目覚めたら、男が激減し貞操逆転した崩壊世界だった   作:解毒草

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16 二日で行う魔力制御訓練

「反対ね。七魔聖のところに連れて行けばもう戻って来ないかもしれない。男の人体実験なんてする魔族なんてろくでもないに決まってる」

 

「けど男の参加は強制ですし、今逃げようとしても間違いなく騎士団に捕まる。ただ、ここで承諾を取れば脱出経路を再確保するだけの時間が生まれます」

 

 聡明な女たちがにらみ合う。

 …………。

 

「いいよ。やる。伝えといて」

 

「ケンシン。お前、何を言ってるのよ!」

 

「何って、時間稼ぎ」

 

 ソフィアは仕事をしている。ターフェも同様にだ。

 それぞれができる分野で力を発揮し、幸福な未来に向けて足場を作っている。

 じゃあオレは? 今回戦闘面でも足を引っ張ったオレは?

 売り子くらいしかできないなら、表面上だけでも従順に振る舞って脱出準備を進めて貰うしかないのではないか?

 

「別にデスゲームを開催するとかじゃないでしょ? 帰ってくる男もいるよね?」

 

「たぶんね。労働層の種馬用に大抵は残される。けど……」

 

「じゃあ、大丈夫だって。頃合い見て逃げるからさ。二人は準備を進めて」

 

 ピースサインを見せるオレにターフェがジッと見てくる。

 

「ならわたくしも参加するわ」

 

「いえ、男のみのが許されるパーティーですから。むしろ当日参加よりも今だからこそできることをソフィア様には行って頂きたい」

 

「……お前、わたくしに指図なんて生意気ね」

 

「あの頃とは違うんです」

 

 顔を近づけてにらみ合うソフィアとターフェ。

 なんだろう、今日はいつになくキスでもしそうなほどに顔が近い。

 

「ケンシン君。その日が来たら私も脱出の為のフォローをします。その計画も練りますから」

 

「あ、はい。お願いします」

 

「安心して、なんて言いません。でも、見捨てるつもりはないので」

 

「……うん」

 

 一緒に逃げてソフィアを救出した仲だ。多少は信じられる。うん。多少は。

 それよりもだ。

 

「ソフィア。オレを心配してるの?」

 

「……別に。ここまで来て七魔聖なんかに離脱させられたら気分が悪いだけよ」

 

 顔ごとオレから背けたソフィアの言葉。

 ツンデレみたいな発言だが、多少は心配してくれたら嬉しいと思う。

 

「じゃあ、そういうことで。あと悪いんだけど残り二日は一人にしてくれないかな?」

 

「それは……」

 

「ごめん。一人にして貰えないかな? その、準備とかしたいから」

 

「っ」

 

「……ええ」

 

 なんだか暗い表情だったが彼女たちは頷いてくれた。

 暗くなっても仕方がない。時間が止まらないなら覚悟を決めるしかないじゃないか。

 

 そんな訳で生誕祭の前日まで二日しかない。

 ウラシマ・ベリー工房は店を閉じて、パーティー会場となる場所にソフィアが出向、ターフェ指導の下で何かしらの準備を始めた。

 同時にターフェは脱出ルートの確保と言って姿を消した。まあ夜には戻って来るけど。

 

 今回、オレは一人だ。

 ソフィアの技術をオレは有していない以上、邪魔でしかない。せいぜい、彼女たちの為に昼ごはんを用意して二人に渡すくらいしかしていない。

 それ以外はひたすら一人で部屋にこもる。

 

「という訳でランヴィ、訓練をお願いします」

 

 オレにできることはただ一つ。頭を下げることだった。

 残った全ての時間を彼女に捧げるのだ。ランヴィにオールベット!

 

『弱音を吐いたら見捨てるからね☆』

 

「が、頑張ります」

 

 むん、とやる気を見せるソフィアだが恰好はラフだ。

 緩めのキャミソールに際どい丈のホットパンツ。やけに生地が薄いのはともかくヨガとかストレッチでもやるような姿だ。

 

『その通り』

 

「え? 本当に? そういう感じ?」

 

 走り込みや筋トレによる成果は二日後ではない。ああいうのは継続が全てだ。

 では技の習得を今からやるべきか?

 色々と考えてその訓練内容をランヴィに任せるつもりだったのだが……。

 オレの疑問にランヴィは静かに首を振る。

 

『必要なのはデストロイシリーズの習熟よりもセカンド状態を長く維持することだよね』

 

「うん。そうだね」

 

 彼女は語る。

 

『結論から言えば、まだ心臓がケンシンの身体に適応しきれていないんだよね。それに常に全力状態だからガス欠になっちゃうのが早い。

 心臓からあふれ出る魔力のコントロールをしないと』

 

「……えっと、つまり、どうすれば?」

 

『深呼吸しよう。吸って吐く。真似して』

 

 スーハー。スーハー。

 それなりの広さがある密室で二人きり。床であぐらをして呼吸を繰り返す様を目の前のランヴィと同じように行う。

 気がつくと目を奪われるようにオレは彼女を見ていた。

 豊かな胸元が上下に動き、凛とした美貌は落ち着きを見せる。目が合う。真剣な顔だ。

 

『そして次に宙に浮きます』

 

「なるほど。……いや、できるか!」

 

 ふわ~と当然のように床から身体を浮かせるランヴィに叫ぶ。

 え? できないの? みたいな顔をされても困る。も、もしかしたらオレもできるようになっているのか? サードライフでは浮けるようになったのか?

 

『まあ、冗談だけど』

 

「腹立つ」

 

 ランヴィはぬふふ、と笑ってみせた。そしてオレの胸を指さす。

 

『肩から力が抜けたところで今度は自分の鼓動を感じて。ゆっくりと深呼吸ね』

 

「……ああ」

 

 ゆっくりと呼吸する。なんとなく血が身体を巡るのを想像する。

 静かな部屋で深呼吸を繰り返すと、ゆっくりとだが心音が聞こえてくる。トクトクと一定のリズムを刻む鼓動が耳の奥に聞こえた。

 

『じゃあ、心臓を高鳴らすから。落ち着いて深呼吸して』

 

 ──ドグン!

 

「……ッ!?」

 

 まるで車のエンジンを鳴らしたような感じだった。

 心臓を爆発させ、体内を魔力と血が濁流のように全身に流れる。身体が熱を持ったようにカッと熱くなる。

 同時に頭の中は異様なほどに冴えていく。感覚が研ぎ澄まされていく。

 

『以上』

 

 …………ん?

 

「終わりか?」

 

『その状態をずっと維持しなさい』

 

「それだけ?」

 

『いいから。瞑想して。地味とか考えない!』

 

 つまり瞑想訓練か。いいだろう。

 吸って吐いて。ランヴィの肢体に目を向け、体内を流れていく魔力を感じ取る。

 なんだ余裕じゃないか。

 一瞬だけそう思ったオレは心臓から湧き出し続ける魔力で徐々に息ができなくなった。

 

「す、すとっぷ!」

 

 叫ぶと鼓動が収まっていく。

 

「げほっ、げほっ……」

 

 身体中の熱や倦怠感、疲労感が凄まじい。倒れるオレをランヴィが見下ろす。

 胸元でわずかに隠れた顔には楽しそうな笑みが浮かんでいた。

 

『三分休んだらもう一度ね』

 

「ま、待って。そのペースでやるのか!?」

 

『当然』

 

 ──ドクン

 

 高鳴る鼓動が耳の奥で唸りを上げる。

 まるでギアを上げるように身体が軽く、熱く、滾る。その熱は心地よいが時間が経過すると自分の身体を焼き焦がすかのごとく心臓を圧迫していく。

 

『とりあえず十五分。

 心臓から発生する魔力をコントロールして。その後は三十分と伸ばしつつ雑談ね』

 

「こ、これ……き、キツイ……」

 

『そりゃあ他人の魔力を運用してるんだよ? 難しいって』

 

「た、にん?」

 

『ある意味ではね。ほら、考えないで集中して』

 

 心臓からあふれ出るエネルギーの量を調整する。

 簡単に言えばそれだけだが、その力にオレは押し流されそうになる。座っているだけで苦しむオレに対して、ランヴィは静かに微笑む。

 

『大丈夫。二日もあれば最低限はできるから。私の心臓に適応しなさい』

 

「私って……」

 

『あなたはスギシタ・ケンシンで私の弟子だよね。なら大丈夫。はい、もう一回』

 

 ──ドグン

 高鳴る心音が耳の奥を叩く。情報と魔力で頭が溶けそうになる。

 身体が燃えるようで、放置すればその熱がオレを焼き焦がしてしまいそうだ。それを抑え、あるいは受け流すように苦心しながら、考えることを止める。

 

 ただ、息を吸って吐いて、ランヴィを見つめた。

 身体は熱く、しかし意識はより鮮明に彼女を映し出す。

 不思議な時間だった。

 意識の外の情報が消えていき、目に映る時間は停滞し、ランヴィだけが最後に残る。

 

 ──ドクン

 

 高鳴る鼓動に細胞を血と魔力が巡る感覚に息を吐く。

 その肢体を、美貌を見つめる度に、思う。より彼女を長く見つめていたいと。

 

 透き通った眼差しを見つめていると、不思議なことに少しだけ雷雨のような心音も滝のような魔力の流れが収まってくるのを感じた。

 穏やかな川を少しイメージした。

 これなら、顔を出して息ができる。息を吸って熱い空気を吐き出す。

 

 ……なんか、できるようになってきたかもしれない。

 

『ね? 慣れてきたでしょ?』

 

「……ん」

 

 最初は思い込みだったかもしれない。

 でも、『できる』って言ってくれる人がいると。

 それも直感で嘘じゃないと感じられると、不思議とやってやろうと思えた。

 

 そんな感じであっという間に一日が経過した。

 どこか暗い顔のソフィアやターフェを見送り、二日目も同様に訓練を再開する。

 

『一日で五分から十分に伸びたじゃん! やる~!』

 

「オレってやればできる子だった?」

 

『十分に伸びたら服を一枚脱ぐって言ったのが効いたかな?』

 

「いや、違うから!」

 

 ふっとランヴィが笑って小首を傾げた。ちくしょう。手玉に取られてる……。

 上は下着のみになった彼女は惜しげもなく胸元を見せてくる。

 ダメだ。目が吸い寄せられる。なんて妨害なんだ。

 

『じゃあ、雑談しながらやってみる?』

 

「よし、来い!」

 

『ソフィアが列車で見せた光って聖魔法だよね? あれについて聞かなくていいの?』

 

 真面目な顔で聞いてくるランヴィに白銀の少女を思い出す。

 この世界には特殊な天職が存在する。

 予言者とか聖女とか。特に後者は魔族に有効な魔法を多数有している。ゲームでも主人公ランヴィ並に重要な存在だった。

 

「本人が言いたくないんだろうし別にいいよ。相手もオレに変なこと聞いてこないし。……それに、工学と魔法ができる頭脳に聖女って意味わからん」

 

『天職三刀流か。私たちの時代にいたら魔王を名乗ってもいいんじゃない?』

 

「いや、才能だけでなんとかなる世界じゃなかったろ」

 

『そうだけどね。でも、あんなすごい子だからケンシンは帝国以外の国に亡命させたいんでしょ? ……そういえば、あえて亡命先を聞かなかったよね』

 

 山賊のアジトでの会話を思い出す。

 従属都市ヴァルナ移住区からコクレイ山脈を抜けると帝国を出る。そこまでは話を聞いていた。ただ、その後どこに亡命するかはタイミング悪く聞いて無かった。

 ターフェの自己紹介でも深くは聞かなかった。

 いや、聞こうとしなかった。

 女たちが二人でコソコソと亡命の話をしている時に聞けば答えは出る。

 簡単だ。それができなかっただけで。

 

「女子たちがキャッキャと話している時に割り込むのって怖いし」

 

『えー? 普通に行けばいいじゃん。ねえねえ、何してんのー遊ぼうぜーって』

 

「それができたら陰キャコミュ障じゃないから!?」

 

 こてん、と可愛らしく首を傾げながら恐ろしいことを平然と口にする女だ。

 男だろうが女だろうがランヴィなら突撃するのが容易に想像できる。

 ちくしょう。何故神様はオレにコミュ力と対人関係のスキルを与えてくれなかった。

 

『単なる努力不足でしょ』

 

「うわあ!」

 

『コントロール失敗~!』

 

 ドックンドックン。鼓動が加速するのを感じた。

 笑いながら心に刃を突き立てるなよ!

 

『まあ、ケンシンの対人関係はともかく、本来の天職とは違うのにここまで戦えるんだから十分だと思うよ』

 

「……オレの天職ってなんだっけ?」

 

『なんでもない。忘れて☆

 さあ、もう一回始めよっか。あ、服は一枚脱ぐよ』

 

「おおい! 思わせぶりなことだけ言うなよ!」

 

 ああ! 今、大事そうな何かをランヴィが服と一緒に投げ捨てた気がする!

 ……いや、今はそれどころじゃない。

 時間がない。

 ほとんど半裸の彼女に惑わされないで戦闘状態を維持する。これも重要な訓練だ。

 

『とりあえず最低限の準備はできたかな。二日間お疲れ様』

 

 そんな感じで二日間の訓練はあっという間だった。

 ソフィアとターフェの弁当を作る以外の全ての時間を訓練に注いだ。劇的に何かが変わったというほどではないが、やらないよりはマシだと思う。……思いたい。

 

 

 ◇

 

 

 強制的に招待された貴族の屋敷はかなり大きかった。

 元々、夜会やコンサート用として作ったのだろう。空中に漂うシャンデリアや、荘厳な雰囲気を漂わせる大理石の床や柱。壁に立てかけられた絵画や調度品。

 

 そんな会場には十数人の男たちが佇む。

 礼服を着ていて、どこか不安げな表情で周囲を見渡している。

 会話はない。

 総じてコミュ障なのだろう。……いやオレは事前にソフィアやターフェと会話できたし、なんなら今もランヴィと会話しているけどね。

 

 そんな子羊のような男たちはヴァルナ移住区の住人が大半らしい。

 オレたちが逃げ出さないようにか、室内の出入り口には魔聖騎士団と思われる制服に身を包んだ魔人たちがこちらを見ている。

 

「レディースエーンドジェントルメーン!」

 

 そしてパーティーの主役はオレでも男たちでもない。

 部屋の中央にある玉座。そこに座るのは──赤い髪の男だ。容姿端麗という言葉を体現したような顔つき。

 思わず舌打ちがしたくなるようなイケメンがオレたちに笑みを見せる。

 

「初めまして。私はメタモル・デューク公と呼ばれる者だ。楽にするがいい」

 

 足を組んで偉そうなイケメンに騎士団から黄色の悲鳴が上がった。

 まさか今の時代はこんな男がいいのか? 俺様系ってやつ?

 40年前にもいたけどさ……。今度ソフィアにもあんな感じで接するか?

 

『殴られるから止めた方がいいと思う』

 

 真顔のランヴィはドレス姿だ。むさ苦しい男たちの中の紅一点。

 露出過多なのはともかくドレスの似合う彼女は胡乱気な眼差しで男を見る。

 

『偽装状態だろうけど……知らないかな。たぶん、途中加入したとかじゃない?』

 

 オレよりも記憶があるランヴィが言うのだ。確かだろう。

 ただ、彼女の言葉を聞いた途端、じんわりと失意が押し寄せてきた。

 

「ん?」

 

 うわ、目が合った。

 

「……そこの男、どうした? ため息なんて吐いて」

 

「あ、すみません」

 

「私は理由を聞いている。正直に言え」

 

 まずい。目をつけられた。

 ここで謝っても理由を言わないと詰められる。でも、オレはなんで魔族なんかに失望してしまったんだろう。

 まるで何かに期待してガッカリしたみたいではないか。

 …………あ。分かった。

 

「心のどこかで期待していたんです。もしかしたら、あなたがオレの望む人じゃないかって」

 

 人というか魔族だけど。

 目が合うと戦うようなことしかなかったけど。

 でも、もしも会えたなら。あの頃のことを少しは語れたかもしれないのに。

 

「それで私がその相手だと」

 

「いいえ。僕の気のせいでした。それだけです」

 

 ザワザワと周囲が騒ぐ。

 戸惑いと驚き、そして殺意を肌で感じる。みんなオレを見てないか?

 

『初手から挑発なんてやるじゃん☆』

 

「え、今の回答まずかった? あ、あの、いや、そういうつもりじゃ……!?」

 

 ランヴィの言葉に自分の発言を振り返る。正直に答えただけなのに。

 

『正直なのが美徳とは限らないよ?』

 

 魔族とはいえ、初対面の相手に失礼な発言だったのか。

 でも聞かれたことに答えただけだし。……時間って巻き戻せないかな?

 

「貴様! 男だからって調子に乗るなよ!」

「今すぐに命を以て──」

 

「黙れ」

 

 赤色の閃光が奔った。

 抜刀してオレに迫ろうとした魔人の騎士が吹き飛ばされ──塵となった。

 

「私を見て、残念か」

 

「あ、いや、語弊で……!」

 

「面白い男だ」

 

 ゆっくりと赤髪の男は立ち上がった。

 興奮したように顔を赤らめ、恍惚とした表情だ。

 

「最初にお前を女にしてやる」

 

「え?」

 

「『ゲノム・アダー』!」

 

 突然のことだった。

 突き出した手がピカッと光ると同時に赤い光線が撃ち出され──

 

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