【バラム×オリキャラ】先生お触りは禁止です   作:夜鳴蝦蟇

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【あらすじ】カフェデートの前日譚。それぞれが思い思いに準備してます。


第四話 保健室では静かに

時は遡り、バラムが廊下でミリアをカフェに誘った日の夜。

仕事も終わり帰宅したミリアはクローゼットから服を全て出して床に無造作に投げていた。

「どうしよう。いつもの服で行く?いや、でもオシャレぐらいした方が…」

「これは?派手か流石に」

「もう少し落ち着いた服…これは地味過ぎる」

姿見の前で服を取り換えてはブツブツと独り言を続けている。

普段のオフィシュカジュアルな服装とは違った、花柄のワンピースや肩のでたブラウスを手に持って見比べた。

「ちょっと、はしゃぎ過ぎ?」

薄ピンクのフレアスカートと白いブラウスを手に取り、皺を伸ばしてハンガーに吊るす。

(そういえば、また連絡してって言ったけど…連絡先知らない…)

(連絡先…聞くべき、よね?)

(私から聞いた方がいいのかしら?)

ミリアは服の山をクローゼットに押し戻しながら思案した。

 

ベッドに腰を掛け、ス魔ホを手に取り、また置いた。

「……いや、連絡先も知らないのに、何を確認するのよ私」

ぽつりと呟いて、枕に顔を埋める。

頭の中では、昼間のバラムの様子が何度も繰り返されていた。

『今度、カフェに行きませんか?』

あの時の声。少しだけ弾んでいて、けれどどこか真面目で。

(……あれは、どういう意味での“誘い”なのかしら)

ごろん、と寝返りを打つ。

(ただの興味?それとも……)

そこまで考えて、ミリアはぱっと顔を上げた。

「な、何期待してるのよ、私!」

自分で自分にツッコミを入れ、また枕に沈む。

しかし頬の熱はなかなか引かない。

「……でも、二人で出かけるのよね」

小さく呟いたその言葉は、部屋の中でやけに甘く響いた。

 

 

時を同じくして、バラムは学校の準備室で新しいメモ帳を取り出していた。

「聞きたいことがいっぱいあるから、忘れないようにしなくちゃね」

表紙をめくり、真っ白なページを前にして、ほんの少しだけ指が止まる。

(……ちゃんと順番立てて聞いた方がいいかな)

思考を整えようとペンを持った途端、新品のメモ帳が恐ろしい速度で埋まってゆく。

(そうだ、魔ントヒヒの視覚は悪魔と違って魔力まで見えるっていうけど、どういう感じなんだろう。図鑑持っていけば変身してもらえるかな?……いや、流石にカフェで変身したら迷惑か)

一行書くごとに、次の疑問が自然と湧き上がる。

(変身中の感覚共有はどうなってるんだろう。視界だけじゃなくて、聴覚や触覚も再現されるのかな)

ぺらり、とページがめくられる。

(……でも、まずは雑談から入った方がいいのかもしれない)

ふと、ペン先が止まった。

(いきなり質問ばかりだと、警戒されるかもしれないし)

そこまで考えて、わずかに首を傾げる。

(……警戒、される?)

胸の奥に、ほんの小さな引っかかりが生まれる。

(いや、ミリア先生はそんなタイプじゃないと思うけど……)

思い浮かぶのは、あの時の表情。

少し戸惑ったようで、それでいてどこか柔らかかった視線。

(……でも、嫌な思いはさせたくないな)

その考えは、驚くほど自然に浮かんできた。

理由を探すように、視線がメモ帳へと落ちる。

(貴重な能力だし、協力してもらう以上は、ちゃんと配慮しないと)

自分なりの答えに頷いて、再びペンを走らせる。

「最初は雑談。リラックスした状態で——っと」

書き足された文字は、どこか慎重さを帯びていた。

「楽しみだなぁ。テストの採点が終わるのがたぶん来週でしょ……。早くても片付けが終わってすぐの昼休憩かなぁ」

カレンダーと赤ペンを手に取り、日付を確認した。

赤ペンで囲ったその日を見つめて、ふと目を細めた。

(……なんだか、待ち遠しいな)

その感覚に、少しだけ違和感を覚える。

(こんなふうに予定を楽しみにすること、あまりなかった気がするけど……)

一瞬だけ考えて、すぐに首を振った。

「よし、それまで頑張ろう!」

気持ちを切り替えるように声を出す。

「えーっと、じゃあ連絡……あ、しまった。僕ミリア先生の連絡先知らないや」

ぴたりと動きが止まる。

「……次会う時忘れず聞かなくちゃなぁ」

そこまで言ってから、少しだけ視線が揺れた。

(でも女性に連絡先聞くって、大丈夫かな?嫌だったりしないかな……)

頭の中で、いくつかの可能性を並べてみる。

断られるかもしれない。

困らせてしまうかもしれない。

(……やっぱり、必要な連絡だけにした方がいいのかな)

そう考えかけて、ふと手が止まる。

(でも、もし予定が変わったら——)

(当日、会えなかったら……)

そこまで考えて、なぜか胸の奥がわずかにざわついた。

理由はうまく言葉にならない。

けれど、

(……それは、困るな)

ぽつりと浮かんだその感情を、バラムは深く考えなかった。

「……うん、やっぱり聞こう」

小さく頷いて、再びメモ帳に向き合う。

今度は少しだけ丁寧な字で、「連絡先」と書き加えた。

その下に、さらに細かな項目が増えていく。

理由も整理もつかないまま、ただ“抜けがないように”と書き続ける。

ページは、やがてびっしりと埋まった。

 

 

数日後、

バビルスの廊下は、テスト後のどこか気の抜けた空気に包まれていた。

教師たちも生徒たちも、嵐の後のような静けさの中にいる。

ミリアはコツコツとパンプスを鳴らし歩きながら、きょろ、と視線を彷徨わせた。

(今日、いるかしら……)

探している自覚があるのが、なんだか悔しい。

その時。

「あ、ミリア先生」

後ろからかけられた声に、肩がぴくりと跳ねた。

振り返ると、そこにはやはりバラム・シチロウが立っていた。

「……バラム先生。お疲れ様です」

いつも通りの声を出したつもりだったが、ほんの少しだけ上ずった。

バラムはにこりと笑い近づく。

「この前の話なんですけど、カフェの件。日取り決めようと思いまして」

「あ、はい……えっと」

ミリアの脳内では、なぜか“休日の街並み”が広がっていた。

ゆったりした午後、並んで歩く二人、窓辺の席――

「……来週の、どこか空いている日に」

自然とそう答えてしまう。

バラムは一瞬きょとんとしてから、ぱちぱちと瞬きをした。

「来週!良かった!ちょうど僕、仕事が一段落するタイミングで!じゃあ6日の昼休憩に行きませんか!」

「……昼休憩?」

その一言で、ミリアの脳内の“休日デート風景”が音を立てて崩れ落ちた。

カラン、カラン、とガラス細工が砕けるみたいに。

「あまり長い時間は取れないんですけど、その分、色々お話できたらなって」

嬉しそうに言うバラム。

(……仕事の、合間?)

ミリアは一瞬だけ言葉を失ったが、すぐに表情を整えた。

「……そうですね。昼休憩なら、私も調整できます」

心の中で、小さなため息がふわりと浮かぶ。

(そっか……そういう感じなのね)

ほんの少しだけ、期待していた自分がしゅんと肩を落とす。

一方でバラムは、そんなミリアの内心に気づくことなく、ぱっと顔を明るくした。

「よかった!一番早く予定組めるのが6日からしかなくて」

日程調整は驚くほどスムーズに進んだ。

けれど―、

「あ、あの――」

「そういえば――」

同時に口を開き、ぴたりと止まる。

「……どうぞ」

「いえ、ミリア先生こそ」

譲り合いの応酬。ぎこちない空気が流れる。

ミリアは一瞬迷ってから口を開いた。

「あの……と!当日!どこで集合しますか!?」

(自然に、自然な流れで連絡先を聞く!)

ミリアは畳みかけるように言葉を発してしまう。連絡先を聞こうとするほど、なぜか全然違う事を喋ってしまう。

「……えっと、そうですね…僕が保健室まで迎えに行きますよ」

「もしかすると――」

「当日って――」

再び言葉が被る。

「すみません、バラム先生どうぞ…」

「あ、いや、もしかしたらちょっと遅くなるかもしれないので――」

(遅くなるかもしれないから、連絡先を教えてください…よし。)

「全然大丈夫ですよ!私も生徒が来たら対応しなくちゃですし」

間髪入れずにミリアが返事をする。

「あ…あぁ、そうですよね」

二人の心の中で、同じ言葉がぐるぐる回る。

だが、どちらももう一歩踏み出せない。

「…じゃあ、また来週…えっと、それでなんですけど―」

【キーンコーンカーンコーン!!!】

「「あ…」」

学校の予鈴が鳴り響く。

「そ、それじゃあ6日に。」

「はい。それでは」

二人はぎこちなく軽く頭を下げて、互いに別方向へ歩き出した。

(また聞きそびれちゃった)

二人ともそんなことを思いつつも、振り返って呼びかけることが出来なかった。

 

 

 

職員室の机に向かい、バラムはメモ帳を開いた。

「えーっと……まずは、変身中の視覚について」

既に半分ほど埋まったメモ帳をパラパラとめくりながら書き込んでいく。

「魔力の流れはどうなっているのか……」

一つ書けば、次の疑問が芋づる式に浮かぶ。

「変身の精度は経験依存?それとも元の種族の理解度?」

ぺらり、とページがめくられる。

ふと手が止まる。

「……あ、違った。雑談の内容を考えようと思ってたんだった」

メモ帳に“雑談候補”と書き足す。

「好きな食べ物……休日の過ごし方……」

そこまで書いて、またペンが止まった。

(……休日、か)

けれどすぐに、思い出したようにさらさらと文字が続く。

「変身能力を初めて使った時の感覚」

「持続時間と体調の関係性」

ページはみるみる埋まっていく。

「楽しみだなぁ」

ぽつりと声がこぼれた。

その時。

「バラム先生、何やってるんです?」

不意に背後から声がかかる。

振り返ると、同僚の教師が興味深そうに覗き込んでいた。

「ちょっとね、今度ミリア先生とカフェに行く約束をしたから、その時に聞きたいことをまとめてるんです」

「……へぇ?」

相手の眉がわずかに上がる。

「カフェ、ですか」

「はい。昼休憩の時間なんですけど、色々聞けそうで楽しみなんですよ」

悪びれもなくそう言うと、同僚は一拍置いてから口元を緩めた。

「それってつまりデートですか?」

「デート?」

バラムは首を傾げる。

言葉の意味を頭の中で転がすように繰り返す。

「そういうんじゃないですよ。僕が一方的に興味あるだけどいうか…先生の変身能力についてもっと知りたいというか」

「……ああ、なるほど」

何かを納得したように、同僚は小さく笑った。

「バラム先生らしいですね」

「そうですか?」

自覚はないまま、バラムはまたメモ帳に目を落とす。

「時間が限られてるから、効率よく聞かないと」

「……まあ、頑張ってください。というか、ミリア先生…普段はキリっとした格好ですけど、フレアスカートとか可愛い感じの服装も似合いそうですよね。お綺麗ですし。」

どこか含みのある声を背に、再びペンを走らせる。

(お綺麗ですし…)

同僚の一言が何かつっかかる。モヤッとした気持ちが胸を突く。

(今の一言、なんか嫌だな)

「それじゃ!」

バラムが振り返り何か言おうとしたが、彼はさっさと立ち去ってしまった。

しかたなく机に向きなおし、ペンをとる。

(…可愛い感じの、恰好?)

女性のファッションについては詳しくない。フレアスカートが何を指すのかさえバラムは知らなかったが、何となく自分の中で「可愛い」と思う服装を考えてみた。花柄のミニスカートを想像したところで、なんだか気恥ずかしくなってメモに集中した。

カフェで過ごす時間。

その一瞬一瞬を、無駄なく使うために。

 

 

保健室の昼下がりは、静かで穏やかだ。

窓から差し込む光の中で、ミリアはカルテを整理していた。

「先生って、休みの日は彼氏とデートとかするんですか?」

唐突に投げられた言葉に、手が止まる。

顔を上げると、ベッドに腰掛けた女子生徒二人がにやにやと笑って互いに目配せする。

「……どうしてそういう話になるのかしら」

「えー!いいじゃないですかー!聞きたいー!!!!」

「別に、そんなことは……」

否定しかけて、ふと口ごもる。

「で、いるんですか?彼氏」

「いません」

きっぱりと言い切る。

「じゃあデートとかもなし?」

「……ええ、まあ」

答えながら、胸の奥に何かが引っかかる。

(デート、ね)

生徒は「つまんなーい」と軽く笑って話題を流したが、その言葉だけが妙に残った。

ミリアはふっと息をつく。

(デート……じゃ、ないわよね)

バラムの顔を思い浮かべる。

穏やかで、どこか無邪気で。

「カフェに行きませんか」と言ったときの、あの純粋な目。

(……あれは、その……)

言葉にしようとして、うまく形にならない。

(仕事の延長、よね)

そう結論づける。

わざわざ予定を空けたわけでもない。

 

「じゃあ好きな人はいるんですかー?」

 

作業するミリアの手が止まる。

(好きな人…)

脳裏に一瞬、くぐもった低い声で笑う男の姿。

しかしすぐに考えるのをやめてキッパリと答える。

「いません!」

「嘘だ!今ちょっと間があった!誰?!」

「他の先生?まさかの生徒????」

女子二人は一気にヒートアップして質問してくる。

「だから、いません。あなたたち、元気なら保健室から出なさいよ」

「元気じゃないもーん。怪我してるもん!」

膝小僧に貼った絆創膏をを指さして女子生徒の一人が診察台に寝転ぶ。

「うるさいわね。彼氏も好きな人もいないし、デートもしません」

「あー、隠してる~!絶対学校の人だー!ねー?」

「ねー!」

女子二人は手を取り合いぴょんぴょんと跳ねまわる。

「ミリア先生ってさ、どういう人がタイプなの?」

「アイドル系?スポーツ系?まさかの不良系だったりして」

ミリアはため息をついてカルテをトントンと机に叩いてまとめる。

「そうねぇ…強いて言えば…不良系?」

「「えーーーーーーー!意外ーーーー!!!!!」」

「やっぱり悪魔は力よ。強い悪魔じゃなくちゃ」

ミリアはもうこの二人の相手をするのも適当になっていた。

「えー、この学校で強いって言ったら…カルエゴじゃね?」

「それじゃん!カルエゴ先生って昔は番長だったたらしいよ」

「それマジで????」

「え、じゃあミリア先生ってまさかカルエゴ先生好きなの!?」

「きゃーーーーー!破廉恥ー!」

ミリアはその場で頭を抱えた。

「なぜそうなる…」

「「あ、そろそろ教室戻らなきゃ。じゃーねーミリア先生!また来るね~!」」

「元気な時は来なくてよろしい!」

「「は~~~い」」

(やれやれ…)

やっと静かになった保健室に一人、胸がざわざわする。

(好きな人…)

脳裏に浮かんでは消える顔を、かき消すことで精いっぱいだった。

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