IN THE HEAVEN   作:まにまに

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ジョジョの奇妙な冒険を一気見していたら、スタンド使いをこの世界にぶち込みたい衝動に駆られてしまいました。

まあ、スタンドがあっても世界終末の種がいたるところにあるので、十分とは言えないんですけどね。


6人目のスタンド使い

 

 

 突然のことだった。

 

「は?」

 

「だから廃校だよ。毎日きてた真面目ちゃんにゃ、気の毒だけどね」

 

 近所のアンドロイドはそうやって、何事もなかったかのように軽快な足取りで去っていった。

 

「……」

 

 目の前のバリケードが張られた校舎を呆然と眺める。

 カイロ高等学校は寂れた学校であった。

 在籍しているはずの生徒はスケバンとつるみ、自分以外にまともに授業を受ける生徒はいない。学習機関としての機能はともかくとして、生徒が通う学校としては九割九分破綻していたことは確かだ。

 ……こうもあっさりと無くなるとは思わなかったが。

 

「参ったな」

 

 確かに授業は退屈だったものの、自分にとっては勉強できる場所に違いなかったのだが。

 この街、キヴォトスは学園都市である。

 数千の学校とその自治区が存在するこの町で、平穏無事な生活を送るにはどこかの学園に所属していることが必要不可欠。

 でなければ度々街を騒がせる不良の集団のように、力にものを言わせてその生活を維持するほかない。

 

 無論、まともに生きたい人間にそんな生活は論外だ。経済的に安定していないし、なにより敵を増やす。

 

「編入が最適解、ではあるんだが」

 

 学年は2年生。学力は悪くないし、矯正局に厄介になったこともない。その気になればどこでもやっていけると自負している……が一つ、大きな問題があった。

 

『おかけになった電話番号は現在使われておりません』

 

 ガチャリと電話を切る。

 既に問い合わせた回数は5件目なのだが、連絡のついた学園はゼロ。

 数千も学園があるせいか生徒の奪い合いも結構なもので、そんな過酷な争いに負けて過疎化した末に廃校になる学園は珍しくない。

 不良だらけになって廃校になるよりもよっぽど現実味のある理由だろう。問題なのは、生徒側から現存している学校を見つけるのが難しいことだ。

 

 かといって、今、トリニティやゲヘナのような有名校に行くのも憚られる。

 自分は、キヴォトスにおそらくただ一人の男子生徒である。その珍しさのせいである事件を起こして以来、多くの人間が集う場所は気分が悪くなるのだ。有名校なんて人口密集地に行くなんて考えたくもない。

 

 なので今のところ、こうやって地道に学校を探す以外に打てる手はない。なんにしても受け入れてくれる学校を見つけなくては、世紀末のような生活をずっと強いられることになる。それだけは絶対にご免だ。

 

「ん?」

 

 取り壊し予定の校舎からくすねてきた学校のパンフレット資料の山から、ひとつ目立っているものがあった。

 

「これは……アビドス高等学校か」

 

 それは手書きの表紙が手作り感を滲み出す冊子だった。

 表紙には制作者であろう緑髪の快活な笑顔を浮かべた少女と、小柄なピンク髪の少女が写真に写っている。

 

「フム……」

 

ーーーー砂漠初心者大歓迎!!ーーーー

 

 アビドスは、新しい仲間を募集しています!

                

 アビドスは、砂遊びがいっぱいできる自治区です!

 

 進学はぜひ、アビドス高等学園へ!

 

 うん、さっぱりわからん。

 

 こういう資料は生徒の募集要項とかが詳しく記載されているはずだが、ほとんどバイトの求人みたいなノリでそういうのが一切ない。

 文面自体もなにかフワフワしているというか、とにかく生徒が来てくれると嬉しいなー、という筆者の思いを頭の中に垂れ流されるような……文章のノウハウとかを全く知らないど素人が頑張って書いたような内容だった。

 

 ……というか、推しポイントが砂遊びってどういうことだろう?

 

「……一応、電話してみるか」

 

 しかし、目に入ったのだ。試しにスマホへ番号を打ち込む。

 

『………はい。アビドス高等学校です』

 

「急な電話ですみません。実は────」

 

 編入の意図と個人情報を簡潔に告げる。

 余計なことは言わない。どうせうまく話せる口もないのだ。

 

『────』

 

「…………」

 

 沈黙が続く。

 

『──わ、わかりました。とりあえず、一度学校にお越しになってもらってもいいですか?』

 

「…!はい。ありがとうございます」

 

 ……なんとか首はつながったらしい。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『…………』

 

 アビドス高等学校、その校舎内にて。

 

 私の可愛い後輩である奥空アカネが震える手で固定電話を置き、室内に立ち込めていた沈黙を破った。

 

「ど、どうしましょう!? 編入生ですよ! 新しい生徒がついに…!」

 

「お、おお落ち着いてアヤネちゃん。とりあえず用意! 歓迎会とかの用意を……」

 

「うふふふ、まさかのお問い合わせですね」

 

「ん、ホシノ先輩みたいにどっしりと構えるべき」

 

「うへ~。おじさんも結構驚いてるんだよ、シロコちゃん」

 

 アビドス高等学校にはこの部屋に集まっている5人以外の生徒はいない。学園都市キヴォトスといえど、これほどの生徒数の少なさを持つ学校は2つとないだろう。

 そんな零細学園に新たな生徒が、しかも編入生がやってくるかもしれないとなればこの騒ぎになるのも無理はなかった。

 

「はい、はい……ではこちらの砂狼シロコ先輩が迎えに行きます。特徴は……」

 

 編入生との会話は続いている。

 その間に私は、電話の相手について思考を巡らせた。

 アビドスが抱える自治区は広大ではあるもののほとんどが砂漠に埋もれており、住民もどんどん数を減らすばかりで経済も言わずもがな。

 しかも多額の負債を抱えた学校である。正気の生徒なら別の学校に行くはずだ。

 

 罠の可能性はあるだろうか?

 アビドスを襲撃し続けるヘルメット団がスパイを送り込む可能性は低いと私は思う。

 そんな頭を使った真似は連中の専門外。猪のようにまっすぐ突っ込んでくる厄介者どもの関係者ではないだろう。

 

 ───もしかしたら、本当に編入希望のまっとうな生徒かもしれない。

 

 散々いろいろなものに期待を裏切られてきたくせに、その可能性を考えずにはいられない理由が……私にはある。

 

「まあ、来てくれた後で考えようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂塵吹き荒れるアビドス高等学園、その自治区内の一角。

 半ば廃墟と化した住居が立ち並ぶ中、バイクに跨った自分は足止めを食っていた。

 指定された住所までの道のりは砂に塗れ、道路標識も随分と点検されていないのか酷く汚れている。

 本来、学園の自治区ならばどれだけ寂れていてもあるはずの人影も全く見えない。ゴーストタウンとはこういうものだろうか……そんなことをぼんやりと考えたあと、現状を振り返る。

 

「へへへ、妙な真似はするなよ」

 

「動くとケガするぜ!」

 

 行く手をヘルメットに学ランという砂漠に相応しくない奇抜な格好の一団に塞がれた。

 このキヴォトスにおいて、ヘルメットがバリエーションの非常に多い不良集団『ヘルメット団』のシンボルであることは知っている。

 そしてバイクを移動手段に多用する自分にとっては、学区を跨ぐたびに検問で身元を調べられる原因であるヘルメット団は遭遇せずとも、不利益を被る目の上のたんこぶの如き存在であった。

 ヘルメットを被っていただけで自治区の治安部隊に拘束されかけ、腹の底から怒りを抱いたのは記憶に新しい──おのれヘルメット団。

 

 いや、本当にいい迷惑だなこいつら。不良だっていうならもっとそれらしいものをシンボルにすればいいものを。釘のついたバットとか、ナイフとかいろいろあるだろうに。

 

「そこ、どいてくれませんか?」

 

 できるだけ、物腰柔らかに話しかけてみる。どんな相手でもコミュニケーションは大事だ。

 

「ああん?聞こえねーな」

 

「口の利き方には気をつけな!そのかわいいバイクに風穴が空くぜ!」

 

 警告の答えは、向けられた銃口によって叩き出された。

 黒いヘルメットの右側面に銃弾が掠る。

 案の定、話は通じない。

 

 ところで、喧嘩のけの字も知らないお嬢様ですら銃で武装するこの超銃社会では、いくつかの例外を除き、数の暴力は有効な戦略の一つである。

 視線を巡らせれば、前方に立ちふさがるヘルメット団は7人。道路のど真ん中に止められたトレーラーの中におそらく2人いるだろう。総じて1対9の圧倒的な数的不利。

 最大で九つの銃口に火を噴かれてしまえば、瞬く間にハチの巣というわけ。

 

「ふぅ……」

 

 天を仰ぐ。

 空は憎々しいほど青く澄み渡っている。お前の不幸があっても世界はちゃんと回るからと訴えてくるような、相変わらず腹立たしい青さだ。とっとと曇ってしまえ、クソヤロー。

 

「お前にはここで大人しくしててもらうぜ。本命が来るまでな!」

 

 にやけた声でヘルメットその1が話す。

 なるほど、自分は誰かを釣る餌───ああ、アビドスの生徒か。

 迎えに来るという生徒をこいつらは襲う気なのだ。いったいどこでそんな情報を嗅ぎつけたんだか……

 

「噂に聞いた不良潰しもたいしたことねぇじぇねえか!」

 

 ───やっべ、俺のせいだ。

 

 不良潰しとはかつてのカイロ高等学校で、自分にちょっかいをかけてきた不良の連中を徹底的にやっつけていたときの異名だった。

 不良同士には独自のネットワークがあると噂には聞いていたが……あの野郎ども、根に持って自分のことをヘルメット団にチクりやがったのか。

 

 これはまずいぞ。非常にまずい。

 ただでさえ受け入れてもらえるか心配なのに、こっちから問題を持っていくことになってしまった。

 

「……そうか、そうか」

 

 話し合いでの解決は不可能。

 相手は誰かから脅して奪うことが常習化した集団だ。そもそも話し合いなんか選択肢にないだろう。

 

「なら()()だ」

 

 ブレザー下のショルダーホルスターから取り出したベレッタ92Fが、戦闘の口火を切る。

 追い詰められてやけっぱちになったわけではない。間違いなく勝てるという確信ゆえの発砲だった。

 

「ぐえ!」

 

 ヘルメットその1の脳天に銃弾がヒットする。

 手を出したのはこちらが先なのだから、交渉で穏便に済む道は完全に潰すことになった。

 

 ──まあ、いいか。どっから見たって正当防衛だろ、これは。

 

「てめえ!」

 

 発砲される前にバイクを踏み台にして、跳躍する。

 この数を前に戦いに来るとは思ってもいなかったのか、反応が少し遅れていた。

 その隙は逃さない。

 

「フン!」

 

 無防備な頭めがけてかかと落としが炸裂し、その頭蓋を振動させる。ヘルメットを被っていようと衝撃は完全に殺し切れはしない。

 

「ぬあッ!」

 

 間抜けな声を上げながら頭を抱えて蹲るヘルメットその2の胸倉を引き寄せる。

 生徒の体は下手なシールドや防護服よりはるか頑丈だ。キヴォトス一といってもいい頑丈な肉の盾の誕生───だが守るためだけの盾ではない。

 

「そぉれ!」

 

 首根っこを掴んだまま回転すれば、巻き込まれたヘルメット3、4が吹っ飛んでいく。

 

「便利な盾だな」

 

 倒れた3と4にトドメの銃撃を浴びせ、盾を構えながら次の敵目掛けて前進する。

 

「ヤロウ調子に乗りやがって!」

 

 できるだけ多くの射線を塞ぐようにして盾を構えると、相手の射撃が始まった。

 

「いててててててて!! やめろー!」

 

 その身に仲間の銃撃を受けたヘルメットその2が叫ぶ。

 

「くそ、汚い真似しやがって!」

 

「卑怯だぞ!」

 

 恐喝してきたお前らにだけは言われる筋合いはない。

 そもそも喧嘩を吹っかけてきたのはそっちが先だろう。やり返されると思わない方がおかしい。

 

「慌てるな、囲め囲めー!」

 

 最初に撃った1が指揮官だったようだ。

 不意打ちで崩れた陣形を立て直そうと動いている。

 やはりハンドガンでは火力不足だったか。とはいえ、持ち前の武器はベレッタと手榴弾が2つ。手榴弾を使うには近すぎる距離だ。

 だが迂闊に距離を離せば、盾でカバーできる面積が小さくなってしまう。

 そうなれば後は遮蔽物に頼りたいが、ここは道路のど真ん中。壁になるものと言えばお気に入りのバイクか、連中が乗ってきたトラックくらいだろう。

 倒したのは盾になっている2と3・4のヘルメット。車から降りてきた2人を入れればあとは6人……少し分が悪い。

 

 さてどうするか──そう考えた時だった。

 

「うあッ」

 

 ヘルメットの一人が銃弾を受けて倒れ伏す。

 撃ったのは自分ではない。

 

「こっち!」

 

 列をなす住宅の陰からの声。

 ぐったりとした肉盾ヘルメット2を敵が密集している地点に放り投げる。

 

「うおッ───ちくしょう!逃すな、撃てー!」

 

 銃弾が肩を掠めるが、体勢を崩したヘルメットが多かったことが幸いして被弾を最小限に抑え、物陰に何とか滑り込むことができた。

 そこにはセミロングの銀髪に青い瞳。狼の耳を持つ少女がいる。

 アビドスの電話に出た奥空アヤネさんが言っていた、迎えに来るという人物の特徴と合致していた。

 

「あなたが、汐華(しおばな)ハルノ?」

 

 少女はそう尋ねてきた。

 

「そういうキミは、砂狼シロコか。助かった。無作法なヘルメットどもに囲まれて迷惑してたところだったんだ」

 

「あなたもヘルメットを被ってる」

 

「連中と一緒は勘弁してくれないか。交通法を順守してる正義のヘルメットなんだから」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

 本当にヘルメットに対する風評どうにかならないかな。

 少女が差し出した手を取る。

 できれば自己解決した後に会いたかったが、こうなっちまったら仕方ない。

 

「ヘルメット団があなたが来るっていう方面にたむろしてるって聞いて、急いできた」

 

「ありがとう。手を貸してくれるか?」

 

「ん、お安い御用」

 

 アサルトライフルの弾倉をコンコンとノックし、砂狼は自信たっぷりの様子でそう答えた。

 

「3,2,1で行こう」

 

 ヘルメット団の様子を観察する砂狼がそう口にする。

 

「OK」

 

「3」

 

 撃ち尽くしたマガジンを捨て、リロードする。

 

「2」

 

 奥歯を嚙み、ベレッタの射程に早く入る敵の位置を確認する。

 

「1!」

 

 戦闘が再開する。

 砂にまみれた道路を駆け抜けながら、射程距離に入ったヘルメットへと発砲。

 

「ぐあ!」

 

「うえ!」

 

 弾丸が目測通りの地点に到達する。痛みに悶えたヘルメット5・6が地面に崩れ落ちる。

 砂狼が構えたアサルトライフルも火を噴いた。

 自分より退いた位置で銃を構えた彼女の攻撃が、3人のヘルメットを次々と撃ち据える。

 

「く、くそこれでもくらえ!」

 

 最後に残ったヘルメットが戦況の不利を悟ってか、やけくそとばかりに手榴弾を放り投げる。

 

「自分で食らってろ」

 

 手から離れた手榴弾を落下する前に狙い撃つのは容易かった。

 小さい爆発の後、巻き込まれたヘルメット9は膝をついて倒れる。

 随分とあっさり決着がついたなと、少し拍子抜けだった。

 

「ん、私たちの勝利」

 

「ああ、これで───」

 

「まだだぁ!」

 

 ──トレーラーに隠れていた一人がロケットランチャーをこちらに構えている。

 

「ぶっ飛んじまえ!」

 

 ロケット弾は発射されようとしている。

 狙いは正確で、砂狼目掛けてまっすぐに向けられていた。

 キヴォトス人の体は銃弾を浴びてもケロッとしているほど頑丈だが、ロケット弾の直撃を受ければ昏倒する可能性は高い。脳を揺さぶる直撃ならば、いかに頑強な肉体を持とうが関係はないからだ。

 距離も近く、回避行動が間に合うかはわからない。

 

「────ッ!」

 

 さらに運の悪いことに、敵の援軍の音が耳へと入る。足音からして恐らくは小隊、6人ほどだろうか。

 戦闘を観察していたのか、後方からひっそりと近づいていたようだ。

 最悪の状況だ。

 ロケット弾を避けられても後ろからの銃撃にさらされる。

 再び住居の陰か、あるいは窓を突き破りその中に逃げたとしても、あちらにはトレーラーの中に豊富な武器庫を持っている。

 意識を失ったヘルメット団も起こされるだろう。そうなればあっちは数で押せばいい。

 

「逃げて!」

 

 ──耳を疑った。

 初対面、まだなんの関係性も築けていない赤の他人同然の自分に、逃げろといったのか?

 今こんな状況に巻き込まれているのだって、元を辿れば自分が編入してきたせいだというのに。

 

「撃てーーー!!」

 

 銃声が聞こえた。

 

「くらえッ!」

 

 ロケット弾が獲物を追う。

 

「───ッ!」

 

 突き飛ばされる。

 やはり砂狼だった。

 

「──世界(ザ・ワールド)

 

 俺がその名を呼ぶと、すべてが静止した。

 

「すまない」

 

 砂狼に謝罪しなければならない。

 こんなやつらに気を遣うんじゃなかった。

 結果、いらない危機を招き、せっかく迎えに来てくれた人を危険に晒すところだった。

 最初の時点でパワーにものを言わせて全員ぶちのめせばよかったのだ。

 

「3秒前」

 

 砂狼を抱え、すべての射線から離れた位置へと移動する。

 

「2秒前」

 

 後方に迫っていたヘルメット団たちへ手榴弾を投げる。

 ピンを抜かれた2つの手榴弾は密集する形になっていたヘルメットたちの中心で静止した。

 

「1秒前」

 

 俺の中から飛び出した分身、世界(ザ・ワールド)の手が静かにロケット弾を掴み、起爆させることなくその射線を放たれた方へと変更する。

 

「ゼロ」

 

 時は動き始める。

 

『ぎゃあああああーーー!』

 

「…………ん?」

 

 砂狼は一斉に倒れ伏すヘルメット団と俺の顔を交互に見ている。

 困惑するのも無理はない。絶体絶命の危機だと覚悟して、その次の瞬間にカタがついていれば誰だって驚くだろう。

 

「……あなたが、やったの?」

 

「ああ、そうだ」

 

 砂狼の質問に俺はそう答えた。

 

「詳しく話したいが、先にヘルメット団を拘束しよう。起きられても面倒だ」

 

「……わかった」

 

 トレーラーの中にロープが入っていたので、順に手首と足首を縛っていく。

 

「…………」

 

「…………」

 

 気まずいな。

 原因が自分だからどう話を切り出せばいいのかわからない。

 とりあえず能力の説明をしようか。

 

「さっき起きたことを話したいんだが」

 

「……ん、わかった。あなたの話を聞かせてほしい」

 

「ああなった原因は俺の能力だ。俺が3秒間だけ時を止めて、その間に全員やった」

 

「時を……止める」

 

「信じられないかもしれないが……」

 

「……信じるしかない。あの状況を説明するにはそれ以外考えられない。あなたのその能力を」

 

「俺の能力は、俺自身の精神の具現化だ。立ち向かうもの(Stand up to)傍に立つもの(Stand by me)……スタンドと呼ぶ」

 

 その全身を砂狼の前へと曝け出す。

 背中に2連のタンクを背負い、顔の上半分が逆三角形のマスクで覆われた戦士の姿だ。

 

「……初めて見た」

 

「自分以外に使える奴に会ったことはない」

 

 スタンドという名すら、ある本を見つけるまでは知らなかった。

 キヴォトス人が持つ神秘。その一つだというが、過去にその力に目覚めたものは少ないようで、それが持ち主の精神力の具現化であること以外はよくわからないままだ。

 

「名前はあるの?」

 

世界(ザ・ワールド)。そういう名前だ。由来はタロットカードの21番」

 

 かつて街角であった、奇妙な占い師からもらった名前だ。占いの内容は覚えていない。

 

「他には何ができる?」

 

「何ができるって言われると微妙なんだが、とんでもなく精密な動きができる。至近距離で放たれた弾丸を指の摩擦のみで止めることができるほどだ。裁縫のバイトに役立つ」

 

 付け加えるならスピードとパワーも申し分ない。

 トラックくらいなら拳一つで宙を舞い、銃弾程度ならばその速さで叩き落すこともできる……正直、自分がちまちまベレッタで頑張るよりもお手軽に荒事が済ませられるのだが、少し前に加減をミスって不良の一人をうっかり病院送りにして以来、スタンドに頼りすぎないようになるべく銃で対応するようにしていた。

 それが間違いだった。もう無理に我慢するのは止める。

 

「あとは壁とか、物質を透過するくらいかな」

 

「とてもいいことを聞いた」

 

「え?」

 

「何でもない。素晴らしい能力だと思う」

 

 どこか興奮した様子で砂狼はそういった。

 どのみちこれから一緒に生活するのだから、ボロが出る前にどこかのタイミングで明かそうとは思っていたが……ここまですんなりと受け入れてもらえるとは思ってもみなかった。よほど思考が柔軟なのだろう。

 

「砂狼、すまない」

 

「……なんであなたが謝るの? 助けてもらったのは私なのに」

 

「最初から世界(ザ・ワールド)ありきで戦っていれば、こんな状況にはならなかった」

 

 砂狼は自分を全力で助けようと動いていた。

 それを見てもなおも力を出し渋ったことは、彼女の全力に対する侮辱だろう。

 

「……でも、私は助かった。それが全て」

 

 砂狼は毅然とした態度でそう言った。

 彼女は俺が迷っていたことを責める気はないらしい。

 

「そうか、ありがとう……そういや、武器は回収しないのか?聞いた話じゃ、キミたちはアビドスの治安維持もやってるって話だったと思うけど」

 

「回収?誰の?」

 

「こいつらの」

 

 そう言って縛られたヘルメットどもを指差す。

 

「どうして?」

 

「連中、アビドス自治区で我が物顔で暴れ回っているらしいじゃないか。その勢力を削ぐために武器とか車両を没収する権利は、生徒であるキミたちにあるんじゃないのか?」

 

 事実、ヴァルキューレに逮捕されかけた時はベレッタとバイクを持っていかれそうになったし。実害を被っている自治体の治安活動なら、なんの問題もないはずだが。

 

「───ん、その通り。私たちは、アビドスの平和のためにヘルメット団から武器を没収する義務がある」

 

 そう言って、いそいそと銃器を回収し始める砂狼。

 さっき尋ねたときはきょとんとした顔をしていたが、今は何とも満足そうな顔でヘルメット団のアサルトライフルを束にして抱えている。

 なんでさっきは聞き直したんだ?

 せっせと作業に励む砂狼の姿を横目に、縛られているヘルメット団の一人へと近づく。

 

「おい」

 

 コンコン、とヘルメットを叩く。

 数度繰り返すと、目を覚ましたのか慌てた様子で喚きだした。

 

「く、くそ!離しやがれー!」

 

「駄目だね。話すこと話したら考えてやるよ」

 

「な、なにを話せって……」

 

「アビドスの生徒を待ってたんだろ? 俺を餌に使って。 他に何人いる?」

 

「話すわけねーだろバーカ!」

 

「あ、そう。砂狼!ちょっとこっちに来てくれ!」

 

 驚異的な速さで武器の回収を終え、満悦に浸る砂狼を呼ぶ。

 

「何?」

 

「尋問してるから手伝ってくれ」

 

「な、なんだ!?数が増えようが怖くもなんとも──」

 

「うっせえなちょっと黙ってろ」

 

 ゴン、と拳をヘルメットへと振り下ろす。

 ……いてえな、スタンドで殴ればよかった。

 

「こちらがお前らが目当てにしてたアビドスの生徒さんなわけだが、これからお前の処遇をこの人に委ねる」

 

「……ん、アビドス市中引き回し。情状酌量の余地なし」

 

「は、はぁ!?冗談だろ!?」

 

「あなたたちは何回、私たちの学校を襲っているか覚えてる?私たちに捕まってただで済むと───本気で、思ってるの?」

 

「ひ、ひぃ……」

 

 すごい演技だな。あまりの迫力にこっちも押されそうだ。

 砂狼の圧に押されて、ヘルメットが情報を吐く。

 編入生とその案内をしに来た砂狼を拉致し、アビドス本校の襲撃に利用したかったらしい。

 ということは、今アビドスはヘルメット団の襲撃を受けている真っ最中ということか。

 

「ごめん、先を急ぎたい」

 

「わかった。ちょっと待っててくれ」

 

 バイクと砂狼の乗ってきたというロードバイクを急いで荷台に積み込み、トレーラーの運転席に向かう。

 

「待って」

 

「ん?」

 

「私はあなたを迎えに来た。だから運転席には私が乗るのが筋だと思う」

 

「……いや、どっちでもいいんじゃ」

 

「ん、遠慮はいらない」

 

 グッと親指を突き立てる砂狼。そんなに運転に自信があるのだろうか。

 手に入れたばかりのトレーラーに乗りたいだけ……なわけないか。

 会った時なんて比べ物にならないほどその瞳が輝いているのは、きっと気のせいだ……きっと。

 

「じゃあ、お願いする」

 

「ん──ようこそ、アビドスへ」

 

 砂狼は鍵をキーシリンダーへと差し込んだ。

 

 

 

 

 





スタンド名:ザ・ワールド

破壊力:A
スピード:A
射程距離:C
持続力:A
精密動作性:B
成長性:B

汐華ハルノのスタンド。
機械以上の精密動作が可能なうえ圧倒的なパワーとスピードを併せ持ち、時を3秒間のみ止めることができる。
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