目覚めたら、男が激減し貞操逆転した崩壊世界だった 作:解毒草
働かざる者食うべからず、という言葉がある。
要するに、ちょっと頭のおかしい人の相手をすれば、無意味に砦内の食料を消費するだけの存在になるよりはマシになれるということだ。
それに、相手は砦防衛の要である結界担当の魔法使いであり、見た目はともかく男だ。
つまりオレにとっては同性だ。
女だらけな世界の中で唯一咲いたバラのような存在だ。……変な意味じゃないぞ。
「そら、フルハウス」
「はっは……やるなあ!」
まあ、男が二人いるということはだ。
遊び相手には困らない。ダイスポーカーだってできるのだ。
賭けの内容は互いの話だ。
監視役であるターフェのニコニコ顔とグレイナのクール面を交互に見ながら遊ぶ。
「転移者ってみんな君みたいな人なのか?」
「あ? いや、……陽キャとかが大半だったかな? 大抵の奴は一度死んだつもりになって異世界デビューする訳だからはっちゃけるんだ」
「へえ。じゃあ、君も?」
「オレは……どうだろうか。さ、話は終わりだ。キミの番だ」
男が二人集まって遊べば……まあ、悪くない。自然と仲が深まる。
妙に生暖かい視線を感じたが女たちの邪魔は入らなかった。
「彼女たちが呼んでる本国? アークヘイヴンの首都のことだろうけど……うーん。多少の発展はあったけど、昔と同じか、むしろレベルは下がったと言われてるよ。ここ40年近くは発展よりも食料生産の維持や種の存続が……種、子種……」
「グレイナ! また発作だ!! グレイナ!!」
「またか。ケンシン。済まないが会話に気を付けて欲しい」
「いや、勝手に自爆するんだって」
友人、と呼んでも良いかもしれない。
少し頭のおかしいところはあるが本人の意思ではないとはいえハーレム王になった閣下だ。何より今を生きる男だ。
「なら男の魔力の誘引性は証明されたのか」
「うん。40年くらい前に起きた呪いの影響と言われてる。変わったのは私たちではなくて魔物の生態系らしいけど。
アークヘイヴンではそれに着目して各地の砦や拠点に男を置いてる。結界に男の魔力を混ぜることで周囲の魔物の動きをある程度コントロールすることに成功したんだ」
「そんな技術が……時代は変わったなぁ」
「でも、ケンシンのいた時代と違って男は首都や各都市から出たがらないから。
あの醜い女どもが手放さないというのもあるけど、危険な戦地を若い男は避けがちだ」
たまに強い言葉が聞こえるがスルーする。
「……うん。男は減ったらしいじゃないか。そうなるのも仕方がない。オレは嫌だけど」
「私だって嫌だよ。だから義務を果たした上でここにいる。さ、君の番だ。次は勝つよ」
こんな感じでリュシーの遊び相手をしながら情報収集もしていた。
ソフィアとは会わなかった。彼女も忙しかったらしい。魔導工学師として砦の構成員が使う杖の改良や制服を弄っていた。
ターフェは……分からない。気づいたら傍にいる。いない時もある。
オレたちの護衛も兼任しているグレイナは見ていると不安になる。話を聞くと砦の外にある魔物の死体回収や定期的な魔物狩り、通常業務もやっているらしい。超人かよ。
ただ、いつまでも楽しい時は続かない。
きっかけは……そう、賭けダイスに負けたリュシーの言葉だった。
「百合ってどう思う?」
「どうって……」
この手の質問は既に何度かされていた。
適当にお茶を濁して欲しいとグレイナに言われていたので、そう対応していた。
ただ、この日に限って何故かオレは昔のことを思い出した。
リターンヘイヴン時代、名前は忘れたが仲間の一人が百合について語っていた。それを何故か覚えていたオレは安易に口にしてしまった。
「や、オレだったら普通に挟まるな」
「なんだって?」
確かなんて言っていたか。
「百合って最終的に男を知る為の前振りでしかないって……」
気が付くとリュシーに睨まれていた。
思わず閉口するオレに対して、彼は静かに席を立った。
「……解釈違いだ。二度と話しかけるな」
その冷たい声音や全身から漂う失望にオレは悟った。
あ、友人関係終了した。
もう取返しがつかない。陰キャにコミュニケーションなんて難しいのだ。なんで調子に乗ってしまったのだろう。過去に戻れるなら戻りたい。
『ケンシン。元気出して。私がいるよー』
一人残されたオレにランヴィは屈み込んで明るく笑う。
「……そうだな」
ふう、落ち着こう。顔の熱を手で扇いで深呼吸する。
失ったものは仕方がない。しょうがないのだ。オレって基本ボッチだし。
『どのみち、ああいう思想の強い子はケンシンには合わないよ。
たぶん、どこかで破綻してたよ。私と違って』
「……うん」
それでもオレはしばらく席を立てなかった。
オレがもう少し他人の機敏とか会話とか、そういうのを考えていたら。
そんなことを思わずにはいられなかった。
◇
「下らない」
昼食時、ソフィアと合流した。
少し浮かない顔だったのを指摘されて話をしたら……鼻で笑われた。
「そんな言い方」
「事実でしょ。考え方なんて人それぞれなんだから。
男だからって相手の顔色を窺っていたらろくな発言ができないわよ」
「リュシーは繊細なんだ。男一人で結界の維持に力を貸してくれている」
「その結果、腫物扱いなんでしょ? 嫌だわ、わたくしだったら耐えられないわね」
一方でグレイナが眉間にしわを寄せた。
「一応、彼の精神面の向上に繋がればと……スギシタさんを送ったのだが……」
「何? ケンシンが悪いって言いたいの?」
ソフィアとグレイナ。
あまり見ない組み合わせだが、相性はどうなのだろうか。
ターフェを見るとウインクしてくる。あまり良くないらしい。おかしいな。パッと見た感じ美人グループに何故かモブ男が混ざっているみたいな構図なのに。
『破滅寸前のグループみたいだね。男が原因で崩壊する奴』
そんな地雷みたいなところにいられるか! オレは一人で食事する!
……と言えないのがオレだ。
ソフィアは当然のような顔でオレの横に陣取るし、グレイナはオレたちの監視と護衛を行い、ターフェは……よく分からない。
ともかく不思議なグループとなって昼食を進めていた。
「大体、人のことを考えている暇があるの? お前は今、砦内で微妙な立場じゃなくて?」
「……それは分かってる。だから私も打てる手は打った」
グレイナの視線はターフェに向かう。
ふわっと思い出す。
確か、どこかの都市が壊滅して砦も甚大な損害を受けた責任を司令官に押し付けられていたらしいが……ターフェに情報収集を頼んだらしい。
「表向き問題なかったよ。確かに防衛作戦は失敗していたし部下に擦り付けているのは最悪だけど、それ以外の業務では問題がなさそうだったね。
多少のセクハラが多いが……人手不足の昨今、能力の方が重視されるから問題なし」
「でもケンシンに触ったらしいじゃない」
「問題ありだね」
難しい顔をするグレイナ。その表情を楽しむようにターフェは小首を傾げる。
「それと、砦の中で不自然な金の流れがあった。
結界管理のあの子の保護管理という名目で男と随分と遊んでいたようだ。それなのに金は減るどころか増えてる。これは良くない」
「増えてる?」
「街が落ちた日には彼女の通帳の桁が一つ増えてる。何のボーナスだろうね」
どさっとターフェが通帳と帳簿をテーブルに置いた。
「……ちょっと待て。盗んだのか? 私は情報収集を依頼しただけで。バレたらどうする」
「たぶん今日中にはバレるんじゃないかな?」
何やらキナ臭い雰囲気だ。
あらあら、と愉しそうに帳簿を見るソフィアがターフェの会話に混ざる。こういう時、会話に混ざれずにモグモグと食事をすることしかオレにはできなかった。
ちなみに砦内の食事は米が多い。
かつて友人だったリュシー曰く、軍には優先的に食事が出されるとか。
「流石は泥棒猫。なら話は早いじゃない。これを持って行って脅し返しなさいよ。
お前たちの司令官は帝国と繋がっている売国奴だと、そう言ってね」
「そんなことは……まだ真実とは……」
そう言いながらグレイナは通帳を見て絶句していた。
「なに、良い子ぶってんのよ。なりふり構わずターフェに依頼したんだもの。こうなるのは分かっていたはず。お前がやるのはやり返すか、黙ってやられるかの二択よ」
「……」
「女なら、今すぐに決めなさい。さあ!」
このグループ、実は犯罪集団か?
ワイワイ、ガヤガヤ、と騒がしさのある食堂で話す内容ではないと思う。いや、木を隠すなら森の中という言葉もあるくらいだ。
ただ、少し目立ってきた気がする。早めにこの話題を終わらせてしまおう。
「グレイナさん。数日接してキミのことは多少分かった。キミはいい人だ。真面目で堅物で業務に真摯に取り組んでる」
彼女の手を握る。冷たい。
「誠実にやっている人は報われるべきだ。奪われるなんてあってはならない。
リターンヘイヴンにはこういう言葉があった。殴られたら殴り返せ。自分が我慢しても幸せにはなれない。理不尽だと思ったら戦わないと奪われるだけだ」
「殴られたら殴り返す……RH法か。
軍学校時代に習ったな。無法者の法律だと思っていたが……」
黒い瞳がゆっくりとオレを見る。どこか不安定に揺れていた物は徐々に確固たる物に変貌していくのが感じられた。
力強く、オレの手をグレイナが握り直す。
「スギシタさん。そう……だな。その通りだ」
オレの意見を言っただけだったが、すんなり納得された。決断が早い。
悪い顔をしたソフィアがオレの肩を叩くが、別にフォローした訳じゃないよ。
あとはグレイナの問題だ。脅すもヨシ。脅さないのも……彼女の自由だ。
「ん?」
さて、食事を再開しよう。焼肉定食が冷めてしまう。
オレは箸を手に取って──気づけば床に転がっていた。
「な、なんだ!?」
「敵襲だ!!」
砦の壁を破壊されていた。
土埃や建材の欠片が飛び散り、食事をしていた職員を吹き飛ばす。
不意打ちをしてきたのは翼の生えた人型の魔物だ。
そいつは大きく口を開くとまっすぐにオレに向かって飛んできて──
「近づくな」
顔面をグレイナに蹴り飛ばされた。グレイナの制服スカートが捲れ上がる。見えた。吹き飛んだ先で連動するように軍人たちが所持していた杖で撲殺する。なんて連携だ。
「怪我はないか?」
「あ、はい」
トゥンク。オレの心臓が少し高鳴った。
クールな黒髪美人が美脚を晒して助けてくれる様は……なんというかグッと来た。一度空いた穴からは魔物たちが入り込もうとして、軍人たちが杖を向ける。
統率された動きで射出された魔法が魔物を吹き飛ばした。
「結界はどうなってる!」
「機能してません!」
「砦内に魔物の侵入を確認。および遠方に魔物の群れを確認」
「迎撃準備急げ!!」
グレイナの怒声で周囲の軍人たちが険しい顔で動く。
サイレンが鳴り響く。もう食事どころではなかった。
オレも動こう。そう思った時だった。
「──ランシン・チャハン。いるかーい?」
「え?」
外から声が聞こえた。ぞわりと鳥肌が立つ。同時に再び砦が揺れる。
オレは慌てて壊れた壁から外を見る。
ノックのつもりだったのだろうか、砦の門を吹き飛ばした男が顔を上げる。
赤い髪の男と目が合った。
「迎えに来たよ」
率直に思った。怖い。なんでここが分かった? 気持ち悪い。まさか追ってきたのか?
──ドクン
同時にオレは鼓動を高鳴らせて言った。
「呼んでねえよ」