影が一つ多い   作:怪盗エンペラー

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6月10日 盗み聞き

 

 

 

 放課後。校門まで出たところで、ふと立ち止まる。ユイナちゃんは、陸上部の助っ人で今日はいない。

 

「……やば」

 

 宿題の教材、机の中に入れっぱなしだ。

 

 来た道を引き返す。もうほとんどの人は帰った時間。

 

 教室の前まで来て、ドアに手をかけたそのとき。

 

「——ユイナさんってさ、ほんとすごくない?」

 

 中から声が聞こえてきて、手が止まった。

 

 ……あれ、まだ誰かいるんだ。

 

「分かる。今回も一位でしょ?」

「しかもさ、教え方めっちゃ分かりやすいし」

 

 何気ない会話。別に、珍しいことじゃないのに……なんとなく、入るタイミング逃した。

 

「あと、普通にめっちゃ可愛くない?」

「それなー、しかも性格もいいし」

 

 クスっと笑い声が混ざる。

 

「歌も上手かったよね、あのとき」

「カラオケのやつ? あれはヤバかった」

 

 胸の奥が、少しだけざわつく。 ……あのとき、私は。

 

「てかさ、完璧すぎん?」

「欠点なくない?」

「ほんとそれ。ああいう子ってさ、近くにいるとちょっと緊張するレベル」

「分かる。 ……でもさ、ああいう子が隣にいると安心するよね」

「絶対する。ミヤちゃんとかさ、ユイナさんと仲いいよね」

「いいよねー。ああいう子と仲いいの」

「うん、普通に羨ましい」

 

 ……そうなんだ。私、そういう風に見えているんだ。

 

 ユイナちゃんと仲いい子。

 

「でも正直さ——」

 

 少しだけ、声のトーンが変わる。

 

「ちょっと、釣り合ってなくない?」

 

 その言葉だけ、くっきりと聞こえた。

 

「いや、ミヤちゃんもいい子だと思うけどさ」

「うん。明るいし、話しやすいし」

「でもさ、なんていうか……タイプが違いすぎるっていうか」

「まぁ、誰が隣にいても一緒だけどねー」

「たしかにー」

「ああいう人ってさ、周りのレベル上げちゃうよね。隣いるとしんどそう」

「だねー、ミヤちゃんが可哀想」

「ユイナさんが凄すぎるだけで、ミヤちゃんはなんも——」

 

 そこから先は聞きたくなかった。

 

 釣り合ってない。タイプが違う。隣にいると霞む。

 

「……」

 

 うん、知ってる。そんなの、言われなくても分かってた。

 

 ユイナちゃんは、綺麗で、頭良くて、優しくて。どこにいても中心になれる人で。

 

 私は——

 

 その隣に、たまたま座ってただけで。

 

「……あれ」

 

 じゃぁ、私がここにいる意味って——なに?

 

「——まぁでもさ、本人たちが仲いいならいいんじゃない?」

「それはそう」

 

 軽く流される会話。もう、その話題は終わりみたいに。

 

 ドアノブにかけた手に力が入る。開ける気にはなれなかった。

 静かにその場を離れる。足音を立てないように、ゆっくり。

 

 今、ここにることを知られたくなかった。聞いていたことも。こんな風に思ってたことも。

 

 開けなかったドアだけが、そこに残った。

 

 

 

 

 

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