【バラム×オリキャラ】先生お触りは禁止です   作:夜鳴蝦蟇

8 / 8
前回の反省として、逆に撫でられるバラム!たまには撫でられるのもいいかも・・・?


第八話 反省会は厳粛に

空想生物学の準備室に足を入れる者は少ない。

まずは空想生物学の担当教師であるバラム・シチロウ。次にその友人であるナベリウス・カルエゴ。そしてひょんなことから仲良くなった生徒、鈴木入間の三人だ。

しかし、今日はその三人に加え新たな人物が準備室にやってきた。養護教諭のミリアだ。

 

「お邪魔します…。わぁ、本が沢山。これ全部空想生物学の本ですか?」

ミリアはキョロキョロと見回しながらおそるおそる中に入った。準備室の中は木と花の香りが混ざったような、森の中を思わせるような匂いがした。

「そうだね。違う本もあるけどほとんどが空想生物に関する本ですよ。」

少し緊張した面持ちのバラムが湯飲みに魔茶を注いだ。

「なんか、改めてこうやって会うと緊張しちゃいますね。」

ミリアは照れながら笑った。つられてバラムも恥ずかしそうに笑っている。生ぬるい空気が準備室に流れる。

「で、でもこれは、贖罪なんですからね!」

ミリアは背筋を伸ばして人差し指でバラムの顔を指した。

「はい。とても反省しています。」

バラムは魔茶を机に置いてソファに座った。

「そもそも、なんでなんの予防もせずに煙を出させたんですか?」

「それは…僕は耐性があるから少しくらいなら大丈夫だと思って。」

「でもあの日、私は初めて変身する魔獣でしたし、実際煙もコントロールできず沢山出ちゃいましたよ?!全然少しじゃなかったじゃないですか。」

「はい。本当にすみませんでした。」

バラムは縮こまって頭を下げた。

 

―ポスッ

 

「!」

 

ミリアはバラムの頭に手のひらをそっと乗せ、ゆっくり前へ滑らせた。

「いいですよ。おかげで色々分かりましたし。」

 

―サラッ

 

白い短髪を撫でると、光が反射して雪が積もった日の朝みたいだ。

バラムは頬を少し赤く染めて、どこを見るべきか困ったようにキョロキョロしている。

2メートルもあろうかという大男が小さくなっている様を見て、ミリアは少し意地悪な気持ちになっていた。

「バラム先生、最近お疲れみたいですしついでに少し休んでもいいんですよ。」

ミリアはソファのバラムの隣に腰かけ、手招きした。

「?」

「膝に来てください。」

「えっ、ひ、膝ですか。」

バラムは目を白黒させてミリアの膝を見た。ピンと張った紺のタイトスカートのスリットからわずかに足が見える。バラムは体を傾けたままどこに頭を乗せるべきか思案した。

「背が高いから撫でにくいんです。お願いします。」

「…分かりました。」

とりあえず、体をそのまま傾かせてみるも、今度は胸に体が当たりそうで困る。

―グイッ

45度の角度でフワフワしているバラムの体を、ミリアが強制的に膝に付かせた。

「うおっ!」

「早くしてください。」

ミリアの柔らかい太ももの感触がバラムの耳に当たる。柑橘のような爽やかで甘みのある香りが鼻を抜ける。心臓の音が聞こえるくらい脈が早くなって、顔がどんどん熱くなる。

―サラッ

髪の毛にミリアの指が触れた瞬間、バラムは全身の毛が浮き上がるような妙な感覚を覚えた。

「バラム先生の髪の毛って意外と柔らかいんですね。」

「は、はぁ。」

―サラッ

バラムの髪の毛を撫でる度に、ふわっと樹木のような爽やかな、どこか落ち着く香りが漂う。

ミリアは、心臓の鼓動がバラムに伝わるような気がして少し体を離した。

女子生徒がふざけて膝枕をしてくることはよくあるが、成人男性の頭の重さはやはり全然違う。ずっしりとした重みに、筋肉質な肩が当たる。

(そうか。当たり前だけど男の人なんだ。)

ふと、撫でている手を肩に乗せる。白い肌の下にごつごつとした筋肉があるのが分かる。張りがあって、思ったよりも柔らかい。

「バラム先生、ちょっと力こぶ作ってみてください。」

「あ、はい。」

バラムは腕を浮かせて力を入れた。むちっとした二の腕に筋が入り膨れ上がった。

「おおお!力入れてるときと入れてない時ってこんなに違うんですね。」

ミリアは固くなった二の腕をにぎにぎと触った。弾力のあった筋肉が今は石のように固まっている。

「バラム先生が生物に触りたくなる気持ちが今分かりました。他人の体って面白いですね。」

ミリアはバラムの顔を覗き込んで微笑んだ。

「そう!!!そうなんですよ。同じ悪魔でも悪魔それぞれに個性があって違うんです。それが面白い!!!」

バラムは目を見開いてミリアの方を向こうと顔を上げた。

その瞬間―

―パフッ

「あ…。」

バラムの顔がミリアの胸に半分沈んだ。

「ひゃっ…」

全身の血が一気に引いていくのが分かる。

「ごめん!違うんです、わざとじゃなくて‥‥ごめんなさい!!!」

バラムは飛び上がってミリアの体から離れた。

「‥‥!!!」

ミリアは耳まで赤くして黙っている。制止するように片手を前に出して呼吸を整えた。

「だ、大丈夫です。今のは事故です…。」

一度深呼吸して、ミリアはバラムの方を向いた。

気まずい空気をなんとかしようと咄嗟に考えた結果、ふといつも思っていたことを口に出した。

「…私、バラム先生の体で気になってる事があるんです。」

バラムは目を丸くしてミリアを見つめる。

「…な、気になる事?」

「代わりと言っては何ですが、見せていただくことは可能でしょうか?」

ミリアは目を泳がせながら小さな声を絞り出した。

「あの、バラム先生の…肌と鱗の…境目を見せて下さい!」

「うん?」

バラムは赤い顔のまま驚いて目を見開いた。

バラムの体は半分人型だが、半分は恐竜のような体をしている。手足の先は鱗で覆われており、足は踵と甲が合わさった足根中足骨(そくこんちゅうそくこつ)を持っている。悪魔の中でも珍しいタイプだ。

「そんなことでいいんですか?」

バラムはその場で手袋を外して見せた。

「へぇ、ここから鱗になってるですね。触っても良いですか?」

「あ、はい。どうぞ。」

柔らかい素肌が徐々に固い鱗へと変わっていく。ツルツルとした固い鱗には光沢があり鏡面のように反射している。

「わぁ!…すごく綺麗ですね。宝石みたい。」

「そうですか?」

ミリアは片手でバラムの腕を支えたまま、もう片方の手でそっと肘から指先までゆっくりと触れた。ミリアの手のひらが触れている場所からじんじんと痺れてゆく。指先に近づくほど神経が鋭くなって、バラムは息をするのも忘れていた。

指先には黒く鋭い鉤爪があった。しかしその先端は意外にも丸く削られている。動物をよく触るので普段から手入れをしているのだろう。

「手、冷たいんですね。」

「あぁ、そうだね。僕体温が高いから手足でほどよく冷ましてるんだよ。」

「そんなこと出来るんですか?」

「出来るというか、体の構造がそうなってるだけだけどね。」

「確かに、手以外はすごく暖かいですね。」

ミリアは再び、バラムの頭をゆっくりと撫でた。髪の毛に手を絡めると内側の熱が伝わってくる。まるで雛鳥を抱えているみたいだ。

「…。」

バラムは黙って部屋の壁を見つめていた。

ミリアの細く小さな手が頭を優しく触れる度に緊張して、胸の奥がキュッと締め付けられる。

(こんなに細い手足で、どうやって普段生きているんだろう?)

大きな魔物に襲われたら、悪い悪魔に狙われたら…何故だろうか、急に不安でいっぱいになった。

もしミリア先生を守れるような強い悪魔が現れたら、その人が恋人になるんだろうか…?そう思った瞬間、バラムは胸がずっと重く、辛くなるのを感じた。

「バラム先生?」

ミリアが顔を覗き込んだ。

「ごめんなさい痛かったですか?」

「えっ、あ、いや、ちょっと考え事してただけです!大丈夫です!」

バラムは起き上がって首を振った。

ミリアが心配そうに見つめる。その顔を見ると余計に胸が苦しくなる。

「そろそろ…僕、生徒の所に行かなくちゃいけないので、ここらへんで勘弁してもらえますか?」

バラムは頭を掻きながら目を泳がせた。

「あ、もうそんな時間ですか。早いですね!ふふ。」

ミリアはクスクスと笑いながら立ち上がった。

「人の事撫でるのってこんなに面白いんですね。たまにまた撫でさせてくださいね。」

「それは・・・」

素直に首を縦に振ることは出来なかった。しかし自分が撫でるのに撫でられることを拒否することも出来ず、バラムはなんともいえない表情で斜めに頭を振った。

「じゃあ私は保健室に戻りますね。」

ミリアはスカートの皺を軽く伸ばしてドアに向かった。

「お疲れ様ですミリア先生。」

「お疲れ様ですバラム先生。」

ドアを挟んでお互いにお辞儀すると、ミリアはあっさりと帰ってしまった。

 

バラムは一人残された準備室で、まだ少し体温の残っているソファに腰を下ろした。口枷を外し冷め切った魔茶を一気に飲むと、火照った顔を手で覆った。

何か考えようとしても、頭の中は砂嵐のようにザラザラとしたままだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。