ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……くっ、ふふふ。よろしい。実に見事な、そして完璧に滑稽な『最高傑作』だ」
私は今、国際警察の監視下にある特殊拘留施設の一室に立っている。
正面に座るのは、かつてフレア団の科学者として名を馳せた男、クセロシキ。トレードマークの赤いゴーグルは曇り、その巨体は自信を喪失したかのように丸まっている。
「……アクロマ。貴様、わざわざ私を嘲笑いに来たのか。このエキスパンションスーツの技術は、カロスを救うための……」
「救う? 救うとおっしゃいましたか、クセロシキ君。……ハハハ! 科学者が口にする単語としては、少々情緒が過ぎる。私が興味あるのは、君がマチエール君に着せたそのスーツの『コア』ですよ」
私はアクロママシーン17号のホログラム投影を起動し、マチエールのスーツから事前採取していたエネルギー波形の解析図を空間に展開した。赤い電子の糸が複雑に絡み合い、一つの心臓のような形を成している。
「……見てください。君が誇らしげに語っていた、被験者の五感を拡張し、遠隔操作を可能にするインターフェース。……この波形、心当たりはありませんか? 500年前に造られた、ある人工ポケモンの構造とね」
クセロシキの眉間がぴくりと動いた。
「何を……言っている」
「白々しい。500年前、王女の侍女として造られた幻のポケモン、マギアナ。彼女の動力源である『ソウルハート』。……君がこのスーツに組み込んだのは、そのソウルハートのデッドコピー……いえ、劣化コピーと呼ぶべきものです。……違いますか?」
私は一歩、彼に歩み寄った。取調室の冷たい蛍光灯が、私の眼鏡を白く反射させる。
「マギアナのソウルハートは、ポケモンの魂をエネルギーに変換する禁忌の技術。君はそれを不完全に再現し、人間の精神エネルギーをスーツの動力として吸い出す構造に作り変えた。……君が『赤い糸』と呼んでいた遠隔操作用のパルス、その正体はマギアナがかつて愛した者へと伸ばした『祈り』の残骸を、無理やり電子信号に変換したものですよ」
「……黙れ! 私は、私は独力であのスーツを完成させた! マギアナなどという古臭いカラクリ人形の技術など、使ってなどいない!」
クセロシキが机を叩き、激昂する。だが、その声は微かに震えていた。
「感情は不要です。データこそが真実を語る。……いいですか、君がマチエール君を意のままに操れたのは、君の技術が優れていたからではない。マギアナのソウルハートが持つ『他者の心に寄り添う』という基本プログラムが、スーツを着た彼女の献身的な性質と、皮肉にも合致してしまったからに過ぎない」
私は端末のボタンを叩き、解析を終了させた。
「つまり、君が『科学の勝利』だと信じていたものは、500年前の遺物の上で踊らされていた、ただの模倣劇だった。君はマチエール君を支配していたつもりで、実はマギアナの慈愛の模倣品に、科学者としての矜持を食い潰されていたのですよ。……実に見事な傀儡だ」
「……嘘だ。私の……私の人生をかけた研究が……ただの、デッドコピー……だと……?」
クセロシキは力なく崩れ落ち、頭を抱えた。その指の間から、赤いゴーグルが床に転がり、虚しい音を立てる。
「アクロマ様……。流石に言い過ぎじゃありませんか? 彼は一応、協力的な囚人として国際警察にも貢献しているのに……」
端末のスピーカーから、助手君の困惑した声が聞こえる。
「言い過ぎ? 助手君、私は真実を述べたまでです。……科学において、無知は罪。そして、自分の発明が既製品の劣化コピーであることに気づかないのは、科学者として死んでいるも同然だ」
私は絶望の淵に沈んだクセロシキを一瞥もせず、取調室の重い扉を開けた。
「……ワクワクしませんか、クセロシキ君。君が捨てたスーツの残骸の中にさえ、これほどの歴史的な秘匿技術が眠っていた。……君が絶望すればするほど、私のデータは輝きを増す。……ええ、科学ですから!」
私は笑い、施設を後にした。
背後で崩れ落ちた男のことは、もう私の記憶のディレクトリには存在しない。
私の興味はすでに、このミアレの街を歩く「もう一人の不自然な存在」へと移っていた。
3メートル近い巨躯、そして彼が抱く「永遠」という名の毒。
次は、警察の盾の向こう側に潜む、歴史の亡霊に会いに行くとしましょうか。ハンサム君、君の隣にいるその男が何を落としたのか、私の観測眼から逃れることはできませんよ。