カルエゴのアドバイスをもとにミリアを食事に誘う!
放課後の職員室。
紙の擦れる音と、低いざわめき。
その中で、バラム・シチロウは資料を開いたまま、しばらくページをめくっていなかった。同じ箇所を繰り返し読んでいる。理解はできる、だが、思考が別の方向へ逸れる。
(あれ?なんだっけ……おかしいな)
一度ページをめくるも、やはりまたページを戻して読み返す。
「珍しいな」
低い声が後ろから聞こえた。視線を上げる。
そこに立っていたのは――ナベリウス・カルエゴ。バラムの同僚であり数少ない友人でもある。
「いつまでそのページを読んでるんだ。シチロウ」
「カルエゴ君」
的確すぎる指摘。
「……そう見える?」
「見える」
即答。ため息を吐きながらカルエゴは机の端に軽く寄りかかった。
「で、どうしたんだ?」
(……)
バラムは一瞬、考える。
論理的に整理すればいい。
「最近…ちょっと考え事が多くって」
「ほう」
カルエゴの目がわずかに細くなる。
「……」
数秒の沈黙。
カルエゴが、ゆっくりと息を吐く。
「回りくどい」
一刀両断。
「対象は誰だ」
(……)
隠す理由はない。
「…ミリア先生」
カルエゴの口元が、ほんのわずかに動く。
だがすぐに消える。
「続けろ」
「えっと、ミリア先生の家系能力知ってる?なんにでも変身できるんだよ。すごいよね。それで、変身して欲しい魔物がいくつかあるんだけど…魔物だけじゃなくて魔植物も!でも急にこんなことお願いしたら失礼だよね…、でも諦めきれなくて」
バラムは淡々と説明する。
「粛に!急に流暢に喋り出すな!一体何の話だ!」
カルエゴが喝を入れる。
(ここ最近上の空だとおもったら、やはりコイツは生き物のことしか頭にないのか?)
「ミリア先生ともう少し仲良くなれればなーって思ってるんだよね」
「…ほぅ?」
カルエゴの口元が再びわずかに上がった。腕を組み体を向きなおす。
「単純な話だ。食事に誘え」
「え?」
「食事に誘えと言っとるんだ。そこでゆっくり話をしたらいいだろう」
「でも、食事って、どこで?」
「知るか!そのぐらい自分で調べろ!その辺のオシャレなカフェにでも誘ったらいいだろうが」
「オシャレなカフェ?」
「まったく…。この後暇か?」
「え、うん。この資料読もうと思ってたけど急ぎじゃないから」
「なら作戦会議だな」
カルエゴはニヤリと笑った。
二人は学校から少し離れた通りに来ていた。ここはバラムとカルエゴがたまに来るレストランでもある。
席に着くと、カルエゴはメニューも見ずに注文を済ませる。バラムも適当に同じものを頼んだ。
しばらく、無言。グラスに水が注がれる音だけが小さく響く。
「で」
カルエゴが先に口を開く。
「ミリア先生とはどの程度の距離だ?」
バラムは一瞬、視線を落とす。
「……それなりに雑談する程度かな?」
「それで、もう少し仲良くなりたいと?」
「まぁ」
カルエゴが、わずかに口元を緩める。
「なるほどな」
料理が運ばれてくる。湯気と共に香ばしい匂い。
「食事に誘うくらいは出来そうな仲か?」
カルエゴは箸を取りながら言う。
「うん。大丈夫だと思う」
「ならば明日にでも誘え」
「でも、オシャレなカフェってどこ?」
バラムが不安そうにカルエゴを見つめる。
「…ハァ。学校南側にある並木通りにパンケーキの店があったろ?そこでいいんじゃないか?」
カルエゴは軽く鼻で笑う。
「あぁ、前に一緒に行ったね」
以前、たまたま二人で通りかかって入った店だ。たっぷりの生クリームが乗ったフワフワのパンケーキが名物である。
「でも、タイミングが難しい」
バラムが手元の飲み物のストローをくるくると回し、カランと氷が鳴る。
「仕事の顔のまま聞くな」
「……?」
「相手も“先生”で答える」
(……)
バラムは飲み物を持ったまま黙って聞いている。
カルエゴは続ける。
「“ミリア先生”じゃなくて、“ミリア”として話せる状況を作れ」
「……プライベートってこと?」
「そういうことだ」
バラムは眉をひそめる。
「そこまで踏み込んでいいのか」
カルエゴは、少しだけ目を細める。
「踏み込むな。“同じ場所に立て”」
一拍。
「要は、研究者ぶるなって話だ」
バラムは、腕を組んで首を傾げた。
カルエゴは何か言おうとして、寸前で思っていたことを言い換えた。
「ミリア先生と、友達になりたいんだろう?」
「あ…!うん!」
バラムは無邪気に笑った。
カルエゴはそれを聞いて、ほんの少しだけ満足げに目を細める。
「最初からそう言え」
料理はもうほとんど残っていない。
「で。シチロウ、誘い方は分かってるのか」
「……今から考える」
カルエゴが、今度ははっきりと笑った。
「そこからか」
夜の店に、低い笑いが小さく落ちる。
「ウエイター!ビールを2杯頼む!」
カルエゴが追加の注文をした。夜はまだ続きそうだ。
翌日。悪魔学校バビルスは終末テストの準備で教師も生徒もどこかそわそわしている。その中で二人の悪魔だけはまた違った意味でそわそわしているのだった。
「あ。」
廊下を歩くバラムは向かいから歩いてくる養護教諭ミリアに気が付いて足を止めた。
「バラム先生!あれからあの魔物は無事帰せましたか?」
ミリアの方もバラムに気が付き足を止めて問いかけた。
「ええ。お陰様で元気になって森に戻りましたよ。ありがとうございます」
「そうですか!良かったです!」
そう言うと、ミリアは軽くお辞儀をしてそのまま通り過ぎようとした。
「待って!!!」
バラムは咄嗟に呼び止める。
「?」
「あ、あの、ミリア先生。今度その・・・お茶でもどうですか?]
ミリアが目を丸くして振り返る。バラムは一度咳払いして続けた。
「実は・・・パンケーキのお店なんですが、その、男一人じゃ入りづらくて・・・。」
昨晩カルエゴに教わった言葉を復唱するようにそのまま口にした。
「パンケーキ・・・ですか?」
ミリアはその場に立ち尽くして震える唇で聞き返す。(バラム先生とお茶?二人で?)目が左右に泳ぐ。(いや、別に意識することではないはず。たまたま通りかかったから誘ってくれただけ)何か言おうとするも喉が詰まって声がでない。
「あ…、あまりお好きじゃない…ですか?」
バラムの顔は長い髪に隠れているが不安そうにしているのが見て取れる。
「大丈夫です」
「?」
どっちとも取れない返事をしてしまった。バラムが困った顔をしている。
「えっと、パンケーキは好きです。いつにしますか?」
ミリアは焦って言い換えた。
「良かった!ありがとうございます!」
ぎこちない空気が流れる。
「えっとじゃあ、誘っといて申し訳ないのですが、終末テストが終わってからでもいいですか?」
「はい、先生方は忙しいですもんね。私はいつでも大丈夫です。」
赤くなった顔を隠すようにミリアは下を向いて頷いた。黒く細い猫っ毛がふわりと風に揺れる。
ーフワッー
頭に何か触る感触。
「…ッッ!!!」
撫でられている。大きな手が頭を包んでいるのが分かる。ミリアは茹蛸ほど赤くなった顔を片手で隠しながら、もう片方の手でバラムの体を押した。
「先生、恥ずかしい、です」
「あぁ!すみません、つい!」
「わ、私は用事があるので、また連絡ください!では!」
「はい!また!」
ミリアは手に持った資料で顔を隠すように走って逃げた。
「さ、誘えた…!カルエゴ君に報告しなくちゃ!」
バラムは踵を返して少し嬉しそうに職員室に向かった。
終末テストの答案返しも終わり、教師陣が一息つく頃。職員室はいつもと違うざわめきが起きていた。
「ば、バラム先生!?どうしたんですか????」
「おはようござ…えっ?誰?」
「え、バラム…先生?…何かあったんですか?私、いつでも相談に乗りますからね…」
教師たちは代わる代わるバラムに驚きと心配の声をかける。
それもそのはず。バラムの特徴であった長髪がバッサリと切られているのだから。
「あぁ、いや、髪が長すぎて皆怖がるのかと」
(((違う意味でそっちの方が怖い))))
先生達は内心そう思いながら、それ以上は突っ込まないのであった。
「おい、シチロウ。なんだその頭は」
「カルエゴ君!んー。最近気になる生徒がいて…その子に触発されたというか。自分も変わろうと思ったんだよね」
「生徒?(ミリア先生ではないのか?)」
カルエゴは眉間に皺を寄せて首をかしげた。
「うん。ほら、君のクラスの入間君だよ。彼って面白いよね。僕も先生として負けてられないよ」
「…そうか。」
言いたいことはあったが、カルエゴはこれ以上気にしないことにした。
「まぁ髪の事はいい。それより今日じゃなかったか?デートは」
「デート?」
「…ミリア先生だ」
「あぁ!その話ね!やだなデートだなんて!お茶するだけだよ」
(こいつ正気か?)
カルエゴは顔を引きつらせた。
「今日のお昼休憩に行くつもりなんだ。色々聞きたいことがいっぱいあり過ぎて質問リスト作っちゃった」
バラムはごそごそとポケットから手のひらサイズのメモ帳を取り出した。そしてびっしりと字が書かれたそのメモ帳をパラパラとめくって見せた。
「何ィ!?…貴様、尋問しに行く気か?」
「ミリア先生、なでも変身できるらしいけど、視力や聴力はどうなるんだろう?気になって寝れなかったよ!なんで今までちゃんと知り合わなかったんだろう!」
バラムは目を輝かせて胸元で両手を握った。
(こいつ…一晩付き合った私が間抜けだったか…)
「もういい。終わったら報告しろ…」
「もちろん!ありがとうカルエゴ君!!」
カルエゴはふらふらとよろけながら教室へ向かうのだった。
―昼休憩―
ミリアは保健室で化粧直しをしていた。
(こんなことする必要ないけど・・・ないけど!!)
誰に言い訳をしているのか、そんなことを考えながらファンデーションを叩く。
(服装変じゃないかな?ちょっと職場に着て来るにはカジュアルすぎたかな?)
外に続く掃き出し窓にうっすらと反射する自分を見ながらくるくる回ってチェックする。
薄ピンクのフレアスカートと白いブラウス。普段の仕事着よりややガーリーな服装だ。
―コンコン。
「失礼します。ミリア先生いらっしゃいますか?」
保健室に現れたのは身長2メートルはあろうかという大男、バラム・シチロウだ。
「はい!あ、バラム先せ・・・・・えっ!!!!!!」
ミリアは振り返りその場で驚いて尻餅をついた。
「ど、どうしたんですか!?髪が!!!!」
「なんで皆そんなに驚くの?僕だって髪の毛くらい切るよ」
バラムは頭をポリポリと掻いて笑った。
「すみません、ついビックリしちゃって」
(え、髪!え……今日の為に?え?…嘘…)
ミリアは目を白黒して動揺した。
「大丈夫ですか?」
バラムが手を差し出す。
「あひっ!」
変な声が出て顔が熱くなる。ミリアはおそるおそるバラムの手を取った。大きな手に自分の手を乗せるとまるで子供みたいだ。ビロードのような柔らかい手袋、その下にある硬い鱗と鋭い爪の感触が手に伝わって、撫でられた時を思い出させる。
―ぐっ
バラムがミリアを起き上がらせようと、手を強く握った。
(…!!!!!)
ミリアの胸が締め付けられる。握られた手より強く苦しかった。
「ッ!た、立てます。ありがとうございます」
そっと手を離し、起き上がって服をはたいた。
「じゃあ、行きましょうか」
バラムは目を細めてにっこりと笑った。
お昼時ではあったが平日なのもあり例のカフェはさほど混んではいなかった。
「すぐに入れそうですね」
ミリアが店内を覗きながら呟いた。
「ああ、そういえば予約とかしてなったな。空いてて良かったです。入りましょうか」
―カランッ―
「いらっしゃいませ!二名様ですか?」
可愛らしい女性店員がキッチンから現れた。彼女はバラムを一目見て慣れたように奥のソファ席に案内した。普通席の椅子は小さすぎると判断したらしい。
ソファの真ん中にちょこんと座るバラムはなんだか置物のようだ。
「ミリア先生は何食べますか?この魔フルーツ特盛オススメですよ」
「わぁ、美味しそうですね」
「…。」
(気まずい。何話せばいいんだろう?)
ミリアはメニュー表を見るが、なかなか頭に入ってこない。何が食べたいかも分からないしそもそもお腹が空いているのかも分からない。
「どうしよう」
「ミリア先生、どれかと迷ってますか?」
バラムがメニュー表を顔から少し下げて、その三白眼を覗かせた。
「あ、そうです…ね。魔フルーツ特盛も美味しそうですが、この魔ッ茶クリームのやつも美味しそうです」
「…魔ッ茶クリームも確かに美味しそうですね」
バラムは少し考えて口を開いた。
「そうだ。僕が魔ッ茶クリーム頼むので、一緒に食べませんか?」
「えっ、でもバラム先生はご自分の食べたいものあるんじゃないですか?」
「僕も食べたいので大丈夫ですよ。ね、そうしましょう」
「あ、じゃあ…お言葉に甘えて」
(シェア…これはやはりデート…なのでは…)
注文が済んだあと、ミリアは落ち着かず窓の外を見たり水をしきりに飲んだりしている。
「ところで」
バラムが先に口を開いた。
「はい!」
ハッとしてミリアが姿勢を向きなおす。
「実はミリア先生にお聞きしたいことが沢山あって…いいですか?」
「え、ええ。私に答えられることであれば」
「ありがとうございます!!!!さっそくなんですけど、ミリア先生の魔法はなんでも変身できるんですよね!そのことについてもっと知りたくって!」
バラムは目を輝かせて質問リストとペンを取り出した。
(あ…そっか。そう言う事か…。なんか浮かれちゃったな)
「ハハ…。いいですよ」
手に握ったグラスが、先ほどより急に冷たく感じた。心臓がストンと落ちたような妙な気持ちになる。
「さっそくなんですが、先生は見たことない物にも変身出来ますか?例えば古代の魔生物とか」
「あー。それっぽい姿に想像して変身することは出来ますが、やはり本物を目で見ないと精度は悪いです。下手くそな人が描いた絵みたいな変身になっちゃいますね。私の変身能力はその対象の理解度に多少依存します。まぁ一度目で見ればかなりの精度で変身できますが」
「そうなんだ!すごいですね!!!じゃ、じゃあ!変身したときの視力はどんな感じ?魔ントヒヒに変身したことはある?」
「いや、それはないですが…視力は変身対象と同じ視覚を持つことが出来ます」
話していると、奥から大きな皿を二つ持って先ほどの店員が現れた。
「お待たせいたしました!魔フルーツ特盛と魔ッ茶クリームでございます!こちら取り皿です」
「お、来たね!」
机に巨大なパンケーキが二つ並べられた。ミリアは目を見開いた。というのもミリアは甘いものが大好きなのだ。
(美味しそう!)
「半分分けるね」
バラムがナイフでパンケーキを取り皿に分けて渡す。ミリアもならって取り皿に半分取り分けた。
「ふふ。ミリア先生と来れて良かったです。今日すごく楽しみだったんですよ。」
バラムが無邪気に笑う。ミリアの胸がまたじわりと熱をおびる。
(それはずるい…!)
「お、お誘いありがとうございます。私、実は甘い物大好きなんです。…私もここに来られて嬉しいです。」
「そうだったんだ!ここに誘って正解でしたね」
二人はパンケーキにフォークをさし一口食べた。
「「美味しい!」」
同時に感想がこぼれる。今までいじいじと悩んだのが嘘のように笑いあう。
「バラム先生、口元隠してすごく上品に食べるんですね。ふふ」
ミリアが顔を上げて笑う。
「あ・・・いやこれは・・・・実は僕、幼少期の怪我で牙が剝き出しなんです。だから食べる時はこうしてないとお目汚しですから」
バラムは照れながら両手で口を覆う。頬が無いのは食事にかなり影響するのだろう、小さく切って少しずつ丁寧に咀嚼している。
「そうだったんですか。…あの、この席一番奥ですし、私以外のお客さんからは見えないので…先生がいやでなければ、楽にして食べてくださいね。」
バラムは目を丸くしてミリアを見つめた。
「ありがとうございます。そう言ってもらえるだけで気楽になりますよ」
バラムは少し緩めていた口枷を完全に外して傷を手で覆った。口の片側だけで微笑んでいるのが分かる。
(私、バラム先生の素顔初めて見たな)
思えば、長い髪と口枷に隠れてその鋭い三白眼以外にバラムの顔の造形など今までほとんど分からなかった。
「素顔、かっこいいですね」
「…え」
一瞬の間ののち、ミリアの顔が一気に紅潮する。
(あれ、私、今、口に出してた?!)
バラムはというと、目を見開いて固まっている。
「あ、いや、その、すみません。なんか今までちゃんとお顔を拝見したことがなかったので、驚いたというか、いや、なんというか!!その!!!」
かっこいいと言っておいて否定するわけにもいかずミリアは取り乱した。
「…はは、嬉しいな!僕、この顔でみんなに怖いって言われるから」
「あ…。」
少し寂しそうに笑うバラムを見て、ミリアは冷静さを取り戻した。今まで傷のせいで苦労もしたのだろう。
「怖くないですよ。バラム先生が優しいのは私も、他の先生たちも知っていますから」
「ありがとうございますミリア先生」
笑うと頬が引っ張られて手で隠した口元の牙と痛々しい傷の痕が覗く。
(バラム先生にも人に見せたくない事があるんだな。私は…)
ミリアは手元のパンケーキに視線を落としながら、一瞬昔のことを思い出した。
「バラム先生、それで私に聞きたいことが沢山あるっておっしゃってましたけど」
「あぁ!そうなんだ!まだ終わってない質問は…」
バラムは背中を丸めて手元の手帳を確認する。その仕草が妙に面白くてミリアはクスリと笑った。
「えっと、前に変身後も悪魔語が話せるとおっしゃってましたが、そもそも口のない無生物なんかに変身したときはどうやって喋るんですか?」
「あぁそれは、実は悪魔語で喋る時は通常時と違って、魔法を音を出しているだけなので変身の能力とは別なんです。物理的に喋ることはできません」
「あぁ、そういうこと!?」
「じゃ、じゃあ、理論上は何に変身しても魔法が使える限り悪魔語での意思疎通は可能という訳ですね」
「おっしゃる通りで」
「へええ!すごいなぁ!面白い!」
ミリアはバラムの顔を見上げた。子供のように目を輝かせて手帳に書き込んでいる。その姿がとても可愛らしいと思った。そしてまた、一瞬昔のことを思い出した。クラスメートの出席の代返を頼まれたことや、好きな男の代わりをさせられたこともあっただろうか。
今は、そんな昔のことはもうどうでもいいと思えた。
「それと、実は子供の頃からずっと気になっていた魔植物があって、この植物に話が聞ければと思っていたんです――」
休憩時間が終わるギリギリまで、二人はカフェで話し込むのであった。
「ミリア先生、今日はありがとうございました。本当に有意義でした」
店を出て、二人は学校に戻ってきていた。
「ええ、バラム先生こそ誘ってくれてありがとうございます。パンケーキ、すごく美味しかったです」
ミリアが軽くお辞儀をする。
「ミリア先生、もしよかったら…また食事に誘ってもいいですか?」
「またですか?ふふ。次は私が質問責めにしようかな」
「す、すみません!質問は控えます!」
「いいですよ。なんなら変身も特別に見せてあげます!」
「いいんですか!?」
バラムがまたキラキラとした目で顔を近づける。
(あ、やばい。余計な事言ったかも…)
ミリアは少し顔を赤らめて目をそらした。
「でも!バラム先生、お触りは禁止ですからね!」
「えっ、そんな……。…分かりました」
バラムが露骨に下を向く。
「あ、そうだ先生、魔イン交換しましょう」
ミリアがポケットからス魔ホを取り出す。
「あぁ、そうですね」
連絡先交換を終えたころに、ちょうど休憩時間が終わりを告げた。
「それじゃあ、ミリア先生。またご連絡します」
「はい、それでは」
二人はそれぞれの持ち場へと足を運んだ。
(今日はミリア先生に色々聞けて良かったなぁ。)
バラムは今日聞いた情報をノートにまとめている。
『素顔、かっこいいですね。』
唐突に、ミリアの言葉が頭の中に浮かび上がる。
(かっこいいですね…)
バラムは手を留めた。
なぜかノートを整理する気になれず、虚空を見つめて何度も同じ言葉を頭の中で復唱するのだった。