも強い、頼れるうちの4番だ。

 

 

 やる気MAXだな、何かあったか?と言われ、昼の事を思い出したが、頭をふって練習に集中する。

 

 

 

 千夏先輩も頑張ってるんだから、俺も頑張らないと……

 

 

 その後は、連携などを確認しながら守備練習をして今日の練習は終わった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 家に着いて玄関を開けると、千夏先輩の靴があった。どうやら先に帰っていたらしい。

 

 

 

 千夏先輩は、母さんと話していた。

 

 

 

「あの子、色々不器用な子だから、千夏ちゃんに迷惑かけてない?」

 

 

 母さんが余計なことを言っている。

 頼むから変な事言わないでくれ、と聞き耳をたてた。

 

 

 

「……迷惑なんて全然。……今日とかも助けて貰っちゃって本当に感謝してます───」

 

 

「───それに、大翔君めちゃくちゃ頑張ってるじゃないですか……そんな姿を見てると、私も頑張らないとって刺激を貰えるんです」

 

 

 

「……そっか、それなら良かった。あの子努力だけは人一倍してきたから……しかも隠れてするから……気づいてくれてる人がいるだけで、おばさんも嬉しいわ」

 

 

 

 ……千夏先輩、そんな風に思ってたのか。

 俺は、嬉しくも、恥ずかしくもなり、大きな声でただいまーと叫んで、先シャワー浴びると言って汗を流した。

 

 

 シャワーから上がるとリビングには、千夏先輩だけだった。

 

 

「あれ、千夏先輩一人ですか?」

 

「洗剤が切れてたみたいで、ちょっと買ってくるって行っちゃった……」

 

 

 千夏先輩と二人きり……

 昼間の事や、さっきの事もあってなんだか、気まづい……

 

 そういえば、昼間に少し気になったことを尋ねる。

 

 

「千夏先輩ってミサンガしてるんですね」

 

「……うん。変だった?」

 

「えっ、いや似合ってます!ただあんまり装飾品をつけてるイメージがなかったんで……」

 

 

 変なこと言ったかと思って、必死に弁明してると、ふふっと、千夏先輩が笑った。

 

 

「……からかったんですか……」

 

「ふふふ、ごめんごめん───」

 

 

 少し拗ねていると、千夏先輩がミサンガについて教えてくれた。

 

 

「───実はこれ、ここに居候させてもらうことになってから作ったんだ……家族と離れて、一人で残るってなって、これから一人で頑張らなきゃって少し不安になったから、願掛けみたいな感じで、ミサンガを作ったんだ……」

 

 

 そうだったのか……

 千夏先輩は、ものすごい覚悟で単身残るって決めて、努力してるんだな。

 でも、千夏先輩は一つだけ勘違いしている。

 

 

「千夏先輩。千夏先輩はきっと俺には分からないほどの不安や、覚悟をもって、残ってるんだと思います」

 

 

 本当に尊敬する。ただ、ただ一つだけわかってない。

 

 

「千夏先輩は一人じゃないです。母さんや父さん、もちろん俺だって、千夏先輩の力になりたいと思ってます。俺たちにも、千夏先輩の夢を叶える手伝いをさせて下さい」

 

 

 

「……大翔君」

 

「だからうちでは、遠慮なんかせず、図々しくいきましょう」

 

 

「そっか……うん、そうだね。ありがとう、大翔君」

 

 やっと笑ってくれた。やっぱり千夏先輩は笑っている方がいいなとか思ってると、ちょっと待っててと言って、どこか行ってしまった。

 数秒で戻ってきたと思ったら、良かったらこれと、千夏先輩とお揃いのミサンガを渡してきた。

 

「二個作ってたから、もし良かったら一個大翔君がつけてくれない?」

 

「……俺が?でもいいんですか?」

 

 さっきの話を聞くに、大事なものなんだと思う。そんなものを俺がつけてもいいのか……

 

「……うん。大翔君につけていてほしい。同じ全国を目指すもの同士、一緒に頑張っていきたい……」

 

 

 そんな風に言われたら断れない。

 

 

「ありがとうございます。大切にします」

 

 

 そう言うと、ミサンガなんだから切れないと意味ないよと笑っている。

 いや、そうだけど、そうじゃないじゃないですか……

 すると、足出してと言われたので足を差し出すと、千夏先輩がミサンガをつけてくれる。

 

「……私を、甲子園に連れてって……なんちゃって」

 

 

 ……破壊力がすごくて、言葉が出ない。

 でもさすがに恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしている。さすがに面白くて笑ってしまう。

 

 

 

 ───絶対に行きましょうね、一緒に全国

 

 ───うん、絶対に

 

 

 俺たちは、また一つ絆を深めた気がした

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。