ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……くっ、ふふふ。よろしい。実に見事な、そして完璧に救いようのない『ゴミ溜め』だ」
私は今、ウルトラホールの深淵を突き抜けた先、あらゆる色彩が死に絶えた白亜の世界に立っている。
「ウルトラスペースゼロ」。そう呼ばれるこの領域は、時間と空間が極限まで引き伸ばされ、情報のエントロピーが最大化した終着駅だ。
視界を埋め尽くすのは、かつて壮麗な文明を築いていたであろう白き遺跡の残骸。だが、私の興味はそんな考古学的な感傷にはない。
「アクロマ様……。通信が不安定です。ここ、本当に物理法則が維持されてるんですか? ゲノセクトの姿勢制御ログが、さっきから存在しない虚数を検知してるんですけど」
端末のスピーカーが激しく割れ、助手君の震える声がデジタルノイズに混じって届く。
「ハハハ! 虚数! 素晴らしいじゃないですか。私たちが知る物理学が通用しないということは、ここが『創世の設計図』の余白であることを証明しています。……いいですか、助手君。イッシュ地方の伝説に伝わる究極のドラゴン。真実と理想、その双方が分かたれる以前の姿……。その体の一部だったとされる『くさび』が、なぜ現代のイッシュには小さな欠片しか残っていないのか。その答えが、目の前に転がっている」
私は足元に転がる、鈍い灰色をした多角形の石板のような物体を拾い上げた。
一見すれば、ただのガラクタだ。だが、アクロママシーン17号が弾き出したエネルギー密度は、既存のいかなる物質をも超越していた。
「……見てください。これですよ。イッシュの神話では『いでんしのくさび』として神格化されている物質の、これが本体……あるいは、そのスペアパーツです。かつて究極のドラゴンが分裂した際、この世界の論理(ロジック)で支えきれなくなった余剰次元の肉体が、このゴミ捨て場へデブリとして射出されたのですよ」
私はその「くさび」の欠片にスキャナーを密着させた。
瞬間、私の脳内に直接、数億年分の「叫び」が流れ込んでくる。
それは第1話でゲノセクトが拾ったアローラの歌とも、第2話のミアレの傷跡とも異なる、もっと根源的で、暴力的な情報の奔流だ。
「……アクロマ様! 脳波が危険域です! その石を離して! それは、人間が観測していい情報量じゃない!」
「離す? 冗談はやめていただきたい。今、私は理解しましたよ。……この『くさび』は、アルセウスが世界を創造する際に切り落とした『不完全な可能性』の継ぎ目だ。……キュレムが空っぽの存在(シェル)であるのは、その魂の半分が、この白き遺跡に情報のゴミとして廃棄されているからに他ならない!」
私は歓喜に震え、膝をついた。
白き遺跡の奥底から、かつてシンオウで、そしてカロスで感じたあの「裏側」の拍動が、津波となって押し寄せてくる。
「……よろしい。これでピースは揃いました。第17話で見たZクリスタルの反転宇宙。第6話で拾った赤い鎖の残骸。そして、このウルトラスペースゼロに捨てられた神の肉体。……これらを繋ぎ合わせれば、もはや神話に頼る必要はない。私自身の科学が、新たなはじまりの間を構築する!」
私は叫び、端末の全リソースを情報の抽出へと振り向けた。
その時、遺跡の影から、光すら透過する半透明の触手――ウツロイドたちが、招かれざる観測者を排除せんと静かに這い出してきた。
「おや、掃除の時間ですか。ですが、あいにくと私はまだ、このゴミ溜めのカタログを作り終えていないのですよ。……ゲノセクト、高次元パルスを展開しなさい! この遺跡ごと、すべてのデータを焼き付けるのです!」
「ゲノ……セッ!!」
ゲノセクトの背中のキャノンが、白亜の世界を紫電で切り裂く。
私は狂ったように笑い、迫り来るUBたちの群れを背景に、神の死骸をポケットにねじ込んだ。
次は、この異次元に寄生された哀れな先駆者に会いに行くとしましょう。
国際警察の「フォール」、リラ君。
君の壊れた記憶の中に、私が求める『シンオウの残響』が眠っているはずですから。
ワクワクしませんか? 君の意識が、全地方の伝説と混線し、ショートするその瞬間。
……ええ、科学ですから!