ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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ハンサム、記憶のデブリ

「……よろしい。実に見事な、そして完璧に無意味な執着だ」

 

私は今、国際警察のカロス支部、その片隅にある薄暗い取調室で、一人の男と対峙している。

コートは皺だらけで、無精髭。かつては鋭かったであろう眼光も、今はどこか遠い空を見つめているような虚脱感を孕んでいる。国際警察の特務捜査官、ハンサム君だ。

 

「……アクロマ。あんたにこれを見せれば、私の失われた記憶が戻るとでも言うのか?」

 

彼が震える手で机の上に置いたのは、小さなビニール袋に収められた青い輝石の破片。サファイアの欠片だ。だが、それは宝石としての価値など微塵もない。

 

「記憶を戻す? 助手君にさえ呆れられるような人道的なサービス、私が提供するはずがないでしょう。私はただ、君という個体に付着した『宇宙の汚れ』を清掃(クリーニング)したいだけですよ」

 

私はアクロマ式マルチスキャナーを起動し、その欠片に不可視のレーザーを照射した。

 

「……見てください。この結晶格子の歪み。これは地球上のいかなる圧力でも形成され得ない。……ホウエン地方の上空、成層圏のさらに外側。伝説のレックウザが砕いたとされる巨大隕石……通称デルタ隕石に含まれていた微量元素と、その構成比が100%一致します」

 

「……隕石? 私は……ホウエンにいたというのか?」

 

「記憶がないのも無理はありません。君はかつて、ホウエンのバトルリゾートの砂浜で、記憶を失った状態で保護された。……いいですか、君はホウエンに歩いて行ったのではない。宇宙から、隕石の破片と共に『裏側世界』を貫通して、あの砂浜にデブリ(ゴミ)として落ちてきたのですよ」

 

「デブリだと……。私が、宇宙のゴミだとでも言うのか!」

 

ハンサムが机を叩いて立ち上がる。だが、私は冷徹に眼鏡を押し上げ、モニターのデータを彼に突きつけた。

 

「感情的にならないでください。科学的には、事実です。……隕石がレックウザによって粉砕された瞬間、局所的な次元崩壊が発生した。君はその渦に巻き込まれ、現実世界の距離を無視して『裏側』を通過した。……このサファイアの欠片には、その際の高次元放射線が今も焼き付いている。君の脳が欠損しているのは、その放射線による損傷ではなく、異次元の情報を無理やり詰め込まれたことによる『容量オーバー』ですよ」

 

「……私は、何を見たんだ。あの光の中で」

 

「それを調べるために、私がわざわざイッシュからカロスまで足を運んだのですよ。……ゲノセクト、サファイアの残留放射線を増幅しなさい。彼の脳内にある『記憶のゴミ』を、私の端末にダウンロードする!」

 

「ゲノ……セッ!!」

 

ゲノセクトのパルスが部屋を満たし、サファイアの欠片が激しく明滅した。

ハンサムが呻き声を上げ、頭を抱えてのけぞる。彼の瞳の奥で、数億の星々が流れるような光景が瞬いた。

 

「アクロマ様! 被験者の心拍数が危険域です! 強制終了してください!」

 

通信モニターから助手君の悲鳴が聞こえるが、私は無視してレバーを最大まで倒した。

 

「……ワクワクしませんか、ハンサム君。君の失われた記憶とは、私たちが決して辿り着けない『宇宙の裏側』そのものなのですよ。……ええ、科学ですから!」

 

一瞬、部屋全体が青い閃光に包まれた。

私の端末には、ノイズだらけではあるが、確かに「あなぬけのヒモ」と同じ組成を持つ高次元エネルギー体の映像が記録されていた。

 

「……はあ、はあ……。……思い出した。……願い。……1000年に一度の……」

 

ハンサムが力なく座り込む。その手元では、サファイアの欠片が役目を終えたかのように白く灰化していた。

 

「……よろしい。断片的ながら、次の座標が見えました。……1000年に一度現れるジラーチ、そしてそれを見守る『高次元の繭』。……ハンサム君、君はもう用済みです。その灰は、ゴミ箱にでも捨てておきなさい」

 

私は白衣の裾を翻し、取調室を後にした。

背後でハンサムが何を呟いていたかなど、興味はない。

科学の光は、すでに次の「願い」を捉えているのだから。

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