オルクセン漫画映画史   作:常夏鳳梨

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副題:新技術は凄いぞ

どうも、常夏鳳梨です。
今回は【林檎姫】の元ネタの映画でも使われていた技法こと、ロトスコープに関する話です。
ちなみに、この技法は元々【ポパイ】や【ベティ・ブープ】を制作していた会社が保有していたものの、1934年の頃にその特許の独占権が切れたのでD社でも使われるようになったとか。


新技術と新たなる壁

ロトスコープ。

それは、非現実的な動きをするアニメーションを写実的に描く技法である。

主にモデルの動きなどをカメラなどの媒体に記録した後、それをトレースする形にてアニメーションする──という内容なのだが、その当時はアニメのキャラクターを現実的に描写する方法として注目されていたのである。

 

イライアが正式に長編アニメーション映画の制作を発表した年──その技術を保有していたアニメスタジオの特許の独占権が切れたため、その技術を前々から注目していた彼女はすぐさま取り入れることにしたのか、今現在のイライア・バーバンク・スタジオではロトスコープを用いたアニメ制作が行われていた。

 

アニメ制作と言っても、林檎姫・意地悪な女王・ドワーフ・王子様の登場シーンだけなのだが、制作が始まった当初は複数人のアニメーターがロトスコープの導入に反対していた。

けれども、結局は作品に対する並々ならぬ熱意を持つイライアの説得に折れてしまったのか、そのまま導入されることが決まったのだった。

 

ちなみに、林檎姫の実写モデルを務めたのはグロワール出身の若いダンサーの女性だったとか。

 

「良いか!!今回のアニメはいつものアニメとはワケが違う!!だからこそ、より現実味のある動きを目指すぞ!!」

「「「「はい!!」」」」

 

ロトスコープという前代未聞の技法を使っての撮影だからか、作画監督を担当しているドワーフこと、マルチン・ラートの気合いの入れ具合も半端ではなく、その声にイライアと同様の熱意が籠っていたのは仕方のないことであった。

そのミルトンの熱意は半端ではなく──モデルを撮影した写真や映像を隅々まで研究、解析した上でそれをアニメーションに反映させようとした。

 

ただし、それはアニメーター達にとっては中々にハードな作業だったようで、ヒィヒィ言いながらも何とか動きのあるアニメーションを目指し、各キャラクターを描き続けていた。

 

このことに対し、とあるダークエルフのアニメーターはこう回想している。

ラートが実写の映像をどういう風にアニメーションに置き換えるのを考えつつ、綿密な計画を立てていたからこそ【林檎姫】は成り立ったのだと。

 

この前代未聞の挑戦に対し、アニメーター達を見守っていたイライアは分かりやすく目を輝かせていた。

そして、これからはロトスコープがアニメの肝になるのだと思っていたようで──その顔には、新技術という名の希望の可能性を信じるような表情が映っていたのだった。

 

そして、いざそのアニメーションが出来上がったのだが

 

「これは──凄いわね」

 

今までのアニメーションとは違う生き生きとしたキャラクターの動きと描写に対し、ロナは思わず声を漏らしていた。

 

ロナが知るアニメのキャラクターは、過剰なまでに誇張された動きが特徴であった。

しかし、ロトスコープという画期的な技法を用いたことにより、アニメのキャラクターに生命の息吹が宿ったかのような様子であったため、それを観たロナがそうなるのも無理はなかった。

 

一方、イライアはイライアでまるで生きているかのような雰囲気のアニメーションに対し、子供のように目を輝かせており──それを観たアニメーター達がホッと一安心していたとか。

 

「やはり、これからの時代はロトスコープを用いたアニメ制作が肝になりそうだな」

「えぇ、これなら短編アニメに慣れている観客達を唸らせられるわね」

 

映写室にて、出来上がったアニメーションを観ながらそう呟くイライアとロナ。

その顔には、長編アニメーション映画制作という長くて大きい道のりに対し、大きな一歩を踏み出したかのような表情が浮かんでいた。

 

星歴九三〇年代の星欧大陸において、アニメと言えば短編アニメ映画が主流であった。

そのため、長編アニメーション映画を作ろうとしているイライア達に対し、批判的な意見があるのも致し方ないことであった。

 

しかしながら、イライアはその状況下でも長編アニメーションの可能性を信じていたようで、だからこそ彼女はロトスコープを用いたアニメーションを見た際、その思いを確信に変えていた。

今現在制作している長編アニメーション映画こそ、後のアニメの歴史を変える分岐点になることを。

 

そんな中──イライアの下にマルチンがやって来たのだが、その顔がいわゆる難しい顔だったため、彼女達がん?と思ったのは仕方のないことだった。

 

「マルチン、どうかしたのか?」

「いやその、アニメーションの制作自体はうまくいっているのですが──」

「ですが?」

「とあるキャラクターへの色付けが上手くいっていなくてですね──」

 

マルチンがそう言った瞬間、なるほどという顔になるイライア。

それはロナも同じだったようで、その問題があったかとばかりの顔になっていた。

 

彼曰く、他のキャラクターの色付けは順調であったものの──林檎姫、そして女王への色付けが困難を極めていたようで、特に林檎のような赤い髪と頬の色に悪戦苦闘していたらしく、どうしてもピエロみたいな濃い色合いになってしまうとのことであった。

その証拠として色付けした林檎姫の絵を見せたところ、その色の濃さにイライアとロナが顔を顰めていたため、それを見たマルチンがやっぱりなという反応になっていた。

 

「これは──確かに派手だな」

 

派手な色合いとなった林檎姫に対し、そう呟くイライア。

ロナに至っては、これは流石に濃すぎるとばかりの反応になっており──制作チームは新たなる壁にぶつかったと言っても過言ではない状況となっていた。

 

そんな制作チームに対し、イライアはマルチンの方を向くと──社長として指摘をするようにこう言った。

 

「──これは、プリンセスというよりかは魔性の女(ファム・ファタール)だな」

 

イライアがそう言った瞬間、ハッとした顔になるマルチン。

彼のその顔は、アニメーターとして大きな学びになるとばかりの顔だったため、確かになとばかりの表情になっていた。

 

そう思っている彼を尻目に、彼女は彼から受け取った色付けされた林檎姫の絵を手に持ちながら一言、マルチンに向けてこう言った。

 

「我々が今回目指すのは──"無邪気さの中に根付いた健全さ"を持つ少女だ。だからこそ、色合いもまた重要な要素なんだ」

 

イライアがそう言った瞬間、マルチンは作画監督としてその意見が身に沁みたようで、今後はキャラクターの色合いもまた注視しないとなと思った模様。

そんな彼を見たイライアは、自身の伝えたい思いが伝わったと思ったようで、その顔には厳しくも優しい表情を浮かべてきた。

 

それを隣で見たロナは、イライアにリーダーとしての素質があるのだと改めて思ったようで、自分には無い視点だなと思ったとか。

 

そういうわけで、イライアの指摘によって林檎姫の色付けは大幅に変更され──濃い色付けから一変し、優しくも儚い繊細な色味へと変更されたことにより、真の意味での林檎姫のキャラクターデザインが完成したのである。

それに伴い、試行錯誤の末に林檎姫の頬の着色技術も開発されたのだが、星歴九四一年にその着色技術を適切に行うことが出来た社員が退社してからというもの、その技術を使えるものはスタジオ内に誰一人として居なかったのはここだけの話である。

 

そして、それによって次の段階へと撮影へと向かい始めたのだが

 

「ロナ!!【林檎姫】の撮影にはマルチブレーンカメラを使うぞ!!」

 

というイライアの一言により、更なる技術革新がもたらされるのだが──そのことが起こることなど知らないロナは、あの時と同じように呆然としていたのだった。




マルチン・ラート
イライアのスタジオにて、アニメーターとして働いているドワーフ。
今回の映画では作画監督を務めており、ロトスコープを使ったアニメーション制作に意欲を見せている。
イライアと同じく、アニメーションの技法に関しては貪欲に吸収する方らしい。
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