目覚めたら、男が激減し貞操逆転した崩壊世界だった 作:解毒草
まさか、七魔聖の討伐よりその後の方が大変とか思わないじゃん!
砦の結界と物理的に穴だらけになった箇所の修復。
隙ありとばかりに空や地上から攻め込んでくる魔物たちの対応。
腐敗対策として死んだ軍人たちの火葬。
おのれデューク公。余計な土産を残すとは卑劣極まりない。やはり魔族は滅ぶべし。
そんな訳で二日間。魔物を討伐し砦の修繕と結界の復旧作業が行われた。
明日には応援の人員がアークヘイヴン首都、本国から来るらしい。
それに合わせてオレたちも砦から去る予定だ。
「私は悪くない! ただ地下からの潜入がないかの確認をしていただけで……!」
「砦に侵入してきた魔物の対処を他の方に押し付けたと聞いてますよ司令官。仲間を見殺しにし、役職に対する責任を放棄。対空砲撃の許可も渋ったそうですね。
そのおかげで全ての砲台を潰された。おかげで仲間も大勢死んだ」
その二日間、魔物の脅威を退けながら、グレイナは仕事をした。
押し寄せてくる魔物の対応。その間に裏切者の粛清。
私刑にはしない。ただ、生き残った軍人たちの前に引きずり出した司令官にグレイナは堂々とした様子で彼女の裏切りを追求した。
「そこの司令官はヴェルナ交易都市だけではなくアストリア砦の崩壊によるアークヘイヴンへの大打撃を帝国側と共謀していた。金銭で我々を捨てた醜い売国奴だ!」
「なんだと……!」
クールな美女かと思ったが熱いところがある。
そんなグレイナの暴言に司令官はキレていたが通帳や帳簿、更には帝国側とのやり取りと思わしき手紙を周囲に暴露されてからは歯切れが悪くなった。
「あら、嫌だわ。お前たちっていつから帝国側の人間に従ってたの?」
「その通りだ。疑うことをせず盲目的に従ってきた私たちは愚かだった。
この責任は必ず取ることになる。だが、それ以上に誠実に国の為に働いてきた我々の誇りを踏みにじったこの女こそ真の愚か者だ!
この女から権利を剥奪しなくては応援が来る前に私たちは死ぬ!」
ソフィアのアシスト付きで糾弾劇を行ったグレイナは砦の軍人たちの支持を得て、元司令官から全ての権限を巻き上げた。
司令官代理としてあらゆる権限を発動し、この二日間精力的に働いていた。
「グレイナ、すごいね」
「責任だなんだの、頭が固いのよ。あの司令官に全部の罪を押し付ければいいのに」
ふん、と鼻で笑いながらソフィアは手を動かす。
魔法使いとして魔物の撃退を行いながら、軍人が使用する杖の改良を行う彼女を見る。
「……ソフィアも頑張るね」
「当然じゃない。この砦が落とされたらアークヘイヴン西部が潰れたも同然よ。食料生産率が減少すれば亡命者を受け入れる余裕もなくなる。……それ、取って」
「ん」
部品を渡すと手ごと握られる。ん? なんだろ。
「ちなみに、わたくしは無償の施しなんて嫌いよ。ここでわたくしが手掛けた武器が活躍すれば、後でその評価は必ず返ってくるもの。これは投資であり宣伝活動みたいなものね」
「……まあ、良いんじゃない。それで軍人たちも助かってるし」
ソフィアが手を掛けているのは杖の改良だ。
デューク公との戦いの時、軍人たちが使っていたのは印象深い。そもそも砦にあれだけの数の魔法使いが常駐していたのは思い返すと驚きだった。
「そう言えば、その改良した武器ってのはどんなのなんだ? デューク公との戦いでも活躍していたらしいけど……」
「これは天職が魔法使いでなくても、魔力さえ注いだら誰でも魔法が使える杖よ」
「……そんなの作ってたの!?」
「ええ。お前が、あの変な男に構っている間にね。
あの頭の堅いグレイナを通じて、魔力だけはある軍人連中に貸与したのよ」
あれ? ちょっと怒ってる……?
「や、あの、もう関係は清算したし、彼、彼女は捕まったから。それに話をするのが仕事だったから。ソフィアさんも忙しそうだったし」
「どうでもいいわ。それよりも、わたくしの話を聞きなさい」
「は、はい」
「それでね。
現状の杖は数回で壊れるけど事前に設定した魔法を放てるようにしたわ。専用の工房もない砦で作ったけど無いよりはマシよね。実際に七魔聖との戦いで使えたのだし」
ソフィアが手に持つ杖を見る。
オレがいた頃にもありそうな魔法使い専用の杖だが、半分に割られて中身が弄られている。魔石や魔力コア、それを用いた特殊な回路やら何やらを使用するらしい。
「……これはオレも使えるんだよな」
「魔力があるならね。今のケンシンは魔力が微弱過ぎてダメ。死人みたい。ただ、お前が戦う時に出す魔力だと魔物が押し寄せてくるから戦わせられないわ。
コントロールがヘタクソ。
まあ、ここの連中に言わせれば、そもそも男を戦場に立たせるなって話らしいけど」
「それ、グレイナにも言われた。女尊男卑じゃない? ……あの、痛いんだけど」
「あら、失礼。それにしても本当にこの手で巨人や魔物を消し飛ばしたとは思えないわね」
あんまり手を握られると……恋人繋ぎとかされると変な勘違いをしてしまいそうだ。
指が触れ合ってくすぐったい。ちょっとエッチな感じだ。
でも指摘して自意識過剰と言われたくもない。急に無言でニギニギしてくるソフィアにオレはオレの手の処遇を任せることにした。
さて、冗談はともかくソフィアの改良はすごい。
魔法は魔法使いという天職持ちにしか扱えない。数回で壊れるとはいえ、その天職システムの制約を無視した武器をソフィアは作った。こんな砦の一室でだ。
「ソフィアさん、すごいなぁ」
「もっと褒めていいのよ」
生活を便利にするような魔道具はリターンヘイヴン所属の技術者たちも作ってはいたが、彼らが納得できる武器はどうしても作れなかったのだ。
理由は色々とあったが細かいことは忘れた。
そんなことよりもソフィアを彼らに会わせたかった。きっと、意気投合しただろうに。
「もともと帝国でも魔力コアを資源以外で軍事利用できないか研究が行われていたのよ。
あとは、お前との逃避行中にパッと思いついた回路で試したら上手くいったわ」
「いや、そんな軽く……」
「軽い旅ではなかったわね。でも、試したいと思ったことはいくつか思いつけたわ。これはその一つ、のうちの試作版ってところね」
とんでもない天才を連れて来てしまったようだ。
オレが料理を作る合間に、彼女は世界を変えるような武器を作れるのだ。鼻が高いね。
「……流石は聖女様だ。この二日間、あなた様の武器のおかげで生き延びております」
「聖女呼びは止めなさい。押し倒すわよ」
七魔聖デューク公との戦闘でソフィアは聖魔法を使った。
流石に学のある軍人は何が決定打だったのか、その目で見たから分かったらしい。アークヘイヴンに入国した際に天職測定を誤魔化したらしいが、聖女とバレたのだ。
聖女と呼ぶ軍人も増えたからか、こんな人気の無い場所でソフィアは仕事をしている。
「わたくしは聖女として生きていくつもりはない。他人に慈悲なんて与えない。けど、せっかくのわたくしの力だもの。好きな時に使わせて貰うわ」
「ネーミングバリューって奴?」
「いや、技術的な面の話よ。わたくしの天職だもの。魔法使いも魔導工学師も聖女も、使える技能も魔法も好きに鍛えて使わせて貰うわ」
ぽう、と小さな白い光が杖の回路を奔っていく。
彼女にしかできない謎の技術の一つだ。偽造防止や効率の強化に繋がっているとか。
「……その、ソフィア」
「なによ」
ランタンの灯火に照らされるソフィアの横顔を覗く。
こちらを一瞥もせずに魔力コアを弄る彼女。
相変わらず端正な美貌だ。時代が違えば転移者たちのアイドルになれただろう。
「ほら、その、アークヘイヴンに行ったら一緒に住もうって話なんだけど」
ピタッと手が止まるが彼女はオレを見なかったので話を進める。
「続けて」
「たぶん、最初は賃貸とかだと思うんだ。そこで生活基盤を築いた後はその時に考えるとして」
オレはソフィアに言われてから考えていた。
今後の身の振り方を。平穏を得る為に具体的にどうしていこうかと。
これはその一つだ。
「家賃は折半でいこう。そこは譲らないけど……どうですか?」
ソフィアが顔を上げた。オレを見つめてくる。
赤い瞳がランタンに照らされて、まるで宝石のように見えた。
「そんなものは女の甲斐性でしょうに。
変な男ね、ケンシンは。……でもその回答は嫌いじゃないわ」
小さく彼女は口元を緩めたが、オレとしては対等でありたかった。
それだけなのに、変と呼ばれるのは不本意だった。
……ソフィアにしては珍しい微笑が見られたから良いけど!
「お二人さん。ちょっと失礼」
ガラクタだらけの空間に猫が入って来た。
オレの股座に入り込んで可愛らしく身体を擦り付けてくるミルクティーブロンドの猫。あざとさを凝縮したような猫を抱くと、ソフィアが無言で取り上げる。
……モフモフに触りたかったのだろうか。いや、放り投げた!?
「泥棒猫」
「にゃあ。こんなカワイイ動物に虐待なんて聖女失格だよ。それより窓を見てよ」
「……また魔物? もう見飽きたのだけど」
「僕もそろそろ違う物を見たいなって思ってね」
地面に着地と同時に人間の姿になった彼女の言葉に重い腰を上げる。
グレイナやランヴィからもオレの戦闘は避けた方が良いと言われている。
だから、実際に戦うのは軍人たちでオレにできるのは料理を作るとかソフィアの手伝いのようなことなのだが……。
「うっ、朝日だ」
「魔物もいるじゃない」
窓から入り込む日差しと地平線に見える魔物に目を細める。
もう見飽きた光景だったがよく見ると違った。魔物が吹き飛ばされていた。
『ああ、やっと応援が来たんだ。遅かったね』
ランヴィの言葉通り、地平線に荷馬車が複数ほど見えた。
なんだか歴戦の雰囲気を見せる女たちが魔法を振るって蹂躙している。
「それが終わったら下に降りて来て欲しいと司令官代理が言っていたよ」
「気が向いたら行くわ」
「終わったらソフィアを連れて行くから」
「ありがとう、ケンシン君」
ウインクするターフェは、オレの乙女回路にキュンときた。
しばらくしてから下の階に降りてみると既に見知らぬ軍人たちがキビキビと動いていた。
砦復旧用の資材や負傷者との交代要員も連れて来たらしい。
あまりにも素早い復旧作業だった。これが規律を重んじる軍隊の力……!
「ええ、ではそのように」
軍人同士で何かを会話していたグレイナが近づいて来る。
「ああ、二人も荷物をまとめてくれ。これから本国に向かう」
「……もう?」
「報告には私も行く。司令官は私程度には荷が重かったよ。既に引き継ぎは済ませた」
あまりにも素早い引き継ぎ。これができる人……!!
そんな訳で今日まで世話になった軍人たちに挨拶をして荷馬車へ。
これでようやく逃避行が終わりらしい。
遠ざかっていく砦。
ふと、今までの出来事が頭を過った。
目覚めてから色んなことがあった気がする。魔人を倒して、山賊を倒して、憲兵を倒して……戦っていることが多かったな?
いや、これは清算なのだ。
サードライフを始める。平穏な生活を送るための。
それを邪魔するなら戦うのだ。まだ弱い力だが今度こそ平穏を掴めるように。
『ねえ』
振り向く。
陽光に照らされる金髪、ランヴィがオレに微笑んだ。
トクン、と小さくも確かな鼓動が耳の奥に残る。
彼女の手がオレの手に触れるけど、その感触はない。
けど、鼓動から彼女の熱が伝わってきた……そんな気がした。
『本国……私たちの本拠地って今はどうなってると思う?』
それは期待に満ちた明るい質問だった。
道の先に広がる世界──あの頃の仲間たちが踏み入れたことのない場所が目の前に広がっている。
そこが地獄か、オレたちが求めた天国なのか。
怖くもあるし不安もある。
まだ見ぬ場所に思いを馳せながら、オレはランヴィに目を向ける。
「さあ? でも……楽しみだ」