「ナイスボール!大翔!」
朝から練習に励む。
今日は午前中から、ブルペンで投げ込みをしていた。
「調子よさそうだな、大翔」
「何言ってるんですか、志摩さんも、めちゃくちゃ調子よさそうじゃないですか」
「後輩に、
隣で投げ込みをしている、3年生の志摩さんから、お前には負けないという熱が伝わってくる。
志摩さんも、2年の夏からエースとしてやってきた、すごい人だ。そんな人が、1年で別に実績もない俺を、ライバルだと思ってくれてるのは、正直嬉しい。
でも俺も、やるからには
「俺も、負けるつもりはありません」
遠慮なんてしてられない。
そう言うと、志摩さんは「生意気な後輩め」と言って投げ込みを再開した。
しばらく投げ込みをしていると、野手の方が一段落したのか、土方さんがブルペンに来て、俺たちにアドバイスをくれる。
「志摩、お前はストレートでどんどん押していけ。元々良いもの持ってるんだから、変に躱そうとしなくていい」
「はい!」
「大翔、お前は全部の球種をしっかり制球できるようにしろ。どんだけ種類持ってても、ストライク入んないと使えないぞ。後、終盤でも投げられるように、体力な!」
「は、はい!」
そこから午前中は、ずっとブルペンで投げ込みをしていた。
自分の課題を確認し、一球一球、丁寧に投げる。
「
受けてくれている、キャッチャーの青崎先輩ともコミュニケーションをとりながら確認していく。
土方さんも、俺たちにずっと付き合ってくれた。その間も細かい所までアドバイスをくれる。客観的に見てくれる人がいるのは、とてもありがたい。自分じゃ気付けないことも指摘してくれる。
もっと成長しなきゃいけない。
───もう中学の時みたいに、自分のせいで負けるのは嫌なんだ
そこから俺と志摩さんは、100球近く投げこみ、これ以上は投げるなと言われたので、軽くクールダウンしてから、ランニングに行く。
学校の外周を5周ほど走ったあと、中に戻ってくる。
汗を流したかったので、体育館の水場に向かう。中からは、色々な部活の声が聞こえてくる。
───少し中を覗いてみる。
バスケをしている人の中に、千夏先輩の姿はなかった。
……いや別に千夏先輩を見に来たわけじゃないけど……と言い訳をしながら水場で汗を流す。
すると後ろから誰かに、声をかけられる。
「……わっ」
ビクッとして後ろを振り返ると、イタズラが成功して、ニヤニヤした笑顔を浮かべた千夏先輩が立っていた。
「……千夏先輩、どうしたんですか?」
できるだけ、動揺を隠しながら振り向く。
「大翔君の後ろ姿を見つけたから、ちょっと驚かそうと思って」
ニシシと聞こえてきそうな程にやけた千夏先輩がいた。
……可愛い
「……どうしたの?大翔君が体育館にいるなんてめずらしいね?」
「ランニングの後にちょっと汗を流したくて……」
千夏先輩が少し気になって、なんて言えるはずもなく、何とか誤魔化しながら会話する。
「……あれ、どうしたんですか?その足……」
足に擦り傷ができていた。ここに来たのも洗うためだったのかもしれない。
「ちょっと部活中に摩擦で擦りむいちゃって……」
「こっち来てください」
千夏先輩に、失礼しますと一言断ってから足を洗う。
「……絆創膏持っててよかった」
絆創膏を貼って、もう大丈夫ですと顔をあげると、近くに千夏先輩の顔があった。
「す、すみません……」
「……ううん、助かったよ。……ありがとう」
ニコッと笑う。
まじでこの人は、天然でやってるのか……
「じゃ、じゃあ俺は、そろそろ部活に戻りますね」
「……うん、またね」
照れているのを悟られないように、逃げるようにしてこの場を去る。
ランニングで温まった体を冷やしに来たのに、余計に熱を持ってしまった……
ただ千夏先輩に会えて、どこか元気を取り戻した俺は、午後の練習にさらに身が入った。
◇◆◇
部活中に接触して、転んでしまい足を擦りむいてしまった。メンバーが変わったタイミングで、足を洗いに水場に行くと、見慣れた後ろ姿があった。
私は、静かに近づいて、わっと驚かす。
するとビクッとした後、何事も無かったかのように振り向いてきた。
その姿がなんだか面白くて、顔がにやけてしまう。
「……可愛い」
……えっ、
急にそんな事を言われて大翔君を見るが……多分口に出てることに気づいてない
私は、恥ずかしくなって話をそらす。
どうやら、大翔君は汗を流しに来たらしい。
すると、足の傷に気づいた大翔君が、失礼しますと、私の足を洗ってくれる。
……こういう所がずるいと思う。普段は意外と子供っぽいのに、真剣な顔をしていると大人びて見える。
綺麗に洗い終わった後、絆創膏まで貼ってくれる。
絆創膏なんて持ってるんだ?と聞くと、投げ込みすぎて爪が割れたり、まめが潰れたりすることがたまにあるから、一応常備しているらしい。
手の感覚狂うから、つけたくないですけどって嘆いてる。
その辺がストイックだなと感心する。
年下なのに、このストイックさは本当に尊敬する。
───私も頑張らないと
大翔君が処置を終わったのか、ふと顔をあげて目が合う。
さっき、可愛いって言われたこともあって、この距離は恥ずかしくなってしまう。
すると大翔君も照れたのか、ちょっと顔を赤くして謝ってくる。
その姿が、さっきとのギャップで、思わず笑ってしまった。
「……ううん、助かったよ。……ありがとう」
感謝を伝えると、大翔君は、そろそろ部活に戻ると言って、体育館からでていった。
少し恥ずかしかったが、大翔君と話してやる気が出てきた。
午後も頑張ろと決意して、私は練習に戻った。
◇◆◇
午後練は、守備やバッティングが主だった。
今は分業することが多くなったが、できることは多い方がいい。
それに今は、二刀流で活躍する人もいたりする。
「お〜、やっぱ飛ぶなぁ、大翔は」
「ありがとうございます。でもまだまだこれからです!」
このチームの主砲、遠藤さんと会話する。
遠藤さんは通算21本ホームランを打っていて、
非常にチャンスにも強い、頼れるうちの4番だ。
やる気MAXだな、何かあったか?と言われ、昼の事を思い出したが、頭をふって練習に集中する。
千夏先輩も頑張ってるんだから、俺も頑張らないと……
その後は、連携などを確認しながら守備練習をして今日の練習は終わった。
◇◆◇
家に着いて玄関を開けると、千夏先輩の靴があった。どうやら先に帰っていたらしい。
千夏先輩は、母さんと話していた。
「あの子、色々不器用な子だから、千夏ちゃんに迷惑かけてない?」
母さんが余計なことを言っている。
頼むから変な事言わないでくれ、と聞き耳をたてた。
「……迷惑なんて全然。……今日とかも助けて貰っちゃって本当に感謝してます───」
「───それに、大翔君めちゃくちゃ頑張ってるじゃないですか……そんな姿を見てると、私も頑張らないとって刺激を貰えるんです」
「……そっか、それなら良かった。あの子努力だけは人一倍してきたから……しかも隠れてするから……気づいてくれてる人がいるだけで、おばさんも嬉しいわ」
……千夏先輩、そんな風に思ってたのか。
俺は、嬉しくも、恥ずかしくもなり、大きな声でただいまーと叫んで、先シャワー浴びると言って汗を流した。
シャワーから上がるとリビングには、千夏先輩だけだった。
「あれ、千夏先輩一人ですか?」
「洗剤が切れてたみたいで、ちょっと買ってくるって行っちゃった……」
千夏先輩と二人きり……
昼間の事や、さっきの事もあってなんだか、気まづい……
そういえば、昼間に少し気になったことを尋ねる。
「千夏先輩ってミサンガしてるんですね」
「……うん。変だった?」
「えっ、いや似合ってます!ただあんまり装飾品をつけてるイメージがなかったんで……」
変なこと言ったかと思って、必死に弁明してると、ふふっと、千夏先輩が笑った。
「……からかったんですか……」
「ふふふ、ごめんごめん───」
少し拗ねていると、千夏先輩がミサンガについて教えてくれた。
「───実はこれ、ここに居候させてもらうことになってから作ったんだ……家族と離れて、一人で残るってなって、これから一人で頑張らなきゃって少し不安になったから、願掛けみたいな感じで、ミサンガを作ったんだ……」
そうだったのか……
千夏先輩は、ものすごい覚悟で単身残るって決めて、努力してるんだな。
でも、千夏先輩は一つだけ勘違いしている。
「千夏先輩。千夏先輩はきっと俺には分からないほどの不安や、覚悟をもって、残ってるんだと思います」
本当に尊敬する。ただ、ただ一つだけわかってない。
「千夏先輩は一人じゃないです。母さんや父さん、もちろん俺だって、千夏先輩の力になりたいと思ってます。俺たちにも、千夏先輩の夢を叶える手伝いをさせて下さい」
「……大翔君」
「だからうちでは、遠慮なんかせず、図々しくいきましょう」
「そっか……うん、そうだね。ありがとう、大翔君」
やっと笑ってくれた。やっぱり千夏先輩は笑っている方がいいなとか思ってると、ちょっと待っててと言って、どこか行ってしまった。
数秒で戻ってきたと思ったら、良かったらこれと、千夏先輩とお揃いのミサンガを渡してきた。
「二個作ってたから、もし良かったら一個大翔君がつけてくれない?」
「……俺が?でもいいんですか?」
さっきの話を聞くに、大事なものなんだと思う。そんなものを俺がつけてもいいのか……
「……うん。大翔君につけていてほしい。同じ全国を目指すもの同士、一緒に頑張っていきたい……」
そんな風に言われたら断れない。
「ありがとうございます。大切にします」
そう言うと、ミサンガなんだから切れないと意味ないよと笑っている。
いや、そうだけど、そうじゃないじゃないですか……
すると、足出してと言われたので足を差し出すと、千夏先輩がミサンガをつけてくれる。
「……私を、甲子園に連れてって……なんちゃって」
……破壊力がすごくて、言葉が出ない。
でもさすがに恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしている。さすがに面白くて笑ってしまう。
───絶対に行きましょうね、一緒に全国
───うん、絶対に
俺たちは、また一つ絆を深めた気がした