ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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境界線を、踏み越える(オーバーロード)

「……くっ、ふふふ。よろしい。実に見事な、そして完璧に絶望的な『世界の静止』だ」

 

私は今、全宇宙の演算処理が一点に収束する「概念の心臓部」に指をかけている。

眼前に浮かぶのは、もはや第21話で見た馬のような形態すら維持できず、1000本の輝ける触手を全次元へと剥き出しにした、アルセウスという名の「巨大な論理回路」だ。

かつてウォロが跪き、アカギが拒絶し、Nが友と呼んだ世界の理(ことわり)。そのすべてが、今、私のアクロママシーン17号のプローブによって、0と1の信号へと強制的に翻訳されている。

 

「アクロマ様……! 計測不能です! 因果律のフィードバックが強すぎて、私の脳の言語野までバグり始めています! やめてください、これ以上踏み込んだら、あなたという存在が宇宙の余白に上書きされて消えてしまう!」

 

通信端末から聞こえる助手君の声は、もはや悲鳴というよりは純粋な物理現象としてのノイズに近かった。

 

「消える? 助手君、言葉の定義を間違えないでいただきたい。これは消滅ではなく、拡張(プラグイン)ですよ。……いいですか、世界が分かたれているから悲劇が起きる。観測できない『裏側』があるから、人は神に縋り、あるいは絶望する。ならば、私がその境界線をすべて踏み潰し、全次元を一つの観測可能なデータ・ストリームへと統合(オーバーロード)すれば済む話だ」

 

私は、白衣を激しい次元の嵐に翻しながら、アクロママシーンの最終リミッターを解除した。

第6話で拾った「あかい鎖」の残骸を触媒にし、第18話の「くさび」の欠片で増幅された私の論理が、アルセウスの心臓……宇宙の核へと突き刺さる。

 

「さあ、全地方の記憶を私に流し込みなさい! イッシュの真実も、カロスの生と死も、シンオウの時空も、アローラの光も! すべてを等価な情報として、このアクロマが観測して差し上げます!」

 

瞬間、視界が爆発した。

3000年前にAZが放った最終兵器の閃光。

宇宙の塵から生まれたメテノたちの歌。

ウツロイドに侵食され、混濁していくリラの意識。

それらすべてが、私の脳内に同時並行で流れ込んでくる。

神の視座。

いや、それはそんな情緒的なものではない。

ただ、世界という名の巨大な機械の、あまりにも精密で、あまりにも不器用な「設計図」を読み解く快楽だ。

 

「……アクロマ、お前は……本気で、神に成り代わるつもりか……?」

 

次元の圧力に押し潰されそうになりながら、ハンサム君が震える声で叫ぶ。

その隣では、シルヴァディがアルセウスの波動と共鳴し、その仮面を砕かんばかりに咆哮していた。

 

「神に? ハハハ! ハンサム君、君は相変わらずロマンチストですね。私は神になど興味はない。私はただ、最高に『効率的で透明な世界』を望んでいるだけだ。……境界線を、踏み越える。神の秘匿した不完全さを、私の科学で埋め尽くす!」

 

アクロママシーンのモニターが真っ白に発火する。

全次元を支えていた1000本の腕が、私の演算に耐えかねて悲鳴のような共鳴音を上げた。

アルセウスの「目」が、私を捉える。

そこにあるのは怒りではない。

自らが産み落とした生命の一つが、ついに自分というシステムをハッキングしに来たことに対する、機械的な肯定。

 

「……理解しましたよ。アルセウス。あなたも、待っていたのですね。自分という孤独なプログラムを、完全に読み解くことができる『観測者』が現れるのを。……よろしい。世界を分ける必要はありません。不完全なまま、すべてを私に観測させなさい!」

 

私は叫び、Enterキーを叩きつけた。

宇宙を構築していた幾何学的な模様が、一気に私の中へと吸い込まれていく。

私が世界になり、世界が私になる。

すべての綻びが繋がり、因果の糸が一本の完璧な直線を導き出す。

その光の中で、私は、もう二度と会うはずのなかった「彼ら」の顔を、データの彼方に幻視した。

 

「……さて。これで、計算はすべて終わりました」

 

光が収束していく。

神の沈黙が戻り、オーバーロードしたアクロママシーンから、ぷすぷすと煙が上がる。

私は、誰もいなくなった真っ白な空間で、一人、満足げに微笑んだ。

境界線は消えた。

だが、世界は壊れなかった。

ただ、一人の科学者の手元に、すべての真理を記した一通の「答え」が残されただけだ。

 

「……ええ、科学ですから」

 

私はゆっくりと、元の世界……不完全で、美しく、そして少しだけ騒がしい路地裏へと帰るための座標を入力した。

残るは、最後の一仕事。

私を信じて待っている、あの「英雄たち」への報告だけです。

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