目覚めたら、男が激減し貞操逆転した崩壊世界だった   作:解毒草

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19 死亡フラグ

「それでアストリア砦に到着したと」

 

「はい」

 

 目の前の女性たちからの質問にオレは答えていく。

 こういう時、可能な限り嘘は言わないことが大事だ。どうしても嘘を吐きたいのなら事前に本当のことを言っておくことでバレにくくなるからだ。

 そして特に何も思いつかなかったので、普通にこれまでの話をした。

 

「……ふむ」

 

 尋問官と呼ばれる女性が机に置かれた天秤を見る。

 魔道具だ。対象の嘘が傾きによって判断されるファンタジーな尋問道具だ。幸い、多少揺れることはあっても許容範囲内だろう。

 

「ああ、少々お待ちを」

 

 そう言って女性は周囲にいる女性たちと小声で会話を始める。

 その間オレは勧められた菓子を口にする。お茶も。

 

『なかなか好待遇じゃない?』

 

 ランヴィの言葉は最もだった。

 砦内に案内されて真っ先に尋問室に連れて行かれたが痛みが伴う訳でもなく、ここに至るまでの話をすることになっただけ。

 それも菓子や茶、膝掛け用の毛布すら渡される好待遇だ。

 ただ、もしもを懸念しているのか、狭い室内には数人の女性がオレを監視していた。

 

 あんまり見ないで欲しいな。

 自然と背を伸ばし凛々しい顔(ランヴィには苦笑された)で体裁を保っていたオレもそろそろ限界が近かった。

 オレはコミュ力が低い陰キャなのだ。

 やけに顔面偏差値の高い女たちに囲まれると口が重くなって仕方がない。

 

「ではスギシタさん。最後に測定器に手をお願いします」

 

「はい」

 

 なんとなく尋問が終わりに近い雰囲気だった。

 やれやれ。手を水晶に乗せる。

 これも知っている魔道具だ。天職測定器。対象の天職が表示されるが……。

 

「ん? ……失礼ですがもう一度お願いします」

 

「あ、はい」

 

 わずかに尋問官の眉が寄せられる。

 接触不良かな? 菓子のカスで汚れた手を拭ってもう一度──

 

「無職?」

 

 ぽつり、と呟かれた彼女の言葉が聞こえた。

 ひそひそと女たちがオレを見て囁き始める。陰口は止めてくれよ。

 

「故障か? 文字通りに適正が存在しない生き物はいないはずだ」

「いや、40年前の呪いで無職の男は大勢いたはずだ」

「さっきの話を信じる気か? 本当にあのリターンヘイヴンの人間だと?」

「教会が黙っていないぞ」

「……人間ではないとか? 擬態した魔物の可能性は?」

 

 おっと? 雲行きが怪しくなってきたぞ?

 ニコニコとしていた周囲の女たちが真顔で武器を構えている。

 

「失礼。君はリターンヘイヴンの構成員スギシタ・ケンシンであっているか?」

 

「は、はい。一応、本人です。本当です」

 

「……隊長」

 

 尋問官は壁際に目を向ける。

 背中を壁に預けている黒髪の女性──数時間前にオレとソフィアを助けてくれたグレイナはここまで無言を貫いていた。

 ジッとオレを見つめてくる彼女は静かに口を開いた。

 

「これ以上はここで調べても分からないだろう。彼の話が本当なら、無職状態なのは呪いの影響と思われる。これ以上は本国で検査して貰うべきだ。

 ただ、無職にしては先ほどの戦闘行為を可能にした意味が分からないが……」

 

 意味が分からないのはオレもなのだ。呪いってなに……?

 オレの視線に気づいたランヴィはイエーイ、とピースサインを見せる。

 

『私とおそろいだね☆』

 

 そうだ。彼女も、ゲーム主人公も無職だった。

 あらゆる職業に適正の無い、神から見捨てられた存在と差別されていた無職だ。それは犯罪を犯した者の天職よりも希少だ。

 知る人ぞ知る存在で本来彼女たちが知るはずもないのだが……。

 

「ふむ。では彼を本人と断定するのは尚早ではないかね?」

 

 ガチャリ。狭い部屋に入って来た女性がオレを見て言った。

 誰だ? というか女が多すぎる。殆ど知らない女性だけど。

 

「お待ちください、セラディア司令官。彼は」

 

「グレイナ少佐、いや遊撃部隊長。男にかまけている暇が貴様にあるのかね? みすみす部隊を損耗させ、ヴェルナ交易都市も落とされたというのに……嘆かわしい」

 

「今、その話は関係ないかと。

 彼はあの都市を潰した巨人を仕留めた本人だ。それを私たちは見ていた。あのような芸当ができるのは現代にはほとんどいない。まして、彼は男だ」

 

「そうだったかな? あの時は、ほら、魔物の相手で忙しかったからねぇ。対空兵器が何故か故障していた上に、本砦の危機を外部の人間に助けて貰ったとは……。

 今回の作戦を担当していた君の責任問題だよ。分かってるのかな?」

 

 なんかオレを放置して女たちがバチバチやってる。

 いや、詳しい事情は知らないけど……。

 

「司令官と言いましたか?」

 

「ああ。初めまして、自称スギシタさん。私はセラディア・ヴァルク。アストリア砦の司令官をしているものだ。亡命の件は聞いているよ。それに君たちの活躍もね」

 

 妙齢の女だ。

 乳房は薄め、背は低め。茶髪の司令官はオレを見下ろすと肩に手を置く。

 

「直接は見ていなかったがあの巨人を倒したらしいじゃないか。本当なら素晴らしい。ぜひとも本国のお偉方に伝えておかないと。男でもここまでできているのに援軍の一つもよこさないとは何て無能なのかとね」

 

 オレの肩が気になるのか、妙にさわさわと触ってくるセラディアに閉口する。

 政治のゴタゴタは勝手にやっていて欲しい。

 それよりもオレたちの今後はどうなるのかが気になるのだが。

 

「で? 無職ってのは? 故障の可能性は?」

 

「交換もしましたが観測機の表示に変更はありませんでした」

 

「呪われてるなら隔離が妥当だが……。

 まあ、いいでしょう。では適当に武闘家と書いておきなさい。何か言われても人材不足による対応力の低下と……適当に測定器が壊れていたと言い張りなさい。面倒な手続きは本国でやって貰いましょう」

 

「しかし、それでは虚偽の申告に」

 

「グレイナ遊撃部隊長。真面目なのは良いことだがもっと賢くならねば。リソースは無限ではないのだよ? 壊滅した都市への救援に砦の修繕、それに周囲の魔物の死骸の撤去。

 男にかまけたいのは分かるが……ね? あまり下心を見せると怖がられるよ」

 

「……そうですか。では本国に彼らの迎えの申請を」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

 仕事の黒い部分の話を来たばかりの人間に聞かせるのはどうなのか。

 あるいは何かの意図でもあったのか。

 やけにオレに触るセラディアに対し、グレイナは目を細めてその腕を掴んだ。

 

「それと司令官。客人にみだりに触れるのは如何なものかと。

 あまり下心を見せると怖がられますよ」

 

「ああ、これは失礼! いやはやこんな廃れたところにこのようなオトコ! 女所帯だから興奮してしまったよ。自称スギシタさんもゆっくりしていってくれ」

 

 そうして彼女は出て行った。

 後には気まずい沈黙。どうするんだこの空気は。

 

『感じ悪いね~。結局、責任から逃れたいってことしか伝わって来なかったし』

 

「ん……」

 

 オレが思ったことをランヴィが見事に言語化してくれた。ついでにオレの肩をさわさわと触ってくるが感触は無かった。

 モヤモヤが晴れると同時に、グレイナが頭を下げた。

 

「すまない。司令官が無礼なことをした。必要なら上着の替えを用意しよう」

 

「いや、そこまででは。その、お仕事大変そうですね……お疲れ様です」

 

「え、あ、……ありがとう」

 

 真面目そうな彼女の頬にわずかに朱色が差した。

 モデルでもやっていそうな体型に美貌だ。真剣そうな眼差しは一瞬だけ虚を突かれたかのようにパチクリと瞬きを繰り返していた。

 まるで男に礼を言われたのは初めてだとでも言うかのような態度だった。小さく咳払いをしたグレイナは尋問官と目配せをするとオレを席から立たせる。

 

「取り調べは以上だ。また何かあれば聞かせて貰いたい。本国に迎えの依頼を出すが到着までしばらく掛かるだろう。何もないところだがゆっくりしていって欲しい」

 

 

 ◇

 

 

「取り調べが長すぎなのよ」

 

 目が合った瞬間から悪態を吐く令嬢ソフィアに賛同する。

 

「でもお菓子美味しかったよ。……お茶も」

 

 そう言うと赤い瞳を丸くして彼女はオレを掴んで揺さぶってくる。

 

「わたくしは! そんな物、出されてもいないわよ! お前、それでベラベラと喋ったんじゃないでしょうね!」

 

 なんということだ。まさかあの菓子たちはオレを懐柔する餌だった……!?

 

「や、大丈夫。殆ど大筋のことしか話してないから。ソフィアのことも」

 

 目を細めて顔を寄せてくる。やけに顔が近い!

 今、オレたちは宛がわれた部屋にいる。ひとまずの取り調べが完了して同じ部屋に放り込まれた形だ。後で個室をそれぞれに用意してくれるらしい。

 

「気前が良い。という訳ではないでしょうね。単に人が減ったから部屋も空いたってところね」

 

 ひとまず落ち着いたのか腕を組んで隣に座るソフィア。

 自然と肩が触れる距離で彼女は囁いてくる。

 

「……それより聞かないの?」

 

「ん? 何を?」

 

「だから……わたくしの……」

 

 珍しく言い淀み、トンガリ帽子を弄る彼女にランヴィが『あれじゃない?』と呟く。

 

『ジェルタス・タイタンの撃破の時に付与してきた聖魔法についてじゃない?』

 

 なんだ、そんなことか。

 一応、聖魔法についてオレは知っているが、彼女はそれを知らない。

 それは公平ではない。ソフィアの肩を掴んで覗き込む。

 

「ソフィア。先に言っておくけど」

 

「……なによ」

 

「オレはキミが聞かないで欲しいと思ったことは聞かない。キミだってオレに深く聞いてこないから。いつか自分から話そうって思ったら聞くよ。

 それにオレって口下手だから。こんなことしか言えないかな」

 

 無言でオレを見る赤い瞳を見つめる。

 

「助けてくれてありがとう。ソフィアのおかげであの巨人を倒せたんだ」

 

 そう言うと彼女は泣いているのか怒っているのかよく分からない顔を見せた。

 黙り込んで、何かを思案するように目を逸らして、またオレを見る。

 

「……別に、大した話じゃないわ。わたくしの天職が二つあるって言ったでしょ? あれ、嘘だから。本当は三つ所有しているけど帝国では誰にも開示しなかったのよ」

 

 そっと手を握られる。

 

「祖母から引き継いだのよ。聖女の適正をね」

 

 仄かに手のひらに熱を感じた。

 一瞬、目を向けるとそこには白い炎のような灯火が手の中にあった。

 

「使う気なんて無かったわ。死ぬまでね。この力の所為でわたくしは生まれた時からずっとお父様も、姉妹も、わたくしも蔑まれてきたんだもの」

 

「……それは、これからも?」

 

「ええ。聖女なんて嫌いよ。あんな自己犠牲の象徴みたいな生き方なんてしない。わたくしはわたくしの好きに生きるわ。天職も、力も、わたくしの為に使うの」

 

 この気の強そうな美貌を持つ少女の言葉が身に染みる。

 これくらい開き直れたら、きっと人生安泰なんだろうなって思えた。

 

「……ソフィアは亡命したらどうするの?」

 

「まずは金を稼ぐわ。好きに物を作って……兵器ならアークヘイヴンの戦力強化にも繋がるからスポンサーは得られるわね。時代は魔導工学よ」

 

 なるほど。技術者の道に進むつもりらしい。

 オレの脳内では既に彼女が億万長者になっている姿すら見えていた。豪奢なドレスに身を飾り、有名人として男たちを侍らせ、教科書に名前を残す偉業を成し遂げるのだ。

 ……そのころにはオレのことなんて欠片も覚えていないのだろう。

 

「ソフィア……逆ハーレム王になっても元気でね。性病には気を付けて」

 

「いや、なんで泣いてんのよ。いくらわたくしが凄くてもハーレムなんて面倒なものを作る訳ないでしょう!」

 

 怒られちゃった。

 未来のハーレム王は整った眉を吊り上げると怒りで赤らんだ顔で告げた。

 

「お前こそ、どうなのよ。わたくしと亡命してどうするのよ」

 

「オレ? オレは……今度こそ平穏なサードライフを過ごすつもりだ」

 

「なら簡単じゃない。亡命後も一緒に住みましょう。

 わたくしが稼ぐから、お前は料理とかでわたくしを支えなさい」

 

 随分と急な話だった。

 まるでプロポーズみたいな言葉に、オレは何故か動揺していた。

 

「や、あの」

 

「するの。しないの。どっちなの?」

 

 ぎゅっと手を握られて逃げ場がない。

 顔を寄せられて、このまま押し倒されそうな雰囲気に息を呑んだ時だった。

 

「ピンポーン」

 

 目を向けるといつの間にか扉のところに少女がいた。

 ミルクティーブロンドの髪を纏めている彼女は口から「ピンポーン」とアピールしてくる。

 

「やあやあ、お二人さん。あれから顔を見せないから来ちゃったよ」

 

「ターフェ」

 

「それとお節介だけど言わせて欲しいことがある。アークヘイヴンでは、そういうのを死亡フラグって言うんだ」

 

 直後にターフェが屈む。

 彼女の頭があった部分には何か氷のトゲのような物が刺さっていた。

 

「嫌だわ。死亡するのはお前ではなくて?」

 

 内心ガクブルになるソフィアの冷たい一瞥に、ターフェは肩を竦めるばかり。

 クールだ。怪盗を名乗るだけはある。

 

「ケンシン君。実はお願いしたいことがあって」

 

「ん? なになに、聞いちゃうよ」

 

 ただ、ここで暴れられて色々と白紙に戻られても困る。

 オレはターフェとソフィアの間に滑り込んだ。

 

「砦の結界を維持している子がどうしてもケンシン君に会いたいらしいんだ。防衛の要と同時に男の子だからできるだけ要望を叶えたくて……いいかな?」

 

「あー、うん。そんなことなら!」

 

 ソフィアとの間に起きたことを一度棚上げして。

 オレはターフェの導きで、ちょっとした手伝いをすることになった。

 

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