影が一つ多い   作:怪盗エンペラー

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4月7日 入学式

 

 

 

「この度は、私立サクラ高校に入学おめでとうございます———」

 

 校長先生の声が、マイク越しに体育館いっぱいに広がる。

 

 ……あ、始まった。

 

 思ってたよりちゃんと『入学式』って感じで、気づけば姿勢を正していた。

 スカートの裾を、意味もなく指でいじる。周りを見れば、同じ制服の子たちがずらっと並んでいる。

 

「君たちにとって、この三年間は———」

「……」

 

 校長先生、めちゃくちゃ良いこと言ってるっぽいのに、半分しか頭に入ってこない。

 

 だってさ、仕方なくない? これからのこと、考えちゃうじゃん。

 どんな子がいるんだろう、とか。クラス、当たりだと良いなー、とか。

 

 あぁもう、楽しみすぎる!

 

 だって今日から、全部が始まるんだから。

 

 

 

「皆さん、入学おめでとうございます。この度、担任になりました———」

 

 ホームルームが始まってすぐ、私は一度だけ隣の席に目を向けた。

 

 ……なに、あの子。

 

 後ろで上品にまとめられた艶やかな黒髪が、わずかな動きでさらりと揺れる。

 姿勢が整いすぎていて、どこか作り物みたいに見えた。

 横顔も整ってて、まつ毛が長くて。伏せた視線が、やけに大人っぽい。

 

 え、同い年だよね?

 

 内心でこっそり驚きつつも、さすがにじっと見すぎるのはまずい気がして、私はすぐに前に向き直った。

 

 どうしよう……話しかけたい。

 でも、さすがに今は無理。ホームルーム中だし。

 

 先生の話を聞きながらも、意識の端っこにはずっとその子がいて、変な感じに落ち着かなかった。

 

 

 

 そして——

 ホームルームが終わって、教室の空気がふっと緩む。

 

 ……よし。

 

 私は小さく気合いを入れて、声をかけた。

 

「えっと……あの……」

 

 一瞬だけ、彼女の視線がこちらに向く。

 

 うわ、まって。近くで見るとさらに綺麗なんだけど!

 

 心臓の音が、やけに近い。それを誤魔化すみたいに、無理やり口角を上げる。

 

「私、ミヤ。よろしくね」

 

 言えた。よし、完璧。 ……のはずなんだけど。

 

「……」

 

 一拍。

 その子は、まるで言葉を選んでいるみたいに、わずかに視線を落とした。

 

 あ、あれ? 

 

 え……もしかして声小さかった?

 聞こえてなかった?

 それともタイミング悪かった⁉

 

 頭の中で一気に不安が広がって、変な汗が出そうになる。

 

 どうしよう、もう一回言う? ……いや、それはそれで気まずい——

 

 って思った、その時。

 

「私は、ユイナ。 ……こちらこそ、よろしく」

 

 やわらかい声が返って来た。少しだけ間を置いて、でもちゃんとした言葉で。

 

 よ、よかったぁ……!

 

「ユイナちゃん、だね。よろしく!」

 

 今度は自然に笑えた。さっきまであんなに緊張してたのに、少しだけ肩の力が抜ける。

 

 

 ——これ、もしかして。

 

 最初の友達、できたかも。

 

 そんな予感に、じんわりと熱が灯った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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