ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……くっ、ふふ。よろしい。実に見事な、そして完璧に救いようのない『執着の成れの果て』だ」
私は今、時間と空間が結晶化し、黄金の粒子として舞い散る「アルセウスの宇宙」の中心に立っている。
第21話で観測した1000本の腕のネットワークを遡り、因果の糸を力技で手繰り寄せた結果、私はついに辿り着いた。ここは世界の頂点であり、同時に歴史の行き止まり。
無機質な光が満ちる虚空の足元、そこには不釣り合いなほど前時代的な、奇妙な意匠の「帽子」が一つ、ガラクタのように転がっていた。
「……アクロマ様。こちらのクロノス・センサー、完全に振り切れています。時間軸が……150年、いえ、200年以上前のヒスイ地方と、現代がここで『点』として重なっている。……まさか、本当にいたんですか? 神に挑み、そして敗れた、あなたと同じ種類の狂人が」
白衣の通信端末から、助手君の声がノイズ混じりに響く。
「狂人? 助手君、それは最高の褒め言葉ですよ。……見なさい。この帽子の繊維に残された残留思念。それは怒りでも悲しみでもない。ただ一つ、『なぜ世界はこれほどまでに不完全なのか』という純粋すぎる問いの残響だ。……おや、お出ましですね。過去から取り残された、哀れな観測者の亡霊が」
光が収束し、私の目の前に一人の男の輪郭が形成される。
イチョウ商会の商人装束。だが、その瞳に宿る光は商売人のそれではない。かつてプラズマ団で私が目にした、理想という名の毒に侵された者たちの輝きをもっと鋭利に、もっと絶望的に研ぎ澄ませたような眼差し。
「……招かれざる客ですね。君もまた、あの無慈悲な神を拝みに来たのですか? それとも、私を笑いに来たのですか?」
男――ウォロが、半透明の唇を動かした。その声には、第18話で聞いたウルトラスペースゼロの風の音と同じ、乾いた虚無が混じっている。
「笑う? とんでもない。私はあなたに感謝しているのですよ、ウォロさん。あなたが神への階段を無理やりこじ開けてくれたおかげで、200年後の科学者である私が、こうしてアクロママシーン17号を設置する手間が省けたのですから」
「……科学。アクロママシーン。聞き慣れぬ言葉だ。だが、君のその瞳……ギラティナと同じ、混沌への渇望を感じる。君も世界を壊し、創り直したいのか?」
「くっ、ふふふ! 創り直す? そんな非効率なことはしませんよ。私はただ、この不完全で、綻びだらけで、矛盾に満ちた世界を、そのままの形で『理解』したいだけだ。神が隠蔽した裏側も、あなたが憎んだ理不尽も、すべては私のハードディスクに収まるべきデータに過ぎない」
私はアクロママシーンを起動し、ウォロの幻影を介して、背後のアルセウスへとダイレクトなプローブを打ち込んだ。
「……ウォロさん。あなたはアルセウスに跪かせることを望んだ。だが私は、アルセウスを『定義』することを選ぶ。あなたがプレートを集めて辿り着けなかった答えに、私はこの量子演算機をもって引導を渡す。……いいですか、観測されない神は存在しないも同義なのですよ!」
「……傲慢な。だが、心地よい傲慢だ。もし私の時代に君のような変人がいれば、私はあのギラティナを、もう少し上手く御せたのかもしれませんね……」
ウォロの幻影が、自嘲気味に、だがどこか満足げに透けていく。
彼が落とした帽子が、黄金の光に溶けて消えていくのと同時に、背後の「はじまりの間」が激しく脈動し始めた。
時間は一周し、因果の円環が閉じる。
「……さて、助手君。対話(ディベート)は終了です。先駆者の執念は、すべて私のエネルギーへと変換されました。……次はいよいよ、境界線を踏み越えるとしましょうか。アルセウスの心臓に、私の論理(ロジック)を直接叩き込む。世界を分ける必要はありません。不完全なまま、すべてを私に観測させなさい!」
私は笑い、端末を握りしめた。
アルセウスの宇宙が、私の歓喜に応えるように白銀に爆発する。
第23話。オーバーロード。
神の静寂を、科学の咆哮で塗り潰して差し上げますよ。
……ええ、科学ですから!