ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……くっ、ふふ。よろしい。実に見事な、そして完璧に冒涜的な『混線』だ」
私は今、エーテルパラダイスの特別保護区、その最深部にあるメディカルルームに立っている。
純白のベッドに横たわるのは、国際警察ウルトラ調査隊の旗振り役であり、かつて記憶を失った状態でアローラの海岸に流れ着いた「フォール」――リラ君だ。
彼女の頭部には、私のアクロママシーン17号から伸びる数10本の電極が接続されている。モニターに映し出されているのは、彼女の脳波データ……ではない。それは、何百層にも重なり合い、互いに食らい合う「異次元のノイズ」の奔流だった。
「アクロマ様……。これ、本当に大丈夫なんですか? 彼女の意識、完全にウツロイドの神経毒と同期しちゃってますよ。無理に深層意識をサルベージしたら、彼女の精神が文字通りバラバラに弾け飛ぶ可能性が……」
端末越しに、助手君の震える声が響く。
「ハハハ! バラバラ? むしろ逆ですよ、助手君。彼女の意識は今、この宇宙で最も『統合』された状態にある。……見なさい。このニューロンのスパイク。彼女の記憶の底に眠っているのは、アローラの風景だけではない。……ほら、ここだ。シンオウ地方、バトルフロンティアの熱気。タワータイクーンとして君臨していた時代の、研ぎ澄された勝負勘。……そして、それらを押し潰すように流れ込んでくる、ウルトラスペースの『虚無』だ」
私はキーを叩き、彼女の意識内に潜伏するUB01――ウツロイドの寄生プログラムを逆走査した。
瞬間、スピーカーからリラ君の声ではない、複数の人間が同時に叫ぶような不協和音が漏れ出した。
「……あ、ア。クロ……マ……? 私は……私は、誰……? フロンティア……クロツグ……ネジキ……ジンダイ……。みんな、どこ……? なぜ、ここには……星がないの……?」
リラ君の瞳が、虚ろに開かれる。その虹彩は、第18話で見た白き遺跡の空と同じ、色彩を失ったガラス玉のようだった。
「……興味深い。実に興味深いですよ、リラ君! 君の脳は、ウツロイドという有機的な記録媒体を介して、シンオウのバトルフロンティアとアローラの現在を同時並行で処理している。……いいですか、君が記憶を失ったのは、脳の損傷ではない。シンオウで戦っていた君の『存在確率』が、ウルトラホールを通過する際に、別の時間軸にいたフロンティアブレーンたちの記憶と激しく衝突し、情報がオーバーロードした結果なのです!」
「……やめて……。頭の中に……知らない人の……戦いの記録が……。誰かが……レジギガスを……曳いている……。誰かが……ネジを……巻いている……。痛い……。心が、千切れる……!」
彼女が苦悶に表情を歪める。だが、私はその数値を一滴も漏らさず記録し続けた。
「……なるほど。第11話でハンサム君が見つけたサファイアの欠片、そして第12話のジラーチの繭。それらが示す『隣り合わせの可能性』が、君という個体の中で今、物理的な火花を散らしている。……助手君、記録を! 彼女の意識こそが、全地方の『裏側』を繋ぎ止めるための、多次元的なハブ(中継地点)になっている!」
「アクロマ様、もう限界です! 彼女のバイタルが! ……えっ、アクロマ様? 泣いてるんですか……?」
助手君の声に、私はふと自分の頬を伝う熱い感触に気づいた。
私は目元を白衣の袖で拭い、大仰に肩を揺らして笑った。
「……おや、これですか? くっ、ふふ。ええ、感動しましたよ。一人の人間が、これほどまでに残酷な神話の重圧に耐え、情報の荒波の中で自我を保とうとしている。その姿があまりに……あまりに『観測対象』として美しかったのでね。……ええ、涙を流す(フリをする)くらい、科学者としてのマナーですよ」
私は無慈悲に、さらに一段階上の周波数を入力した。
「……さあ、見せてください、リラ君。君の意識のさらに奥底……国際警察がひた隠しにしてきた、あの『人工の神』の製造データを。裏側世界への抵抗手段として造られた、もう一つのアルセウス……タイプ:ヌルの解放コードを! ……ええ、科学ですから!」
リラ君の身体が大きく跳ね、眩い光がラボを埋め尽くした。
光の中に、かつてシンオウで見たフロンティアの幻影が、崩れゆく砂のように舞い上がる。
次は、国際警察の最深部、ハンサム君が守る最後の防壁を崩すとしましょう。
人工の命に、本物の神をぶつける。
ワクワクしませんか? その瞬間に、この世界がどんな音を立てて壊れるのか。
楽しみで、夜も眠れませんよ。