目覚めたら、男が激減し貞操逆転した崩壊世界だった   作:解毒草

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15 ウラシマ・ベリー工房

 ──カン!

 

 金属を叩く音がする。火花が散り、熱を肌に感じる。

 

 ──カン! カン! カン!

 

 真剣な横顔に見惚れる。

 壊れた魔導器具を修繕し、改修し、補修する。部品を手に取り付け替える。

 ルーペを使い小型部品を覗き込み工具を掴む。

 時折、額を拭って黙々と直していくソフィアがゆっくりと器具をテーブルに置く。

 

「ゴミみたいな設計ね。それ以上にフレームが歪んでる。雑に扱い過ぎ」

 

「なんだと!?」

 

「騒がない。こういうのは頑丈に見えても内部機構は脆いのよ。男に触れるように優しく扱うことね。わたくしの夫を見なさい。傷一つない。道具も同じよ。手入れをしなさい」

 

 なんて不愛想な職人なんだ。

 微笑みの一つでも見せたら男たちが殺到してくる美貌だろうに。

 代わりにオレが笑みを浮かべる。修理が完了した炭坑用魔導ランプを職人から受け取って依頼主に渡す。

 

「うちの妻がごめんなさいね。愛想悪くて。でも腕は確かなんです~」

 

「お、おう」

 

 ここで手を握ると効果がある人が多い。

 炭鉱婦のゴツゴツとした手を握り、目を見て蠱惑的に微笑む。

 

「初回だから二割引き。その代わり、他のお仲間にも教えてね。なんでも直せる魔導工学師がここにいるって。……手入れ用の道具もあるんですけど買っていきますよね?」

 

「……もちろん」

 

 女の視線はオレの顔を見て、シャツからはだけた胸元を見る。

 鼻の下まで伸ばされると分かりやすくて助かる。

 もっと脱げば稼げそうだな。

 

『駄目。こういうのは全裸よりも服を着ている方が良いよ。逆に全裸で迫ったって客は逃げていくよ。前かがみになりつつ笑みを見せる程度で良いんじゃない?』

 

 そういうものらしい。

 

「ご利用ありがとうございました」

 

 マネージャーの声を聞きながら口角を緩め前かがみになる。

 シャツがわずかにはだけて胸板がチラリと見えたはずだ。無言で目を細める客にオレは羽織った外套を指さす。

 

「ウラシマ・ベリー工房はなんでも直します! 民間品から軍用品まで! ……ちゃんと覚えてね?」

 

「は、はい」

 

「じゃあ、またね」

 

 ジロジロとオレの肢体と衣服、同時に書かれた文字を頭に刻んでいるのだろう。

 ウラシマ・ベリー工房。

 色々と話をした結果、何故か店の名前がこんなことになった。

 おとぎ話とファンタジーが悪魔合体したような店だが、やっていることは道具の修繕だ。深海に行くことも湖に物を落として新品に生まれ変わらせる訳でもない。

 

「ま、また来るから……」

 

 口元をだらしなく緩めた女が名残惜しそうに手を振って、魔女帽子に金を置いていく。

 明らかに相場よりも多めだがオレは何も言わない。

 いやあ、稼げるぞ。マネージャーと職人のおかげでウハウハだ。

 もう時代は魔物を狩って危険な場所で遺物を探す時代ではないのだ。

 まったく時代は変わったね!! お金最高!!

 

「……お待たせしました、次はお嬢様の品ですね。もう少しお待ち下さい。

 それとも、何か話しますか? 今日はいい天気ですね。こういう日はオレも気分がいいんですが、お姉さんはどうですか?」

 

 蠱惑的に微笑む。それだけで女が瞳を揺らした。

 すごいぞ。オレがこんなに喋れるなんて。ランヴィのカンペを読んでるだけだけど!

 

 話は少し遡る。

 ──方針を転換する。

 ソフィアの言葉によってオレたちは一度魔物狩りを諦めた。

 彼女曰く戦略的撤退ということだったので、オレもそれに同意するのだが。ではどうやって金を稼ぐかはソフィアが代案を用意した。

 

「身体を使うってこういうね」

 

「娼館にでも行かせると思った? いいこと? 頭の良い人間はこうして金を稼ぐのよ」

 

「なら、最初からこうすれば良かったんじゃ」

 

「あら? 魔物を呼び寄せるような男の声が聞こえたのだけど? 気のせいかしら? まさか今の時代の男と違って昔の男が女任せになんてしないわよね?」

 

「そ、そうですね。時代は共働きって奴ですよねソフィアさん」

 

 ヴァルナ移住区の通りに露店を開設。適当な廃材を拾い集めソフィアが改造する。

 彼女が常に持っていたという工具を手にして。

 オレは宣伝と会計、売り子をする。……人選ミスじゃない?

 

「わたくしの腕が確かでも人が来ないなら意味が無いわ。修理を求める客を連れて来なさい。一時間経過しても来ない場合、服を一枚脱いで貰うから」

 

 男女逆転させれば鬼畜扱いされそうな指示を出してくるソフィア。

 接客業に絶望したオレは助けを求めた。そう、幻想幽霊に。

 

『誘い方がヘタクソ。もっと優しく微笑んで。

 それと服を脱いで。上はシャツのみで。ボタンは上二つ外して。私の言うことに従えばヴァルナ移住区一番の売り上げを達成できるから! マネージャーって呼んで!』

 

「あ、うん」

 

『声が小さい! 腹から声を出す!』

 

「イエス! マネージャー!!」

 

 接客指導と会話指導をしてくれるランヴィ。

 そのおかげで開店一時間の時と違って、徐々に人が入り始めた。

 

「あ、お姉さん。ちょっと寄ってかない? 少しでいいからさ」

 

「お、お兄さん。い、いくらだい?」

 

「それの修理なら5千ロギスからだよ。

 ……そんなにガッカリしないで。待ち時間の間、オレとお喋りしようぜ☆」

 

 ウラシマ・ベリー工房と名付けられたボロ露店は、男という客寄せで人を集め、ソフィアの技術によって修理品を増やす。

 価格は控えめ。代わりに女たちにお願いして困っている人を増やして貰う。

 オレの精神力を犠牲にして。

 

 男が少ない時代だからオレみたいな陰キャコミュ障の接客でも人が集まるのは助かる。それでも一人ではムリだからランヴィのカンペが必要なんだけど。

 ……これ、ほとんどランヴィの代理として接客しているだけじゃないか!?

 

「また来たよ。ランシンちゃん」

 

 オレの新たな偽名を呼ぶ声に振り向く。

 

「……あれれ? どうしたんですか、お姉さん。昨日、魔導ポットを直しませんでした?」

 

「それが……別の物が壊れちゃって。また来ちゃった」

 

 ふっ、とオレの背後から抱き着くようにランヴィが話しかけてくる。

 

『……自分で壊したんじゃない? 危ない客リストに追加ね。ケンシン下がって』

 

「え?」

 

『マネージャー命令』

 

 一歩下がる。すると客が一歩近づいてくる。

 するりとオレの手を握る客はまるで発情でもしたかのように赤い。

 

「ねえ、その、ランシンちゃんを見てると……私……」

 

 ボン!! 何かが爆発するような音がした。

 内側から吹き飛んだ魔導ストーブに舌打ちをして職人が目力を強める。

 

「悪いわね。修理不能なほどに破損していたわ。買い取るから」

 

「い、いえ」

 

「とはいえ、今の時期は寒いでしょうから中古品で修理したのを持っていきなさい。

 ……ただ人の男に手を出すなら、その手も吹き飛ぶかもしれないけど」

 

 よほど怖かったのか。客がオレの手を離してどこかに消え去った。

 ふん、とせせら笑うようにソフィアが鼻で笑った。

 

「情けない女。お前もちょっとなびいてるんじゃないわよ」

 

「いや、そんなことは無いけど」

 

「わたくしに口答え? お前、今夜が楽しみね?」

 

 精神力を削って頑張って喋っているのに、説教するつもりか。

 戦慄するオレの顎をくいっと持ち上げて職人ソフィアは顔を近づけてくる。

 うお、なんだこの顔面力。強すぎる。

 

「……ふん」

 

 そのまま気づいたら抱かれていた。周囲の目を気にしない。違う。これは顧客である女たちへの牽制なんだ。既婚者だから変なことをするなというアピールだ。

 

「お前、ちょっとサービスしすぎじゃなくて?」

 

「チャハン家の夫はこんな感じかなって。お、怒るなら夜にまとめてくれる?」

 

「…………そうね。ただ、あまり変なアピールはやめなさい」

 

 説教された。

 変なアピールなんてしていないけど、まあ、少し控えよう。うん。

 その後、しばらくの間は普通に接客をしていると、ランヴィが呟いた。

 

『それにしてもソフィアの対応が早くない?』

 

 工具を手にして魔導削岩機を直す。ソフィアの手つきに淀みはない。

 ランヴィの指摘するようにソフィアの魔導具の修理速度は凄まじい。

 魔導工学師は、魔導具の設計から開発、修理に至るまでの全てのことができる技術者だ。適正者は少なく魔導に関するエンジニアとして重宝される。

 ただ熟練度を上げるには、魔法使いのように呪文を唱えて魔法を撃てば良い訳ではない。

 

「『アナライズ』……暗いわね『ライト』……ただの回路切れか。『リンク』」

 

 魔法への理解と工学技術。それに専用の道具と金が掛かる。

 実際に物に触れて直し、構造を解析し、壊し、作り変え、創造する必要もある。

 常に最新の情報を取り入れ、学び続けなくてはいけない。

 金に困らない貴族なら習得できるだろうが……オレの知る貴族は魔法や剣技の習得に力を入れがちだ。ソフィアみたいなのが珍しい。

 

「昔、母がこういうのに興味があって教えてくれたのよ」

 

「お母さんが」

 

 開店して四日目の夜。噂を聞きつけてやってきた炭鉱婦の管理者が提示した魔力測定器の修理を鼻で笑って直して人がいなくなった頃だった。

 興味本位でソフィアに聞いたらあっさりと教えてくれた。

 

「こんなこと貴族がすることじゃないって。本当は魔法だけを極めさせたいなんて言っていたけど、趣味でする分ならって色々と教えてくれたのよ。

 わたくしとしてはこっちの方が面白かったけどね」

 

「趣味のレベルは超えてないか?」

 

「やるなら徹底的にする。それが我が家の家訓よ。おかげで今のわたくしがある」

 

「徹底的に」

 

「ええ。なにごともよ」

 

 魔物狩りでの勝者特権としてオレの手弁当を所望したソフィアの言葉だ。

 上品に食べながら沈黙を埋めるようにそんな話をしてくれた。

 

「それにしてもこんな露店に憲兵が来るとは思わなかったわ」

 

「確かに。でもさっきの魔人は自分のミスで壊したんだって。普通の店だとバレるから」

 

「嫌だわ。ミスの隠ぺいじゃない」

 

 嫌そうな顔で机に置いた魔力封じの手錠を弄る。

 店仕舞いの前に片づけるつもりなのだろう、中の回路を捏ね繰り回している。魔法の火を使って器用に火力を調整、修理を行う。

 

「魔法使いと天職を併用して良いことは工具が少なくても魔法でカバーできることよ。それに、こうして逃亡しながら稼げるもの」

 

「ソフィアは、元々亡命する予定だったっけ?」

 

「そうね。魔法使いか魔導工学師か、たぶんありふれた前者よりも後者で稼いでいくつもりだったわ。今みたいな感じで。……修理完了。これは明日、渡せばいいわね」

 

 職人は終わり。トンガリ帽子を被り直したソフィアが目を細める。

 暗がりから細身の女が近づいてくる。

 

「仕事は順調なようだね」

 

「ええ、おかげさまで」

 

 ターフェだ。普通の村娘みたいな恰好で完全にヴァルナ移住区に馴染んでいる。昔から住んでいたと言われても納得しそうだ。

 彼女は壊れたガラクタを抱えている。……いや、魔導浄水器だ。何回か見たから分かる。

 

「今日は店仕舞いよ」

 

「そんなこと言わずに。宿のやつだよ? 直せば宿代を減らすってさ!」

 

 ソフィアの冷たい言葉に気にした様子も見せずにターフェは笑う。

 なんとなく髪の毛を纏める髪紐を取りたい衝動に駆られながらも話を聞く。

 

「ところで良いニュースと悪いニュースがあるけど、どちらから聞きたい?」

 

 ターフェの瞳がオレに向けられる。オレが選ぶの? なら……。

 

「良い方から」

 

「ヴァルナ移住区から工房への仕事依頼を貰えた。前払い分でも十分に稼げた」

 

「おお~~! でも店を開いて数日だけど?」

 

「僕が地区に工房の宣伝と営業をしておいた。君のような男が店の看板を背負い、ソフィアのような実力者が結果を示す。地区から了承を得るのは簡単だったね」

 

「いやいや、営業力高すぎる! 営業部長だ!」

 

 パチパチ。拍手すると恭しく礼をしてみせるターフェ営業部長。売り子しかできない(ランヴィのフォロー前提)オレのヨイショもするなんて惚れてしまいそうだ。

 

「……で? 悪い方は? 正体を掴まれたとか?」

 

 対してソフィアはどこか渋い表情を見せる。

 

「まさか、僕がそんな失敗は……一回、二回の事故はあっても今回は無かったよ」

 

「じゃあ、なによ」

 

「このヴァルナ移住区の建国祭に七魔聖が来る。

 既に地区に入り、魔聖騎士団が防衛を担うことになった。王都からの憲兵は別の従属都市に向かったらしいが……困ったことに脱出経路の見直しが必要になった」

 

 脱出経路は残念だが……誰だって?

 咄嗟にランヴィの方を見るも静かに頭を振るだけだ。

 

「ターフェ。それはどこの国の騎士団なんだ? あと、なんとか聖って?」

 

「帝国が抱える騎士団だよ。七魔聖は七人の魔聖騎士長から取った通称」

 

「……ふーん」

 

 そうですか、と思ってるとソフィアが顔を寄せてくる。

 うお、眉を寄せていても顔が良い。思わず心臓がドキッと高鳴る。

 

「七魔聖っていうのは……旧魔王軍の幹部だった魔族のことよ」

 

 別の意味で鼓動が高鳴った。

 

「……誰が来るんだ」

 

「デューク公。人間の男に擬態した魔族ね。知ってる?」

 

「知らない」

 

 誰だよ。

 全然、知らない人だった。人というか魔族だけど。

 恐らくオレが封印された後で追加された幹部なのかもしれない。

 急に興味が失せた。心臓のドキドキを返して欲しい。ランヴィも真顔だ。

 

「いや、今のはあくまで本題に入る前に聞いて欲しい話だ」

 

 肩を竦めたソフィアがターフェの尻を叩く。

 

「さっさと話しなさい」

 

「分かったから。だから僕の髪を解こうとしないで……あっ!? ……もう!

 その……デューク公は人間の男が好きらしく、度々パーティーを開いて貴重な男を自分の物にしようとしている悪癖があるそうです」

 

 急に悪女に虐げられる弱い令嬢になったターフェはチラチラとオレを見てくる。

 そんなに上目遣いをされても困るのだが。

 ん? というか人間の男が好きって……?

 

「それはエッチな意味で?」

 

「エッ!? あ、いや、人体実験的な意味です。貰われた男は戻って来ないとか。詳細は分からないですが。

 それと建国祭の前夜に歓迎パーティーがあって、ヴァルナ移住区にいる男は全員が参加を義務付けられていまして……ケンシン君にも出て貰いたいなって。どうですか?」

 

 どうですかって言われても。

 え? 旧魔王軍幹部に会って来いってこと!?

 




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