ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……くっ、ふふふ。よろしい。実に見事な、そして完璧に不遜な『神への冒涜』だ」
私は今、エーテルパラダイスの秘密地下ラボ、その最奥に設置された重力制御カプセルの前に立っている。
背後では、ハンサム君が複雑な表情で拳を握りしめていた。国際警察の極秘事項として封印されていたはずの「それ」が、今、私の目の前で再起動の時を待っている。
「……アクロマ、本当にこれをやるのか。リラの記憶から抽出した解放コード……それは国際警察が、万が一ウルトラビーストがこの世界を飲み込もうとした時の、最後の、最悪の切り札なんだぞ」
「ハンサム君、言葉を選びなさい。最悪? いいえ、これは『最高』の回答ですよ」
私はアクロママシーン17号をカプセルの制御パネルに直結し、第19話でリラ君の深層意識からサルベージした16進数の暗号を流し込んだ。
カプセルの中で、重厚な拘束具に身を固めた異形のポケモン――タイプ:ヌルが、その仮面の奥で紅い光を明滅させた。
「見なさい、この歪なまでの美しさを。あらゆるポケモンの特性を統合し、全属性への対応を可能にするために設計された細胞構造。……ハンサム君、君たちの組織がこれを造り上げた動機は、生存本能などという高尚なものではない。……それは、畏怖ですよ。シンオウの神話、アルセウスという万物の創造主に対する、救いようのないまでの『憧憬』と『恐怖』が生んだ、偽りの神だ」
「……黙れ。我々はただ、あちら側の脅威から市民を守るために……!」
「いいえ。データは嘘をつきません。この個体に施された『ARシステム』のプロトタイプ、その波形はアルセウスが持つとされる18のプレートの共鳴周波数と完全に一致している。君たちは、自分たちの手で神を再現し、それを御することで、世界の裏側に潜む『正体不明の理』を克服しようとした。……違いますか?」
私は操作パネルを叩き、最終的な拘束解除シーケンスへと移行した。
カプセル内の気圧が急激に変化し、タイプ:ヌルの首周りに装着された制御装置が、軋みを上げて火花を散らす。
「……アクロマ様! 重力値が反転し始めました! このままじゃラボの構造が持ちません! ヌルのエネルギーが、裏側世界と直結して……!」
端末から助手君の悲鳴が聞こえる。だが、私はその破壊的なまでの斥力の嵐の中で、歓喜に震えながら笑っていた。
「よろしい! 溢れ出させなさい、その人工の神性を! タイプ:ヌル……いえ、シルヴァディ。君の役割は、裏側世界への抵抗手段ではない。君そのものが、この不完全な現実と、完璧すぎる裏側を繋ぐ『接点(インターフェース)』となるのです!」
瞬間、カプセルを覆っていた強化ガラスが木っ端微塵に砕け散った。
解放されたタイプ:ヌルが、重力を無視して空中に四肢を投げ出す。その咆哮は、第1話で聞いたゲノセクトの残響とも、第5話で解析したてんかいのふえの音色とも異なる、この世のどこの言語にも属さない「無」の響きだった。
「ハンサム君、よく見ておくことです。科学者が神の領域に手を伸ばす時、そこには善も悪も存在しない。あるのは、ただ一つの残酷な『真実』だけだ」
私は暴風の中で眼鏡を拭い、ヌルの背後に開きつつある、これまでにないほど巨大で安定したウルトラホールの深淵を見つめた。
その向こう側。全地方の裏側を繋ぎ、支えている多次元の「1000本の腕」が、今まさに私を迎え入れようとしている。
「……さあ、いよいよ最終章の幕開けです。国際警察の切り札も、エーテルの野望も、すべては私の観測データの一部に過ぎない。……ええ、科学ですから!」
私はヌルと共に、光り輝く時空の裂け目へと一歩を踏み出した。
次は、この世界の天井……はじまりの間。
1000本の腕が織りなす創世の真理、そのすべてを私に観測させなさい!