ポケットモンスター マッドサイエンティストな俺が、禁じられた並行世界の数式を解き明かして、伝説の神を論破する話 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「……クハハハハ! よろしい! 実におめでたい限りの、完璧な『理想の破綻』だ!」
私は今、アローラの白い砂浜で、手元の端末から流れる過去の音声ログを再生しながら、喉をかきむしるような爆笑を禁じ得ずにいる。
流れているのは、かつてイッシュ地方を震撼させたプラズマ団の王、Nの演説データ。ポケモンの声を聞き、彼らを救おうとした悲劇の聖職者の独白だ。
「アクロマ様! またそんな、死体を蹴り飛ばすような笑い方して……! せっかくのカシュ・リゾートなんですから、少しは穏やかにバカンスを楽しめないんですか!?」
通信モニターの中、ホログラムの助手君が、私の周囲で異常数値を叩き出す空間歪みメーターを見て絶叫している。
「バカンス? 助手君、私にとって最高のバカンスとは、既知の『聖域』がゴミのように崩れ去る瞬間を観測することですよ! ……いいですか、N君が抜かしていたあの甘っちょろい『ポケモンの友達の声』。当時、私はそれを脳内物質の過剰分泌による幻覚と切り捨てていた」
「まあ、普通はそうですよ。ポケモンの心がわかるなんて、お伽話の世界ですし」
「ところが、だ! ……この第3話でマチエール君を介して受信した『裏側世界』の波形を見てください。これと、N君が当時記録していた『声』の周波数成分……。驚くべきことに、これらはこのアローラの空に開く地獄の門、ウルトラホールの深淵から響く『ウルトラビーストの絶叫』と、波形が完璧に一致するのですよ!」
私は端末のモニターを指でなぞり、青白い光を網膜に焼き付けた。
「……それって、どういうことですか?」
「簡単な理屈だ! N君はポケモンの言葉など一言も理解していなかった! 彼は、世界の裏側……ウルトラスペースから漏れ出していた『異形の侵略者』の精神汚染を、その特異体質ゆえに受信してしまっていただけだったのだ! 彼は『友達』と語らっているつもりで、実際には理解不能な化け物の『侵食音』に脳髄をかき回されていただけだった……! 実に、滑稽だとは思わないか!?」
「……それ、本人が知ったら精神崩壊(ルナアーラ)もんですよ。あんた、本当に鬼だ……」
「科学はいつだって残酷だ。理想という名の皮膚を剥ぎ取り、残った骨組みを愛でるのが私の流儀ですから。……さて、助助手君。命題は最終段階(ファイナルフェーズ)へ移行する。なぜ、UBの声がイッシュまで届いていたのか。なぜ、カロスやアローラの穴は、すべて同じ『裏側の震源地』へと繋がっているのか……」
私は突如、端末の感度を最大に跳躍させた。
アローラの抜けるような青空の向こうから、第1話のゲノセクト、第2話の路地裏、第3話の幽霊……そのすべてを統合する「はじまりの音」が、極低周波となって響いてきたのだ。
「……聞こえますか、助手君。この音、アローラのポニの祭壇に響く音色と同じですが……その根源はもっと古く、もっと巨大だ。この旋律の『親』となる波形は、おそらくシンオウの神話が眠る、あの極寒の頂にある」
「次はシンオウ……テンガン山ですか!? 嫌ですよ、あそこは遭難者が出るくらい危ないって……!」
「構いませんよ。真理の頂に辿り着くのは、私と、この次元を超越したアクロママシーン17号だけで十分だ。……ああ、全身に鳥肌が立ってきました。世界の綻びを縫い合わせる、全宇宙のマスターキーを取りに行くとしましょうか」
私は白衣についた砂を払い、猛然と立ち上がった。
次は第5話、テンガン山。
アローラの「月輪・日輪の笛」の和音の一部が、シンオウの「てんかいのふえ」の周波数と重なり合うその瞬間……。
神話という名の化けの皮を、科学のメスで完全に解体して差し上げましょう!
「……科学の力は、神さえも定義の檻に閉じ込める。……ええ、科学ですから!」
アクロマの不敵な笑い声が、アローラの静かな海辺を、不吉な予兆と共に切り裂いていった。