目覚めたら、男が激減し貞操逆転した崩壊世界だった 作:解毒草
街を出て、暗い街道を出た。
少しずつソフィアの屋敷が燃える赤い光から遠ざかっていく。
騎士の恰好だからか止める者は特にいなかった。
しばらくして振り返ると暗闇の中でも存在感のある城らしき建物が見えた。やがて城が見えなくなり、それを取り囲む城壁も闇夜に消えていく。
知らない城だった。
「あ、あの、ここってどこですか?」
馬の手綱を引く騎士の恰好をしたソフィアに話しかける。
「……ロギス帝国、その帝都だけど知らないの?」
「……あ、いえ、すみません」
「謝らなくてもいいのだけど」
知らない。ロギス帝国? そんな国、知らない。オレの記憶には無い国だ。
オレは何故こんな場所にいたのだろうか。
今は何年だ? あれから……。いや今は止めよう。
考えるほどに疑問が尽きないから、無理やり頭を振って思考を止める。
「これからどこに?」
「この国を出るけど、その前に鎧兜を適当な場所で売りさばく。最低限の資金が必要ね」
「資金か。確かに」
どんな時にもお金は大事だ。
そして互いについて話をするにしても落ち着いた場所が欲しい。村でも宿でも腰を下ろして息を抜く必要がある。
名前と没落した貴族という情報しかない少女に抱き着く。……硬い感触だ。
「そろそろ休憩しましょうか」
「賛成」
闇夜の中、薄っすらと陽光が空を染め始めた頃だった。
突然、ソフィアが魔法で石の塊を草原に撃ち出した。小さな鳴き声がした。
ウサギの魔物だった。
名前は忘れたがとにかく食べることは可能だったはず。
「よく当てたね」
「当然」
そう言って彼女は小さな鍋を取り出す。
彼女が用意していた袋には少量の油と塩の入った瓶、ナイフが入っていた。
保存食として硬いパンとチーズが少し。元々一人を想定したのか少ない。
「ちなみにお前、料理はできる?」
「え? まあ、それなりに」
「……じゃあ、やって貰える?」
という訳で、ささっとウサギを捌いていく。
この世界の魔物と呼ばれる存在には魔石と呼ばれるエネルギーの塊がある。要するに換金素材だ。ソフィアに渡す。
彼女は石の上に水を入れた鍋を置いて、無詠唱の火魔法で温め始める。
冒険で火魔法が使えると便利だ。
火が通りやすくなるように小さく肉を切ったら、沸いた湯に入れる。
あとはチーズと塩、薬草を削って入れる。終わりだ。
「言っておくけど、男料理だからあんまり期待しないでよ」
「何を言ってるの? 高級料理よりも価値があるわ」
「……ん、あ、え?」
真顔で言われたから反応が遅れた。
リップサービスか? でも美人の陽キャに言われると気分が上がるから不思議だ。もう少し趣向を凝らした方が良かったか?
ただ、見つめ合った赤い瞳から嘘や世辞のような物は感じられなかった。
「もう完成?」
「あ、いや、もう少し煮込みたいかな」
なんだろう。先ほどまでの魔族と相対した時に見せた皮肉や冷たさを感じない。それどころか妙に優し気な感じがする。
小さなランタンの灯火がソフィアの顔に陰影を作る。
沈黙。しかし穏やかな時間だった。
コトコト、と煮込む鍋の音を聞きながら、オレは油断して口を開いてしまった。
「どうして国家反逆罪に?」
「…………」
しまった。話題提示が突然過ぎたか。地雷を踏んじゃったか!?
天気の話題からいくべきだったか?
内心ガクブルのオレに対して、幸いソフィアが怒ることはなかった。
「冤罪よ。それも国から突然家ごと潰されたわ」
話を振っておいてなんだけど、ご飯の前に聞く話じゃない気がする。
いや、聞くけどね。
鍋に目を向けてスプーンで中身をかき混ぜる。パンも少し炙っておこう。
「この国では人間の立場なんて悪いけど、邪魔になったら潰して成果だけを奪う。ろくでもない国よね」
この異世界での大半の国は貴族とか王族がいる。
弱小貴族や平民が国の都合や貴族の悪だくみで潰されるというのはよく聞く話だ。
ただ、その話の中でオレはあることが気になって挙手した。
「人間の立場? ソフィアのいる国って誰が統べてるの?」
「魔族。ロギス帝国は魔族が統べてる国家よ」
「え!? 魔族って……魔族ってこと?」
「どの魔族かは知らないけど、そうね、お前の想像通りだと思うわ」
「そんなところに所属してたの!?」
「少し前まではそんなに悪いところではなかったのよ」
驚きだった。
魔族なんて全人類の敵なのに帝国なんて作っていたのか。いや、他の国は何をやってるんだ? 流石にいがみ合っている国家群だって手を合わせて全力で殴りにいくレベルだ。
何があったんだ?
……細かく話を聞くか?
いや、まだ、もう少し心の準備をしたい。
「新しい魔王に代わってから帝国の方針も変わったわ。
魔王に歯向かったってことで父も姉も処刑された。……わたくしは脱獄できたけど」
ソフィアの横顔は復讐に燃える人のソレだった。
裏切られ、貶められ、奪われて、国を滅ぼそうと決意した冷たい目つきだった。
「そっか。なら、しっかり食べて復讐しないとね」
「え?」
「しないの?」
「……する、けど」
呆然とした顔でオレを見る彼女はおずおずと口を開く。
「お前は復讐するなとか薄っぺらいことを言わないのね。
そんなこと許されないとか、死んだ父と姉が悲しむとか。そもそも裏切られたのが悪いとか。国の役に立てないから死んだとか」
悪役の台詞集かな?
そんなことを言われたのか、可哀そうに。光の無い瞳で一言一句を魂に刻むように口にするソフィアを見ていると、なんだか悲しい気持ちになってくる。
「誰が言うんだよ。やられたらやり返そう。復讐がダメなんて言う人は他人事だから言えるんだ。それに裏切る方が悪いに決まってるだろ」
人の心の無い言葉に丸め込まれたら、それこそ泣き寝入りすることになる。
そういう良い人たちが苦しむ姿をオレはたくさん見た気がする。
「復讐なんて許されない? オレが許すよ。
ソフィアは悪くない。奪った奴が、裏切った奴が悪い」
オレの言葉に彼女はしばらく何も答えなかった。
スープが完成直前になってから、ようやくポツリと呟いた。
「そうよね。……わたくし、悪くないわよね」
「そうだよ!」
こういうのは共感できるし、否定することじゃない。
復讐する系の転移者とか現地人は結構見てきた。本人に非があるならともかく、こういう冤罪系の物は応援したくなる。
……まあ、大抵は感情が先走って失敗に終わっちゃうんだけどね!
ソフィアみたいに一度撤退して力をつけて復讐する系は成功率が高い。なによりも魔族の国に復讐するという動機が気に入った。
「ってことは復讐を果たす為に力をつける訳だ。亡命ならどの国に行くんだ?
サントミア王国とか? ソレム学術王国? それともグランディス魔導帝国?」
暗いことなんて考えたって仕方がない。とりあえず目標だ。
今あげたのは転移者が目指す王道にしてチュートリアルと影で称される国だ。
バランスのサントミア。魔法のソレム。工学で有名なグランディス。
さあ、どれだ。ソフィアはどこに亡命したがってるのかな? 魔女の恰好をしていたから恐らくはソレムだと思うけど……。
「選択するにしては随分と古いわね」
「え? そうなの? もっとナウでヤングなのがある?」
「そうではなくて。どれも昔に滅んでるじゃない」
すごく当然のような顔でソフィアが言ったからオレは反応が遅れた。
「……な、え?」
その言葉を理解した瞬間、ぶわりと汗が体中から出た気がした。
この話の流れで流石に冗談は言わないだろう。え? でも、……え?
「ソフィア……」
「なに? ちょっと、顔色悪いわよ」
心がざわざわする。どういうことかと反射的に口を開いた時だった。・
ゴッ! と物音を立てて鍋が吹き飛ばされた。
散らばる中身。うわあああ!! いや、拾えばいけるか!?
だけど、動く暇も呆然とする暇もなく首元にナイフが突きつけられた。
「動くな」
女の声だ。料理に集中し過ぎていたか?
いつの間にか、ナイフや鉈を持った緑と黒の装束の女たちに囲まれていた。
盗賊だ。
いや、山近辺に出現するのなら山賊か? それとも帝国の手先か?
「ま、待て、彼女に手を……」
「彼に手を出すな!」
「え?」
オレより先にソフィアが叫んだ。
いや、それオレの台詞なんですけど!?
「うお、本当に男じゃねえか。久しぶりだな」
「遠目からじゃ分からなかったが……本物かよ!」
「ぐへへ。怯えてやがる。男だ。この感触、男装じゃねえ! 抱かせろ!」
妙に欲望に満ちた視線だ。
まさか世にも珍しい男を狙う盗賊か!?
いや、盗賊なら普通に女を狙えよ! 男なんか狙うな!
オレより圧倒的にソフィアだろ! ……いや、そういうのはダメだけどね!!
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