目覚めたら、男が激減し貞操逆転した崩壊世界だった   作:解毒草

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03 リターン・セカンド

 盗賊はゲーム『ラメラメ・デストロイ』で最もよく出る敵キャラだ。

 あくまでこの世界はそれに似ているだけだが、盗賊はろくでもない。基本的に護衛を雇わないで街道を進めば一定確率で遭遇する。

 弱ければ貞操も尊厳も奪われる。

 だからこそ、街の外に出るのなら強くなくてはいけないのだが……。

 

「帝国兵が一人……男が一人! 襲うには十分過ぎる!」

 

 殴られ、腹に圧し掛かられる。

 女の……魔族!? 角、尻尾、赤い瞳に全身の紋様。間違いない。

 恐らくこいつが盗賊の頭目なのだろう。

 

「けど、なんで、魔族が盗賊なんかと……」

 

「魔族ゥ? ハハハ、ボクちゃんはお世辞が上手いねェ。でもアタシも魔族だって思われるくらいには成長したのかね?」

 

 ナイフを首元から外したかと思ったら、より大きなサーベルを向けられる。

 魔族ではない? だからといって勝てる気がしない。

 身体はボロボロ。記憶はズタボロ。目の前の相手が魔族ではないにしても相応に強い気がする。こういう相手にオレってどうやって戦っていたんだっけ?

 

「顔よし身体よし。さっ、子作りだ」

 

「待ちなさい! その男に手を出すな!」

 

「お前は動くな!」

 

 ビリッ! オレのシャツが破かれる。

 敗北でおなじみの凌辱タイムだ。画面の紳士たちがグヘヘする時間だろう。ただし、破かれたのはオレのシャツで、露わになったのはオレの胸板だ。

 え? まさかオレが凌辱されるってこと? こんな魔族に?

 …………いやいやいや。

 

「こういうのはお互いもっと知り合ってから……!」

 

「悪いな、アタシは凌辱一本で生きてきたんだ」

 

「ヒイ!」

 

 山賊は振り上げた拳を下ろした。幸い顔面ではなく近くの石を粉砕した。

 脅しのつもりなのだろう。実際にちょっとビクッとした。

 ……ちくしょう。今、オレの反応で笑ったな?

 

「安心しろ。お前は殺さない。アタシは女の番を奪って目の前で孕むのが生きがいなんだ。ありがとうなお嬢ちゃん。こんな場所に上質な男を持ってきてくれるなんて。

 お前たち! そのお嬢ちゃんを可愛がってやりな!」

 

「ま、待て。その人に手を出したら……ッ!」

 

「うるさいよ」

 

 殴られた。痛い。耳鳴りが酷くなる。

 

「ケンシン!」

 

「おっと、思わず殺すところだった。アッハッハ!」

 

「お前……!」

 

 ソフィアの方を見る。

 殴る蹴るで痛めつけられている。鎧を脱がされ、兜を叩き割られる。

 幸いと言ってはなんだが、サーベルの類で刺されたり斬られたりすることなく、集団の殴打や蹴りでボコボコにしていることか。

 ……いや、何を冷静に考えているんだ、オレは。

 

「ん? なんだい、傷物か。だからこんなところにいるのか」

 

 ふと山賊の頭目の言葉が耳に入った。

 オレの身体に向けられる視線には情欲と侮蔑の色がこもる。

 傷物? そう言われて胸元に目を向ける。そこには傷があった。左胸付近に大きな手術でもしたような痕だ。痛みはないが、知らない傷跡だった。

 

「ふざけないで……ケンシンを、離しなさい!」

 

 複数人の山賊に押さえつけられていたソフィアが絶叫する。

 手をこちらに伸ばすがその手を踏みにじられ、ゲラゲラと笑われている。

 

「気安く触るな! やめろ! お前たちはわたくしからまた奪う気か!」

 

「人の男だから奪う価値があるんだろうが! なあ、今、どんな気持ちだ!」

 

「殺す!! 殺してやるわ!!」

 

 人殺しのような目つきをした彼女に対し、盗賊たちは嘲笑う。

 よし、やってしまって下さいよソフィアさん!

 

「おっと、抵抗の素振りを見せたらこの男の喉を掻っ切る。アタシにもったいない真似をさせるなよ? こうなった時点でアンタの負けなんだよ」

 

「…………ッ!!!」

 

「ソフィア! オレのことは構わずにやって!」

 

「健気な男じゃないか! でも、手を止めた時点でアンタの負け負け負けェ!」

 

 ところがどっこい、山賊の一言で動けなくなってしまった。おい! そんなことで復讐ができると思うなよ! まだ出会って少しの関係だろうに。

 そんな歯を食いしばって目を見開くぐらいなら躊躇するなよ。

 人任せで悪いけど構わずに魔法をぶちかませ! 皆殺しだ!

 

「敗者は勝者の言葉を受け入れなさい、アンタも女でしょ?」

 

「わた、くしは……」

 

 大柄の女山賊に抱き寄せられながら肉盾にされる。

 もっと最悪なのがソフィアに脚を止めさせてしまったことだ。

 

「お前は既に敗者なんだよ。自分の男が他の女に抱かれる様を見るだけの負け犬!

 アハハハ! これがアタシの悦び! 山賊としての誇りってもんさ!」

 

 カスみたいな理論だ。それは別にいい。

 頭から血を流しながらもソフィアの口だけは止まらなかった。

 

「……山賊程度の頭になって満足している奴の何が誇りよ。数を率いているだけの魔人なんて、お前こそ負け犬じゃない。人の物を奪うことでしか誇れない欠陥生物が」

 

 痛い!? ちょっと斬られたんだけど! あんまり煽らないで!

 

「…………言ったな? 仕方ない。お坊ちゃんには刺激が強いと思ってやめたんだがな。

おい、そいつの手足をもげ。死ぬまでこいつを犯してやる」

 

「分かりました、頭目」

 

 身体を揺らしても振りほどけない。

 今に至るまで一切の魔力がでない。だから抵抗もできない。

 それではダメだ。ソフィアが殺される。尊厳を奪われ、屈辱と失意のままで死んでしまう。

 世界が緩慢とスローモーションに移行する。

 

『一人で逃げたら? それくらいならできるよね?』

 

 声が聞こえる。でも、それはダメだ。

 オレはどうなってもいいけど、ソフィアのような有望な若者の未来が閉ざされるなんてあってはならない。

 人の尊厳を弄び、嘲笑い、奪う。そんな山賊たちは……。

 

「絶対に、許せない」

 

 ──ドクン!

 

 鼓動が高鳴る。

 

『騒いだところで今の弱いケンシンに勝ち目はないよ』

 

 そんな冷たいこと言うなよ。頼むよ。助けてくれ。

 こんな弱いオレに度々声を掛けてくれるんだ。さぞ絶世の美女に違いない。たぶん金髪巨乳の美女だ。間違いない。妙に具体的な想像だがオレの直感は当たるんだ。

 だから分かるはずだ。

 オレはソフィアを助けたい。山賊は許せない。

 無力で非力で矮小でコミュ障なオレに声を掛けてくれるんだ。何か秘策があるんだろ?

 お願い、なんでもするから。

 

『……なら、覚悟を決めて』

 

 肝心なことなんて思い出せない。

 でも、分かる。

 頭の中を呪文が過る。

 たった一文。今の弱いオレじゃない、強いオレを呼び覚ます呪文だ。

 

「……『リターン・セカンド』」

 

 ──脈動する。血と魔力が全身を巡る。

 耳の奥で鼓動が響く。

 頭が冴え渡り、なんだってできるという万能感が生まれた。

 何かを思い出した訳じゃない。でも、どうすればいいのか分かった。

 

「あ? なんだ? こいつ、急に魔力が──」

 

 肘で鼻を打つ。怯んだところに頭部の角を掴んで膝で顔を蹴る。

 反動で頭目は反対方向に吹き飛ぶ。

 折った角を投げ飛ばすとナイフを振りかざした山賊の首に突き刺さった。

 

「しっかりしろ、ソフィア。キミはこんなところで終わる人じゃない」

 

「……ええ、もちろんよ」

 

 人質は解放されたのだ。これで好きに戦えるはずだ。

 一目見たら分かる。ソフィアは魔力を貯めていた。反撃の機会をうかがっていた。

 

「『ハイ・ファイア・バースト』──!!」

 

 爆炎で山賊を一掃する様は気分がいい。

 そうだ、ソフィアなら本来はもっと簡単に葬れたはずなのだ。

 その邪魔をしたのは誰だ。分かってる。オレだ。足手まといでごめん。

 

 今から挽回するから、どうか許して欲しい。

 

「ハハッ! ハハハハッ!! 男に殴られるなんて初めてだ! こんなに生きのいい男は初めてだよ!! いいだろう、『カース・アース・ランス』!!」

 

 魔族が使う土魔法だ。触れると精神を汚染される効果付きだ。

 手の中に生まれた黒い土が槍となり、オレの身体を貫こうと頭目は槍を突き出す。

 

「避けられるもんなら、避けてみろ──!」

 

「……避ける?」

 

 その瞬間に、思い出すのは全ての始まりだった。

 ファースト時代、転移前の記憶だ。

 ラメラメ・デストロイの一章で主人公は盗賊と遭遇する。まだまだ弱い主人公は卑劣な罠や人質を前にしても決して諦めなかった。

 逃げることもせず、臆せず、屈せず。

 剣士にも魔法使いにもなれなかった主人公は苦難の末に技を編み出して、人の為に命を懸けて戦った。

 

 その主人公のように前に進む。

 脚を動かし、振りかぶった拳を握って穂を殴る。

 ボッと燃えるような白い光が拳に宿り、槍を粉砕する。

 

「『デストロイ・パンチ』──!!」

 

 ゲームの名前を冠した一撃は、頭目の顔面に突き刺さる。その瞬間、黒い亀裂が空間に走った。遅れて雷のような、世界が悲鳴を上げるような軋んだ音を立てた。

 

「──!!?」

 

「か、顔が消し飛んだ……!? 男の腕力で? いや魔法……?」

 

 驚いたようなソフィアの言葉が聞こえる。

 そんなに小難しい理屈ではない。

 この技はデストロイ・パンチ。受けた相手は死ぬ拳だ。……いや、そのレベルの一撃必殺技になるかは人によるけど、首から上を消失して倒れた山賊はピクリともしない。

 

 鼓動の高鳴りは、魔人を倒したことで収まってきた。

 不可思議な身体だ。今まではこんなことは無かったのに。

 胸元を押さえる。そこにあるのは心臓だ。そこから温かいエネルギーを感じた。

 

『油断しないで。急いでその場を離れて!』

 

 声が聞こえる。真面目な声音はさっきよりも明確に聞こえる。

 オレはその声を疑わなかった。

 殆ど同時にソフィアの焦ったように「ケンシン!」と呼ぶのが聞こえた。

 

「大量に魔物が来る!」

 

 魔法で察知したのか。やはりソフィアは優秀だ。

 魔物に襲われたら最後、人間なんて骨まで食い潰される。

 それも大群なら逃げた方がいい。

 

「さっさと起きなさい」

 

 既に他の盗賊を撃退していたソフィアは一人の盗賊をビンタで起こした。

 

「お前たちのアジトを言いなさい。そしたら助けてもいいわよ」

 

「ほ、本当か?」

 

「あの、ソフィア……」

 

「すぐ終わるから待って。それで、話すの? 話さないの? どっち!」

 

「は、話します」

 

 正直、そんなことをしている場合ではないと思ったが……。

 ソフィアの鬼のような顔とドスの効いた声にオレは黙り込むしかなかった。

 さっきの万能感? そんなものはない。

 所詮オレはちょっと戦える程度のコミュ障陰キャなのだ。

 

「ケンシンは馬をお願い」

 

「あ、はい」

 

 馬を連れてくる間に、ソフィアは盗賊から情報を引き出していく。

 人質のいない彼女を見ているとオレって本当に邪魔だったんだなと思う。

 

「……あ、なんかマズい」

 

 鼓動が収まってくると同時に身体の倦怠感が襲ってくる。

 それは目覚めた時の比ではない。

 気を抜くと意識が飛びそうになるのを堪えると同時に遠くの平原から多数の魔物が群れとなって近づいてくるのが見えた。……うん。あの数は無理だ。撤収。

 

「なんで急に……ソフィア! 来たよ!」

 

「ええ。今行くわ」

 

「待ってくれ! 助けるって話が違うじゃないか!」

 

「ああ、それは嘘よ。敵の言葉を信じるなんて馬鹿じゃないの?」

 

 盗賊たちの足元を氷で固めたソフィアは罵詈雑言を無視して馬に飛び乗る。

 オレから手綱を受け取った彼女は馬を動かし、山の方に向かう。そっちが山賊たちのアジトなのだろうか。

 しばらくすると、後ろの方から悲鳴が聞こえてきた。

 

「……虫の鳴き声の方がまだマシね」

 

 そうソフィアが呟くのが印象的だった。

 




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