ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……く、ふふ。よろしい。実に見事な、そして最高に馬鹿げた『道具』の正体だ」
私は今、ホウエン地方の奥地にひっそりと佇む、星が降る伝説の地……その中心部にある、絶対零度に近い静寂に包まれた洞窟に立っている。
目の前には、1000年に一度の目覚めを待つ「眠り繭」。その中には、人々の願いを叶えるという伝説のポケモン、ジラーチが眠っているはずだ。
だが、私の視線はジラーチそのものには向いていない。
私の網膜に焼き付いているのは、その繭を保護するように何重にも巻き付いた、銀色に光る特殊な繊維の構造だ。
「アクロマ様……。さっきから『あなぬけのヒモ』を片手に繭を凝視して、何をしてるんですか? 壊れ物なんですから、あんまりベタベタ触らないでくださいよ」
端末のモニター越しに、助手君が眉をひそめてこちらを見ている。
「触る? 滅相もない。私は今、この宇宙で最も身近で、最も謎に包まれた消耗品の起源を特定したのですよ。……助手君。冒険者が洞窟から瞬時に脱出するために使う、あの安っぽい『あなぬけのヒモ』。なぜあれを使うだけで、複雑な構造の迷宮から一瞬で外へ出られるのか、疑問に思ったことはありませんか?」
「え、それは……なんか、すごい丈夫な糸とか、忍者の道具みたいなものじゃないんですか?」
「ハハハ! 忍術! 実に滑稽な発想だ。……いいですか、この繭を包む繊維と、市販されているあなぬけのヒモ。これらを電子顕微鏡レベルで比較した結果、分子構造が完全に一致しました。……その正体は、『高次元炭素』。三次元的な壁や距離を無視して、空間の最短距離を縫い合わせる性質を持つ、裏側世界の物質です」
私は手に持ったあなぬけのヒモを、繭の繊維に近づけた。
すると、2つの物質は磁石のように引き合い、空中で火花を散らして共鳴を始めた。
「つまり、あなぬけのヒモとは、ジラーチが眠る際のエネルギーが漏れ出し、空間を歪めて結晶化したものの『削りカス』に過ぎない。……人間たちは、この宇宙的な奇跡の残骸を、単なる脱出用具として1個550円(税込)程度で売り捌いているのですよ。……実におめでたい!」
「550円……。そんな神話的なものを、私たちは使い捨てにしてたんですか?」
「ええ。そして、ジラーチが1000年に一度、わずか7日間だけ目覚めるというのも、生物学的な睡眠サイクルではない。この高次元炭素の繭が、裏側世界から吸収したエネルギーを飽和させ、次元のゲートとして開くための『冷却期間』なのです。……いわば、この繭そのものが巨大なアクロママシーンだと言っても過言ではない!」
その時、繭の中から微かな鈴の音のような音が響いた。
ジラーチの第三の目が開き、願いを叶えるための「真実の光」が漏れ出す。
だが、その光の波形を分析した私は、思わず鳥肌を立てた。
「……なるほど。そういうことですか。ジラーチが叶えるという『願い』。それは運命を操る奇跡などではない。……この高次元炭素を通じて、あり得たかもしれない別の可能性……つまり『隣り合わせの裏側世界』から、望ましい結果をこの現実へと引き寄せているだけだ」
「……それって、他人の幸福を奪ってるってことですか?」
「奪う? いいえ、単なる確率の再配置ですよ。……さて、ゲノセクト。この『願いの光』のスペクトルを記録しなさい。この光があれば、カロスの路地裏で見つけたあの幽霊の少女も、ハンサム君の壊れた脳細胞も、すべては『なかったこと』に書き換えられる可能性がある。……もちろん、私はそんなことしませんがね」
「ゲノ……セ……ッ!!」
ゲノセクトのパルスが繭の光と混ざり合い、洞窟内がホワイトアウトするほどの輝きに包まれた。
私はその光の中で、狂ったように端末を叩き続けた。
「……ワクワクしませんか、助手君。1000年の眠りとは、この世界を再構築するための充電期間だった。……あなぬけのヒモが導く先は、ただの洞窟の出口ではない。私たちの知らない、もう一つの現実の入り口だ。……ええ、科学ですから!」
私は笑った。
光が収まった後、繭は再び沈黙し、私の手元には純度の上がった銀色の繊維が1本だけ残されていた。
次は、再びカロスへ戻るとしましょう。
科学と伝説が、一人の少女のスーツの中で共鳴を始める、あの欺瞞に満ちたミアレの街へ。