夏に燃えて   作:仄見

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第八話

 

 6月13日。

 今日は4チームで一つの球場を借りての練習試合だ。埼玉の高校から栄明と浦川学園。この2校が今回の主催だ。そして神奈川の浜路商業。千葉の幕張高校の2校を呼び試合をする。

 

 一試合目に栄明対浜路商業。

 二試合目に浦川学園対幕張高校。

 三試合目に浦川学園対浜路商業。

 四試合目に栄明対幕張高校。

 

 甲子園の日程と同じように一日に四試合行われる。

 夏の予選も近いということもあって、対戦する可能性のある栄明と浦川学園の試合は行われない。

 

 

「よぉ、久しぶりだな……大翔」

 

 

 一試合目の試合に向けてアップをしていると後ろから声をかけられる。

 

 

「……久しぶり、皇牙」

 

 

 振り向いて確認すると、そこには中学の時の元チームメイト。四宮皇牙(しのみやおうが)が浦川学園のユニホームを着て立っていた。

 皇牙とは中学時代バッテリーを組んでいた。ノーヒットノーランを達成した時は黄金バッテリーとか言われて、一緒に持ち上げられた。

 

 

「大翔、何で浦学に来なかったんだよ……お前も推薦きてたんだろ」

 

「……何回も言っただろ。俺は栄明で甲子園に行きたいんだよ」

 

 

 ありがたい事に中学で少し活躍した事もあって、浦川学園を含む甲子園に出場した事がある高校から何校か推薦をもらった。だが俺は栄明で甲子園に出たい。だから推薦は全て断った。

 

 

「浦学には雪村さんや大崎さんがいる。お前らじゃ勝てない……」

 

「……やってみないと分からないだろ。野球は9人でやるんだから」

 

 

 雪村清十郎(ゆきむらせいじゅうろう)大崎恭弥(おおさききょうや)は共にプロ注目の選手だ。この二人に加え、栄明中学で4番を打ち牽引した四宮皇牙まで加わっている。まさに今、浦川学園は黄金世代を迎えている。

 ただ栄明が劣っているとは思えない。

 名前の有名さで勝負するわけじゃないしな。

 

 

 

「お前も浦学に来てたら、甲子園に行けたのにな。……後悔するぞ」

 

「俺は栄明で甲子園に出るから、後悔はしない」

 

 

 皇牙は少し不貞腐れたように鼻で笑ってから自分の準備に戻って行った。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 一試合目。

 俺たち栄明と神奈川の浜路商業の試合。

 俺は2番ライトで出場する。

 

 入学してから行った試合は20試合。俺のこれまでの成績は、先発としては7試合5勝1敗、防御率1.83、奪三振66。完封2、完投2。

 打者としては、69打数25安打.362、2本塁打15打点、3盗塁。

 

 自分的には手応えはある。しかしこれで背番号1(エースナンバー)がもらえるかと言われたら怪しい。

 

 争っている志摩さんの成績は、10試合7勝3敗、防御率2.73、奪三振59。完投3。

 

 微妙なラインだ。どちらが背番号1(エース)になってもおかしくない。

 今日の試合も一試合目の先発は志摩さんだ。やはり3年やってきた信頼には中々勝てない。

 

 大会までもう1ヶ月をきっている。一試合一試合、大事にしていかないと……

 

 

 

 

「……やっぱり浜商強いな」

 

 

 神奈川の強豪、浜路商業が栄明相手に3点を先制し、5回まで終わって3対0でリードしている。

 

 浦川学園の雪村が試合に向けアップをしながら皇牙と会話していた。

 

 

「でも騒がれてた割に、白石大翔も大したことないな」

 

「……まぁ中学の時からバッティングにはムラがありましたから」

 

 

 この試合、大翔は3打席連続三振。全くタイミングがあっていない。

 

「でも大翔が化け物と呼ばれてるのはピッチングの方ですからね───」

 

「……なんでお前がキレてんだよ」

 

「……別にキレてないです」

 

 皇牙はかつてのチームメイトが舐められるのが嫌なのか、はたまた無意識か、口調が少し強くなる。

 そんな皇牙を見て、こいつ分かりやすと思っているが口には出さない。

 皇牙は口は悪いが、また大翔と一緒に野球ができると思っていたのにできないことが寂しいのだろう。

 それならそのまま栄明に居れば良かったのにと思うが、皇牙は強豪で確実に甲子園に行きたかったらしい。

 

 

「ほらもう試合終わります。俺達も行きますよ」

 

「……はいはい。じゃあ暴れるか───」

 

 

 栄明と浜路商業の試合は3対0のまま終わった。

 

 二試合目の浦川学園対幕張高校の試合は8対4で浦川が勝ち、三試合目の浦川学園対浜路商業の試合も10対6で浦川が勝利した。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「おいおい、マジか……強すぎだろ、浦学」

 

「俺達が1点も取れなかった浜商相手に10点……」

 

 まじまじと浦川学園の実力を目の当たりにしてしまった。

 特に主軸の成績がやばい。

 

 3番、雪村。9打数5安打4打点。

 4番、大崎。10打数4安打2本塁打6打点。

 5番、四宮。10打数5安打3打点。

 

 このクリーンナップだけで13打点あげている。とてつもない破壊力のある打線だ。

 ……しかし付け入る隙がない訳では無い。

 確かに全国トップクラスのクリーンナップを誇るが、逆に投手陣は点数を取られている。

 そこが浦川学園の付け入る隙だ。

 あの打線さえ抑えることができるのなら一気に勝利は見えてくる。

 

 

 俺達投手陣がどれだけ抑えられるかにかかる……

 

 

「大翔、抑えられそうか?」

 

「やってみないとわかんないですね」

 

「そりゃそうか」

 

 青崎先輩の問いに正直に答える。

 自分のプライド的に抑えれると言いたいが、俺一人の問題でもない。

 ……最悪、ベンチにいる投手4人で抑えればいいのだから。

 

 

「今は幕張高校に集中しましょう」

 

 幕張高校も強豪だ。まずはこの試合をどうにか勝利に導かないと……

 一勝もできずに帰りたくはない。

 

 

 ……プルル……

 

 その時ちょうど携帯がなった。中を見るとどうやら母さんからのメッセージのようだ。

 

 

「千夏ちゃん勝利ー!」

 

 

 千夏先輩と母さんが笑顔でピースしてる写真と一緒に送られてきた。

 

「そうか……無事勝ったのか……」

 

 小さい笑みがこぼれる。いいタイミングで、とても大きなパワーを貰った。

 千夏先輩が勝ったのに、ここで俺が負ける訳にはいかない。

 

 

「行きますよ、青崎先輩!」

 

「おい、急になんだ、いいことでもあったのか?」

 

「そんなとこです!」

 

 ───今なら負ける気がしない

 

 

 

 ◇◆◇

 

「ほら、噂通り怪物でしょ?」

 

「……あぁ、そうだな……」

 

 

 皇牙はどうだと言わんばかりの顔で雪村に話しかける。

 浦川学園のメンツは四試合目の栄明対幕張高校の試合を見ていた。

 

 大翔のここまでの成績は、5回1安打、無失点、8奪三振だ。

 まさに圧巻───相手打線を寄せ付けない。

 

 

「……お前打てるか?」

 

「さぁ?受けたことはありますけど、対戦はした事ないんで……」

 

「いや、そうだけど、そうじゃねーよ」

 

 

 わかってますよと言って、皇牙は考え直す。

 

「普段の大翔は別に完璧ってタイプでもないので攻略すれば打てると思います。後半とか特に疲れが出てくるので……」

 

 大翔は体力があると中々対応は難しい。どの球もある程度、制球され質もいい。

 ただ大翔はランニングとかの練習が嫌いなのであまり体力がない。疲れてくるとコントロールも雑になるし、攻略の手は見えてくる。

 

「ただたまに負けられない試合の時とか、格上とやる時ゾーンに入るんですよ」

 

 中学最後の大会の花晴中学との試合がまさにそうだった。

 その状態でのピッチングを出そうとして、決勝では上手くいかず、負けてしまった。

 ゾーンは入ろうとして入れるものでもない。

 

「ゾーンに入った大翔は手が付けられないと思います……たとえ雪村さんや大崎さんでも」

 

「───はっ、そうかよ……俄然戦ってみたくなったな」

 

 

 そうこう話していると試合は終わり、栄明が1対0で勝利した。

 大翔は、9回完封3安打、四死球1の成績だった。神がかっていると言っていいピッチングだ。

 

 だが、どんな状態の大翔が来ようと関係ない。必ず打ち崩して、浦川学園が甲子園に行く。

 

 

 ───必ずうちに来なかった事を後悔させてやる

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「良かったぞ!大翔」

 

「ありがとうございます!」

 

 土方さんとハイタッチする。

 自分の手応えもすごく良かった。花晴と試合した時のような感覚だった。

 どの球を投げても打ち取れるイメージがあった。制球もできていたし、指にもかかっていた。

 

 

「───なぁ」

 

 急に話しかけられて振り返ると、幕張高校のキャプテン、葛城剣介(かつらぎけんすけ)が立っていた。

 

「……?俺ですか?」

 

「あぁ。……今日は完敗だった。すごいな」

 

「あ、ありがとうございます。でも葛城さんには打たれましたし……」

 

 葛城さんが褒めてくれるが、今日打たれたヒット3本の内2本がこの人だ。

 

「3年の意地だな……もし良かったらLINE教えてくれないか?」

 

「はっはい。よろしくお願いします」

 

 急いでスマホを出して、連絡先を交換する。

 まさか葛城さんと連絡先を交換するとは……

 挨拶がわりの可愛いスタンプが送られてきた。強面な顔面からは想像つかないスタンプでギャップがある。

 

「またやろう。───今度は甲子園で」

 

「はい!絶対甲子園で()りましょう!」

 

 それだけ言うと、葛城さんは帰っていった。

 

 

 

 

「───フン、随分と大口叩いたな」

 

「……皇牙」

 

 

 葛城さんと入れ替わるように皇牙がやってきた。どうやら今の会話を聞いていたらしい。

 

 

「甲子園に行くには、うちを倒さないと行けないんだぞ」

 

「……わかってるよ。浦川学園も倒す。だから栄明と()る前に負けるなよ」

 

「生意気な……こっちのセリフだ」

 

 

 皇牙も浦川学園の人達の方に戻って行った。

 俺もクールダウンを再開する。

 そうこうしていると、烏さんから帰る合図がくる。みんなでグラウンドに一礼してからバスで学校まで戻る。バスでは青崎先輩がひたすら歌っていた。……まぁまぁ上手いのがちょっと腹たった。

 学校につくと、道具を部室に片付け解散になる。

 

 

「じゃあな大翔。疲れたろうからゆっくり休めよ!」

 

 

 

 みんなと解散し、一人で帰路につこうとすると土方さんが待っていた。

 

「大翔、家まで送ってやるよ。乗れ」

 

 そう言って、かっこいい車の助手席に乗せられる。

 

「何かありましたか?」

 

 今までこんなこと一度もなかった。なにか話でもあるのだろうと土方さんに問いかける。

 

「あぁ、───今日の試合の感覚どうだった?」

 

「めちゃくちゃ良かったです。何を投げてもいけそうな感じで……」

 

「……それはゾーンに入っていたということだろう」

 

 聞いたことがある。

 人間は常に80%しか力を出せないようになっている。しかしゾーンに入ると、その制限がとれて、集中力も上がり100%、もしくはそれ以上の力を出すことができると。

 

「……あまりゾーンを追い求めるなよ」

 

「……えっ?」

 

 今思い返すと、花晴の時も俺はゾーンに入っていたということだろう。あの試合や今日の試合みたいにゾーンに入れば、強豪とも戦える。

 明日から感覚を忘れないように、投げ込みをしようと思っていた。

 

「……やっぱりな。ゾーンは適度な緊張感や集中力、全ての環境が整ってはじめてゾーンに入れる。入ろうとして入れるもんじゃない」

 

 土方さんも現役の時何度か入ったことがあるみたいだ。

 それこそ侍ジャパンをWBCを優勝に導いた時もゾーンに入ったらしい。しかしその後のシーズンでその感覚を追い求めすぎて、オーバーワークし、身体を壊した。結局その傷が治らず現役を引退した。

 

「ゾーンにはお前なら入れる。だが追い求めるな。追い求めたら絶対に入れない。絶対にケガに繋がる。……だから気をつけろ」

 

「……はい」

 

 

 そこからは会話はなかった。土方さんセレクトなのか、俺に合わせてくれたのかは分からないが、最近流行りの音楽だけが流れていた。

 

 

「土方さん、送ってくれてありがとうございます」

 

「あぁ、ゆっくり休めよ」

 

 家の玄関の前で下ろしてもらう。

 すると後ろで扉の開く音がした。

 

「いってきまーす───あっ」

 

 千夏先輩がラフな格好で出てきて俺と目があった。目は徐々にずれていき車に乗っている土方さんに向かう。

 目が合った土方さんは車を降りてきた。

 ……やばい、ばれた

 

「お姉さん、初めまして。私栄明野球部のコーチをしている土方です。今日は遅くなったので大翔君を送らせてもらったんです」

 

「あっ……えっと、どうも千夏です。いつも大翔がお世話になってます。わざわざありがとうございます」

 

 

 どうやら姉弟と勘違いしたらしい。

 そうだ、土方さんは別に教師じゃないし千夏先輩のことを知らないんだ。軽く会話し車に戻る。

 

「今度こそ帰るわ、じゃあな」

 

「はい、おやすみなさい」

 

 挨拶だけして土方さんは帰っていった。

 

 

「おかえり、大翔君」

 

「ただいまです、千夏先輩」

 

「ふふっ、びっくりしたね」

 

 本当に危なかった。別にバレたからって悪いことしている訳じゃないが噂にはなるだろう。土方さんで本当に良かった。

 どうやら千夏先輩はアイスが食べたくなってコンビニに行こうとして出てきたらしい。

 俺も夜風に当たりたかったので、荷物だけ置いて一緒にコンビニへ向かう。

 

「私がお姉ちゃんか〜。ふふっ、大翔アイス買ってきなさい」

 

「……どんな姉弟想像してるんですか」

 

 どうやら千夏先輩の姉弟像は姉が絶対強者らしい。……でもまぁそんなもんなのか?一人っ子には分からない。

 

「そういえば千夏先輩、今日勝ったんですよね。おめでとうございます」

 

「ありがとう、でもまだ初戦突破しただけだし、反省点も沢山あったし……」

 

「それでも少しぐらい喜んでもいいと思います」

 

 ストイックな所はさすが千夏先輩だ。だがあれだけ朝緊張もしていたし、少しくらい喜んだって罰は当たらないはずだ。

 

「……そうだね。やったよ大翔君」

 

 いぇーいとハイタッチする。俺達は今日あった試合の話をお互いにした。

 最初は緊張もあったが、徐々に上がっていき最終的にダブルスコアだったことや、母さんが興奮して応援席で目立っていたことを聞いた。

 

 俺も一試合目は全然打てなくて負けた事、二試合目はめちゃくちゃいいピッチングが出来た事を話した。

 

 

 俺達はアイスを買って近くの公園の椅子で食べる。

 俺達は空に浮かんだ星を見ながら静かな時間を過ごした。

 こんな時間が最近は増えた気がする。なにか会話するのでもなく二人で何となく過ごす。こんな時間が心地いい。

 

 

「───このまま二人で夢叶えたいね」

 

「───俺達なら叶えれますよ」

 

 

 

「……全国行ったらまた二人でアイス食べよっか」

 

「はははっ……そうですね、食べましょう。たくさん」

 

 

 いい雰囲気の中、またアイスパーティの約束をした。

 こんな時でも食い意地の可愛い千夏先輩に少し笑ってしまった。

 千夏先輩がムーっと膨れている。もう少し見ていたい気もするがすみませんと謝る。

 

 

「まぁいいよ。でも約束だよ!」

 

「はい、約束です」

 

 

 

 ───俺達は星空を見ながらまた一つ約束を増やした。

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