ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……くっ、ふふふ。よろしい。実に見事な、そして完璧に過剰な『輝き』だ」
私は今、アローラ地方が誇る人工島、エーテルパラダイスの最下層にあるシークレットラボに立っている。
白を基調とした清潔すぎる室内には、数え切れないほどの精密機器が並び、その中心では一粒の「Zクリスタル」が、観測用の真空容器の中で静かに、だが強烈な重圧を伴って明滅していた。
「……アクロマ様。あまり勝手に機器の出力を上げないでくださいよ。ここの代表であるルザミーネ様にバレたら、それこそ不法侵入で国際警察に突き出されますからね」
私の白衣のポケットに入れた小型端末から、助手君の怯えたような声が漏れる。
「不法侵入? 心外ですね。私は正当な客員研究員として招かれたのですよ。……まあ、深夜に権限外のラボへ忍び込んだのは、あくまで知的好奇心の暴走……不可抗力というやつです。……いいですか、助手君。アローラの島めぐりという古い儀式で使われるこの石……Zクリスタル。原住民たちはこれを『カプの加護』だの『自然の恵み』だのという情緒的な言葉で片付けていますが、その実体は……」
私はアクロママシーン17号をクリスタルの共鳴周波数に同期させ、特殊な電子顕微鏡の倍率を限界まで引き上げた。
モニターに映し出されたのは、結晶の格子状構造……などではない。
そこには、無限に続く漆黒の空と、物理法則が逆転したかのような歪な幾何学模様が、一粒の石の中に「圧縮」されて存在していた。
「……見なさい。この結晶の奥底。第6話で私が足を踏み入れた『やぶれたせかい』と全く同一の、反転宇宙の波形が観測されました。Zパワーとは、ポケモンの技を強化するエネルギーなどではない。……この石を触媒にして、裏側世界から無尽蔵の質量を一時的にこちらの現実に引きずり出す、極めて危険な『次元穿孔』のシステムなのですよ」
「……裏側世界から引きずり出す? じゃあ、あのド派手な全力の技って、異次元のエネルギーをぶっ放してるってことですか?」
「その通り。そして、そのエネルギーの源泉は……このアローラの空に時折現れる『ウルトラホール』の向こう側……ネクロズマと呼ばれる光の捕食者が、かつてこの世界に撒き散らした『光の剥落』に他ならない」
その時、ラボの自動ドアが静かに開き、高いヒールの音が室内に響いた。
「……あら、アクロマさん。こんな時間にお勉強かしら? 熱心なのはいいけれど、私のコレクションに傷をつけたら、許さないわよ」
現れたのは、エーテル財団の代表、ルザミーネだ。
彼女の瞳には、かつてイッシュで見たゲーチスのそれとはまた異なる、狂信的なまでの「美」への執着が宿っている。
「……ルザミーネ代表。これは失礼。このZクリスタルがあまりに美しく、ついレンズを向けてしまいました。……ですが、代表。あなたは気づいているはずだ。この石が放つ光が、あなたの愛するウルトラビーストたちを、この世界に呼び寄せる『餌』になっていることに」
「……ふふ。餌? 嫌な言い方ね。あれは、美しき異世界の子供たちを招くための、輝かしい道標よ」
ルザミーネはクリスタルの入った容器に優しく触れた。
彼女のその仕草に、私は全身の毛穴が逆立つような感覚を覚えた。恐怖ではない。……歓喜だ。
「……よろしい。やはりこの施設は、私の仮説を裏付けるための巨大な実験場だ。……Zパワーの真実、それは『やぶれたせかい』をこの現実世界に上書きするための、創世のプログラムの一部。……ワクワクしませんか、ルザミーネ代表。この石の出力を1000%まで高めた時、私たちはもはや観測者ではなく、世界の裏側そのものになれる。……ええ、科学ですから!」
私は笑い、端末に表示された異常なエネルギー値を即座に暗号化して保存した。
ルザミーネは何も答えず、ただ満足そうにクリスタルの輝きを見つめている。
次は、この輝きが導く終着点。
伝説のドラゴンがバラバラに引き裂かれ、その残骸がガラクタとして転がっているという、絶望の遺跡へ向かうとしましょうか。
白き遺跡、ウルトラスペースゼロ。
そこで私が目にするのは、神の敗北か、あるいは科学の勝利か。
楽しみで仕方がありませんよ。