「この度は、私立サクラ高校に入学おめでとうございます———」
校長先生の声が、マイク越しに体育館いっぱいに広がる。
……あ、始まった。
思ってたよりちゃんと『入学式』って感じで、気づけば姿勢を正していた。
スカートの裾を、意味もなく指でいじる。周りを見れば、同じ制服の子たちがずらっと並んでいる。
「君たちにとって、この三年間は———」
「……」
校長先生、めちゃくちゃ良いこと言ってるっぽいのに、半分しか頭に入ってこない。
だってさ、仕方なくない? これからのこと、考えちゃうじゃん。
どんな子がいるんだろう、とか。クラス、当たりだと良いなー、とか。
あぁもう、楽しみすぎる!
だって今日から、全部が始まるんだから。
「皆さん、入学おめでとうございます。この度、担任になりました———」
ホームルームが始まってすぐ、私は一度だけ隣の席に目を向けた。
……なに、あの子。
後ろで上品にまとめられた艶やかな黒髪が、わずかな動きでさらりと揺れる。
姿勢が整いすぎていて、どこか作り物みたいに見えた。
横顔も整ってて、まつ毛が長くて。伏せた視線が、やけに大人っぽい。
え、同い年だよね?
内心でこっそり驚きつつも、さすがにじっと見すぎるのはまずい気がして、私はすぐに前に向き直った。
どうしよう……話しかけたい。
でも、さすがに今は無理。ホームルーム中だし。
先生の話を聞きながらも、意識の端っこにはずっとその子がいて、変な感じに落ち着かなかった。
そして——
ホームルームが終わって、教室の空気がふっと緩む。
……よし。
私は小さく気合いを入れて、声をかけた。
「えっと……あの……」
一瞬だけ、彼女の視線がこちらに向く。
うわ、まって。近くで見るとさらに綺麗なんだけど!
心臓の音が、やけに近い。それを誤魔化すみたいに、無理やり口角を上げる。
「私、ミヤ。よろしくね」
言えた。よし、完璧。 ……のはずなんだけど。
「……」
一拍。
その子は、まるで言葉を選んでいるみたいに、わずかに視線を落とした。
あ、あれ?
え……もしかして声小さかった?
聞こえてなかった?
それともタイミング悪かった⁉
頭の中で一気に不安が広がって、変な汗が出そうになる。
どうしよう、もう一回言う? ……いや、それはそれで気まずい——
って思った、その時。
「私は、ユイナ。 ……こちらこそ、よろしく」
やわらかい声が返って来た。少しだけ間を置いて、でもちゃんとした言葉で。
よ、よかったぁ……!
「ユイナちゃん、だね。よろしく!」
今度は自然に笑えた。さっきまであんなに緊張してたのに、少しだけ肩の力が抜ける。
——これ、もしかして。
最初の友達、できたかも。
そんな予感に、じんわりと熱が灯った。