ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……クハハハハ! よろしい! 実に見事な、そして完璧に不治の『空間壊死』だ!」
私は今、カロス地方・ミアレシティの華やかな大通りの真裏、腐敗した静寂が支配する路地裏で、狂気的な電子音を奏でるアクロママシーン17号を抱えて踊っている。
周囲のレンガ壁は、もはや物質としての形状を維持できていない。肉眼では捉えられない超高次元のノイズが走り、空間そのものがボロ布のようにズタズタに引き裂かれている。ここは3000年前、狂王AZが放った最終兵器の光が、この宇宙の連続性を永遠に焼き切った「処刑場」の跡地だ。
「アクロマ様! モニターが……モニターが狂っています! カロス地方のはずなのに、重力定数がマイナスに振り切れた! 何なんですか、この場所は……レンガの隙間から『黒い手』が何本も生えてきてますよッ!」
通信画面の中で、助手君が腰を抜かして叫んでいる。
「何本も? 助手君、数えなさい! それは手ではない、この世界の裏側に潜む『物理法則の触手』だ! 見なさい、この路地裏の奥底……空間密度がマイナスを突き抜け、虚無が逆流している! 3000年前の究極の光は、単に生命を殺しただけではない。あまりに巨大なエネルギーが一点に激突した結果、この地点の時空は、全宇宙の排泄物が溜まる『次元の膿瘍(のうよう)』と化したのですよ!」
私は壁の亀裂に素手を突っ込み、そこから溢れ出す紫色の稲妻を無理やり引きずり出した。
私の指先が、この世のものとは思えない凍てつく冷気に焼かれ、白衣の袖がボロボロと灰になって崩れ落ちる。だが、その激痛こそが、真理への到達証明(チェックイン)に他ならない!
「……確信しましたよ。この路地裏の亀裂、その最深部はシンオウ地方の神話に伝わる『やぶれたせかい』と最短距離で直結(バイパス)している! 距離? 飛行機? ハハハ、滑稽だ! この裏側世界においては、カロスもシンオウも、同じ一つの『腐った果実』の皮一枚隔てた隣同士に過ぎないのだッ!」
「……アクロマ様、逃げてください! 背後の闇が……空間が、口を開けてあんたを食おうとしている!」
助手君の絶叫と同時に、路地裏の闇が爆発した。
壁の向こう側から、意思を持った「虚無の泥」が津波となって溢れ出し、路地裏のすべてを飲み込もうと蠢く。
「おっと。裏庭の番人が、不法侵入者に激怒したようですね。……ゲノセクト、全力で排除(デバッグ)しなさい!」
私が放ったボールから、第1話で異次元の情報を吸い込みすぎて複眼がどす黒く変色した殺戮機械が飛び出した。
「ゲノ……ゲノオオオオオオオオオオオオッ!!」
ゲノセクトの背中のキャノンが、カロス地方の全電力を一瞬で吸い上げるほどの出力で駆動する。放たれたテクノバスターは、もはや光ではない。それは「存在そのものを消去する概念の杭」だ。
一閃。
黒い泥が蒸発し、路地裏のレンガが分子レベルで分解される。だが、影が消えた後の虚空には、さらに巨大で、底知れない「世界の穴」がポッカリと口を開けていた。
「……素晴らしい! 実に素晴らしいですよ! この穴の向こうに、第1話で観測したネクロズマの鼓動が、さらに鮮明に響いている。……助手君、記録を止めないでください。私は今、AZという男が遺した『後悔』という名の特異点を、私の全知をもってハッキングしている最中なのですから!」
私は路地裏の壁に、空間を固定するための特殊な「次元杭」を打ち込んだ。
「アクロマ様……あんた、本当に死ぬ気か!? その穴の向こうは、生きた人間が行っていい場所じゃない!」
「死ぬ? 助手君。科学者にとって、真理というゴールに指をかけること以上に、価値のある生存など存在しませんよ。……さて、次は次元の揺らぎが集中している例のビルへ向かうとしましょうか。そこには『あちら側』に取り残され、時空の狭間で永遠に腰を振り続ける……哀れで、そして極めて興味深い『観測対象』が待っていますから」
私はボロボロになった白衣を翻し、重力が狂い始めた路地を、浮遊するように歩き出した。
カロス、シンオウ、アローラ……。
バラバラだった神話が、今、一つの「冒涜的な正解」に向かって収束していく。
「……ワクワクしませんか? 世界が、私の手の中で再構築されていくこの感覚。……ええ、科学ですから!」
アクロマは狂気的に笑う。その瞳には、すでに路地裏の闇など映っていない。ただ、世界の裏側に鎮座する「究極の設計図」だけが、鮮明に焼き付いていた。