夏に燃えて   作:仄見

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第九話

 

 

 

「優勝おめでと──!」

 

 

 俺達はジュースの入ったグラスを片手に乾杯する。

 今日は千夏先輩のインターハイ突破記念のパーティだ。

 

 

「おい、あんま飲みすぎるなよ」

 

「わかってるってぇ〜」

 

 母さんはすでに出来上がっている。必死に父さんが介抱しているが、時間の問題だろう。

 今日の母さんは朝からずっとテンションが高い。勝った瞬間なんて興奮のあまりカメラを壊していた。せっかく新しくしたカメラなのに、もう壊しやがった。

 まぁデータは壊れてなかったからよかったが……

 

 

「今日は来てくれてありがとね」

 

「いえ、いつも応援してもらってるんで、今日行けて良かったです」

 

 今日の試合は俺も見に行くことができた。

 今日は学校の都合でグラウンドが午後から使えない為、せっかくなら身体を休めろということで一日オフになったのだ。

 一番大事な試合で応援に行けて良かった。

 

 

「今日の千夏先輩、めちゃくちゃかっこよかったです!」

 

「フフン、これでもエースだからねっ」

 

 試合の時に出たアドレナリンがまだ残っているのだろう。今日の千夏先輩はテンション高めだ。

 

「ほんと千夏ちゃんはすごいよ〜。もう自慢の娘だね!さいこ〜!」

 

「ありがとうございます!さいこー!」

 

 勝手に人様の大事な一人娘をとるんじゃない。

 もう手がつけられないのか父さんも諦めている。千夏先輩ものってくれるので、母さんのテンションがどんどん上がっていく。

 

「今度は大翔ね〜!絶対甲子園行きなさいよ〜!」

 

「……はいはい、わかってるよ」

 

 テンション高く絡んできたと思ったら、言うだけ言って母さんは眠りに落ちた。

 父さんが母さんを寝室まで運んでいく。もう慣れたものなのか、手際がすごくいい。

 

「───薫さんすごかったね」

 

「すみません。母さんが変に絡んで……」

 

「ううん。沢山褒めてもらったし嬉しいよ」

 

 母さんは今日ずっと千夏先輩の事を褒めていた。俺はあまりバスケを知らないからよく分からないが、あの時のあの動きが良かった、千夏先輩のあれがあったからシュートが決まった等、ずっと褒めていた。

 自分の母校が活躍するのはやっぱり嬉しいのだろう。

 

「試合中、大翔君も見えてたよ。途中お守りギュッとしてたでしょ」

 

「───見えてたんですか」

 

 今日の決勝、第3Qまで栄明はおされていた。

 母さんは差も詰めてきているから大丈夫と言っていたが、俺は心配になってしまった。しかし俺に何ができる訳でもないので、持ってきていたお守りに何とか勝たしてくださいと願いを込めて握っていた。

 

「……あんま笑わないでください。……恥ずかしいです」

 

「ごめんごめん。でも本当にあのお守り、ご利益あったね」

 

「千夏先輩の努力が実ったんですよ。千夏先輩が凄いんです」

 

 千夏先輩はお守りのおかげと言ってくれるが、お守りなんて最後に少しメンタルを楽にするぐらいだ。

 

「……その少しが大きな事だったんだよ。大会中ずっと緊張してたけど、お守り見ると大丈夫って思えたから……それに今日は大翔君のパワーも込められてたしね」

 

 まぁでも、ここまで千夏先輩に力を与えられていたのならお守りを買ってきて良かった。

 ただお守りを握りしめて応援していたのは少し恥ずかしいのでもう言わないでほしい……

 

「……私は全国行くよ。次は大翔君の番だね」

 

 一緒に全国に行くという約束。千夏先輩は見事に果たした。

 7月に入ると野球部もすぐに大会がスタートする。俺も負けていられない。

 ───絶対に甲子園に出る

 

 

「……また一緒に公園でアイス食べましょうね」

 

「……うん、約束」

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「あぁぁぁ」

 

「どうしたんだよ、死にそうじゃねーか」

 

 3限目の授業が終わった休み時間。

 青崎君がとても大きな呻き声をあげている。その原因は先程の授業にあった。

 

 

「──今回のテスト範囲はここからここまでな」

 

 英語の授業。担当は野球部の顧問もしている木崎(きざき)先生。

 いつもは意識が飛んでいることの多い青崎君も英語の時間は必死で起きて、授業を受けている。

 

「分かってると思うが、赤点なんかとって補習になるなよ……」

 

 木崎先生は青崎君の方を見て釘をさした。

「もちろんですよ!」と青崎君は言っていたが、そこからあの状態が続いている。

 

「針生〜助けてくれ〜。このままだと赤点とりそうなんだよ〜」

 

 なんで日本人なのに英語なんか勉強しなきゃいけないんだよと嘆いている。しかし顧問が担当していることもあって英語を捨てることができない。

 

「ほんとバカだね〜。普段からちゃんとやってないからだよ」

 

「うっせーよ船見。英語はちゃんとやっててわかんないんだよ」

 

「余計バカじゃん。……てか英語はって英語だけじゃないでしょ」

 

 渚と針生君が青崎君をいじり倒している。二人とも成績はいいので余裕がある。

 

「なぁ〜頼むよ〜勉強教えてくれ!」

 

「……チッ、わかったから縋り付くな」

 

「じゃあ放課後、図書室行ってみんなで勉強しよっか」

 

「みんな〜ありがとう〜」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 放課後みんなで図書室に行くと、いつもより人数がいた。

 しかし、本を読むというより勉強している人の方が多い。テスト週間に入って部活が休みになり、みんな勉強をしているのだろう。

 

 私達も教科書をひろげて勉強を始める。

 

「あんた、このレベルでどうやって進級したのよ」

 

 渚が青崎君のレベルにドン引きしている。今まで一夜漬けでなんとか試験をギリギリで突破してきたらしい。

 

「おっ、一年ズじゃーん」

 

 休憩しようかと4人で話していると、図書室に一年生の4人組がやってきた。

 

「大翔〜お前も試験勉強か〜?」

 

 仲間を見つけたと言わんばかりに青崎が大翔に絡む。しかしその希望はすぐにへし折られる。

 

「……まぁ。大喜と蝶野さんが試験やばいらしいんで俺と匡で勉強見るんですよ」

 

 青崎君が絶句している。おそらく同類だと思っていた大翔君が教える側だと知ってショックを受けている。

 

「……何ショック受けてんだよ」

 

「どう見ても勉強出来る側でしょ」

 

「そんな事ないですよ……人並みです」

 

 絶対に嘘だと思う。大翔君は謙遜しているが、私は知っている。家で勉強している姿を見る限り結構トップクラスだと思う。

 

 

「千夏先輩達も勉強ですか?」

 

「うん。みんなで試験に向けて勉強しようって」

 

「どうせなら一緒にしよーぜ!俺が教えてやるよ」

 

 教えられる立場じゃないだろと針生君に叩かれている。だが青崎君の一言でみんなで勉強することになった。

 長い机に右から笠原君、大喜君、私、渚。向かいに蝶野さん、大翔君、針生君、青崎君の席順で座った。

 

 

「良かったじゃん。隣なんだから千夏先輩に勉強教えてもらいなよ」

 

「うっ、ハードル高い……」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「ここはこの公式に当てはめて解けば簡単に解けるよ」

 

「……なるほど?」

 

 大翔君は蝶野さんに勉強を教えている。少しいじりながらも丁寧に教えている。

 ……同級生にはあんな感じなんだ。あんな大翔君は初めて見る。

 

「おい、さっきも教えただろ」

 

「……バカすぎる」

 

「これでも必死にやってるんだよ……」

 

 こっちは渚と針生君が前と隣からスパルタで教えている。青崎君は少し泣きそうになっている。

 

「そうそう、大喜君、やればできるじゃん」

 

「いや、千夏先輩の教えがいいので……本当にありがとうございます」

 

 私は大喜君の勉強を見てあげている。大喜君は申し訳なさそうにしているが、私も意外と忘れていることもあり復習になる。

 

「ぐぁぁぁ、ちょっと休憩!」

 

 さすがに疲れたのか青崎君が休憩をリクエストした。

 みんなそれに賛成し、少し雑談する。

 

「すごいよな、お前ら。結局みんな全国行くのか」

 

「蝶野さんも決めたしね」

 

 針生君も女バスも蝶野さんもみんな全国出場を決めた。本当にみんなすごい。

 

「あれ〜?猪俣くんは〜?」

 

「……うっ」

 

 意地悪な顔で針生君が大喜君をいじめだした。

 しかし、前に針生君から大喜君もすごい健闘したと聞いている。好きな子には意地悪したくなるあれだろうか……

 

「たくさん課題も見つかったので、そこを修正して次は絶対に全国でます!」

 

 このひたむきさは大喜君の長所だ。毎朝練習を頑張ってるし報われてほしいと思う。

 

「野球部ももうすぐだろ?どうなんだよ、行けそうなのか甲子園」

 

 この中で唯一まだ大会が終わってない野球部に矛先がむく。

 

「どうかな……まぁでもみんな状態もいいし、練習試合の勝率もいい。全然狙えると思う……

 まぁ投手の出来次第かな?」

 

 栄明野球部の最高戦績はベスト8だと聞いている。でも今年は自身はあるらしい。

 最後に意地悪な笑みを浮かべて大翔君に話を振る。

 

「俺も調子はいいので期待しといてください。

 ……それよりも俺は青崎先輩が赤点とって監督に怒られて外されないかが心配です」

 

 大翔君も青崎君をいじっている。意外と大翔君はSっ気がある。

 私はあんまり見た事ないけど……

 もっと仲良くなると見せてくれるんだろうか……

 

「なんだと〜!覚えとけよ!絶対赤点回避して大翔よりいい点取ってやるよ!」

 

「後輩相手に何言ってんのよ……」

 

「まぁでも準々決勝から全校応援だろ?それまで負けんなよ」

 

 準々決勝から全校生徒での応援になる。準々決勝の日程は木曜日で夏休み前なので学校も休みになる。みんなそこまでは絶対に勝てよと言っていた。

 吹奏楽部やチア部もよく練習しているのを見かける。

 野球部への期待はとても大きい。

 

「あぁ!お前らと一緒に絶対全国行ってやる!な?大翔!」

 

「はい!がんばります!」

 

 

 皆でエールを送って勉強を再開した。

 また青崎君は死にそうな顔をしていたが何とか乗りきった。

 テストも無事、心配されていた3人は赤点は回避できたらしい。

 

 ちなみに大翔君に勝つと言っていたが、青崎君は赤点回避ギリギリ。人並みと言っていた大翔君は学年10位だったらしい。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「楽し──ー!」

 

 青崎先輩が満面の笑みでバッティングしている。無事にテストを乗り越えて、ストレスから開放されたみたいだ。

 

 野球部で赤点をとったものはいないらしく、木崎先生からのお咎めをくらった者はいなかった。

 しかし先輩達は青崎先輩が赤点を取らなかったことにすごく驚いていた。

 

 それを見て青崎先輩は怒っていたがテストの結果を聞くと、本当に1点や2点でギリギリ回避しただけだった。

 

 赤点は取ってないですから!と開き直っていたが、それをたまたま聞いてしまった木崎先生に少しだけ怒られていた。

 

 

 

 

「お前ら集合しろ」

 

 夕方5時。今日は早めに練習が終わり、片付けをしていると集合がかかる。

 

「明日、俺と烏で抽選に行ってくる。

 ……もう大会が始まる。そこで背番号を決めたから今から発表する」

 

 ───空気が締まる

 ここにいる20人、みんなメンバーに入ってはいるが背番号が何番になるかは重要なことだ。

 緊張感が高まり、みんなの息を飲む音が聞こえてくる。

 

「では番号順に発表する───

 

 

 

 

 ───1番…………白石大翔!」

 

 自分の名前が呼ばれた。全身の筋肉が硬直した。もちろん1番(エースナンバー)がほしかったし狙っていた。だが実際呼ばれると一気に重圧がのしかかってきた。

 

 すると急に背中を誰かに押された。横を見ると志摩さんが俺の背中を押してくれていた。

 志摩さんはこっちを見て一度頷いただけだった。しかしそれで体の硬直が取れた。悔しいはずなのに、後輩に力を与え背中を押す。

 ───カッコよすぎる

 

「───はい!」

 

「エースとしてチームを引っ張ってほしい」

 

 俺は1番(エースナンバー)と監督からの期待の言葉を返事をして受け取る。

 もうここまで来たら一年生とか関係ない。この番号に恥じないピッチングをして、絶対にこのチームを甲子園まで連れていく。

 みんなの期待に応えたい……

 覚悟を決めて、そこからの発表を聞いていく。

 

「2番 烏 10番 立松 18番 西野

 3番 遠藤 11番 松木 19番 坂尾

 4番 星 12番 楠 20番 小倉

 5番 烏 13番 武田

 6番 高坂 14番 岡倉

 7番 桜井 15番 田村

 8番 志摩 16番 村井

 9番 霜田 17番 宮下

 

 ───これで行く。

 背番号が何番であっても調子の良いものを使うし、チーム一丸となって戦ってほしい。このチームは史上最高のチームだと俺は思っている。絶対甲子園行くぞ!」

 

 

 みんなで円陣を組む。掛け声はもちろんキャプテンの烏先輩。

 

「俺達はここまでたくさん負けてきたし、その分練習もしてきた。監督も言ってたが俺もこのチームは最強だと思う。今までの努力を自信に、そしてここまで支えてくれたチームメイトや家族に感謝を込めて、全員で甲子園に行くぞ!

 ───全部勝つぞ!」

 

『しゃぁぁ!』

 

 俺達は人差し指を空に掲げ雄叫びをあげる。

 気合いは十分入っている。誰もが同じ目標に向かってひとつになれている。このチームなら勝てる。

 

「……大翔、俺たちもいるからな。ひとりで背負いすぎるなよ。……一緒に行こうな甲子園」

 

「───はい、ありがとうございます。絶対に行きましょう」

 

 

 ……そうだ、別に一人で投げぬく訳じゃない。エースだからって背負いすぎないでいい。

 後ろには志摩さんもいるし、たくさんの頼れる先輩がいる。だから俺も全力で飛ばしていける。

 

 

 ───絶対にみんなと甲子園に……

 

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