どうも、常夏鳳梨です。
今回は長編アニメーション制作の際に本格的に導入された機器こと、マルチブレーンカメラに関する回です。
このマルチブレーンカメラは、元ネタとなった映画の前に試験的に短編アニメ映画に導入されていたとか。
星歴九三七年のイライア・バーバンク・スタジオにて、とある機器が開発された。
その機器の名は、マルチブレーンカメラ。
立体感や奥行きに特化した映像表現が可能となる機器で、録音技師によってこの機器が開発されたその年には既にテスト的に使用されていた代物であった。
そして、イライアはこのマルチブレーンカメラを使えば【林檎姫】をより良い作品にできるのではないか?と思ったようで、テスト導入を経た上で長編アニメーション制作に取り入れようと考えたのである。
ただし、そのことを彼女から告げられたロナはマルチブレーンカメラを導入することを知らなかったらしく、呆然としていたのは言うまでもないことであった。
なお、これはあくまで余談ではあるが──マルチブレーンカメラを試しに導入した短編映画はその年の世界的な映画賞を受賞し、アニメ業界を騒がせたとか。
「それで──撮影の方はどうなんだ?」
けれども、撮影の際の遠近法・比率・タイミングなどの技術的な問題もあってか、アニメーションの撮影作業は複雑化に伴って困難を極めていた。
ただ、かつてイライア・バーバンク・スタジオや他のアニメスタジオで使用されたカメラに比べ、洗練された映像を撮影できるようになったからか、イライアはその映像の技術問題を解決するためにヴィルトシュヴァイン工科大学の学生二人を雇った模様。
イライア達のその努力により、技術的な問題や完成した映像の違和感という問題は解決され、【林檎姫】の撮影が進んでいたのだった。
「概ね順調ですね、完成した映像を見てみますか?」
「あぁ、頼む」
学生の言葉に対し、分かったとばかりにそう返答するイライア。
そして、彼女は姉であるロナと共にその映像を映写室で見たのだが──イライアの目論んだ通り、アニメーションに遠近感や奥行きというスパイスが添えられたため、二人は改めてアニメーションの可能性を感じていた。
一方、その様子を見ていたミルトンや学生達は緊張した面持ちになっていたが、そんなアニメーター+αに向けてイライアは視線を向けるとこう言った。
「──これは素晴らしい映像だな」
イライアがそう言った瞬間、撮影を担当していたスタッフ達の間ではワッと歓声が上がっており、学生二人組に至ってはあのイライアに褒められたことに対し、分かりやすく照れていた。
それを見たロナが良い意味でやれやれと思っていたのに対し、イライアはマルチブレーンカメラはアニメ業界における大発明だと思ったようで、この技術が後々ロトスコープ共々アニメの世界を変えると確信していた。
マルチブレーンカメラこそ、今後のアニメ制作に必要不可欠なモノかもしれない。
イライアはそう思い、その希望が実現するのだと信じているからか、その目には大いなる夢が一歩ずつではあるが叶いつつあることに対し、アニメ製作に関わる白エルフとしてとても嬉しそうにしていたのである。
「照明の方は二重露光や三重露光を使うことで、一応は影などの効果演出を出すことに成功しましたが──どうだったでしょうか?」
「どうだったも何も、素晴らしいの一言しかないが?」
もう一人の学生の言葉に対し、ニヤッと笑いながら撮影スタッフ達に向けてそう答えるイライア。
それを見たロナは確かになと思うかのような表情になっており、それを見たスタッフ達は頑張って良かったなとばかりの反応になっていた。
そんなスタッフ達を見たイライアは、彼ら彼女らに対してこう言った。
「だがしかし、撮影はまだ終わってはいないのだろう?ならば、もっとより良い作品を作り上げるために共に頑張ろう!!」
イライアのその言葉を聞いたスタッフ達はハッとした顔になった後、映画を完成させるために頑張ろうという顔になっていた。
スタッフ達の表情を見たイライアはやる気があっていいなと思っていた反面、その光景を見たロナはとある心配事を思い出したのか、少しだけ不安そうな顔になってきた。
そんな姉の異変を感じ取ったイライアは、どうしたのかとばかりの様子でこう尋ねていた。
「姉様、どうかしたのか?」
イライアがそう尋ねた瞬間、ロナはため息を吐いたかと思えば──その顔には憂鬱そうな表情が映し出された後、妹である彼女に対して小声でこう言った。
「映画の撮影が進むのは良いんだけど──問題は制作費の方よ」
ロナがそう言った瞬間、イライアは大事なことを思い出すかのような顔になった後、そうだったなと声を漏らした直後に頭を抱えていた。
それはまるで、その問題に対して頭を抱えているかのように。
実のところ、アニメ製作には物凄く金が掛かるのである。
短編アニメはともかく、長編アニメーションに至ってはその倍の資金が掛かるために、今回のアニメ制作に当たっては資金繰りに奔走していたのである。
それに加え、イライア自身のアニメに対する完璧主義者なところもあってか、長編アニメーションの制作が進む度に制作費が増えていったため、それらのことを含めてイライアは頭を抱えていたのだ。
「──銀行は素直に融資を受け入れると思うか?」
「逆に言うけど、銀行が前代未聞の挑戦に融資を承認するとでも?」
ロナの言葉に対し、ヴッと声を漏らすイライア。
そして、そのまま資金という大きな問題をどうするのかを考えていたようで、映写室を後にして社長室に戻った後もそのことで頭を悩ませていた。
その様子を見たロナもまたどう資金繰りするかで頭をフル回転させていたものの──とある人物のことを思い出したのか、妹であるイライアに向けて一つの解決策を提示するようにこう言った。
「イライア──一か八かの賭けだけども、融資を受け入れてくれそうな人に対して【林檎姫】の試写会をするというのはどうかしら?」
「それだ!!」
ロナがそう言ったところ、イライアはその言葉にピクリと反応したかと思えば、それだとばかりの反応になっていた。
だがしかし、その言葉を言った当の本人であるロナは難しそうな顔になっており、その様子を見たイライアはん?と思っていたのだった。
「ただ、問題はその人に私達が作った映画を受け入れてもらえるかどうかなのよね」
ロナがそう言った瞬間、イライアはその言葉が引っかかったのか──彼女の言葉に対し、視線をそのまま姉であるロナの方に固定すると、そのまま疑問をぶつけるかのようにこう言った。
「──ロナ、その人物はどんな人なんだ?」
妹の質問に対し、ロナはこれ以上は心配事を増やしたくはないなと思ったようで、世界でたった一人の大切な妹であるイライアに対し、本音を吐き出すかのように彼女に向けてこんなことを告げた。
「あなたもよく知っている人よ」
ロナがそう言った瞬間、イライアはその言葉を聞いた数秒後に姉の言い放った言葉の意味を理解したのか、まさかとばかりの顔になっていた。
彼女が言う"その人"とは、今やオルクセン連邦どころか星欧大陸に強い影響力を持つ人物だったからである。
それと同時に、"その人"に融資に頼むということはそれなりに高い壁であることを理解したからか、イライアの顔に冷や汗が出始めていたのは仕方ないことであった。
「──まさか」
「そう、そのまさかよ」
予想外の人物が候補に上がったことに対し、イライアは嘘だろとばかりの顔になっていたが、当のロナ自身はこれしかないとばかりの表情になっており、その顔には腹を決めたかのような感情が映し出されていた。
「イザベラ・ファーレンス。ファーレンス商会を強大な会社へと成長させた彼女なら──その一か八かの賭けに乗るはずよ」
Q:マルチブレーンカメラって何?
A:アニメーションに遠近感や奥行きなどの演出を加えることが出来る特殊なカメラ
ちなみに、史実でのマルチブレーンカメラは【風車小屋のシンフォニー】から導入されたそうな。