目覚めたら、男が激減し貞操逆転した崩壊世界だった   作:解毒草

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11 それでは皆様、良い旅を

 ターフェはソフィアが希望する亡命先からのエージェントだった。

 細かいことを聞いている暇はないが……。

 しかし、怪盗なんて天職は存在しない筈だ。自称だろうか。

 

「開示されていない覚醒職の一つさ。悪いがそれ以上は話す義理がない」

 

「あ、そうですか」

 

「ああ。勘違いしないで欲しい。君が男だからとか差別している訳ではないよ。むしろ、君には驚かされる。まさか男が直接戦うなんて。

 君の持ち得る戦闘技術に攻撃した部分を消失させる未知の魔法について教えて欲しいくらいだ。あのデストロイとかいう──」

 

「……それこそ話す義理はありませんよ」

 

 ちょっと冷たかっただろうか。いやターフェは気にせずに笑った。

 

「まったくだ。君とは仲良くなりたいとは思うが時間がない。だからお互いに細かいことは置いておき、ソフィアの救出、その一点を目的とした建設的な話をしよう。

 僕は君という男ならそういうことができると見込んでいるが……どうだろうか?」

 

 ターフェの提案に頷くと彼女は嬉しそうに両手を叩いた。大げさだ。

 憲兵たちの襲撃があった現場を離れてターフェの先導で彼女の宿に向かう。既に夕日は沈み夜の闇が街を覆っていたが、ランプを灯すと少しだけ落ち着くことができた。

 

「憲兵から集めた情報によるとだ」

 

 ターフェはオレと会う前に憲兵から情報を聞き出していた。

 それによると、帝国はソフィアを捕まえて帝都で公開処刑をするつもりらしい。

 

「恐らく今夜中に憲兵局の詰め所から列車に移送される。連中はせっかちだからね」

 

「じゃあ、ここでのんびりしてる場合じゃないぞ。急いで……」

 

 指が突き出され、オレは言葉を見失った。

 ランプの光にミルクティーブロンドの髪が照らされる。

 

「先に覚えていて欲しいが、基本的に僕は戦えないものと思ってくれ。戦闘能力は君よりも劣っていると言っていい。そして僕も一人で君を戦わせるのも潜入もさせたくない」

 

「……じゃあ?」

 

「安心して欲しい。亡命先への移動と亡命希望者の救出。いずれも効率的にやるだけだ」

 

 言い訳のように早口で語ったターフェは足を組む。テーブルの上に置かれた地図には列車や建物の模型が置かれている。

 ジオラマとかいっただろうか。憲兵局の詰め所らしき模型を彼女は指さす。

 

「ソフィアは今夜中に詰め所から列車に移送される。貨物列車だ」

 

「根拠は?」

 

「それ以外では問題が出るように事前に細工をしておいた。どのみち、移動には列車を使用する予定だったからね」

 

 すごい自信がありそうな表情だ。

 これまでも似たような犯罪を起こしているに違いない。

 

「普通に馬車とかは使わないのか?」

 

「脱走対策として使わないつもりらしい。彼女、帝都ではお転婆令嬢だったとか」

 

 つまりどうするつもりなのだろうか?

 話を促すと、犯罪者は語り始めた。

 

「君には列車が動き出す直前に憲兵に変装した僕に捕まったということで潜入して貰う。恐らく、監視の都合でソフィア嬢と同じ車両に運び込まれるだろう。

 君は男だから、そこまで酷い目には合わされないと思うが……できるかい?」

 

「分かった」

 

「よし。僕は先頭車両に行って線路の分岐路を帝都行きから切り替える。合図を出したら君には後方車両との連結器を破壊してもらいたい。やってもらえるかな?」

 

 いくつかの質問や会話をした後、了承したオレは憲兵に変装したターフェに縛られる。

 傷は治さず、追加で殴打を受けるなど傷を作った状態で列車に潜入した。

 ……わりと本気で殴ってきて痛かった。

 

「報告します。災厄の魔女の協力者らしき男を下水道にて確保しました。上官より魔女と同じ車両に連れていけとの指示を受けたのですが……」

 

「あー、あの人も趣味が悪いからな。1号車だ。というかギリギリだな。急げよ」

 

「はっ!」

 

 こんなやりとりだったと思う。

 既に夜も遅くなった頃に列車に潜入する。

 貨物列車らしく大半は機械や食料などが積み込まれていたらしいが、それらを下ろして憲兵が移送準備をしていたらしい。

 というターフェ扮する憲兵たちの会話を、台車に乗せられたオレは聞いていた。

 

「ねえ、こいつちょっとくらい遊んだらダメ? 人間だけど男だよ?」

 

「クビになりたくなければ触るな。あくまで魔女を刺激する為に使うらしい。その後なら好きにしろ」

 

 なんというか縛られて動けないからこそ視線に敏感になる。普段から他人からの視線には敏感な陰キャ気質だから、今は特にだ。

 ただ舐めるような視線にゾクリとさせられるのはこの時代特有のものだ。

 ああ、貞操の危機を感じる。

 自分でやると決めたけど吐きそうだ。

 

『ねえ、ケンシン』

 

 魔人たちの視線に晒されて緊張し身体が強張る。

 やがて挙動不審に陥って無様を晒さなくて済んだのはずっと目の前で同じく横になっているランヴィが話しかけてくるからだ。

 

『ケンシン。ケンちゃん。……ああ、喋らなくても聞こえるから頭の中で答えて』

 

 ……どうしたんだろうか。

 添い寝するような距離感は正直に言って助かる。魔人どもの視線に晒される地獄の中で物理的に視界一杯に広がる美貌はまるでオアシスのようだった。

 そんなことを思っていると、ランヴィは蠱惑的に笑ってみせる。

 

『オアシスな私なんだけど、聞きたいことがあって』

 

 愛想よく微笑んでくる露出過多な彼女に視線が吸い寄せられるが……ちょっと待って欲しいことがある。

 今、さらっと心の中を読まなかったか? あれ? もしかしていつも読んでる?

 それって、エッチな妄想とか想像とか把握されてるってこと!?

 

『一心同体だもの。そんなことよりも珍しいなって』

 

 オレとしては重要なことを彼女はヨイショと脇に捨てるのは癖なのか? いや、その辺りを深堀りされたら死ぬんだけど。

 ただ、両手を縛られている身としては拾い上げることもできずに、頭の中で珍しいってどういうことなのかと問いかけるしかなかった。

 

『前のあなたって見捨てる時は見捨てていた気がするから。こんな危険な行為までするなんて、たった数日で随分と入れ込んでない? ……惚れちゃったの?』

 

 え? 前のオレってそんな感じだっけ?

 まあ……別に正義のヒーローでも、そんな組織にいた訳でもない。時代が変わったからってオレが変わった訳ではない。

 じゃあ、どうしてソフィアを見捨てなかったのか。

 言っておくが、数日程度の関係で惚れるようなちょろい男ではない。

 だからこれは……すごくシンプルな話だ。

 

『ソフィアを見捨てたくなかった』

 

 それだけだった。そう思える程度の関係性は生まれていたし、魔族の手に彼女のような人材を奪われ、壊されることが嫌だった。

 縛られた手を包むように、ランヴィの手が添えられる。感触はない。

 ただ、微笑む彼女と見つめ合う。……相も変わらず彼女は美しかったが少しだけ拗ねたような表情を見せた。

 

『ふーん。まあ、私ほどじゃなくてもソフィアは可愛いもんね~。そういえば、ちょっと私の妹に似てる気がするし』

 

『そういうわけじゃ……』

 

『あ、到着したっぽいよ』

 

 そんな雑談をランヴィとしている間に目的の場所前まで運ばれた。

 

「ここで待て」

 

「は? しかし1号車は……」

 

「上官命令だ。タイミングを見てお出しするらしい」

 

「了解しました。では失礼します」

 

 そんな脳内会話の末にオレはソフィアとは違い、2号車に運ばれた。

 ターフェは手筈通りに別れ、周囲には鼻息の荒い魔人たちがオレを交互に監視していた。

 

 肌で振動を感じながら、十数分以上の時間が経過したと思う。

 何回か尻を撫でられた頃になって、オレは1号車に運び込まれた。

 

 そこからはオレを出汁にしてソフィアが苦しめられていた。

 オレが乱暴にされている間、彼女の悲痛の絶叫や慟哭が心に刺さる。今からでも全員を殴り飛ばした方がいいんじゃないのかと何度も考えた。

 

『あなたは今、そんな無茶を通せる状態じゃないの。恨むなら自分の無力さを恨んでね。

 ……ソフィアのことを思うなら、もう少し我慢して』

 

 それを思うと少し肩をナイフで刺されるくらいは我慢できた。いや、痛いけど!

 

「やめろと言ってるでしょ! この、下郎が!」

 

 そして。その最中に彼女の身体から白い光が放たれたように感じた。

 

『……今のって』

 

 驚いたようにランヴィがソフィアを見つめる中、汽笛の音がした。

 短く二回。長めに一回。準備が完了したらしい。

 

 ──ドクン。

 

 ランヴィが指を鳴らすと鼓動が高鳴る。出血が止まった。立ち上がる。

 黒い紋様が焼け爛れて呻くだけだった魔人を蹴り飛ばす。他に監視をしていた憲兵たちも似たように転がっていたので、念のために殴って気絶させる。

 

 それからすぐにオレは半狂乱のソフィアの拘束を解く。暴れる彼女を抱いて「大丈夫だ」と根拠もない言葉を口にする。

 そのすぐ後にターフェも合流してきて薬を飲ませる。

 わざわざ服を脱がされ、暴力を振るわれた痛々しい痣や痕が治っていく。

 

 ソフィアはオレに抱き着いたまま、気絶した。

 触れた頬は冷たく、回復薬を飲ませなかったら死人と勘違いするところだった。

 

「君、その肩……まさか刺されたのか!? すぐに薬を──」

 

「いや、先にすることがある。非戦闘員は下がってろ」

 

「あ、ああ」

 

 悶々とすることもあったし、遅いなと思ったけど文句は言えない。少し戦えるだけのオレと違って、彼女は憲兵たちを騙し列車の進路変更と薬の提供もしてくれた。

 むしろオレこそ文句を言われないように仕事をしなくては。

 ドクン、と鼓動を高鳴らせる。

 同時に何事かと火傷のようなダメージを負いながら後方の扉を開けた魔人ごと殴る。

 

「『デストロイ・パンチ』──!」

 

 先制の一撃で相手を吹き飛ばす。

 二撃目で列車の連結部分を破壊する。オレの仕事はこれだけだった。

 

 冷風が頬を撫でる。

 列車の壁が壊れ、頭上には星々が瞬く闇夜が広がり始める。眼前には離れていく列車からこちらを呆然とした顔で見てくる魔人たち。

 

「それでは皆様、良い旅を」

 

 隣でターフェがハットを下ろし、一礼した。

 洗礼された良い礼だ。

 2号車以降に乗っていた魔人たちが慌てて魔法を放ってくるが──爆発する列車ごと吹き飛ばされた。

 少しだけスカッとした。

 




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