朝。目は覚めているのに、身体が動かない。
天井をぼんやり見つめたまま、どれくらい経ったのか。
「っ、今……何時」
起きなきゃ。学校、行かなきゃ。
頭では何度もそう思ってるのに、指一本動かせない。
行ったら、全部向き合わなきゃいけない。
……無理。
「行けない……!」
カチ、カチ、と。時計の音だけが、やけに大きく聞こえる。
時間が進んでいるのは分かるのに、自分だけがそこから外れているみたいで。
「……」
スマホが何度か震えた気がした。でも、確認する気にはなれない。
誰からかなんて、考えなくてもわかるのに。画面を伏せたまま、触れられなかった。
分かってる。分かってるのに……。
布団の中で、身体を少し丸める。寒くもないのに、震えが止まらない。
誰か……誰か。
気づいた時には、部屋の明かりが少し変わっていた。カーテンの隙間から差し込む光が、朝よりも白くて強い。
「……あ」
ゆっくりと視線を横にずらす。
時計。針は……昼を過ぎていた。
「……はは」
乾いた笑いが勝手に漏れる。
学校も行かず、連絡も返さず、布団にくるまったまま。
「……なにやってるんだろ」
呟いた言葉がやけに遠く感じる。本当に最悪のは、きっとそこじゃない。
このまま、一日終わるのかな。
そんなことをぼんやり考えた、そのとき。
ピンポーン。
「……え」
間の抜けた声が出る。そしてすぐにもう一度。
ピンポーン。
「……誰」
頭が回らないまま、ゆっくり起き上がった。足に力が入らなくて、少しふらつく。
こんな時間に、誰が——
「ミヤ」
ユイナちゃんだった。いつもと変わらない制服姿で。
「……な、なんで」
「前、遊ぶ約束したから」
「っ……で、でも、学校……」
「……サボった」
そう言ったユイナちゃんの声には、罪悪感がまったくなかった。
「え……?」
サボった? ユイナちゃんが?
あんなにちゃんとしてて、誰よりも真面目で、みんなに頼られてるユイナちゃんが。
「……どうして……」
なんで、そんなこと。私、ユイナちゃんに……。
「……入っていい?」
「え、あ……」
ダメって言えばいいのに。私、ユイナちゃんに……!
「お邪魔します」
なのにユイナちゃんは、いつも通りで。
本当に『約束を果たしに来ただけ』みたいで。
「ミヤ、お昼食べた?」
「……ま、まだ」
「そう……なにか作ろうか?」
「……」
なんで……なんで、そんな当たり前のようにいられるの。
私、昨日あんなに……。
「……なんで、そんな優しくするの」
声が、自分でも分かるくらい震えていた。
「私、昨日……っ」
喉の奥がつまる。言葉にすると、ぐちゃぐちゃで。
「いっぱい……酷いことしたのに」
苦しい。ユイナちゃんの顔なんて見てられない。
「無視して逃げて、話も聞かないで……」
言葉にするたびに、胸がきゅっと締まる。
「……最低じゃん、私」
ユイナちゃんがいつも通りに接するのが怖い。その優しさが怖い。
「ミヤ……こっち見て」
「……やだ」
顔なんて見れない。ぐしゃぐしゃなの、バレるから。
「……じゃぁ、そのままでいい」
少しだけ近づく気配。
「ミヤがどう思ってても、私はミヤのこと嫌いにならない」
「……っ、なんでそんなこと……」
涙で滲んだまま、絞り出すみたいに言う。
「簡単だよ」
すると、ユイナちゃんは少しだけ息を吸って。
「ミヤのこと、好きだから」
「……え」
「ミヤは、私の初めての友達。嫌いになんかならない」
「っ……!」
「それにミヤは、私にないもの持ってる」
「そ、そんなこと……」
「……だから、隣にいてほしい」
「で、でも!」
「ミヤがいてくれたから、平気だった」
「……」
言葉が出ない。
「ミヤが隣にいると、平気だった。だから……」
そっと、ユイナちゃんが私を抱きよせる。
「私が、隣にいてほしいのはミヤ」
きっぱりと。迷いなく。
「……いなくならないで」
その一言で——限界だった。
「……っ、やだ……」
声が崩れる。
「私も……離れたくない……!」
ぎゅっと、しがみつく。
「私も……ユイナちゃんのこと、好き……!」
「……うん」
優しくて、でも確かな声。
「知ってる」
抱きしめる腕が、少しだけ強くなった。それだけで、涙が止まらない。
そのまま、しばらく動けなかった。