目覚めたら、男が激減し貞操逆転した崩壊世界だった   作:解毒草

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17 男を女に変える魔法

「……ほう、躱したか」

 

 一瞬の出来事だったと思う。

 咄嗟に一歩だけ横に逸れたおかげで赤い光線がオレの隣にいた男に着弾した。

 

「うわああああ!!!?」

 

 悲鳴を上げて転がり回る茶髪の男。

 普段はきっと家で大人しくしていたのだろう細い身体はビクンビクンと痙攣する。それを見た周囲の男たちは腰を抜かす者、漏らす者、逃げ出す者と様々だ。

 

「……これは」

 

「私の編み出した男を女に変える魔法だ」

 

 そして、オレは被弾した男が変貌する様を見ていた。

 骨がボコボコと音を立て皮膚の下で蠢く。

 身体が丸みを帯び、胸元が膨らみ、涙を流し悲鳴を上げる声が甲高くなっていく。

 

「私はね。男が女に変わって戸惑う姿が見たいんだ」

 

「……ん?」

 

 何か変なことを言わなかったか?

 慈愛のこもった眼差しで肉体が変貌する男を見るデューク公。

 優しさすら感じられるような声色で魔族は告げる。

 

「初めての身体の変化、心の変化、そうして最後には女となる。それは花と同じだ。自分で愛でて咲くのを見たいんだ。だから今宵も男を集めた」

 

「……んん?」

 

「これまでにも色んな男がいた。だが、その中で私を滾らせるのは反抗的な男だ」

 

 目の前で男から女に変わる光景にオレは頭を回す。

 

「そんなことをして……いや、いったい、何が目的なんだ」

 

「趣味だ。心の変化という観察が私を楽しませる。

 そして、意味もある。男を減らすことで人間は絶滅に近づく。周囲を見ろ」

 

「……?」

 

 デューク公の騎士たちがジッと変貌した女を見守る。

 まるで同胞を見るような優し気な眼差しは、まさか……!?

 

「そうだ。ここにいる騎士は全て私が手を掛けた元男だ。あそこに貴様を加えてやる」

 

「うわっ!?」

 

 色々と驚いている隙をついて背後から騎士の一人に押し倒される。

 

「よろこべ、貴様は今日から騎士にしてやる。その気骨を失わず、私への反抗心を捨てずに女騎士として第二の生を満喫するのだ。

 安心するがいい。貴様のやる気次第では魔人に昇格もさせよう。望むのなら私の子種で女の悦びも教えてやろうではないか。並の男よりも至福の人生を歩めるぞ」

 

 デューク公の左右を固めるように見目麗しい魔人の騎士たちがオレを見下ろす。

 その眼差しには身勝手な共感があった。

 魔族に飼われることを受け入れ、与えられた性を受け入れ、最後に人を捨てる。

 そこに自分の意思はあるのか? それのどこが至高の人生だ。

 

「……ふざけるな。人の人生をなんだと思ってる」

 

「人の人生? そりゃあ……私を含めた魔族の為の物だが?

 貴様ら人間はもう終わったのだよ。辛うじて生き永らえているだけの家畜だ。それを私のペットとして良い人生を送らせると言っているのだ。

 誇りに思え。貴様は私が選んだ女にするべき男だ」

 

 何を言ってるんだコイツは? そんな顔で首を傾げられた。

 拍手が広がる。オレを受け入れる彼女たち──いや彼ら騎士団は既に魔族側だ。

 つまり、敵だ。

 

「名前は……ランシン・チャハン? ほう、人夫か。妻には立派な女騎士として職務を全うさせたら帰してやろう。女同士でいちゃつくのもまた良きものなり」

 

「ヘンタイが!」

 

「……また侮辱した! だが許す! 絶対に女にする!! 押さえておけ!」

 

「ハッ!」

 

 手をオレに向ける。うわ、手のひらに目がついている。

 そこから赤い光が収束していく。

 暴れるか? いや、思ったよりもオレを押さえる元男のパワーが強い。

 

「今日が貴様の誕生日だ。後で祝杯をあげようか。『ゲノム・アダー』──!」

 

「……ッ」

 

 目の前が真っ赤に染まる。

 鮮血のような赤色だ。というか眩しい…………。

 

「……なんだ? 私が外したのか?」

 

 光が収まり目を開く。困惑した顔をするデューク公が見えた。

 身体に異常は感じられない。痛みもない。

 不快感や吐き気、骨や皮膚が変形するようなおぞましい感じはしない。

 

「まあ、いいだろう。仕切り直しだ」

 

 勝手に何かを納得したような顔でデューク公が近づいてくる。

 手をこちらに向ける。手のひらの目玉がジロリとオレを見つめてきた。

 

「ひい!?」

 

「もう一度受けよ。『ゲノム・アダー』……!」

 

 ──ドクン

 

『二度も受けなくて良いよ』

 

 心臓の鼓動が高鳴る。力が湧いてくる。

 数歩近づいてから放たれた赤い光線を、オレは背中に圧し掛かった騎士を盾にするように身体をねじる。

 それでも被弾した気がするが、それ以上に女騎士が光を受けた。

 

「あああああ!!?」

 

 まるで痛みでもあるかのように悲鳴を上げる。

 

「誰か……たすけ……」

 

 女騎士の中身がどうなっているかは分からない。

 だが、ぐずぐずと中身が崩れて塵になった。……死んだ。

 

「なんで」

 

「貴様が避けたからだ。だからミディアムは死んだのだ」

 

「ふざけるな! お前の光線の所為だろ!」

 

「そうだとも。私の光線に女は耐えられない。死ぬ。耐える必要があるのは男だけだ」

 

 まるで出来の悪い生徒を相手にする教師のようにデューク公は語った。

 その言動に態度に、眼差しにオレの身体の奥底が煮えるように熱くなる。

 

「いけ、我が騎士団よ。命の使いどころだ。死んでもその男を捕えよ!!」

 

 その号令に元男たちである女騎士団が襲い掛かろうして──

 

「そこまでだ!」

 

 声が響いた。

 揺れる地面。転倒するテーブル。傾くシャンデリアは砕け散る。

 給仕(男)が悲鳴を上げ、カトラリーが散らばる中、全ての照明が一人の女を照らす。

 

「何者だ!」

 

「フッ……名もなき怪盗なり。貴様が持つ宝を奪わせて貰いに来た」

 

 シルクハットとマントを身に着けた少女が両手を広げる。

 まるで舞台俳優のような身のこなしと度胸。そして注目を一身に浴びる。

 

「知らん! 道化は呼んでない! 殺せ!!」

 

 デューク公の怒号に騎士団による魔法攻撃が炸裂した。

 炎、水、氷、とどめの爆発に悲鳴が周囲から広がった。

 少女一人が消し飛ぶ。その残酷な光景を見上げながら迫る給仕の一人に足払いされる。

 

『男装似合うね』

 

 全ての照明が消えて生じる暗闇の中、コロコロとランヴィが笑う姿が鮮明だった。

 もう戦う必要が無いとばかりに鼓動が収まる。

 転倒する先には配膳用の台車。

 そこに無言で押し込む男の恰好をした給仕は逃げ惑う他の給仕たちに混ざる。

 

「……いいよ」

 

 ボソッと小さく給仕が呟く。

 直後、広間を支えていた全ての柱が爆散した。

 

「襲撃だ!」

「公を守れ!」

「どこから……!?」

「落ち着け。外の騎士団を呼んで来い!」

 

 現場は混乱状態だ。

 いや……なんとなくだが分かる。直感だが視線を感じる。

 

「そうか。その男か。お前たちもその男が欲しいか!! だが、それは私の物だ!!」

 

 恐らく闇魔法による暗闇にあらゆる照明が光を灯さない。

 周囲には悲鳴と混乱の声を上げる魔人や逃げ惑う給仕、そして男たちの間を男装給仕のターフェがオレを入れたワゴンを手に移動する。

 相手も見えないはずだが、明らかにこちらに向けて赤い光が収束する。

 まずい。迎撃するべきか?

 

「座っていなよ。大丈夫だから」

 

 いや、見上げるターフェはピンチを楽しむかのような不敵な笑みを浮かべる。

 そのまま出入口近くの壁にそっと触れる。

 

「──夫婦の間に割り込む男は殺されても文句は言えないのよ?」

 

 ガコン。広間の壁の一部が砕ける。

 突き出される手。一瞬だが見えた凛々しい白銀の美貌。

 そこまで見えたが給仕がさっとワゴンに布を被せる。だからその後のやりとりは音声だけだった。

 

「『ゲノム──』」

 

「『ライト』」

 

 カッ!! 崩れそうになる広間に太陽が昇ったような光だ。

 布越しでも目を細める眩しさ。

 

「目が!!? 目ッ! めええええ!!?」

 

「では、皆様。ごきげんよう。『ヴァイラ・ファイア・エクスプロード』──!!」

 

 ズン、と腹に来る爆炎が広間に響いた。

 悲鳴を飲みこむような業火。それを嗤う聞き覚えのある女の声。

 それからしばらく静寂が広がった。

 カラカラとワゴンの車輪が回る音に、誰かが追い付いてくる足音。

 

「……七魔聖とか言う割に大したことないわね」

 

「あれだけ入念に準備して失敗する方が難しいよ。あとは脱出だ。油断しないようにね」

 

「誰に言ってるのよ」

 

「人のお尻を叩かないで貰えるかな」

 

 ワゴンから顔を出す。

 男装した女が二人。どちらも見覚えがある。こちらを四つの瞳が見つめ、見下ろす二人の手がオレの頭を掴んで再び押し込んだ。

 

「なんで!?」

 

「今からお前を捨てるからよ」

 

「ああ。すぐに君をゴミにしなくては」

 

「ゴミ!? やだ捨てないで! 嫌なところがあったら治すから!」

 

『ケンシン。今は静かにした方がいいよ』

 

 女三人にゴミ扱いされてる!?

 不服だが、文句を言っている場合ではなかった。

 

「ランシン・チャハン──!! 貴様は必ず私の物にするからな──!!」

 

 大声で偽名を呼ばれる。デューク公の声だ。

 

「どこに逃げようと地の果てまで追いかけて、貴様を──!!」

 

 コワ~。ヤンデレか? 二度と会いたくないな。

 同意するようなソフィアの舌打ちとなだめるターフェの声が聞こえた。

 

「流石は七魔聖かな? だが討伐が目的ではない。つまり僕たちの勝ちだ」

 

「……ふん。つまりは負け犬の遠吠えね」

 

「そういうこと。さあ、脱出だ」

 

 数秒後に浮遊感があった。

 ワゴンが大きく傾き、直後どこかに落ちていく。

 

「うべっ!?」

 

 ドサリ。何かの上に落ちる感覚があった。

 更にいくつかの物が落下してくる音。

 しばらくしてからワゴンの中にいたオレを誰かが引っ張り出して抱かれる。

 

「ケンシン。お前、わたくしがここまでしておいて怪我とか無いでしょうね」

 

 ソフィアだ。不機嫌な声でぺたぺたとオレの身体を触ってくる。

 

「う、うん。ソフィアこそ怪我はない?」

 

「当たり前でしょ。わたくしを誰だと思ってるのよ」

 

「……テロリスト?」

 

「はあ?」

 

 薄暗闇の中で不機嫌そうな声。

 ようやく慣れてきた視界の中で男装したソフィアと見つめ合う。

 思ったよりも顔が近かった。戸惑うように彼女の赤い瞳が揺れていた。

 

「……んん!」

 

 そんな咳払いにすぐ隣にターフェが佇んでいることに気づいた。

 暗いと分からないものだ。

 

「ターフェも男装似合うね」

 

「ありがとう。ひとまず第一作戦は成功。このまま第二作戦に移行しようか」

 

「ああ」

 

 一応、作戦が二つあるのは知らされていた。

 オレがランヴィと訓練をしている間も、二人は頑張って脱出ルートの確保やその為の準備などを色々としていたらしい。

 細かいところは省かれていたが伝えられた作戦は二つ。

 一つ目がパーティー中にオレのピンチ具合で屋敷の破壊を行う。それによってデューク公と元男たちの騎士団に混乱を引き起こす。

 

「そして二つ目が……屋敷から外に通じる経路と通じて脱出だっけ?」

 

「その通り。遅延工作と脱出で無駄がない。少ない時間でよくやったと思わないか?」

 

「思う思う。オレじゃ逆立ちしても不可能だからターフェはすごいよ」

 

「……う、うん」

 

「お前、なに照れてんのよ」

 

「照れてないけど!? 少し予定より遅れ気味だからね! 早歩きで行こうか!!」

 

 ターフェが先導する。

 オレが殿をすると言ったが聞かないソフィアに背中を押されて通路を進む。

 ゴミなどが廃棄されている通路には魔物が徘徊している。ゴミを食べる魔物のおかげで匂いはそこまできつくないが長居はしたくはない。

 戦闘を回避する方針でターフェがオレたちを先導し、しばらく無言で足を進める。

 

「……左の通路を78歩。まっすぐ206歩。そこにある壁からコクレイ廃坑帯に繋がる。かつての脱走者たちに感謝しないと」

 

 彼女が押した壁はグルリと回転した。中に入る。

 

「ようやくマシな息ができるわね」

 

 豪快に給仕の服を脱ぎ捨てる彼女たちから周囲に目を向ける。

 先ほどまでいた場所とは全然違う。

 周囲は岩盤で覆われていて壁に設置された魔導ランプが不規則に点滅する。

 廃坑帯と言っていたが、炭鉱だった場所か。

 

「ここは既に山の中なんだよな」

 

「そう。そしてここからはトロッコで行こうか」

 

「……随分と用意が良いわね」

 

「亡命希望者用に密かに修復された物がある。そこまでしばらく歩くよ」

 

 ターフェは索敵能力が高かった。

 魔物の接近にオレよりも早く気づいてソフィアに告げる。オレの魔物を呼ぶ魔力については彼女にも共有されているから頼りにされないのが少し残念だった。

 索敵を完全に任せて周囲を見渡す。暗褐色の石がときおり壁から覗いていた。

 

「あれ、なんだろ」

 

「……ああ。あれはクエイクコアね。こういうところで採取できる魔力コアよ」

 

「最新魔導具の回路でよく使われるらしい。ただこの辺りは採りつくされたんだろうね」

 

 だから廃坑帯なのだろう。

 そんな雑談をしているとターフェの言葉通りにトロッコを見つけた。

 岩盤付近の錆びたリールの上に設置され、存在感の薄さに妙な共感が沸く。

 

「これで廃坑帯を抜ければ目的地の砦はすぐだ。それで亡命の手続きをしてもらう」

 

「……やっと」

 

 吐き出すようにソフィアが呟く。

 確かに色々とあった気がする。やっと、と口にする気持ちは分かった。

 

「もうすぐだね」

 

「ええ」

 

 トロッコは運転手が乗る小型機関車に二両が連結されていた。燃料と思わしき魔力コア(マグマコアと呼ぶらしい)がいくつか隠すように用意されていた。

 準備を進める。

 その最中だった。ランヴィが顔を上げる。

 

『なんか揺れてない?』

 

「……地震か?」

 

 それにしては何か変な感じだった。

 グラグラ揺れるというよりは、何か地面を踏みしめるような定期的な振動だ。

 

「……ターフェ」

 

「分かってる」

 

 トロッコのエンジンが掛けられる。

 何かを見知ったような顔でソフィアがターフェを呼ぶ。いずれも真剣な顔だ。

 オレがいない間に何か情報を掴んだのか。それとも既に知っていたのか。

 

「二人ともこれが何か知ってるの?」

 

「ええ。前に淑女的に話をした憲兵がいたでしょ? そいつから重要なことを聞いたのよ」

 

「……何を?」

 

「カリグラードで作られた巨大な魔物が……国外にある蛮族のコミュニティを破壊したって。そのままわたくしの亡命先を踏み潰すって、あの女は笑っていたわ」

 

 トロッコが動き出す。

 ガタゴト、と小さな振動で走るがそれ以上に不安を煽るような地響きだ。

 

「ただ、今の僕たちには手出しができない。なんせ距離があったからね。他のエージェントに接触して伝えて貰ったが……まだ潰れていないことを願うよ」

 

 それからしばらくしてトロッコは廃坑帯を抜けた。

 




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