ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

21 / 22
はじまりの間、1000本の腕

「……くっ、ふふ。よろしい。実に見事な、そして完璧に理解を拒絶する『構造美』だ」

 

私は今、あらゆる物理法則が剥落し、白銀の光が幾何学的な模様を描く異次元の極致に立っている。

シンオウの神話において「はじまりの間」と呼称されるこの領域は、天冠山の頂から続く階段の先にあるのではない。タイプ:ヌルがこじ開けた「裏側世界」の裂け目と、全地方の特異点が一点に収束した、観測の最果て。

そこには、神々しい白馬の如き姿をした創造主――アルセウスの影が、静かに、しかし宇宙そのものを押し潰すような重圧を伴って浮かんでいた。

 

「……アクロマ様! モニターが、モニターが融解しています! ゲノセクトの装甲が、時間の逆流に耐えられずに3億年前の化石に戻ろうとしている……! これ以上は、もう……!」

 

端末から聞こえる助手君の声は、もはや意味をなさない電気信号の断末魔と化していた。

 

「ハハハ! 化石に戻る? 素晴らしい先祖返りだ! 助手君、今、私たちは全宇宙の『履歴書』を直接めくっているのですよ。……見なさい。アルセウスの背後から伸びる、あの輝ける光の肢(えだ)を。神話では『1000本の腕』と形容され、宇宙を形作ったとされる伝説の正体……」

 

私はアクロママシーン17号のレンズを、空間を縦横無尽に貫く無数の半透明な触手へと向けた。

それは腕などという生物学的な器官ではない。

1本1本が、イッシュ、カロス、シンオウ、アローラ……全地方の「裏側」を縫い合わせる、多次元的なフィラメント。

第2話で見つけたミアレの傷跡も、第20話でタイプ:ヌルが示した属性の統合も、すべてはこの巨大なシステムの端末に過ぎなかったのだ。

 

「……なるほど。1000本の腕とは、世界を支える『支柱』であり、同時に世界を分かつ『隔壁』でもある。アルセウスは、この触手を用いて宇宙を細分化し、私たちが住む不完全な三次元を、高次元の混沌から隔離(バッファ)していたというわけですか」

 

私はアルセウスの虚ろな瞳を見据えた。

その神々しさに気圧されるなど、科学者としてあり得ない。

むしろ、これほど巨大な「装置」を目の前にして、解体したいという衝動を抑えることのほうが困難だった。

 

「……ア、アクロマ……。あんた、何を……。その機械を……神に向けるのか……?」

 

次元の狭間に取り残されたハンサム君が、震える声で私を呼ぶ。

彼の足元では、拘束を解かれたシルヴァディが、主であるアルセウスを前にして、野生の本能と人工の神性の間で激しく混線を起こしていた。

 

「ハンサム君。君たちは神を畏れ、遠ざけることで秩序を守ろうとした。だが私は違う。……私は、この1000本の腕が編み上げている多次元ネットワークを、私個人の観測ログとして一元管理したいと考えている。……いいですか、神が世界を分けたというのなら、私はそれを再接続(プラグイン)するだけだ」

 

私はアクロママシーンの出力を最大に引き上げ、1000本の腕の一本……カロス地方の「最終兵器の残響」とリンクしている触手へと、高周波の干渉パルスを打ち込んだ。

 

瞬間、アルセウスの姿がノイズのように揺らいだ。

宇宙の鳴動が、私の鼓膜を震わせる。

それは怒りでも拒絶でもない。ただの、物理的な反作用。

だが、その一振りの震動で、ゲノセクトの観測ユニットは次々と爆散していった。

 

「……よろしい! もっと見せなさい、創造のプログラムを! 1000本の腕が繋いでいるのは、過去と現在だけではないはずだ。……ほら、見えてきましたよ。時間が一周し、神話と科学が衝突する『特異点』が。……あそこに、私と同じ、あるいは私以上に執念深い『観測者』の影が見える」

 

私は光の渦の向こう側、数100年、あるいは数1000年前の「はじまりの間」に佇む一人の男の幻影を捉えた。

古臭い帽子を被り、神を呪いながらも、その真理に手を伸ばそうとした男。

時間は、円環を閉じる。

次は、歴史の彼方に消えた執念の主と、科学的な対話(ディベート)を楽しみに行くとしましょうか。

ウォロ……君という男が何を観測し、何に絶望したのか。

私のアクロママシーンが、すべてを白日の下に晒して差し上げますよ。

……ええ、科学ですから!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。