目覚めたら、男が激減し貞操逆転した崩壊世界だった   作:解毒草

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20 リュシー

 ターフェがオレを連れて行った先は砦の中心部だ。

 どことなく生活臭が漂う感じの区画、その一室に案内された。

 

「やあ、グレイナ。注文の品、連れて来たよ」

 

「ああ、ありがとう。ただ彼は物じゃないから、その言い方はどうかと思う」

 

「冗談だって」

 

 そこにはグレイナと……もう一人いた。

 目を覆うくらいに伸びた前髪、顔立ちは中性的だろうか。胸は薄い。

 紹介くらいはして欲しいとターフェとグレイナを交互に見る。

 

「じゃあ、後は男同士でゆっくりと」

 

「いや、そうはいかない。同性とはいえまだ来たばかりの人と砦内の重要人物を護衛もなく接触させるのは推奨されない」

 

「あー、そうですか。硬いねー」

 

 どこか慣れた様子で喋る二人、それをぼうっとした顔で眺める……男?

 

『ほら、アレだよ。男の娘って概念があったよね? アレじゃない?』

 

 ランヴィの言葉でなんとなく理解する。

 長い髪も綺麗な肌や服装も、確かに初見で男と判断させにくい材料だ。あるいは女しかいなさそうな砦に馴染む為の戦略かもしれないが……。

 

「あ、あの、グレイナさん」

 

 想像よりも低音でグレイナの袖を引っ張る。

 

「ああ。すまない。スギシタさん。彼……彼はリュシーだ。リュシアルが正式名称だがリュシーと呼んで欲しがる」

 

「あ、どうも」

 

 まずい。そっけない態度だったかと口にしてから気づいた。

 オート陰キャが発動してしまった。立て直さなくては。

 

「ええっとリュシーさんでしたっけ? どういったご用件でしょうか」

 

 ひとまずビジネススマイルで応対する。

 いきなり知らない人と話をしてと言われても困るが、仕事なら我慢できる。

 

「その……こんなところで仕事をしていると同性の方と触れ合う機会もあんまりなくて。亡命者はたまにいますけど、帝国からの男の人なんて私、初めてで……! 少し話をしてくれませんか?」

 

 なんだそりゃ。まるで城に住んでいる庶民を知らないお姫様みたいだ。

 それが、このリュシーとかいう男に抱いた感想だった。

 まあ、オレも男を相手にするのはサードライフでは初めてな気がする。

 

「あんまり一方的に喋るのは得意じゃないんです。だから、……互いに話をしましょう」

 

「え?」

 

「オレが帝国での話をするので、リュシーさんのことや砦の話なんか聞かせて下さい」

 

「は、はい!」

 

 一方的に話をするつもりはない。だから持ち掛けるなら情報交換だ。

 パッ、と花を咲かせたように彼は笑みを見せた。

 女に錯覚してしまいそうな見た目の彼女……いや彼にオレはソフィアとの冒険譚を聞かせる。

 

「そして……仲間であるソフィアが憲兵たちに連れ去られてしまった。オレは辛うじてターフェの助けを借りて窮地を脱した。……だがピンチであることは変わりない。そしてターフェとも出会ったばかり。彼女を信用できるのか? だが時間がない。そしてオレは決断した」

 

「ごくり」

 

 喉を鳴らすリュシーにオレは頷く。

 

「はい。次、リュシーの番ね」

 

「え?」

 

「オレばっかり話していたら疲れるから。次はキミのことを聞かせて」

 

 最初はビジネス長で会話していたが敬語はいらないと言われた。

 なんとなく見た目から似たような年齢であり、なおかつ同性なので遠慮は少ない。自然と語る内容に熱がこもり始めたが、いずれは終わりが見えている。

 それにあんまり自分の話ばかりするのは好きではなかった。

 なんというか情報を抜き取られている。そんな感じがして嫌なのだ。

 

 だからよこせリュシー。お前の情報を……!

 

「えっと私は……今はもうない小国からの難民でした。アークヘイヴンに拾って貰ってからは仕事をして、今に至ります」

 

「情報量!!」

 

「ひっ!」

 

「あ、すみません。もう少し過程をお願いします。たとえばどんな仕事とか」

 

 陰キャってレベルじゃねえぞ。こっちが頑張って話をしているんだ。

 リュシー、お前もコミュニケーションを取る努力をしてくれ。

 警戒するようにオレを見るグレイナから目を逸らして、リュシーに目を向ける。やや長い沈黙を経て、彼はぽつぽつと話を始めた。

 

「私の適正は魔法使いで……その中でも結界の構成に向いていたので軍に志願しました。元々嫁が8人いたのですが命の危機を感じたので」

 

「ん? すみません。今、何が何人いると?」

 

「は、え? えっと……嫁が8人?」

 

「ハーレム王じゃないですか!!」

 

 しかも嫁ってことはこいつ既婚者かよ! こんな顔と見た目で性豪かよ!

 何が「ひっ!」だよ。いちいち怯えるんじゃねえぞ。

 それになんでグレイナは盾を持って間に挟まってくるんだ。邪魔過ぎる……!

 

「ああ、失礼しました。リュシーさんは、その、既婚者であられるそうで。あの子供は?」

 

「16人……」

 

「多いな」

 

 絶句した。一人につき二人の子供を産ませたのか!?

 そんな奴、リターンヘイヴンでもいなかった。

 こんな見た目で陽キャを超越した存在なのか。思わず尻もちをついて平伏した。

 

「ご無礼をお許して下さい。ハーレム・リュシー閣下」

 

「えぇ!?」

 

 今度はターフェが割り込んできた。

 

「ケンシン君は長旅で疲れてるようだから仕切り直しでいいかな!?」

 

 それからオレは休憩時間としてお茶や菓子を与えられた。

 その間、ターフェは何やらグレイナやリュシーと話をしていた。

 ……なんだろう。病気とか、後遺症とか、そんな会話が聞こえるのだが? リュシーのオレを見る目が段々可哀そうな何かになってないか?

 

『あー、異常者だー☆』

 

「やめろ」

 

 そういうノリで陰キャは傷つくことを知れ。

 ケラケラ、と明るく笑う幻想幽霊をキッと睨みつけると真顔で見下ろしてくる。

 ちくしょう。顔面偏差値が高過ぎる……。

 

『繊細ちゃんはさ……時代が変わったことで常識が変わった可能性を考慮しないと』

 

「ど、どういうことだ?」

 

 一応小声で話す。

 

『さっきの男の娘、全然自信のある感じじゃなかったよ。お嫁さんや子供がたくさんいても、どこか嫌そうな感じ。忌々しい物を口にしたって目つきだった』

 

 時代が違えば常識は変わる。

 浦島太郎現象(命名オレ)を味わわされると頭がおかしくなりそうだ。

 じゃあ、何か?

 少なくとも今のアークヘイヴンはあんなハーレムな感じが普通なのか?

 

『知らなーい。それをあなたが聞き出すんだよ』

 

 頬杖をついて蠱惑的に笑うランヴィが小さなゴングを取り出す。

 何かの試合で使われそうなゴングを木槌で叩く。

 

『落ち着いて。第二ラウンドは冷静になって聞き出してきて』

 

 ──カン! カン!

 

 脳内でゴングが鳴る。

 それと同時に話し合いが終わったのかターフェがオレに近づいてきた。

 

「……落ち着いた?」

 

「ん。大丈夫。さっきは取り乱して悪かった」

 

 たとえ相手が陽キャを超えたハーレム王でも関係ない。

 戦おう。

 そして折角だから対人関係とハーレムのコツを教えて貰うのだ。

 

「リュシー閣下。さっきの話から続きをお願い致します」

 

「閣下呼びは止めて欲しいな……。

 スギシタさんは病気で最近まで外に出なかったらしいから知らないんだろうけど、子作りって私たちの義務なんだ。元々男が少ないから少子化の歯止めも効かないし。

 ねえ、知ってる?

 たくさんの嫁を持つと私が王になるどころか、種馬扱いされるんだ。あいつら人じゃないよ。人を喋る肉棒扱いだよ。子供もその悪影響を受けるし……」

 

「え、あ、ええ……?」

 

 目から光が失われたように話を始めるリュシーに、オレはターフェを見た。

 その瞳には同情の色はあっても嘘は感じられない。

 え? 男ってそんな扱いなの?

 

「彼は魔法使いとして優秀だったからね。優秀な者の種は優先して得るのが国の方針なんだ。子供は女性たちで面倒を見るから心配しなくていい」

 

「それは……元難民だったからとか? その、強制ハーレムを?」

 

「まあ、そうだね」

 

「そうだねって……」

 

 ターフェの言葉を引き継ぐようにリュシーは話を続けた。

 

「アークヘイヴンの住人で妻同士の折り合いが悪いと数は少なかったり、元から既婚者だと特例もあったような気もするけど。私の場合はね……大変だったよ」

 

 ハーレムは男の夢だと聞く。

 けど、どうしてだろうか、悲壮感を誘う語り方もあるからかリュシーの話は欠片も羨ましいと思えなくなってきた。

 

「でも子供は可愛かったよ。喋るまでは」

 

 一瞬だけ父性と狂気を感じさせる危げな瞳を見せたリュシーに話を促す。

 

「それでリュシーは……どうしてここに?」

 

「自分の人生の意味を見出す為に。義務は果たしたんだ。もう好きにしても良いんじゃないかって。最近はその……アレも動かなくなったし。

 うう……だから、薬で無理やりなのは……うわあああああ!!!??」

 

「ヒッ!?」

 

 え、コワ! なに、どうしたの?

 

「発作だ。気にしなくていい。ターフェ!」

 

「ええ……仕方ないな」

 

 グレイナの呼び声にターフェは嫌そうな顔で彼女に近づく。

 おもむろに彼女たちは抱き合った。……なんで!?

 

「ああ……百合、ユリだ……美しい……私も必ずその領域に……」

 

 抱き合う彼女たちを見てリュシーは泣いて喜んでいた。

 

「ヒヒ……百合を、ユリを眺めることが私の生きがいなんだ」

 

 その一言を聞いてランヴィが頷いた。

 オレの肩に腕を置いて、心の底から哀れむように告げた。

 

『可哀そうに。もう壊れてるんだよ』

 

 彼はハーレム王ではなかった。きっとたくさんの嫁たちや子供たちにDVを受けた可哀そうな種馬だったのだ。

 それでこんな頭のおかしい病人みたいになって……。

 

「うん」

 

 帰りたい。

 この狂気の現場よりも、今すぐにソフィアの下に飛んで帰りたくなった。

 棚上げした返事をどうするか。なんとなく答えは出ていた。

 

「それでケンシン君」

 

 グレイナと抱き合いながらターフェが振り向く。

 

「迎えが来るまでの間、彼とこんな感じで話をして貰えるかい?」

 

 ええ……。嫌だな……。

 

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