ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……クハハハハ! よろしい! 実に、実に見事に『腐敗した存在確率』だ!」
ミアレシティにそびえ立つ、何の変哲もない雑居ビルの一室。私は今、アクロママシーン17号の出力を限界まで引き上げ、物理法則が悲鳴を上げる中で独り、狂喜の舞を踊っている。
モニターに映し出されているのは、一般市民が「幽霊」と呼んで腰を抜かす、不規則に腰を振る少女の輪郭。だが、私のレンズが捉えているのはそんな安っぽいオカルトではない。それは次元の膜が破れ、あちら側の「虚無」がこちらの「現実」にこぼれ落ちた、最悪の『情報の書き損じ』だ!
「アクロマ様! ビル全体の空間安定性がマイナス120%を突破! モニターの少女、腰を振るたびにこの部屋の座標をズタズタに削り取っています! これ、幽霊どころか、歩くブラックホールですよッ!」
ホログラムの助手君が、ノイズまみれの画面の向こうで絶叫する。
「ブラックホール? 助手君、表現が甘い! これは3000年前の最終兵器が撃ち抜いた『因果の穴』に、現代の観測員が転落し、時空のスクラップとして圧縮された成れの果てですよ! 彼女はあちら側にいながら、こちらの時間を逆走しようとしている。……実にもどかしく、そして冒涜的なほどに美しい不一致だ!」
その時、ドアが蹴破られた。
「おじさん、ここで何してるの!? ここ、もうすぐ空間が爆発するって掲示板に……って、うわああ!? 何これ、部屋の中が歪んでる!?」
ボロボロのコートを羽織り、ニャスパーを連れた少女――マチエールが飛び込んできた。
「おじさん……。マチエール君、私は30代前半ですが。……まあいい。危ない場所だからこそ、私はここに居る。真理という名の劇薬は、常に致死量の毒の中にのみ精製されるものですからね!」
「そんなのいいから早く逃げて! ニャスパーが、この部屋の空気が『腐ってる』って怖がってるんだよ!」
マチエールが私の腕を掴もうとするが、その手は虚空を掴んだ。重力が反転し、私の体は数センチ浮上している。私は彼女の瞳を覗き込み、不敵に笑った。
「マチエール君。君、最近『誰かに脳髄を直接かき回される』ような感覚がありませんか?」
「え……。なんで、それを……。夜、寝てると……誰かが耳元で、聞いたこともない言語で歌ってるみたいで……」
「当然だ。君のバイタルデータには、このビルのノイズと同じ『裏側世界』の干渉縞が刻まれている。君はこの街の路地裏、あの次元の膿瘍(のうよう)で育った。無意識のうちに、君の肉体はあちら側の深淵と共鳴する『生体アンテナ』と化しているのですよ!」
私はモニターの幽霊――もはや原形を留めず、光るノイズの塊と化した少女を指差した。
「彼女は君を呼んでいる。自分を引きずり込んだ『裏側』をこちら側へ引きずり出すための、肉体という名のゲートとして! さあ、協力しなさいマチエール君。君が彼女の断末魔を『受信』し、私がそれを『翻訳』する。そうすれば、シンオウの『やぶれたせかい』とアローラの『ウルトラスペース』を繋ぐ、たった一つの深淵の正体が暴かれる!」
「そんなの……そんなの、ワクワクなんて……。でも、その子が苦しんでるなら……!」
マチエールは震える手でヘッドセットを装着した。瞬間、彼女の瞳が白濁し、ニャスパーが天に向かって咆哮する。
「よろしい! 次元の同時通訳を開始します! 助手君、ログを脳に焼き付けなさい! カロスとシンオウ、そしてアローラを貫通する、地獄からの第一声だッ!!」
スイッチを入れた瞬間、部屋が爆発的な光に包まれた。幽霊の少女のノイズが、マチエールの絶叫と重なり、一つの「声」へと収束する。
『……ミツケテ……、ココハ……ゼンブ……ヒカリアレ……』
「……クハハハハ! 素晴らしい! 幽霊さえもデータに変わる! さあ、あちら側の景色を、その絶望の全容を私に見せなさい!!」
アクロマの瞳が、狂気と知性で青白く燃え上がる。
裏側世界への扉は今、少女の意識を生贄(いけにえ)にして、音を立てて全開になった。
……ええ、科学ですから!